いつものように、いつものメンバーで、なんやかんやとほのぼのしながら井戸端ならぬ火影執務室会議をしている最中。 突然シカマルが新月に変化をし、ナルトに向かって部屋の隅を指差した。 「お手柔らかに…」 ハヤテは、書類から目を離しもせずに、口元を笑みの形にする。 少し心配そうなナルトが、イルカ、シカクを手招きし、ゲンマ、ネジを腕の中に入れ部屋の片隅に走る。 五人が思い思いの格好で座り込んだ後、強固な結界が張られ、部屋から見えなくなった。 【幸せ追求させろ隊 補8.4】 突然放たれた扉には影が二つ、火影の前に足を進める。 「火影様…」 「随分と遅かったのぉ」 「……」 鷹揚に笑みを浮かべる火影の前に、ご意見番のホムラとコハルが苦々しげに立っていた。 「てっきり最初の集会後に、来ると思っていたのだが…」 「木の葉を強くしたいという、火影様の言葉に文句は無い。ただ、貴方の言葉がどの方向に流れていくかを、見定める時間を必要としただけだ」 コハルが、冷ややかに言い放つ。 「さて、結論はどうだったのかの?」 「危険だと申し上げたい」 「どこがだ? 木の葉のレベルは半年前に比べ格段に上がったと、報告書を見れば十分に分かると思うが」 「確かに、それは認めよう。じゃが、他はどうじゃ?」 忌々しげに目を眇めながら、火影を見るホムラ。 「他とは?」 「今ここに居る、一介の忍びが随分と声をあげているように見受けるのじゃが」 ホムラが新月とハヤテをチラリと見た。 二人は、一切を無視して手元の書類の処理を進めている。 「頼もしいとは思わんか? 来月には、新しい火影も誕生する。出来る事は若い者に委譲すべきじゃろ」 「ししかしっ…この者達は、全てを知ってる訳ではないっ…」 「それに何の意味があるのじゃ? 木の葉は生まれ変わろうとしている。過去は必要なかろう。 儂も来月からは、ただの一般職員として新たにアカデミーで教鞭を振るうだけのじじぃだしのぉ。 そんな者の過去なぞ必要は無い。そうではないか?」 「な何でアカデミーにっ!」 火影の言葉に呆然とした二人が、一転慌てて言葉を続ける。 「しょうがないじゃろ?未だ木の葉は、人手不足での」 煙管を咥え、火をのんびりつけている姿に埒が明かぬと、背後で書類を見ていた綱手と自来也に視線を移す。 「綱手は、どう考えているのだ?」 コハルの言葉に、綱手が笑い出す。 「何を笑っているのじゃ?」 「私は、まだ火影じゃないからねぇ」 「それでも来月からはお主が、火影じゃろ?」 「古き良き習慣は残しておきたいと思うがねぇ…そんなものはあるのかい?なぁ、自来也」 綱手の言葉にコハルの視線がきつくなるが、それを一切無視して自来也に顔を向ける。 「儂は、ここを留守にしている事が多かったからのぉ」 「それを言うなら、私も随分と留守にしていたからねぇ」 「お主らは、木の葉に良きものは無いと言うのか?」 「良いものばかりなら、こんなに私達が苦労する必要も無いと思うけど? どれだけ改革が入ってると思ってるんですか?」 自来也は、窓の外に視線をそらし、笑いそうになる口元を隠す。 綱手は隠そうともせずに、冷笑を浮かべている。 「外から見た木の葉は、馬鹿げた慣習に囚われ、若者の成長を止めているようにしか見えないね」 「綱手っ!」 「儂らが守ってきたモノのより、これからが良いと言いきれるのかっ! だいたい未だ未熟な齢の者に何が分かるっ!」 現在外見年齢二十歳前後の新月を指差し、まくしたてる。 「相談役を介せず、自分の立場を理解せず、勝手に事を進めている事からして未熟さをさらけ出しているではないかっ!」 その言葉に綱手が、いじの悪そうな笑みを浮かべる。 「来月からは立場が変わるね。 なにせ、方や戦略部の長とその有能な部下。方やただの一般市民ですからねぇ」 ホムラの歯から、ギリギリと音が漏れる。 「一集団の中から未だ齢を数えぬ、飛びぬけた者が出るのは、どうかと思うが」 古き慣習の象徴と言うべき言葉が、コハルの口から漏れる。 「なら、オレがやってきた事を肩代わりしてみろよ」 今まで気配さえも希薄に淡々と書類処理をしていた、新月が立ち上がる。 出来るものならやってみろと、侮蔑の視線を二人に投げつけた。 「肩書きが欲しいんなら、あんたらにくれてやってもいいぜ。 だいたい暗部も戦略部も、やりたくてやっている訳じゃねーし?」 「お前は何者だ?」 「名前ぐれーは、知ってるだろ?」 答えてやる必要は無いと、相手の言葉を切って捨てる。 「っ…新月、お前の本当の名は?」 「あんたら下っ端に言う名前なんざねーな」 自分らの子供よりも若い者が使うとは思えぬ、礼儀知らずな口調と態度、そしてあからさまに投げつけられる強い殺気。 二人は、怒鳴りつけたくとも、持っている新月の情報が声を発する事も、体を動かす事も出来ずに睨むだけに終わる。 「これが、ここの結論ということか?」 「いや…」 今まで聞き役に回っていた火影が、突然口をはさむ。 「ここのでは無い。四代目の結論じゃの」 口に咥えられた煙管から、静かに煙が吐き出される。 「どういうことじゃ?」 「ここで決められた事は、四代目が生きていたら行なってたであろう事じゃ」 二人は、訝しげな視線を火影に向ける。 「お主らは、知らなかった…知ろうとしなかっただけじゃ。 