【幸せ追求させろ隊 4】     「お前ら全員、倍づけだな。」   書類を抱えたゲンマは、最後に執務室を出てきたはずなのに、誰よりも先にアカデミーの前に来ていて、カウントをしていた。 楽しそうに千本を揺らしながら、目の前の子供達を見ている。   「とりあえず、これを読みな。」   各人に書類が配られる。 それぞれが、思い当たるふしが色々あるようで、長所が書いてあっても、それ以上に並べられる短所に痛い顔をしていた。 その中で、チョージが不思議そうな顔をゲンマに向ける。   「どうした?」 「これ・・・・・・シカマルの字・・・・・だよね?」   書類に書かれている見慣れた文字。 他の書類を覗いても、まったく同じ文字が綴られていた。 ゲンマがニヤニヤ笑う。   「お前達、見られていたぜ。  一人につき、2〜3枚分な。」 「やっぱり・・・・・。」   チョージが嬉しそうにニッコリ笑う。 しかし、他の面子は何で、あのドベ2の片割れがこんなに詳しく自分達を見ていたか分からない。 書いてある事は的確で、否定したくても否定できない。   「な・・・・何でシカマルがっ?!」   サクラがゲンマに食って掛かる。   「お前らのデータは、同期のあいつらに聞くのが一番だったからな。  早く、追いつけってよ。  どうせ、チョージがこの文書を誰が書いたか分かっちまうだろうからなって。  餞別だと、伝えてくれとさ。」   ゲンマの言葉をそれぞれ、それなりに受け取る。 しかし、ゲンマの微妙な物言いにシノが口を挟む。   「あいつらという事は、ナルトも入っているのか?」 「そうだ。  あの二人が、徹夜して書いたんだぜ。  とりあえず、それをしっかり理解して、あいつらが帰ってくるまでに追いつけるようにしな。  最低でも、あいつらが連れていったネジと同レベルまでには行かねーとな。」   幾らなんでも、あの二人に唯の下忍が追いつけるわけもない。 しかし、あの二人に付いて行ったネジは別だとゲンマは思う。 才能はあるが、一応普通の下忍。 問題点は、あの二人がネジの教師になるという事。 自分もナルトから教わって体験しているから言える。 洒落にならないハードな訓練。 しかも今回は、シカマルというブレイン付き。 ネジがどこまで伸びるか想像できない。 こっちも根性入れないとネジと格差が開くのは眼に見えている。 ナルトには負けないぜと下忍一同を見てニヤリと笑う。 子供達は、それぞれに思う所もあるようだが、一応闘志を燃やしているように見える。 これがどこまで続くか楽しみだなとゲンマは思った。   「でだ、今から三人づつ名前あげるから、1時間戦ってくれや。  それぞれが一対二、ギブアップ無しな。」   目の前の子供達から、ざわめきがあがる。 しかし、そんな事を一切無視して、ゲンマが名前を挙げる。   「サクラ、リー、テンテン。  テンテンは武器を他の者と同じ量にしろ。」   サクラは少し緊張した様子ではいと答え。 リーは握りこぶしをぎゅぎゅっと握って空に映し出されたガイを見つめ。 テンテンはニッコリ笑った。   「シノ、サスケ、ヒナタ。  サスケとヒナタは、眼を使うな。  シノは蟲の使用禁止。」   シノは小さく頷き。 サスケはいつもの仏頂面のままゲンマを見。 ヒナタは不安そうに小さく返事をする。   「最後は、チョージ、いの、キバ。  チョージ倍化の術禁止、いのは、心転身の術禁止。  キバは赤丸をこっちによこしな。」   チョージはいつも通りの様子で頷き。 いのは絶対に追いついてやるわっ!とガッツポーズを小さく作り。 キバは赤丸をゲンマの方に促し、不安そうな顔になる。   「ちょっと待ってな。」   ゲンマが親指を口に咥え、噛み切る。 口寄せの巻物を広げる。   「お、すまねぇな。こいつを頼んだぜ。」   ゲンマの目の前に忍犬が二匹現れる。 ワンと一回吼えて、赤丸を自分達の方に促した。   「赤丸の訓練はこいつらに任せる。  キバは赤丸に置いてかれんなよ。」 「あったりめーだっ!  