「……お主は、非常に悪い例を見てしまったようじゃな」 驚いたように、シカマルの顔があがる。 「お主は、ラトゥノを、ナルトを、ちゃんと見ておったのじゃろう?」 目が見開く。 「お主の言葉をずっと聞いていて、ラトゥノが、ナルトが、好かれるに値する、愛さずにはいられない、良い子じゃというのが十分に伝わってきた。 ならば、相手を好いても、愛しても…相手を傷つけ悲しませない限り、何も問題はあるまい」 穏やかな視線が、シカマルに注がれる。 「お主は、決してラトゥノも、ナルトも、傷つけたり、悲しませたりは出来ぬじゃろ?」 「そうでありたいと思っているが……本当にそうなのだろうか? あの…狂気が俺に無いとは…言えない……」 「いいや、お主はできぬよ。たとえ思ったとしてもな」 穏やかにシカマルに微笑む。 その言葉を泣きそうな顔が受け取った。 そして、シカマルの口元が小さく開く。 どの時でも…どの宙でも…どの世界でも…変わる事を祈って… 7 「こんばんわー」 ナルトの家のインターフォンが鳴り、シカマルの声が響く。 慌てたような、足音と勢い良く開く扉。 「シ、シカマルっ!」 「よぉ〜」 いつも通り、だるそうに、ポケットに入っていた手をあげ、ナルトに振る。 「晩御飯まだだろ?おじさんには連絡して、俺ん家で食べようぜ」 ニンマリ笑うシカマルに、呆然としていたナルトは、気づいたようにブンブンと首を横に振る。 もう時間は九時近く、自分の父親が帰ってくる時間。 ここで、鉢合わせさせてはいけないと、シカマルの腕を取る。 「だめだってばよ! 俺…俺ってば、もう夕ご飯作っちゃったってば。 も、もったいない事出来ないってばよ!」 そう言って、シカマルの家の方へ足を向ける。 自分があずみ母さんの代わりをしていると知ったら、間違い無くこの幼馴染は、それを正そうとするだろう。 シカマルは、いつも自分に対して優しかった。だからこそ、知られる訳にはいかない。 まだ、自分の父親が他人の言葉を聞くには早すぎると、あの狂気の瞳が何をするか分からないと、それに怯え、シカマルを引きずるように歩く。 その足が凍りついたように止まった。 「あずみ…どこに行くんだい?」 「あ…父さん……」 父親の瞳は、ナルトの手が握っているモノを凝視している。 「あずみ…どこにも行ってはいけないと言っただろ?」 「あ…あの…家に送ってあげようと……」 「何でだい?なぜ、あずみがそんな事をする必要がある?」 その狂気の宿った瞳は、シカマルを一切見ていなかった。 幼馴染として、いくらでも面識があるはずの子供を認識していなかった。 彼の頭にあるのは、あずみが自分以外のモノの手を握っている事。 そして、それは自分から逃げだそうとしているようにしか見えなかった。 狂気を宿った瞳に暗い光が灯る。 ナルトはそれに怯え、シカマルはそれをまっすぐ見つめた。 「何を言っているんですか?彼は貴方の息子、ナルトでしょ? あすみさんは、年末に死にました」 「君こそ何を言ってるんだい?死んだのは、ナルト。 君の手を握っているのは、僕のあずみだ!」 シカマルの口の端があがる。 「自分の悲しみばかり見つめて、何が楽しい? あんたは親だろ?子供のナルトだって悲しみを乗り越えようとしていたのに、あんたはナルトに何をした?!」 「シ、シカマルっ!」 「ナルト、黙ってろ! お前の事だから努力をしたんだろ?でもこの馬鹿は目が覚めてねぇようだ。 あんたは、当分一人で現実を知る努力をしろ。 ナルトは俺の家で預かるっ!お前があずみの死を認めねぇ限り、ナルトは絶対に返さねぇっ!」 