【幸せ追求させろ隊 9後編】     「明日だなぁ」 「そうですね」   目の前に広がる素敵日本人的夕食の献立を、もくもくと食べる二人。 豆腐とワカメの味噌汁に、卯の花、きんぴらごぼう、金目鯛の煮付け、白いご飯…全てナルト製作。 隣に住んでいる金髪碧眼の素敵奥様は、隣人の健康管理までしていた。   「シカマルじゃねぇけど、メンドくせー事ばかりだよなぁ…楽しく二人で任務する為とはいえ、オーバーワークじゃねぇか?」   きんぴらごぼうを口に咥えて、言ってる内容とは180度違う笑みを浮かべながらゲンマが言う。   「ゲンマさん、そういう内容を言う時には、もう少し表情を暗くしないとだめですよ」 「飯が旨くてなぁ」 「確かにそうですね」   ハヤテがくすくす笑う。   「どこがいけなかったんだ?」 「何がです?」 「あれか?シカマルを呼び止めて家に連れてったのが間違いか?  なるほど…これが好奇心は猫をも殺すってやつか…」   ハヤテの笑いが止まらない。   「私は不可抗力でしたが、ゲンマさんのは自業自得ですねぇ」 「そうだよなぁ…でもおかげでお前と一緒になれたんだから、文句は言えねぇしよぉ〜」   ゲンマの表情がどんどん情けないものになって、ハヤテの笑いは止まる気配も無い。   「ゲンマさんは子供達がお好きでしょう?」 「あはは…」   頬を掻きながら天井なんかを見て、乾いた笑い声なんかが出てくる。   「それにナルトくんも長もお好きですよね?」 「はははは…」 「ナルトくんは当然としても、長がそこに入るのが理解できませんが」   呆れ顔のハヤテに、今度はゲンマが笑う。   「お前なぁ…」 「そこから先を言ったら怒りますよ」   ハヤテが、上目使いでゲンマを睨む。   「しょうがねぇヤツ」 「煩いですよ。しょうがねぇヤツで結構です」   ひとしきり笑った後に、真面目な顔を向ける。   「オレは、これから何をすんだ?」 「とりあえずの仕事は聞いていますよね?」   隣家に向かってご馳走様と言いながら、ハヤテは食器を片付ける為に立ち上がる。   「当面はな」   同じく隣家に向かってご馳走様といいながら、立ち上がる。   「貴方の意思から外れるような事は、一つもやる必要が無いですよ」 「あいつが、そんな仕事を持ってくる訳ねぇだろうが」   未だ十代前半の策士は、自分の手駒達の気性を知り抜いていた。 そして、手駒達の意思にそぐわない事は一切要求しない。 ただの手駒だと言って切り捨てる事さえ出来ない。 自分の事を手駒と言っているのがバレたら、怒りもするだろう。 ナルトの事だけしか考えていないようでいて、自分の懐に入った者達に対する事細かい気配りには、呆れるのを通り越して感動さえする。 だからこそ、たった十少しの子供に、全員がついていく。 自分もその一人。 そして、その子供に対し辛らつな言葉を吐く目の前の情人も、間違いなくその一人だった。   小さな笑いがお互いの口から漏れる。   「どうしてたかだか十数年しか生きていない子供に勝てないのでしょうね?」 「惚れちまったもんは仕様がねぇって事じゃねぇの?」   ハヤテの顔が嫌そうに歪む。   「お前なぁ、オレの前ぐらい素直になったらどうよ?」 「なりたくても、今まで受けた悲惨な日々を忘れられないんですね」   悔しいじゃないですかと、珍しく膨れたハヤテが視線を逸らす。 その悲惨な日々さえ実際は心から喜んでやってるのが見え見えなのに、何でこんなに意地っ張りなんだかねと、ゲンマは苦笑を浮かべる。   「ただ…長の意に反する事をしようとは思いませんけどね」   それどころか、シカマルの意を真っ先に汲んで、行動を起こすのは誰だと言いたかったが、言ったら最後拗ねられたら後が大変なのは十分知っている。 目の前の温もりが無くなって困るは自分である。   「綱手様は、より良い状態でイルカさんにお渡ししたいと思っているようです。  ……その間に色々不愉快な事が起きるでしょう」 「出来れば、そこら辺を全部引き受けたいんだがな。  お前もそのつもりだろ?」 