赤丸頑張れよ!」   キバがニカッと笑って、赤丸にナイスガイのポーズ。 赤丸がワンと楽しそうに吼える。   「さて、中程度の怪我ではオレは止めねーからな。  一応救護班にも来てもらっている。  存分に戦いな。」   ゲンマが始めろと声をかける。 そして、死に物狂いの戦いが始まった。         ゲンマは、口に咥えた千本を固く噛んで下忍達の戦いを眺める。 シカマルからは、結構面白いメンバーだと聞いていた。 しかし、どうしても荒が見えてしまう。 それぞれの長所が生かしきれていない。 せっかくの素材を無駄にしているようにしか見えない。 結局は、動きの少しでも早い者が頭角を現している。 しかし、目の前の結果とシカマルが提示した実際の実力リストはまったく異なっていた。 慣れの問題かねと、一つため息をついて見続ける。   20分すぎて、少し変化が現れたのがシノ班。 なるほどとゲンマが口の端をあげる。 最初頭角を現していたサスケが劣勢になってきている。 几帳面に素直な動きをしていたヒナタの動きが良くなってきた。 体力が他の二人に劣るとは思わないが、油断できない二対一の戦い。 疲れが、頭で考えるよりも感覚だけで動くようになってきていた。 未だ体力や精神力がある分、サスケの方が基本に忠実で、感覚だけが頼りのヒナタにおされる。 そして、隙を突くように、シノがサスケにヒナタに攻撃を仕掛けていく。 シノは二人より力が劣る分、頭を働かせ戦っていた。   30分すぎた頃には、チョージ班にも変化が訪れる。 最初キバに押され、いのに押されていたチョージが二人の性格を読んだように動く。 キバといのの実力差が出なくなってきた。 それは、チョージがうまい具合にキバをあしらい、いのに的確に攻撃出来なくなっている。 同じように、いのも思うように動けなくなってきていた。   同じ頃、サクラの動きが変わり始めていた。 リーもテンテンもガイの元にいるだけあって、こちらは体力無尽蔵に攻撃をしてくる。 未だ、リーの動きは変わらない。 忍具を器用に使っていたテンテンの動きは、少しアラが出始めてきた。 さすがに長い時間細かい作業による動きは辛いのであろう。 そして、サクラが二人を戦いながらも見極めようとしていた。 体中傷だらけになっていたが、無闇に戦っても無駄だとう事に気づいたようだ。   ゲンマがため息をつく。 シカマルから言われたのは、決してチョージとシノとサクラを一緒にしない事。 それ以外はどうでもいいからという指示だった。 自分をどこまで有効に使えるか、そして、どれだけ的確に体に覚えこませているかが分かれ目という見本が目の前にあった。 頭がある者は頭を有効に使う。 体力勝負の者は、体を有効に使う。 それが未熟なモノが、残されていく。   中忍や上忍達に比べればはるかに数の少ない下忍。 それでもゲンマ一人が見るには限界があるように思える。 全員がそれぞれ同じではない。 やり方も変えた方がいいだろう。 自分一人ではちょっと荷が勝ちすぎるなとため息一つ。 帰ってきたら、ネジを加えて、ゲンマに合流するとシカマルが言っていた。 木の葉のトップが、それほど任務に時間をかけるとも思えない。 それまでに自分がどれだけの事が出来るかを考える。 頭脳労働はオレの性分じゃねぇんだがなぁとゲンマは苦笑を浮かべる。   そろそろ一時間が経つ。 爆弾でも投下してみるかねと、ゲンマは、口元の千本を揺らした。   「止めろ。」   下忍全員の動きが止まる。 そして、そのうちの何人かが崩れるように座り込んだ。   「オレ的には、順位とかつけたくねぇんだけどよ。  お前ら必死さが足りねーと思わねぇ?  そんなんじゃ、いつまで経っても、あの二人にゃ追いつけねぇぞ。」   呆れた調子でゲンマが子供達を見る。 周りがざわめく。 ゲンマは心の中でニヤつきながら、子供達を挑発する。   「あのなぁ、お前ら全員アカデミーの事忘れろや。  アカデミーでの成績に左右されすぎ。  上だと思っているやつは、驕りすぎてるし、下だと思っているやつは、萎縮してるし。  