「どうした?」 「……分からない……なんか……胸がぎゅーってする……」 「辛い?」 「……苦しいけど……辛くないんだってば……分からない……ただ……シカマルが……」 向かい合う二人は、まるで双子と、いいや分身と言っていいぐらいの相似した二人。 違うのは瞳の色だけ。 大きな青い瞳からぼたぼたと涙が落ちてくる。 呆然と見ているのは赤い瞳。 今まで、こんなに混乱している青い瞳を知らない。酷く辛い事、酷く悲しい事、そして楽しい事…全て分かち合ってきた。お互い、分からない事など何一つ無く、いつも言葉で、仕草で、お互いを思う事で分かり合ってきた。 「シカマル……奈良シカマル?」 青い瞳が小さく頷くのを確認して、赤い瞳が扉の外に走った。 小さな恋のメロディズ 「シカマルだよな?」 広い野原の真ん中で、これでもかってぐらい寝ている子供が一人。 雑草に隠れ寝ていた彼を、以前確認した匂いで見つけた子は、シカマルの横でしゃがみこんだ。 ぺちぺちと額を叩く……起きない。 肩を揺すってみた……起きない。 少しむっとして、シカマルの腹の上に乗り、飛び跳ねてみた。 「ぐぼげっ……ってぇ〜っ…げほっ…止め…げへっ…ろっ止めろって…ぐはっ…ナルトっ!」 「起きたか?」 「起きたっ!起きたから、どきやがれっ!」 最初ので起きないお前がいけないと、ぶつぶつ言いながらシカマルの上から降りる。 「ったく、すっげー痛ぇぞ」 「起きない、お前が悪い」 その言いように違和感を感じたシカマルは、痛みに浮かんだ涙を拭き、まじまじと目の前を見る。 「…ナルト…じゃねぇ?」 こくこくと頷かれた。 「変化か?……って目ぇ赤いのって失敗?」 「違う。オレは出てきた時からこの目で、この顔だ」 シカマルが、まじまじと目の前の相手を見る。 「…お前……誰だ?」 「キュウ」 「はぁ?」 「ナルの兄弟だと思え」 訝しげにキュウを見つめるシカマル。そのあからさまな視線を無視して、キュウはシカマルを睨むように見返す。 「そー言うって事は、兄弟じゃねーんだろ?だったら、お前はナルトの何だ?」 「思えって言った」 シカマルとキュウが暫し睨み合う。しかし、シカマルの揺ぎ無い視線に、キュウの瞳が僅かに揺らぎ俯く。 「オレは、お前に聞きたい事があるだけ。オレが、誰かは関係ない」 「聞きてー事ねぇ、オレは知らねーヤツに、聞かされる質問も答えもねーけど?」 キュウの唇が噛み締められ、しばし地面を見つめ考える様子を見せる。 「言える範囲で言ってみろ。どうせナルトがらみだろ?」 驚いたとばかりに、キュウの顔があがる。目は見開き、まじまじとシカマルを見た。 「里の大人達が、揃ってナルトを排除するような態度を取る事と、関係あるのか?」 まるで今初めてシカマルを見たとばかりに、キュウの目が瞬く。 「…お前…その理由を知ってるのか?」 「推測はしたけどな、裏づけが取れねー」 「そうか……」 キュウの口が、重たげに開く。 「ナルが生まれた時、オレは一旦ナルトの中に封印された。 この姿は、三代目がナルとオレの為に作ってくれた……だから、これはオレ」 突然語られた言葉は、何も知らぬ者にとって、まったく分からないであろう内容。 その言葉を、シカマルは苦々しげな表情で答える。 「そうか……だからお前は、キュウって言うんだな」 そう言って、キュウの頭をシカマルの無意識な掌が撫でる。 キュウがシカマルを見て、再び目を瞬かせる。 小さく驚いたと、無意識に言葉が漏れた。 自分達と同い年のアカデミー生だと聞いている。 それなのに、言える範囲の短いあの言葉だけで、全て理解したとしか思えない言葉を返した。 そうでなければ、自分の名前に対してのあの言葉は無い。 再び驚いたと、言葉を漏らす。 「そうか?里の大人の罵声と、表の書物だけでも、ある程度の推測は付くだろ」 「……表の書物?」 「図書館にあるだろ?あれ」 再びキュウが考え込む。そして面を上げたキュウは、縋るような視線をシカマルに向ける。 「その本……オレの親の事は………書いてあったか?」 「親?」 コクンとキュウが頷く。 「いや、見なかった……あの時、一緒に居たのか?」 「オレは、あの日に生まれた…………そして誰も居ない何も分からない状態だった」 「同い年かよ。 すげーな。あれを…生まれたばかりで……いや、それとも………」 シカマルは、暫し考え込む。 「なぁ、キュウは術を使えるか?」 「ナルがいれば」 「は?」 「ここに居るのは、オレの精神。 オレのチャクラは、全てナルに預けてある」 「何でだ?」 