「当然です…と言いたい所ですが、どこまで対抗出来るか…先走って失敗するのも嫌ですし、遅れを取るのも嫌なんですね」   勝てない。 思慮深さも、全てを見通す力も、自分は大人なのになんて不甲斐ないのだろうと思う。 それほど長くはないが、父親を除けば、自分が一番付き合いが長いのにも関わらず、未だ相手の思慮深く、知識に裏打ちされた言動に驚く。 ある意味、守られてさえいる。 戦略によって、ゲンマを守り。 知識によって、今回立たされた自分達の立場を守られている。 歯がゆいと思う。 情けないと思う。 なんの為に彼らより長く生きているのだと自分に叱咤しても、知識も力も未だ及ばない。 自然ため息が出た。   「大人だからな」 「そうですね」 「もう少しきばらねぇとな」 「はい」   ハヤテの腕がゲンマの体にまわる。   「貴方が居てくれてよかった」 「そう思ってくれねぇと、オレは困った事になるんだが」 「ずっとそう思っています」   ハヤテの唇が静かに首筋に落ちた。                     ◇◆◇                 「しー…」 「ん?」   もうあと少しで日付が変わる。 明日は、半年かかってやって来た事の総仕上げの日。 自分達があとする事といえば、もう瞳を閉じる事だけだった。   「あのさ……オレ……この半年頑張ったよな?」 「そうだな」   シカマルは肩肘を突き、布団の中から鼻から上を覗かせているナルトを楽しそうに見ている。   「オレさ…覚えたい術があるんだけど……」   ナルトが困った顔をしながら、えへへと笑う。 シカマルは黙ったまま、ナルトの言葉の続きを待つ。   「影マネって、どうやっても出来ないか…な?」   血継限界の技は、いくら簡単な術だとしても、血を受け継いでいない者には実現出来ない。 今日何度も聞かされた四代目という言葉に未だ馴染めず、そして奈良家の両親に繋がるモノをナルトは欲した。   「どうして覚えたいんだ?」 「……オレさ、お父さんとお母さんの子供なのに……影の術使えないのが……なんか、悔しい……なって…」 「かーちゃんが、むくれるぞ」   どうしてヨシノの話になるのかが分からず、ナルトが小首を傾げる。   「かーちゃんも出来ねぇだろ?  なぁ、かーちゃんが毎日おやじに何て言って自慢してっか知ってるか?」   ナルトが首をふるふる横に振る。   『さすがナルちゃんは、私の子よねぇ〜Vv  奈良家の味付けばっちりだもの〜』   シカマルがヨシノの声音で言う。 普段のナルトなら笑っていただろう。しかし、ナルトは目を見開いてシカマルの言葉を聞いていた。   「かーちゃんの一番の自慢って、なーだぜ。  ばーちゃんから教わった事は、全て教えたって言ってた。  それじゃぁだめなのか?」   ナルトの顔が布団の中に隠れた。 シカマルは布団に入り損ねた金色を優しく撫でる。   「なーは、かーちゃんの自慢の息子だぜ」   布団の中のナルトが何度も頷く。   「影マネなんてつまんねー術なんかいらねーだろ?」   布団の中から鼻をすする音がする。つまらなくは無いと小さい声が聞こえる。 それでもナルトは頷き続けた。   「そんな事考えるより、先に考えなくちゃいけねー事があるだろうが。  明日イルカセンセに負けなくちゃいけねーんだぞ」 「う…」   考えて無かったと言いながら、少し赤い目をしたナルトが布団から顔を覗かせる。   「段取りをしたら分かっちまうヤツも出てくるだろう。  九尾に頼って、イルカセンセの術を受けるしかねぇだろうなぁ」 「う〜…それじゃぁ夕飯作れなくなる…」   立派な主婦の意見。   「それに、イルカ先生って銀線が得物だろ?洒落にならないって」 「さすがに銀線は使ってこねーよ。  クナイと体術だろうなぁ…そっか、なー視力無しで闘ったらどうだ?」   分からないとナルトが小首を傾げる。   「術で視力を一時的に無くしてやる。  それなら十分互角以下になれっだろ?」 「たぶん」 「それから、闘ってる間は、視力が無い事をイルカセンセに悟られるなよ」   ナルトが少し考えてから、分かったと頷く。 