仲間 弐 1  

  あれから五年。 火影は五代目になって随分と経つ。 あの当時下忍だった者達は、全員漏れる事なく上忍になった。 その長い月日は、彼らの外見を変えはじめ、大人になろうとしている。 しかし彼らは、今もあの時と変わらぬ笑顔を持って、手を差し伸べ続けていた。 ナルトに… シカマルに…   「頑張ってこいよ」   膝の上に居る赤丸が、「ワン」と吠えて肯く。   「ガツンとねー」   長くなった髪を揺らして、イノは親指をたてる。   「本当にほっとくと、あいつらったら…」   変わらない二人の関係に、一番苛々していたサクラが、拳を握り締める。   「それでもな…」   それが二人らしいと、シノは眼鏡の下で目を細める。   「……任せた」   相変わらずのぶっきらぼうな言い方だが、サスケの頭は律儀に頭を下げている姿が最近のもの。   「よろしくね、ひなた」 「うん、チョージくんも」   ひなたとチョージは、微笑みながら皆に向かって右手の親指をあげた。   ◆仲間弐 1   「シカマルくん」   読んでいた本を閉じ、シカマルが顔をあげる。   「私が今日来た理由……分かってるよね」   ひなたには、確信があった。 この五年で自分達がやってきた事を、たとえ未知のものだったとしても、理解出来ないシカマルだとは思えない。 ヒナタの瞳は、まっすぐシカマルを見据える。 未だに里最高峰の相手、頭も腕も。しかしそれに負ける訳にはいかなかった。   「ヒナタ…」   それに対しシカマルは、苦笑を浮かべる事しか出来ない。   「もういいでしょう?」 「そうか?」 「五年は長すぎると思う……ナルトくんを傷つけたままじゃ…私は嫌だ…」 「近くに居過ぎたか………それさえも切るべきだった…な」 「シカマルくんっ!!」 「お前達が何を考えたか、今の俺は正確に理解しているぜ。  ただな……俺を完璧に隔離するべきだったんじゃねーの?何だったら、あいつから俺の記憶を全部消してしまえば良かったんだ。  お前達の行動は、選択肢を狭めている」 「そんな事はない」 「本当にそう言えるか?」   今度は、シカマルがまっすぐヒナタを見ていた。 しかし、そんな事でひるむ訳にいかない。ヒナタは、睨むようにシカマルを見返す。   「言える。今、ナルトくんの周りに、シカマルくん以外に、私達以外に、沢山の人が居るわ。  心が移るなら、それで十分のはず」   シカマルは、一つため息をつく。   「お前、や、お前らか……あいつがどれだけ一人だったか本当に理解してるのか?  そんな時に、現れた相手がどれだけ自分に印をつけるか……」 「全部理解しているとは言わない…言わないけど、ナルトくんは、一人だった私に印をつけたよ。  それが、すっごく救いだったのを知ってる。  確かに私は、ナルトくんより、シカマルくんより、ずっと恵まれている……けど…けど、その気持ちは変わらないと思いたい…よ……」 「悪ぃ……そうだったな」 「シカマルくん…」 「ヒナタ…悪ぃ…お前には感謝してる。すげぇ嬉しい言葉を沢山貰ったしな……だが……これが最後の印なんだ」   目に留まらぬ早さで切られる印。 ヒナタの顔が驚愕と、絶望に彩られる。   「シカマルくんっ!!」   悲鳴のような声を一つ漏らして、ヒナタは気を失った。                 ◇◆◇                 「ナ〜ルト」 「チョージ」 「はい、今月の新作ポテチ」   ナルトは、嬉しそうに受け取り、封をあける。 五年前から新作ポテチが出るたびに、こうやってチョージと一緒に食べてきた。 二人は空を見上げている。 いつもの草ぼーぼーになっている道端で、ポテトチップを口に入れていた。   「美味しかった」 「うん」 「ずっと変わらないね」   チョージは、ナルトを見ていた。   「変わったよ。みんなが、いっぱい教えてくれたから…」   五年間、沢山の事を仲間が教えてくれていた。 あの霧雨の景色を見つけた時、初めて自分の中に心からの言葉が生まれた。その時と同じように、沢山の心からの言葉が、今自分の中に在る。 だから、チョージに向かって、心からの笑みを向けられる。   「僕が、何を言おうとしているか分かる?」 「たぶん…でも、ん〜〜…変わらないとだめ?」 「だめだよ」   チョージは、イルカ先生の真似をして、手を腰にやり肯く。   「だって、あれからナルトは、心から笑ってないよ。  僕、ナルトの満面の笑みを、もう一度…沢山見たいんだ」 「チョージは、贅沢だなぁ」 「うん。すっごくね」   ナルトは、嬉しそうに小さく笑う。 あの時手を差し伸べてくれた仲間全員が、自分に向かって何度でも手を差し伸べてくれる。 それを疑った事なんか無い。 しかし、自分があれからずっと抱えてきた一つの感情は、自分でどうにかするしかないもの。 既に、自分で自分なりの答えも出していた。 彼らは、それを抱えるのではなく、開放しろと言っている。 決して優しいだけの仲間ではない、今手を差し伸べる代わりに、背中を押しに来ていた。   「本当に、ずっとこのままでもいいんだけどなぁ」 「ナルトも、僕みたいに贅沢にならなくちゃだめだよ。  きっ…っ?!!」   突然ナルトが立ち上がり、クナイを握り締め、周囲に視線を向ける。   「ナルト?」 「な、何?」   ナルトの尋常じゃない様子に、チョージも立ち上がっていた。   「術……」 「敵の気配は?」 「無い…」   ナルトは、総毛だっていた。 皮膚がピリピリする。 やけに大掛かりな術の気配。 空気に色がつきそうなぐらい。   「ナルトっ!」   少し離れた所に、子供の声がする。 既にそちらに向かって走っているチョージ。   「頼んだ」   必死になって術の源を探す。 しかし、その気配は、そこかしこから沸いてくるように感じられる。   そして、術の気配でいっぱいになった瞬間、色の付いた空気は弾けた。     to be continue…  

   
  07.09.06 未読猫