【薄縹(うすはなだ)】         「なぁ、キスしていいか?」 「は?」   真っ白だった。自分の頭の中がこれほど真っ白になった事はねーってぐらい。   「キスしていいかって聞いてるんだけど?」 「キ・・・・キス?・・・・な・・・なななななんだってばよっ!!」   目の前のシカマルがニンマリ笑って、キスって言ったらキスだろ?と・・・そ・・・・そうなんだけど、何でオレなんだ?何で?・・・・わたわたとしていたら、自分の頬にシカマルの温もりを感じた。   「シ・・・・シカマル?」 「何だ碧。」   オレは表情が無くなったと思う。碧・・・・・それはオレの暗部名。 なぜ目の前の下忍がその名前を囁く?   「あー?まさかお前気づいていねーの?んだよっお前冷てー!」 「気づく?・・・・何を言ってる?」   オレはチャクラを練って術の準備をしていた。   「碧・・・・・お前を一番良く知ってるのは誰だ?」   シカマルが今までの下忍の雰囲気を一掃して立っていた。 誰だ?・・・・いやこのなれ親しんだ気配・・・・・・これは・・・・・。   「闇?」 「ご正解。」 「オレ、帰るわ。」   目の前の未だ理解出来ない。いや・・・・出来ているけど。家に帰って落ち着いて頭を整理したい。 訳分からない。訳分からない。訳分からない。オレの頭はパンクしそうだ。   「や、それねーんじゃねぇの?とりあえずキスの一つでもしてから帰ってくんねー?」   訳分からない元凶がまだ訳のわからない事を言い続ける。 オレは無視して、スタスタ歩きはじ・・・・世界が反転した。   「無視するなよ。」   漆黒の髪と瞳が目の前に広がる。 オレは、なぜだかシカマルに押し倒されていた。 背後に居たはずなのに何でこの状態なんだ?   「お前訳分からねーよ。帰らせろ。」 「分かりやすいと思うけど?つか、お前分かってる事を理解しようとしてねーだろ?」   すげー理解したくねーし、そんな訳もあるはずねーから、帰りたいと言っている。   「オレら結構長い付き合いだろ?そこに恋愛感情が生まれたっておかしくねーよな。」 「はぁ〜?」   仕事の相棒としてはもう2年。確かに長いほうだと思う。 初めて会った時から、オレの癖を全て知っているような戦略とサポート。 体力は自分より劣るが、それでも今まで組んでいたやつらに比べたら格段の差だった。   自分の相棒が誰かなんて、気にした事もない。 どうせ任務の間だけの付き合いだったはず。 まさか昼間まで及ぶとは思っもみなかった。   「オレは、お前に惚れたって言ってるんだけど?」 「何だ、その疑問系はっ!」 「気に食わねぇ?」   シカマルが楽しそうにオレを見つめる。   「オレを離せよ。お前なんかに用はないっ!」 「そうか・・・・。」   気がついたら口が塞がれていた。 再び、目の前に漆黒が広がる。 唇はやけに柔らかかった。 ほんの数秒・・・・・静かに唇は離れ、舌がオレの唇を舐めていった。   「ご馳走様。」   ニヤリと笑ったシカマルが踵を返し、掌をひらひらと振って消えていった。 オレは硬直していたと思う。                 「ナルトっ!・・・・ナルトっ!」   思考力0のところに突然体を揺すられた。   「へ?サ・・・・クラちゃん?」 「何寝転がってんのよっ!探し物は見つかったの?」   オレは言われるがままに、ポケットからブローチを取り出しサクラの目の前に出す。   「え?・・・・もうっ?!!すごいじゃないっナルトっ!」   サクラがオレの体をばんばん叩く。痛い・・・・・・・じゃねぇっ!ドベのオレがもう見つけていてどうするっ! やっと思考力が戻ってきた。 呆けている場合じゃない。 オレは下忍で、任務中で、ドベを演じなければならなかったんだっ!   「早くカカシ先生の所に持っていきなさいね。う〜〜私も負けないわよぉ〜。」   ばしばし叩くのをやめたサクラは、ぶんぶん手を振って遺失物捜査に戻っていった。   「が・・・がんばってってばっ!」   オレも、オレらしくぶんぶん手を振る。   