「お主は、ラトゥノをどう思っていたのじゃ?好いておるのか?」 「あの頃のオレにとっては、難しい質問だな…。」   シカマルが初めて表情らしい表情を浮かべる…苦笑…。   「オレは人嫌いだった。  オレの家は、ここで言う所のうちはや日向に当たる。  家ってのは、名家と呼ばれれば呼ばれるほど、馬鹿が集まるようになっているよな。  外からは、金目当てや、家柄目当てやらの人間が媚を売り、中からは、名前に寄りかかり、名前だけを重んじ、自己を磨きもしない、子供に対しては魔法はあって当たり前、素養が無かったりレベルが低いと排除される……最初はごく普通の魔法使いが居た家だったはずなのにな…。  オレは、そんな輩ばかり見ていたせいで、人付き合いを一切拒絶した。  5歳のパーティで見切りをつけてしまったんだ。」 「お主は才能があると言っていたな。  近しい齢の子供やそれを持つ親が媚を売ってきたか…。」   三代目が、眉間の皺を深くし、苦々しげに煙を吐く。   「ま、そんなものだ。  おかげで、偏屈とか人嫌いとかいい噂が広まって、のんびり研究が出来た。  つまり、オレは同年齢の友達は居なかった。  名前など関係の無い付き合いは初めてだったんだ……楽しかったし、ラトゥノの事を好きだった。  純粋に好きだった。  だからこそ、あいつの環境が許せなかった。  あの世界を許すことが出来なかった。    ただ、その気持ちがどういう意味を持つのかは、あの生では分からなかった。  人付き合いを避けていた俺は、細かい感情の動きを理解できないただの馬鹿だった……。」     どの時でも…どの宙でも…どの世界でも…変わる事を祈って… 4     「ラトゥノは、町を守りたいと言っておったな?  それならば、町での暮らしはラトゥノにとって幸せだったのではないのか?」   瞳を閉じたシカマルの首が、横に振られる。   「ラトゥノを心から心配し、愛していたのは、育て親のじーさんだけだったろうな…。  あいつが嬉しそうに町の人間を語るから、それならばと覗きに行った事がある。    同じだった…環境が違うだけで、オレの周りとまったく変わらなかった。」 「どういうことじゃ?」 「人間ってのは、異質を見つけるのが上手いんだよ。  ラトゥノが上の実験によって、自分達とは違うモノになったという事を肌で感じ、朧げながらに上が何かをしたという事を分かっていただろうに、町のやつらは変えられた被害者を疎んだ。  しかし、ラトゥノがもたらす金は手放せない。なにせ生活がかかってるからな。」 「ラトゥノがもたらす金?」 「そうだ…いつもお世話になってるから…と、ラトゥノは自分の稼いだ金をお礼と言って町の人間達に渡していた…そして町のやつらは、それが当然とばかりに受け取っていた…異質なお前を囲ってやっているんだとばかりにな。」   シカマルは苦々しげに言葉を吐き出し、三代目は苦々しげにため息をつく。   「なるほど…人間とはどの世界でも変わらぬのじゃな…。」 「ラトゥノは裏の無い人間だった。  だから、町の中で声をかけられれば嬉しそうに笑い、子供達には優しくし、楽しげに声をかけながら買い物をしていた。  相手が上辺だけとは思わない…いや、そういう思考を一切持ち合わせてなかった。」 「育てた方が良いお人だったのじゃろうな…。」 「そうだな……だから、ラトゥノは最後まで、育て親のじーさんを町の人間を守った…」       戦争は佳境に入っていた。 剣士は全員都市境に配置され、低級魔法使いは当然の事ながら、普段表に出ない上級魔法使いまでもが戦闘に加わるようになっていた。 そしてシーマは、今回の戦いにおいて、戦略の才を認められ人員配備から戦闘方法まで口を出せるようになっていた。   「ラトゥノには、どう言ったのじゃ?」 「あぁ…手を抜けって言っておいた。  町が占拠されたら洒落にならないという事ぐらいは、上の馬鹿でも理解出来たらしい。  