あの鋭いイルカから悟られる事無く闘う事は、かなり無茶に思える。 しかし、不可能な事をシカマルは絶対に言わない。 そして、自分はシカマルの期待を裏切るような事は、一切出来ない。 いつも自分だけを思って、自分に一番良いように、シカマルが行動をしている事を知っているから。 だからシカマルの思いを、言葉を、絶対否定できない。   シカマルの言葉を全て肯定する事が、シカマルが持つ自分への想いを全て受け取る事だと思っている。 それが出来る自分で居たいと強く思って、シカマルにぎゅっと抱きついた。   「しー…」 「あ?」 「オレ…オレ絶対しーを楽隠居させてやる!」   シカマルの目が見開いた後、げらげらと笑い出す。   「む〜、するの止めようかな…」 「悪ぃ悪ぃ、よろしくオネガイシマス日食さん」 「おう!早々にナントカシテヤル新月さん」   二人が顔を見合わせ、噴出す。   「しー、イルカ先生が二本の銀線の扱い教えてくれるって」   笑いながらナルトが言う。   「そうか、なら自分の知ってる術を全部イルカセンセに教えてやるといい」   シカマルは、イルカの意図を知り、そしてナルトがなぜあんな事を言ったのかを理解した。 今日二度も四代目との関係を指摘されて、不安になったのだろう。   「オレと三代目の書物から得た術は、あの凛でも知らない術が多いと思うぜ」 「そっか、オレにも押し付けるモノがあるんだな」 「何だ?その押し付けるってのは?」 「イルカ先生が、術や技は押し付けて伝えるのが、知った者の役目だって」   実際イルカはそう言わなかったが、ナルトにはそう聞こえた。 本当の所は違うのは分かっているが、今の自分にはその理由の方が嬉しかった。   「なるほど…ならオレも押し付けるモノがあるな。あぁ押し付ける先も結構あるじゃねぇか」   シカマルがニヤニヤたちの悪い笑みを浮かべる。   「ナルト、イルカセンセだけじゃなく、あいつらにも押し付けてやれ」 「あいつらって?」 「そりゃぁ〜同期のご面々だろ」   シカマルが未だニヤニヤ笑っている。 ナルトがニンマリと口を笑みの形に変える。   「でも、忙しくならない?」 「いいや、将来の投資だ。  イルカ六代目様の周りに、強くなったあいつらが居れば、俺達がより一層のんびりできるだろ?」   ナルトがクスクス笑う。   「楽しくなってきたね」 「当然」   最初は奈良家にナルトが来た事。 それから、色々な人と知り合うようになった。 色々な人が自分達に手を差し伸べてくれた。   自分は、力の限り闘う。 自分は、全てを想定して策を練る。   中忍試験からまだそれほど時間は経っていない。 それでも随分自分達の周りが変化した。   二人は未だクスクス笑っている。 明日はもっと楽しくしてやる。                     ◇◆◇                 新しい火影が立った。   今回の試験は、他の里のものは一人も居なかった。   そして、木の葉の里の者は、ほぼ全員観戦していた。   投げられた言葉がある。   見せられたモノがある。   新しい火影は、楽しそうに笑う。   木の葉は、新しい時間を刻もうとしていた。     【End】    




 

    や〜一年はかからなかったね(^-^)v安心安心<? 幸せ追求させろ隊無事完結しました。 ふふふ言ったもの勝ちじゃ。完結なのだ(~ー~)v   小話はもう少し追加する予定ですが、本編はこれで終わりです。 最後をどうしようか、ずっと放って…じゃなくて考えていました。 実際を描くより、その前日近辺の話を細切れにくっつけてみました。 この話に関わってしまった人達の小話集みたいなもんに成り果て……げほげほ。   でも最後だから皆がどんなかを出してみたかったんで、オールオッケ! 楽しく打ち込ませて頂きました。   実は今、約束シリーズの別場面がいくつか頭にたゆたゆしています。 次回はそれをUPできたらいいな……いや小話もやりますけどね。 ではでは、少々長くなりましたが、幸せ〜にお付き合いありがとうございました。   【06.07.12】