今日はアスマ班と合同任務だった。 大量の遺失物を6人で、広い木の葉の里を捜し回る。 おおよその場所は指定されているが、それが正しいとは限らない。 何せ、遺失した本人の指定だから、そんなものは当てにはならない。   事前に対面した本人の体に流れる波長をチェックし、遺失物に残った同じ波長を探すのが一番手っ取り早い。 今日も、事前に当人の波長を確認したおかげで、すぐに遺失物は見つかっていた。 サクラに見つからなければ、最後の最後でやっと見つかったという何時も通りの自分だったはず。   とりあえず、いつもの自分らしく、ドタドタと騒がしく手を大きく振って、先生達の元へと走った。   「カカシ先生っ!見つけたってばっ!オレが一番だってばよっ!」   ドベの自分らしく、おおげさに、大声で楽しそうに自己主張。 目の前のカカシとアスマは、意外そうに少し目を見はって、それでもいつもの自分の様子に仕方がないやつだと言うように苦笑を浮かべる。   「随分と早かったねー。」 「へへっ。光ってるもん拾ってみたら、大当たりだったってばよっ!」   偶然見つけた事を強調する。 オレはドベじゃなくてはいけないから。   「ねぇねぇ、カカシ先生ってば!オレもう帰っていい?  オレってば、修行しなくちゃいけないんだってばよっ!」   あいつに会いたくない。 ここに居たら、嫌でも顔を再び会わせなくちゃいけなくなる。   「だめだぞナルト。全員揃って遺失物の確認が全て終るまでは帰れねーな。」   アスマが煙を吐きながら、もっともらしい事を言う。 オレは心の中も外見もがっくりとして、ブツブツ文句を言いながら道の端に腰を下ろした。   とりあえず、さっきの件を考えないよう、今夜の任務について考えてみる。 しかし、任務イコール闇が関わってくるわけで、結局さっきの事を思い出し、堂々巡り。 大きなため息が出た。   「ナルト、どうしたの?もう帰っていいってよ。」   またもやサクラに叩かれる。 いつの間にか、目の前に2班全員が揃っていて、それぞれ帰り支度をしていた。   「腹減ってて、ボ〜としてたってばよ。」 「早く帰って夕飯を食べなくちゃね。  まるで、シカマルみたいだったわよ。」   サクラがくすくす笑う。 オレも一応元気そうにナルトらしく立ち上がる。 目指せ夕飯だってばよ!なんて、言ってみる。 けれど心の中では、シカマルという音に心臓が1回跳ねた。   「ナルト〜、ちと付き合ってくれねー?」   元凶の声が背後からして、再び心臓が跳ね上がる。   「無理!オレ腹減って死にそうだってばよ〜。」 「あー?そんぐれー、奢ってやる。  ラーメンでいいだろ?」   断りたい。 しかし表のナルトにとっては、素晴らしい提案で断る事が出来ない。 心の中でシカマルに悪態付きながら、表面上やったってばよっ!と満面の笑顔を浮かべる。 シカマルがくっくっと笑う。 確信犯かよっ!   シカマルの後を、ついて行く。 オレは、諦めて闇とやった2年間の任務を振り返る。 2年間のどこで、さっきのシカマルの台詞に繋がるのかを考える。 考えている間に、どっかの店に入った気がする。 シカマルに何か言われたような気がする。 とにかくオレは、考え込んでいた。 目の前の訳分からない問題をどうにかしなければ、夜の任務に差し障る。 さっさと解決して、元の平穏な?状態に戻りたかった。           「ほら、茶。」   目の前にお茶が差し出された。 周りを見渡す。 オレは知らない部屋で、なぜかベッドの上に座っていた。   「へ?」 「考え事終わったか?」 「・・・・・・ここどこ?」   シカマルがゲラゲラ笑う。 オレ・・・・お前のそんな楽しそうな笑い顔初めて見た・・・・かも・・・・・・・じゃねぇっ! 何か違うだろオレッ! 未だ笑っているシカマルの声を聞いて、だんだんムカついてきた。 蹴ろうとしたら、逃げられた。   「ここはオレの部屋。  お前なー、全部上の空だったけど、オレの声に無条件でうんって言ってたぜ。  その結果、お前がここに居るわけ。  ついでに、小さい声だったけど、考え事声に出してたぞ。」   