町と魔法使いエリアは目と鼻の先で、そこから攻撃されたら終わりだからな。  ラトゥノ達戦士は、じりじりと町まで後退していったよ……        そしてラトゥノは殺された…。」                 ◇◆◇                 「お前さんは、シーマだね?」   ベッドに横たわる冷たい亡骸を前に、変装した俺は立ち竦んでいた。   「すまねぇ…オレはこいつの願いを叶える約束をしちまった……こうなるって分かっていたのにな…。」 「この子の望みは……この町を守る事だったか……。」   椅子にぐったりと座った老人は、俯いていた。   「こいつの…殺人人形の姿に怯えたか…守ってもらっていたのも理解せずに……。」   握りこんだ拳の中でプチプチと皮膚の切れる音がする。 ラトゥノの背中はパックリと開いていた。 さすがの治癒力も、深々と切りつけられた多数の傷には対処しようがなかったのだろう。 そして、敵に対して油断をするラトゥノではない。 背中の傷は、彼が守っていた味方が彼を殺したという事をまざまざと語っていた。   「すまぬのぉ……分かっておったのに、それでも真実をあの子に告げる事が出来なんだ……真っ直ぐに育ったあの子を誇りに思うとって……それを傷つける事が出来なかった……。」 「もし真実を知ってたとしても、あいつは町を守るって言っただろうな……あんたが居る限り…。」   シーマが握り締めた拳から赤い雫が落ちる。 老人は、ごつごつした掌で顔を覆い、肩を震わせていた。   「じーさん…オレは今夜死ぬだろう。」   項垂れていた顔が、跳ね上がる。   「ど…どういう事じゃ?」 「この戦いが始まる前に、オレとラトゥノに魔法をかけた。  魂が幻光虫(人間を形作っているモノ。死ぬ事で体は幻光虫になって散り、魂は異界(天国らしきもの)に行くと思われている。)になって消えうせぬよう、そして再びどこかの世界で生まれ変われるようにした。  オレの魂は、ラトゥノが死んだ後、一日で開放されるように設定してある。」   目の前の老人はガタガタ震えていた。   「な…なぜそのような事を…。」 「神に対する…冒涜…だよな……なぁじーさん、オレは本当に幸せなラトゥノが見たいんだよ。  それだけなんだ…。」   老人は、シーマの両手を震えながらも握り締めた。   「儂の分も、お主が見てくれるか?」   シーマが頷く。   「もうラトゥノの魂はどこかの世界に飛んでいるだろう。  オレはそれを追う。  そして、じーさんの分も、幸せなラトゥノを見続けてやる…約束する。」                 ◇◆◇                 「オレは夜半に心臓の鼓動を止め、ラトゥノの隣で息を引き取った。  じーさんには、オレとラトゥノの死体を焼き払うように頼んだ。  魂がなくなったとしても、体が幻光虫になり、この世界で再び形づくるのを良しとしなかった。  たぶん、じーさんは、その通りにしてくれたと思う。」 「そうじゃろうな…。」 「これが始まりだ………あぁ外がもう白みはじめているな……三代目、続きを聞きたいか?」   三代目は、目の前にいる子供を見る。 疲れたような老人にも見え、未だ傷ついて泣き叫んでいる子供にも見えた。   「お主が話して楽になるのであれば聞こう。  明日の夜も待っておる。」   三代目の言葉にシカマルの瞳が一瞬見開かれる。   「一つだけ聞きたい事が出来た…いいか?」 「なんじゃ?」 「幸せって…何だ?」    




 

  とりあえず、FFX世界は終了。 あまりにあっさりしすぎててすんませんm(__)m もっと話にねー膨らみを持たせたかったんだけど、それはどんどんどんどん長くなるという恐怖が…   さぁ〜FFXはさっぱりぱっさり忘れて、次に行くぞ次〜((((脱兎 【05.06.28】