それまで黙っていたナルトの父親が、のろりと動く。 一瞬の出来事。 ナルトに弾かれたシカマルが地面に尻をつき、ナルトのくぐもった声があがる。 慌てて顔をあげたシカマルが見たものは、真っ赤に染まったナルトだった。 「ナルトっ!!」 慌ててナルトに駆け寄る。 「ごめん…シカマル。 父さん……母さんが居ないと……てんで……だめ…なん…だって…ば…」 「しゃべるなっ!」 シカマルの怒鳴り声が、聞こえているようには見えない。 瞳はシカマルから、父親に移る。 「…父さん…俺…ナルト…だってばよ……」 真っ青になって自分の子供を見下ろすだけの父親。 口は開かれない。 「シカマル…ごめん…ごめんな…俺が…頑張らなかった…から……シ…カマル…に……迷惑……」 「な、何言ってるっ?! 俺こそ…ごめん…ごめんナルト……俺が動いたばかりに……お前の努力を……ナルトっ!」 ナルトの瞳が静かに閉じられる。 「誰かっ!誰か救急車を呼んでくれっ!!!!!」 深々と刺さったナイフから血がどんどん流れていく。 手の中のナルトは、どんどん冷たくなっていく。 シカマルは、頭の片隅で救急車の音を聞いた。 ◇◆◇ 「俺の頭の片隅には、父親があぁ動くだろうと、予測をたてていた。 たった半日見ただけでも、あの狂気、あの独占欲は十分俺に伝わっていたのだから。 なのに、俺は動いた。 ナルトがあぁ動くのも簡単に想像付く事だったのに……。 俺は、ただもう一日も、あの夜をナルトに過ごさせたくなかっただけで……それが耐えられなかっただけで……」 シカマルが顔をあげる。 「俺が、ナルトを殺してしまった……」 その顔には、自分の言葉を否定する言葉を必要とはしていなかった。 三代目はため息をつき、疑問を口に乗せる。 「ナルトは、死んだのか?」 シカマルが頷く。 「父親は、正気に戻ったのか?」 「…たぶん……俺は、全てを見られなかった…俺はナルトが死んだ後、自分の魔法で死ぬ前に、あのナイフで自殺した……魔法で死ぬのはあまりに不自然だったから。 知っているのは、病院でナルトが死ぬまでの事。 あの父親は、ナルトが倒れているのを呆然と立ち尽く眺めた後、ずっとナルトに向かって名前を繰り返し呼んでいた……『ナルトくん』…と。 俺は、今更何で涙を流すんだと、殴りたいのを堪えて、それを見ていた…」 「それを、ナルトは理解出来て逝ったのか?」 首が横に振られる。 「ナルトは、手術室で死んだ……不運な事に俺を押した反動で、無闇にナイフが胸の奥…心臓にまで届いていた。 俺と話をした後、二度と意識が戻る事は無かった」 シカマルが静かに立ち上がる。 「今日はこれまでにしよう。明日また来る」 向けられた背に、三代目がシカマルと声をかけた。 シカマルは足は止めたが、振り向かない。 「そのナルトは、満足に逝ったと儂は思おておる。 父親は救えなかったが、大切な幼馴染を救ったのじゃ。 儂がお主から聞いたナルトなら、そう思ったであろう。 じゃから、お主がそのように思うのは間違っておる。 ナルトの事を思うのであるなら、その考えを改めなさい。ナルトに対して失礼じゃよ」 シカマルの体が、小刻みに震える。 三代目の耳に、ありがとうと小さく声が届いた。
ぜぃぜぃ、よっしゃっ!終わった!! セカキラの世界終わりましたー!って、全然セカキラ関係無いからー! まったくごく普通の現代日本でありましたー(^-^;) あまりに暗い内容で、書いている私がへこみましたー(ーー;) ということで、次の世界にサクサクぅ〜と行きますです…はい…って言っても次もパラレル世界なんで、まだ暗いなぁ……(T-T)いやや…。 【06.04.16】