未だくっくっと笑いながら説明をするシカマル。 いや、そんな事はどうでもいい。 声に出していた? ・・・・・・・オレ・・・・・・・・・・何を言った? シカマルに顔を向ける。   「過去を振り返ってたんだろ?別に大した事言ってねーよ。」   それでも、シカマルの笑顔が気になる。 オレ独り言言う癖があったのか・・・・気をつけよう。   「ほら。」   シカマルが笑いながら何かを放ってよこした。 掌の中には、小さな紙袋。 何だとシカマルに目線を向けると、開けろと言われた。   中から漆黒の石が付いたネックレスが現れる。 さっき、ものすごい近くにあった、瞳と同じ色。 シカマルがつけてやると言って、サクサクとオレの首に飾る。   「これは?」 「やっぱお前呆けたまんまだったのかよ。  オレの用事は宝飾店だったんだよ。  そこで、お前がこの石をずっと見てたんだぜ。」 「いくらだった?」   宝飾店、行った事無いけど、高そうな響き。 それにシカマルに物を貰ういわれも無い。   「いらねーよ。  好きなやつがじーと真剣に見つめていたんだぜ。  とりあえず、買うのは男として当たり前だろ?」 「はぁ〜?それって相手が女だろ?  お前の目は節穴か?  オレは男だっ!」 「知ってるぜ。」   まったく態度を変えずにしれっとシカマルが言う。 やっぱりからかわれてるっ!   「ちなみにからかってねーよ。  オレがそんなメンドくせー事するわけねーだろ?」   確かに、オレの知ってる闇もシカマルも、面倒臭がり屋で、とっても効率良く何でも楽な任務にしてしまう無精者。 その為に頭を使う事だけは面倒臭くないらしい。 じゃぁ、この状態は何なんだ?   「好きになっちまったもん、男も女も関係ねーだろ?」 「そんなんで、いいのかよ!」 「いんじゃねーの?  お前は大好きならラーメンを嫌いになれんのかよ?」 「ラーメンは人間じゃねぇっ!」 「お前の頭でも分かるように説明してやってんの。」   ムカつく。 つか、オレだってレンアイ事を知ってるって事を分からせてやるっ!   「シカマルっ!お前間違ってる!」   シカマルに向かってビシッと指をさす。   「あー?」 「普通はお友達から始まって、交換日記して、手をつないだりしてから告白だろっ!」   目の前のシカマルが頭を抱えて、盛大なため息をついた。   「お前・・・・その100年ぐれー前の清き交際手順、イルカ先生からか?  このご時世の何処にそんなカップルが居る?  人によっては、付き合ったその日にHしちまうヤツも居るってのに・・・・・何だそれ?」   呆れられた。 何これ違うのか? アカデミーの頃にイルカ先生が、胸をはって教えてくれたんだぞ。 表のオレがサクラを追いかけているのを知って、わざわざ教えてくれたんだぞ。 何だそれ?その日にH? だめだろそれ! オレらまだ12歳だぞっ! って・・・・・このシチュエーションやばく・・・・・ないか? さりげに、オレベッドの上に居るんですけど? 顔が引きつった。   「あー大丈夫だって、オレは気ぃ長いほうだから。  無理やりはしねーよ。  つか、オレ返事貰ってねーんだけど?」 「闇の事だから、どうせオレの事調べたんだよな?」 「当然だろ。」 「だったら、何でそんな話になるんだ?」   闇の調査能力は生半可なものじゃない。 碧がナルトだと分かったのなら、当然ナルトの生い立ち全てを知ったに違いない。 そうオレの中に居る九尾の事も・・・・・・。   「お、そうそう、オレ聞きてー事があったんだ。  お前って九尾?それともナルト?」 「はぁ〜?」 「や、オレが惚れた相手が誰だか確定出来なかったんだよなー。  で、どっちよ。」   目の前のシカマルは妙に真剣な面持ち。 マジだよこいつ。 もしオレが九尾って言っても、マジで口説くみてーに見える。   「お前、オレが九尾だって言っても、惚れたって言えんのか?」 「当然だろ。  惚れちまったもんは、男だろうが、九尾だろうが、関係ねーな。」   呆れた。 それから、笑いがこみ上げてきた。 