お前らが考え方を変えねぇと、上には上がれねぇよ。」   全員が全員言った通りではないが、とりあえず未だ事態を正確に把握していない子供達を奮起させる為にゲンマは楽しげに挑発する。 もう少し、目に見えた勢いが欲しかった。   「シカマルってドベ走ってたんだって?  10班のやつらは、アスマ上忍から聞いているかもしれねぇが。  あいつ、頭いいぞ。  間違いなくお前らのトップを行く頭を持っている。」   IQ200を超えるとは言えない。 そんな事が漏れたら折角の計画が台無しになる恐れがある。 目の前のざわめきが大きくなる。   「だ・・・・だって、シカマル・・・・それなら何でっ?」   サクラが納得が行かないと立ち上がる。   「お前さん重症だよなぁ。  特に思い込みが激しすぎるって紙に書いてなかったか?  だいたい、頭の悪いやつが、あんなに的確に理路整然と書類を書ける訳がねぇだろ?  どうも、知ってる事ばかりの授業はだるいから寝ていたんだと。  テストは鉛筆持つのもメンドくせーから、ほぼ白紙で通したらしいぜ。」   チョージがシカマルらしいと、笑う。 横に居たいのも、やっぱり馬鹿だよーと、言いながらも笑っている。 シカマルを知っている下忍達のほとんどは、シカマルらしすぎて、呆れながらも笑っていた。   「でな、目の前の全員が思っていたはずだな。  あの二人はドベとドベ2だと。  あいつら上忍になっちまったぜ。    最初の話に戻る。  シノ、チョージ、ヒナタの三人、お前らはたぶん一番早くここから出れるよ。」   シノは言葉に対し何も反応はしない。 チョージはびっくりしたような顔になる。 ヒナタは、呆然と聞きなれない言葉を聞いた。   「リー、さすがガイ上忍の所に居ただけあって、体力ありすぎ。  ま、ありすぎて悪いって訳じゃねーんだけどよ。見極めずれ〜。  動きが素直すぎるのが目だってたかね。まぁ、お前さんも悪くはねぇよ。  結構ここから上がるのも早いかもな。」   ありがとうございますっ!と勢い良く頭を下げ、そして次の目標に目を輝かせるリー。   「キバ、いの、テンテンの三人、もう少し長所を伸ばせ。努力次第だな。」   くっそぉ〜と受け取った書類を見返し始めるキバ。 同じく書類を見返し、まったく痛い所ついてくるわよねーといのがぼやく。 テンテンはにっこり笑い、さりげに握り拳を作り弱点克服を考えはじめる。 ガイ班に居た影響をしっかり拳に表していた。   「サスケ、サクラの二人、お前ら遅れを取ってる。  二人共、さっき渡した書類をちゃんと理解してっか?    サスケは、人を侮りすぎ。  お前には、人を見る目が養われてねぇ。表面しか見てねぇお前が敵を見抜く事は出来ねぇ。  その結果がこれだ。  っと〜〜キバ。」 「へ?」 「悪ぃけどよ、任務後とかにサスケにお話をしてやってくれ。」 「オレが?」   訝しげにキバが立ち上がる。   「おう、お前さんは、側でヒナタやネジを見て来ただろ?  サスケも少しはそういう事を知るべきだな。じゃねぇと馬鹿のままだ。」 「なっ!」   サスケは、納得がいかなかった。 立ち上がり、拳をきつく握る。   「馬鹿は馬鹿だ。  オレの言葉が理解出来ずむきになってるのが証拠。仕方がねぇよなぁ。  すまねぇ、キバ頼んだぞ。」   キバが心配そうに、ヒナタを見る。   「キバ、大丈夫だ。  ヒナタは結構芯が強い。」   キバは嬉しそうに頷き、ヒナタは驚いたようにゲンマを見上げる。 そんな二人を面白そうに見ながら、ゲンマは話を続ける。   「サスケ、少しは自分以外にも目を向けられるようになれ。  それによって自分を理解しな。    さて、サクラ。  お前の長所は頭だったはずだ。しかし、使いこなせてねぇ。  冷静に分析できねぇようじゃ、折角のいい頭をもっても意味ねぇだろ。  ん〜・・・・チョージ。」 「え?」 「サクラを頼んだ。  お前がこの中で一番人を見る目が確かだと聞いている。  