「来た…」 「今日は早いのだな」 「あぁ、まだ学ばなければならぬものが多い。 昨日から起きずくめでは、この体がさすがに持たぬだろう」 「ね、寝ておらんのかっ?!」 「仕方が無い、あまりにも知らぬ事が多いからな」 その程度の事は良くあるとばかりに、視線でこの話を終えようとする。 しかし、三代目の瞳はその視線に揺らがなかった。 「明日来るが良い」 「お前が、待っていると言った。 それに時間が惜しい」 「しかし…っ?!!」 言いかけた言葉が途切れる。 三代目の影がシカマルに囚われていた。 「俺は、危惧している。ラトゥノの名前を、お前はナルトと呼んだ」 その名前になぜ反応するのか分からないと、声を出そうとして、自分の体が自由になっている事を知る。 「ナルトは、うずまきナルトというのではないのか?」 その声の冷たさに、三代目が目を見張り、ぎこちなく頷く。 「ここの言語体系と似た世界がある。 そこでラトゥノは、うずまきナルトという名前を持ち、俺の幼馴染だった」 色の無くなった声が、三代目の耳に届いた。 どの時でも…どの宙でも…どの世界でも…変わる事を祈って… 5 「ナルトの父親は、間違い無く死んだか?」 「どういう意味じゃ?」 「うずまきナルトという名前を持つ子の父親には、生きていてもらっては困る」 何も感情を乗せない声が続く、その意味が分からず、その言葉の意味も判らない三代目は、訝しげに眉間に皺を寄せる。 「な…ぜだ?お主は、ナルトの幸せを望んだのであろう? なぜ、そんな事を…」 「確かに、ラトゥノの幸せを望んでいる。だが、その名前の子の父親は、あいつの笑顔を永遠に消した」 「っつ?!!」 「そして、ここの父親も同じだ。それは事実だろ? ナルトという名前は、ラトゥノにとって、禁忌だ」 「ち…違うっ!それは違うのじゃ!! あやつは、ナルトの幸せを祈っておった。 だからこそ、英雄であれと……」 シカマルの口の端があがり、張り付いたような皮肉な笑みが浮かぶ。 「そいつは、馬鹿だったんだろ。 人間ってものが、どういう生き物かまったく分かってない。 英雄だ? ふざけるな。なぜ自分自身で封印しなかった?なぜ産まれたばかりの子供を使った? 結局、子供は忌避されている。 それはあんたが、一番良く知っているはずだ」 「あやつは、この里を人間を愛しておった……里がどんなものであろうと……そう思うのは、あやつの心の広さと正しきモノを見る目があってこそ。 そうじゃな……里人には、そんな目はもたぬ。その事に気づかなんだは、あやつの甘さ故…」 三代目は、亡き人を思い、辛そうに顔を歪ませる。 「それはどうかな?」 そこに、追い討ちをかけるように、冷たい声が割り込む。 「どういう事じゃ?」 「俺はまだ確認してないが、ナルトの母親は、その時まだ生きていたのか?」 「……それは知らぬ……それは…関係あるのか?」 「さぁな。 ただ、母親が生きていたのなら、こんな結末にはならなかったと、俺は思っている」 シカマルが空気で作られた椅子に深く座り、昨日と同じようにニルヴァーナを握り、瞳を閉じる。 その醸し出す空気が、話が始まったと三代目に伝えた。 「ラトゥノが、うずまきナルトという名前で、生きた最初の世界は、機械都市ベベルが進化したような世界。 科学という技術を駆使し、人は機械によって豊かな生活を営んでいた。 俺とナルトは、日本という名前の、一見平和な国に生まれる。 国の中心から遠く離れた郊外にあるその町は、ごくありふれた、平凡な住宅街だった。 その街で、俺達は幼馴染として産まれ、出会う。 ナルトには、当然ザナルカンドの記憶は無く、何も迷う事無くその世界に馴染み、幸せな家庭の中で成長した」 「幸せな家庭だったのじゃな?」 「あぁ…ナルトが16になるまでは、幸せな家庭だった」 その声音が、それまでの幸せを一切否定する。 「16になったナルトに、何が起こったのじゃ?」 恐る恐る聞く三代目の言葉に、静かな声が返ってきた。 「16になった冬……ナルトの母親が、死んだ」 「その世界の人間の寿命は、みな長いのか? 母親が死ぬという事が、それほど珍しい事じゃったのか?」 「いいや、確かに人間の寿命は年々伸びていたが、若くして死ぬ事が無い訳ではなかった。 