「ナルを守る」 少ない言葉と伏せられた瞳に、シカマルの眉間に皺が寄る。 罵声と共に浴びていた暴力。 けれどもナルトの怪我は、次の日綺麗に消えていた。 キュウのチャクラだったのかと、納得する。 この里で生きるナルトには、必要なモノだった。 「分かった、じゃぁ今度三人で図書館に忍び込もうぜ。 封印を解除する術は、分かってんだ。あそこに、なんかあるかもしれねー」 なと、キュウを覗き込んで来た顔は楽しそうに笑っていた。 「あ……」 「ん?」 「ぎゅーーって……」 胸の所を押さえ、真っ赤になったキュウが突然立ち上がる。 「帰る」 「は?聞きたい事があったんじゃねーの?」 「帰る!またくる」 突然走り出したキュウは、あっという間にシカマルの前から消え去った。 ◇◆◇ 「ナル……分かった……でも分からない…」 突然開いたドアから入ってきたキュウが、ナルトの腕を掴み立ち上がらせようとする。 「キュウ?」 「シカマルのせいだけど……シカマルに聞いてもしょうがない…」 驚きながらも、ナルトが頷く。 「じーちゃんの所に行こ」 「そうか、それなら分かるかもしれないってば」 頷いた二人は、手を繋ぎ外へ走り出した。 「どうしたのじゃ?」 慌てて入ってきた二人に、三代目は穏やかに微笑む。 「教えてってば」 ナルトの言葉にキュウが頷く。 「そこに座って話してみなさい」 三代目が入れたお茶をコクンと飲んだ二人が、少しづつ話し始める。 「胸がぎゅーってするんだってば」 「顔がすごく熱くなった」 「心臓の音が耳に直接くるんだってば」 「苦しいけど、嬉しい」 二人が揃って三代目を見る。 「病気か?」 「病気だってば?」 一瞬目を見開いた三代目は、次の瞬間笑い出す。 二人の頭を交互に撫でて、そうかそうかと言いながら笑う。 「何で笑ってるんだってばっ!」 「オレ達は真面目にっ!」 「これはすまなかった。 それは病気では無いぞ」 未だ楽しそうに笑いながら三代目が、二人をくしゃくしゃに撫で回す。 「そうか、そうか、お主達もそんな歳になったか。 相手はどんなお嬢さんなのじゃ? 二人共良い子で可愛いからのぉ〜、きっと可愛い子が生まれのであろうのぉ。 あぁ、その前に結婚式も考えねばならぬ……」 じじぃ夢膨らむ。 実際問題、里人との問題とか、どうしてキュウがナルトの側に居るのだとか、キュウ自体が人間では無いとか、その前に年齢的に結婚できないとか、じじぃ全部すっとばし。 ただの、世話焼きじじぃ?いや、我が子可愛い親馬鹿状態の自慢しぃか? 年寄りとは思えないぐらい瞳を輝かせて、妄想の結婚式場で花束受け取り中。 そして、三代目の言葉が理解できない二人は、トリップしている三代目におずおずと話しかける。 「じーちゃん?」 「病気じゃないのか?」 「じーちゃんってばっ!」 じじぃ、未だ二人の言葉が耳に入らずトリップ中。 これはダメだと判断した二人が、手を握り合いチャクラを集め始めた。 「こ…これっ!!」 二人が練り始めたチャクラの大きさに、ようやく気づいた三代目が、慌てて現実世界に戻ってくる。 「じーちゃん、聞こえるってば?」 「おうおう、すまぬ」 「これは、何?」 「恋じゃよ」 三代目が頬を染めて、楽しそうに語る。 じじぃが頬を染めても嬉しくない、かなり厳しい光景。 しかし、それにも気づかず、二人は硬直した。 「ここここここここいだだだだだだってば?」 「すすすすすすすすきってここここことか?」 目尻に涙を浮かべながら、再びトリップ街道に走りかけていた三代目が、うんうんと頷く。 瞬間、真っ赤になる二人。 そして、二人は逃げ出した。 その後姿に、早くお嬢さんを連れてきなさいと、三代目の声が投げつけられた。 ◇◆◇ そしてそして、二人は開き直った。 「シカマル〜!」 ナルトは、シカマルにタックルしながら腕を拘束する。 「シカマル」 拘束されたシカマルの反対側から、キュウがぎゅっと腕にぶら下がる。 「おはようだってばよ!」 「おはよう」 ここは、奈良家からアカデミーまでの通学路途中。 二人は、明け方近くまで協議した結果、二人でシカマルゲットだぜっ!という結果に落ち着いた。 生まれた時から、ずっと一緒に居た二人は、どちらかではなく、二人とも幸せにならないとダメだった。 途中お互いを思いすぎた二人は、ぼろぼろ泣いて怒ったり、黙り込んで困ったりと、それはもー大変だったが、今は二人共満面の笑みを浮かべていた。 「…何だ?」 「シカマル大好きだってばよー!」 突然の告白その1。 「好きだ」 突然の告白その2。 