サクラに色々話して聞かせてやれ。」   サクラが悔しそうに口の端を噛む。   「あー?お前その態度お門違いだぞ。  お前、同じ班のくせにナルトの事知らねーだろ?  それがいい証拠だ。」 「ナルトの事なんかっ!」 「馬鹿だと思っていたんだよな?ドベだと思っていたんだよな?  で、今の結果は何だ?」   チョージがニッコリ頷く。   「ボクもあまり知らないけど、教えられると思う。」 「あぁ、頼んだ。」   ゲンマは、全員のアカデミーの成績も見ていた。 アカデミーって、まったく意味がねーんじゃねぇの?と、学校のありように疑問を抱く。 自分の言外の意を的確に汲み取ってくれた目の前の子供に対し、アカデミーの成績は普通と導き出していた。   ため息を付きながらゲンマは話を続ける。   「ま、伸びるやつってのは、自分がある中で素直に人の話を聞けるやつ。  そして、それを理解して、自分のものにするやつだな。  お前達心しとけ。」   一番最初に感じた熱が少し変わってきたようにゲンマは感じる。 それがいい方向か、悪い方向かはわからない。 とりあえずは、この目の前の子供達を引き上げる事。 当面嫌われるの覚悟で、尻をひっぱだくしかねーなと、苦笑する。   「さて、訓練と行きますかね。  時間が来るまでオレが相手をしてやる。  オレは、体術がメイン。  頭はねぇなぁ。  反射神経だけでやってる所ありだ。  好きなように攻撃してかまわねぇ。  術でも道具でも何でも可だ。        順番に来な。  遊んでやるよ。」   ゲンマが楽しそうに笑った。       ゲンマが楽しそうに周りを眺める。 あれから3時間ぶっ通しで子供達の相手をしてきた。 目の前では、子供達全員が地面の上で荒い息をついている。   「お前ら、ぶっ倒れてる暇ねぇぞ。  この後全員筆記試験が待ってるからなぁ。」   子供達からえ〜だの、げ〜だのという声が漏れる。 叫びたいのは山々なのだろうが、そんな力も残っていない様子。   ゲンマがげらげら笑う。   「担当は、戦略部の月光特別上忍だ。  オレより、厳しいから覚悟しとけ。」   もう楽しくて仕方がありませんという様子のゲンマを、子供達が恨めしそうに見上げる。   「今日は様子見だから、物足りなかっただろ?  明日から正式に訓練するから楽しみにしてな。」   じゃぁとばかりに、ゲンマが笑い声を残して、その場からかき消える。 残された子供達は鬼っと心から叫んでいた。 強くなりたい意思はあっても、すでにキツイ訓練を受けたと思ってヘトヘト状態の子供達は、明日からの訓練を思ってゲンナリ状態。   そこに、冷ややかな目線が現れる。   「寝ていられては困るんですね。」   音も無くハヤテが現れていた。   「アカデミーの教室を借りました。  2分後に2Fの空き教室に全員集まるように。」   そう言って再びハヤテが消える。 有無を言わさない口調に、全員諦めて立ち上がり、よろよろと教室に向かった。     【続く】    




 


    約4班合同・・・・・今までずっと避けていた4班合同。 嫌〜〜〜(>_<;)人数多すぎだよ。全員の存在を均等に出来ないよぉ〜。 面倒〜〜〜(>_<;) つか、知らないんだよ。テンテンってどんな子やねん。 リーは燃えているだけでいいんかい? アップアップ状態ッス〜(;_;)   そして、毒の大量出血サービス状態でした。 これが3回目の書き直しの結果です。 現在04.10.22。次の月曜日までには書き上げないと、一生これが上がらなくなる可能性が大と見て、気合入れました。 なにせ、WJの予告が、守れなかった約束で、サクラがナルトの元にくるって・・・・・内容によっては、絶対書けなくなる。 まじ書けなくなる。 毒しか出てこない可能性大。   まぁ、みんながいい子だったら、話にならへんので、いい感じかもしれませんな(゚゚ )〜。 (ちなみに、サクラとサスケに対する文句は一切受け付けませんので、よろしく。)     【04.10.22】