もうなんか、呆れすぎて、シカマルが凄くて、九尾でもいいって言える目の前の訳分からねーやつがすげー笑えた。   「お前、すっげぇ〜馬鹿っ!」   オレは未だげらげら笑いながら言う。   「ドベに言われたくねーなー。」 「お前だって、ドベから2番目じゃねーか。」 「で、どっちなんだよ。」 「たぶんナルトだと思う。」   そんなの分かる訳ねーだろ。 もし九尾がオレを操作しているとしたら、オレなんかに悟らせる訳もねーって。   「じゃぁよナルト、オレと付き合わねー?」   シカマルがベッドに座っているオレを見上げる。 黒い瞳がオレを真っ直ぐ見る。 再び心臓が跳ねた。 さっきまで笑いをどうやって止めようかと思っていたのに、もう笑えない。 どう答えればいいんだ?   オレは困ったような顔をしてたんだと思う。 シカマルからため息が漏れた。   「お前が、ずっとその石を見ていたから、結構期待してたのにな。」 「これ?」   オレが胸元にある漆黒の石を触る。 一番初めに見たのは、漆黒の髪と瞳。 そして、そのものを固めたような色の石。 あぁ、闇のシカマルの色だったんだと今更思う。   何でオレはこれを見ていたんだろう?   「オレの用事ってのが、これを受け取る事だったんだよ。」   シカマルの掌に海の色を思わせる薄縹(うすはなだ)色の石があった。   「お前の色だろ?  見かけたら無性に欲しくなってさ。  お前がその石を見てたのって、オレと同じかなって、思っちまったんだな。」   シカマルが苦笑を浮かべる。   オレは・・・・・・・・顔が熱い・・・・・顔が真っ赤な気がする。 慌てて下を向いた。   オレは気づいた。 今まで闇に、シカマルに、恋愛感情なんてカケラも無かった。 それは絶対に間違いのない事実。   でも今日知り合った、闇に、シカマルに・・・・・そのカケラを見つけてしまった。   目の前に広がった漆黒。 柔らかいと思った唇。 九尾でも惚れた相手だと言い切る物言い。 そして、薄縹色の石・・・・オレの色。   なぜ漆黒の石を見つめていたか。 それは、闇の、シカマルの色だから。   なんか、どんどん顔が熱くなっていく、どうしていいか分からなくなってきたら、シカマルのくっくっと笑う声が聞こえた。   「なっ・・・なんだよっ!」 「メンドくせーけど、交換日記でも始めるか?」   真っ赤になった理由まで見透かしたように、笑顔のシカマルが目の前にあった。 諦めた。 とりあえずこの先オレの気持ちがどうなるか分からねーけど、今は、この闇に、シカマルに完敗だと思った。   「お・・・・・おう。」 「あんまし待たせるなよ。」 「へ?」 「気ぃなげーつもりだけど、そんなお前見てると、我慢出来る自信がねー。」 「ばっ・・・・・・馬鹿野郎っ!」   オレはシカマルに殴りかかった。 シカマルはニヤつきながら、相変わらずの素早さで避け、オレを抱きしめた。     オレが始めて心にカケラを持ってしまった日。 闇、シカマル色の石を手に入れた日。 唇の柔らかさを知った日。 闇の、シカマルの腕の中の居心地良さを知った日。     取り合えず、今日これからノートを買うっ! 交換日記でも書いてやる。     【End】    




 


    1行目書いたの、これいつだっけ?('';)<そんなんばっかり。 FDLをこれに決めたのは、ここで書かないと一生日の目を見れそうもなさげでf(^-^;) うちでは珍しい性格のシカマル(恋愛に積極的?)とナルト(強気?)です。 そして、Naruto部屋では珍しい一人称です。   Naruto部屋を作って半年経ちました。 色々なシカマルとナルトが増えてきました。 今回の闇と碧はどうでしたでしょうか? 私的にはすっげぇ〜楽しかったです(^-^)v   1周年祝い記念FDL:Naruto小説薄縹(うすはなだ)でした。 (※薄縹は色の和名です。本文中の一部色が違う文字の色が薄縹です。) 最後に、ご来店下さった皆様ありがとうございました。 これからもよろしくお願い致します。   未読猫【04.10.01】