07.09.06 未読猫あれから五年。 火影は五代目になって随分と経つ。 あの当時下忍だった者達は、全員漏れる事なく上忍になった。 その長い月日は、彼らの外見を変えはじめ、大人になろうとしている。 しかし彼らは、今もあの時と変わらぬ笑顔を持って、手を差し伸べ続けていた。 ナルトに… シカマルに… 「頑張ってこいよ」 膝の上に居る赤丸が、「ワン」と吠えて肯く。 「ガツンとねー」 長くなった髪を揺らして、イノは親指をたてる。 「本当にほっとくと、あいつらったら…」 変わらない二人の関係に、一番苛々していたサクラが、拳を握り締める。 「それでもな…」 それが二人らしいと、シノは眼鏡の下で目を細める。 「……任せた」 相変わらずのぶっきらぼうな言い方だが、サスケの頭は律儀に頭を下げている姿が最近のもの。 「よろしくね、ひなた」 「うん、チョージくんも」 ひなたとチョージは、微笑みながら皆に向かって右手の親指をあげた。 ◆仲間弐 1 「シカマルくん」 読んでいた本を閉じ、シカマルが顔をあげる。 「私が今日来た理由……分かってるよね」 ひなたには、確信があった。 この五年で自分達がやってきた事を、たとえ未知のものだったとしても、理解出来ないシカマルだとは思えない。 ヒナタの瞳は、まっすぐシカマルを見据える。 未だに里最高峰の相手、頭も腕も。しかしそれに負ける訳にはいかなかった。 「ヒナタ…」 それに対しシカマルは、苦笑を浮かべる事しか出来ない。 「もういいでしょう?」 「そうか?」 「五年は長すぎると思う……ナルトくんを傷つけたままじゃ…私は嫌だ…」 「近くに居過ぎたか………それさえも切るべきだった…な」 「シカマルくんっ!!」 「お前達が何を考えたか、今の俺は正確に理解しているぜ。 ただな……俺を完璧に隔離するべきだったんじゃねーの?何だったら、あいつから俺の記憶を全部消してしまえば良かったんだ。 お前達の行動は、選択肢を狭めている」 「そんな事はない」 「本当にそう言えるか?」 今度は、シカマルがまっすぐヒナタを見ていた。 しかし、そんな事でひるむ訳にいかない。ヒナタは、睨むようにシカマルを見返す。 「言える。今、ナルトくんの周りに、シカマルくん以外に、私達以外に、沢山の人が居るわ。 心が移るなら、それで十分のはず」 シカマルは、一つため息をつく。 「お前、や、お前らか……あいつがどれだけ一人だったか本当に理解してるのか? そんな時に、現れた相手がどれだけ自分に印をつけるか……」 「全部理解しているとは言わない…言わないけど、ナルトくんは、一人だった私に印をつけたよ。 それが、すっごく救いだったのを知ってる。 確かに私は、ナルトくんより、シカマルくんより、ずっと恵まれている……けど…けど、その気持ちは変わらないと思いたい…よ……」 「悪ぃ……そうだったな」 「シカマルくん…」 「ヒナタ…悪ぃ…お前には感謝してる。すげぇ嬉しい言葉を沢山貰ったしな……だが……これが最後の印なんだ」 目に留まらぬ早さで切られる印。 ヒナタの顔が驚愕と、絶望に彩られる。 「シカマルくんっ!!」 悲鳴のような声を一つ漏らして、ヒナタは気を失った。 ◇◆◇ 「ナ〜ルト」 「チョージ」 「はい、今月の新作ポテチ」 ナルトは、嬉しそうに受け取り、封をあける。 五年前から新作ポテチが出るたびに、こうやってチョージと一緒に食べてきた。 二人は空を見上げている。 いつもの草ぼーぼーになっている道端で、ポテトチップを口に入れていた。 「美味しかった」 「うん」 「ずっと変わらないね」 チョージは、ナルトを見ていた。 「変わったよ。みんなが、いっぱい教えてくれたから…」 五年間、沢山の事を仲間が教えてくれていた。 あの霧雨の景色を見つけた時、初めて自分の中に心からの言葉が生まれた。その時と同じように、沢山の心からの言葉が、今自分の中に在る。 だから、チョージに向かって、心からの笑みを向けられる。 「僕が、何を言おうとしているか分かる?」 「たぶん…でも、ん〜〜…変わらないとだめ?」 「だめだよ」 チョージは、イルカ先生の真似をして、手を腰にやり肯く。 「だって、あれからナルトは、心から笑ってないよ。 僕、ナルトの満面の笑みを、もう一度…沢山見たいんだ」 「チョージは、贅沢だなぁ」 「うん。すっごくね」 ナルトは、嬉しそうに小さく笑う。 あの時手を差し伸べてくれた仲間全員が、自分に向かって何度でも手を差し伸べてくれる。 それを疑った事なんか無い。 しかし、自分があれからずっと抱えてきた一つの感情は、自分でどうにかするしかないもの。 既に、自分で自分なりの答えも出していた。 彼らは、それを抱えるのではなく、開放しろと言っている。 決して優しいだけの仲間ではない、今手を差し伸べる代わりに、背中を押しに来ていた。 「本当に、ずっとこのままでもいいんだけどなぁ」 「ナルトも、僕みたいに贅沢にならなくちゃだめだよ。 きっ…っ?!!」 突然ナルトが立ち上がり、クナイを握り締め、周囲に視線を向ける。 「ナルト?」 「な、何?」 ナルトの尋常じゃない様子に、チョージも立ち上がっていた。 「術……」 「敵の気配は?」 「無い…」 ナルトは、総毛だっていた。 皮膚がピリピリする。 やけに大掛かりな術の気配。 空気に色がつきそうなぐらい。 「ナルトっ!」 少し離れた所に、子供の声がする。 既にそちらに向かって走っているチョージ。 「頼んだ」 必死になって術の源を探す。 しかし、その気配は、そこかしこから沸いてくるように感じられる。 そして、術の気配でいっぱいになった瞬間、色の付いた空気は弾けた。 to be continue…