不治の病もあったし、事故で死ぬ事も珍しくはない…」 それならば、あの『不幸』と言った声音の意味が分からないと、三代目は話の続きを待った。 ◇◆◇ うずまきナルトは、元気で明るいのが代名詞という肩書きを入学時に貰い、そしてそのまま中学を卒業した。 そして春、入学した高校で、そのうずまきナルトはどこにも居なかった。 母親を事故で亡くして四ヶ月、未だ悲しみが大きいのだろうと、同じ学校から来た同級生達は、思っていた。 しかし、今のうずまきは、母親が死んだ頃とはまったく違う表情を浮かべていたのには、誰も気づいてはいなかった。 「なぁ、うずまきは、どうしたんだ?」 中学からの仲間が、心配そうに聞いてくる。 「分からねー。2月頃には、少し良くなった気がしたんだけどな…」 眉間に皺が寄る。 確かに、酷いショックを受けたのは分かっている。 だが、元来の強さからか、少しづつ立ち直り、笑顔を見せ始めたはずだったのに、春休み以後それが一切無くなった。 その僅かな変化をシカマルは、気づいていた。 悲しみだけではない、何かに心奪われているような何も映さない瞳、そしてだるそうな立ち振る舞い。 ナルトは、変わっていた。 「やっぱり、かーちゃんが居なくなるってのは、きついよなー…何か手伝える事ねぇ? ってか、さりげなく探ってみるのは、まずいか?」 「……そうだな…」 「何か手伝える事があったら言えよ。俺は、いくらでも手を貸すからな」 「おう、新(あらた)…任せておけ」 言われなくても、動くつもりだった。 ただ、母親の死というものが、自分達の年齢にとっては、まだまだ衝撃的な事で、短期間で立ち直れるものでは無いと分かっていたからこそ、気長にナルトを見ていく予定だった。 しかし、小さな変化が訪れた時点で動くべきだったのだ。既に遅かった現実を、後になって嫌って程知る事になる。 「なー、ナルト」 「…シカマル?」 「幼馴染の顔を忘れるようになったかー?」 半年前のようにふざけた会話をしようとするが、ナルトはただ自分を見上げるだけで話の続きを待っている。 「今日俺ん家に泊まらねー? 丁度週末だしよ、構わねーだろ?」 ナルトの体が信じられない事を聞いたように、はねる。 「久しぶりに、のんびり雑談でもしようぜ」 「シ、シカマル……あの……だ、だめ……だってば…」 怯えるように瞳が揺れる。 「お前のとーさんに言っ…「だ、だめだってばっ!!」 言葉を遮り、悲鳴のような声があがる。 「…ナルト?」 「ご、ごめんシカマル。ま、またな!」 逃げるように、教室を出て行く後姿を唖然としてみていた。 まるで、ナルトらしくない。 ただ、何かを隠しているというのだけは、分かった。 昔から、ナルトは隠し事が苦手で、その度に視線をそらすのを見つけては、からかった。 視線は一切合わない。 あわせようとすると、逃げるように視線が剃らされる。 嫌な予感がしたシカマルは、この世界に無い力を使う事を決意した。 ◇◆◇ 「何があったのじゃ?」 「現実を受け入れない馬鹿と、愛情によって身動き取れなくなっていた馬鹿が居た……」 強い後悔と悲しみと憎しみの感情が、三代目に突き刺さる。 「ラトゥノそのものだったら…いや、ラトゥノも同じだ…ろう…」 その声だけが、ザナルカンドに居た子供の声のように感じられ、泣いているように見えた。 「シカマル、もし言いたく無いのであれば、これ以上無理をしなくとも良いのじゃよ」 今日初めて視線が強く結ばれる。 シカマルは少し逡巡した後、小さく口を開いた。 「…なぁ、俺は結局あいつの為に、何も出来ないのだろうか?」 酷く傷ついた顔を見せた。
この世界は、分かる人は……いるか? とりあえず、普通の日本なんで、人名と地域?だけ借りました。 新のにぃちゃん(徹さぁんVv)がスキなんで、新を出せて残念です<え? <この名前だけで分かった人は、同じもの読んでますねVv えーーーーナルトの親ってか、四代目の名前考えてくれ>作者 ついでにナルトの母親の名前も知りたいよ。 母親の説明なんざ、父親以上に何にも説明無いよ。一行も無いよ。 ま、いいけどね。捏造するからねヽ(´ー`)丿 【06.04.10】