もう儂らの時代はとっくに終わっておる。 ただ…それでも、儂らは学ばねばならぬのじゃ。 もう少し目を開いて周りを見たらどうかの」 その言葉を受け入れる大勢が無い二人は、火影の言葉を受け付けようとはしない。 ただ、今まで志が同じと思っていた主に対し、冷ややかに一礼をしてから、言葉も無く執務室を退出した。 「どうした?新月?」 「あぁ、大人しかったじゃねぇか」 結界が解かれた瞬間にイルカとゲンマの声。 「そうですね、てっきり長の事ですから、お二人を瞬殺するのかと思ったんですね」 シカマルを見上げながら、物騒な事を言うハヤテ。 「まだ、早ぇだろ?」 「どうでしょう?火影様の言葉が、この先理解出来るとは思えないですが」 「それだったら、反乱でも起こしてもらって、大義名分を振りかざさねーと、周りが納得しねーじゃねぇか」 すっかり抹殺予定。 その腕も、そしてそれを有効に活用出来る頭も持っている子供はニンマリ笑う。 「だいたい、私は傀儡なんだから、あんな事を聞かれても困るんだよねぇ」 「その傀儡の相談役にすぎない儂も、意見なんか出来る訳がないのぉ」 シカマルが木の葉の益に反する事をしようものなら、真っ先に傀儡から自身に戻るだろう二人が、しらじらと言う。 「もしかして、オレも狙われちゃったりするのかな?」 集団の中から特出した若い者代表のナルトが、楽しそうに言う。 その頭をポンポンと叩きながら、シカクがニヤニヤ笑う。 「相談役って、楽そうな役職みてぇだなぁ」 「ならば、お主もやってみるか?」 「この面子が背後に居て、やってみてぇと思わんですよ」 大量の書類を、うんざりした表情で一瞥する。 「二人に集中させるのは、危ないのではないですか? 私で良ければ、相談役の傀儡になりますが……」 唯一心配そうに、申し出をするネジ。 「ネジ止めておけ。 こいつらは、これ幸いと、寝る時間無しで働かされるぞ」 慌ててネジを止めるイルカ。 「へぇ〜イルカ先生は、寝かせてもらえると思ってんだ」 「シカマルっ!」 「や、改革なんてメンドどくせー事やってんだから、仕方がねーだろ?」 「……もう少しなんとかならないか?」 信用できる人員に限りがある以上、これ以上の睡眠時間を増やすのは無理だとは分かっているが、イルカとしてはもう少し寝たいと思ってしまう。 30分でいいからと… 「んー…手っ取り早ぇ案が一つだけあるんだけどよ」 シカマルの言葉に、全員がもの凄い勢いでシカマルににじり寄る。 「あー…寝てぇよな?」 全員が全員、コクコクと頷く。 「とりあえず、オレとナルトが里抜けする。 そうすりゃぁ、SSレベルの任務するやつ凛しかいねーだろ?他のやつらにやらせたら速攻地獄行きだよなぁ。 結果、木の葉の収入激減。 ついでに、大蛇丸レベルの敵が来たら、対抗できるやつも凛しかいねーだろ? 簡単に壊滅すんだろうな。 その後、のんびりオレとナルトが、新しい木の葉を一から作ってやるぜ。 その方が簡単だし?今より遥かに楽」 「……シカマル……寝れるってのは、永遠にって事か? しかも、その前は一切寝れそうにないじゃないかっ! それなら、お前達の里抜けに気づいた時点で、オレはお前達を追う! 一からの方を手伝ってやる」 シカマルのとんでもない案に、速攻イルカの修正が入る。 ネジも一緒に行こうなと、楽しそうに笑う。 「私も、長無しの戦略部で一人睡眠不足になるのは嫌なんですね。 ゲンマと里抜けして、新しい木の葉が出来た頃に帰ってきましょう」 ハヤテの意見に、三代目、綱手、自来也、シカクがのった!と手をあげる。 「てめぇら、里抜けするんなら手伝えよなー」 「出来上がったら火影をしてやるよ」 なぁと、自来也とニンマリ笑う綱手。 「火影様、鹿と一緒に牧童生活でも経験してみませんか?」 「ほぉ〜それは興味深いのぉ」 奈良家を背負う大黒柱と、木の葉を背負う大黒柱が、ほのぼのとした生活に思いを馳せる。 「ってことで、明日も頑張れ」 話しながら書いていた書類を、各担当者に投げつけて、ナルトに目配せをする。 ナルトはくすくす笑いながら、シカマルの横行き、また明日ーと全員に手を振った。 部屋から二人は消え、ため息つきながら、苦笑を浮かべながら、それぞれが書類に目を通し始める。 「あー、少し楽しかったよなぁ…」 実際には、絶対ありえない話を聞いて、楽しい夢を見た起きぬけのような感じに、ため息が漏れる。 そんな、ゲンマの素直な言いように、イルカが小さく笑った。 「結果楽しくなって、のんびり出来る事を祈りましょう」 ここに居る、発言者以外が全員知っている事実。 そう、イルカ以外は、のんびりする予定。予定どころか決定。 ここで笑ったら絶対いけないとばかりに、各自顔に力を入れた。 【End】
やっとこ指針が立ちましたー。 どうしても敵とそして、新月の態度を出したかったんですねー。 最初は、訓練に参加させようと思っていたんですが、いまいちで…早うんヶ月。 やーWJありがとう!良い感じの展開をさせてもらいましたー! ただ、小話というには……長いな……あはは……気にしない気にしない。 ということで、幸せ追求させろ隊の小話も完結でございます。 さー、次の約束シリーズを安心して書くぞ〜(^O^)/ 【05.11.18】