「は?」 頬を染めながら上目遣いで見上げてくる、激烈に可愛い二人の様子に、視神経及び脳内が侵される。 シカマルは、ここに至ってようやく気づく。 メンドくせーと、普段なら投げてしまうようなコツコツとした過去の調査を、進んでした理由。寝る方が数億倍嬉しいはずなのに、徹夜で図書館進入計画を立ててしまった理由。 色々問題はあるが、その中で最大級に問題なのは、今浮かんだ感情がこの二人のどっちに向かっているかが全然分からない事。 いくら外見が同じでも個性は微妙に違う。ただこの二人から感じる一生懸命さは、まったく同じもので、自分にとってそれがツボだったらしいと、同じように顔を赤く染めたシカマルが悟る。 「「シカマルは?」」 二人が鏡のように小首を傾げて、少し不安げに見つめてくる。 ため息が漏れた。 確実に、平凡な人生から道を踏み外し始めている現状。 それなのに自分の心は、平凡な道よりもこの二人の手を取る事がお買い得とばかりに叩き売る。 そして、シカマルは叩き売りのおっさんに負けた。 「ったく、メンドくせー。ほら、アカデミー遅刻すっぞ」 ため息まじりに言われた言葉に泣きそうになった二人は、突然握られた手に顔をほころばす。 「ってか、キュウは帰るんか?」 「明け方、じーちゃんにねだった」 「同じクラスだってばよ!」 「そ、そっか…」 未だ手は繋いだまま。 お互いの体を不必要なほどぴったりくっつけて、歩く三人(妖し一匹込) 「あ…のなぁ……、せめてもう少し離れねー?」 「むぅ〜恋人ってのは、こーいうもんだって言ってたってばよ」 「はぁ〜?」 「じーちゃんに聞いた」 ナルトとキュウは同時に、うんうんと頷く。 「まさか、明け方に行った時に聞いたのか?」 「おうっ!べたべたくっつくって言ってた」 「ちゅ〜するって言った」 「一緒にお風呂に入るってばよVv」 「一緒に寝るVv」 ちょっとまてっ!と、硬直したシカマルが声無き声で叫ぶ。 絶対三代目は寝てた! 間違い無く98%は寝てた! 自分達は十分子供で、たとえませていて恋人が居たとしても、手をつなぐ程度の付き合いが正道。頬にキスぐらいまでが許容範囲のはず。いい大人が、寝ぼけてる以外で、子供に吹き込むとは思えない内容だった。 そうごちゃごちゃと、硬直したまま脳内だけで叫び続けるシカマル。 しかし、シカマルは知らなかった。三代目は、夢見るじじぃだという事。 年寄りは朝が早い。 身支度している時に乱入してきた子供達は、速攻進展具合を聞かれる。 既に頭の中に、新婚家庭と孫が見えているじじぃは、何も進んでいないという二人の為に、当然の事とばかりに詳しくレクチャーした。 そして、ナルトとキュウは、にっこりと笑っておねだりをする。 「「シカマル」」 「行って来ますのちゅ〜Vv」 「入学お祝いのちゅ〜Vv」 「「してVv」」 シカマル、激しい眩暈に襲われる。 それでも、シカマルの頭は一生懸命働く。とにかく働く。 ここは天下の往来。 や、往来じゃなくても、自分はちゃんと返事をしていないっ!と、手順を大切にしたいシカマルが再び心の中で叫ぶ。 「ああああああのな、三代目の時代とオレらの時代は違ぇんだっ! とととととりあえず、手を繋ぐだけっ!ちゅ〜は、待てっ!」 「「え〜」」 「えーじゃねぇっ!さっさとアカデミーに行くぞっ!」 シカマルが、ナルトとキュウを引きずるように歩いていく。 顔は真っ赤だけど、ちゃんと返事が出来るように言葉を考え中。 ナルトがくすくす笑う。 キュウが顔をほころばせる。 シカマルが手を繋いだままで、ずっと歩いてくれるのが嬉しい。 二人共幸せだねと、ニッコリ笑い合う。 これから三人共になるねと、二人はシカマルと繋がっている掌に力を入れた。 −End−
ありとあらゆる設定を思いつき……全部実現したら、どのぐらいの長さになるか想像つかんかって、ばっさり削除。 それでも、前が辛かったなf('';) ちょっとシリアスっぽい感じ? 三代目が出てきてから、安心?しました。非常に書きやすいです。 各種不明点を多く残した話でしたが……どうでしょう?<頭の中に回答はあるのだが… 一生懸命可愛く可愛く可愛く書いたつもりなんです。 そして、一生懸命エロには行かないよう……頑張った。 アイスキャンディーを両脇からナルナルが………げぼげぼげぼ。 まつながさんの可愛いナルナルは想像をいっぱいいっぱい提供してくれました。 私の頭の中は、非常に花畑?でした。 ほんに素敵な萌え〜をありがとうありがとうっ!! 06.01.13 未読猫