「誰だ、おめぇ。」 「ザナルカンドから来た男・・・。ジェクトとは、君のことかい?」 「だったらどうする。」 「きさま・・・。何だその態度は!」   自分を怒鳴りつける男を見て、ジェクトがあっけにとられる。   『アーロン!  おめぇ…こんな所にっ!……いや…まだ…まだか…。』   ジェクトがふてぶてしい笑いを浮かべる。 心の動揺を見せずに話すのなんか朝飯前とばかりに話し続ける。 そして、召還士と名乗る男の言葉に口の端をあげる。   「よーし乗った!」     【空から落ちてきた天使】     アーロンの眉間に皺が寄る。 まただと思う、またジェクトの視線を感じる。 気が付くと、自分に纏わり付くような視線をジェクトから感じる。 その視線を感じる度に、落ち着かなくなる。   ザナルカンドから来たと豪語する男。 横柄な態度、気まぐれで、我侭……それだけなら、無視していた。 しかし、いつの間にか自分の背中を預けられるほどになった腕前。 相変わらず態度は横柄で怒鳴る事も多いが、安心して背中を預けられる相手が居る事が、この厳しい旅の中で救いになっていた。   アーロンは、視線の方に顔を向ける。 この視線の意味が分からない。   「ジェクト、俺に何か言いたい事でもあるのか?」 「あー?」 「いや…無いのならいい。ただ…。」 「んー?」 「何で、俺を見ている?」 「そりゃぁ〜おめぇを見習ってっから。剣の腕をあげなきゃいけねぇだろ?」 「どうした?熱でもあるのか?」   ジェクトが楽しそうに笑う。   「嘘…おめぇに見蕩れてた。」 「は?」 「ははははは…おめぇ、可愛いからなぁ。」   そう言って、ジェクトはアーロンの頭を撫でる。   「ジェクトっ!」   アーロンの拳がジェクトに真っ直ぐ向かう。 それを、ジェクトが楽しそうに避ける。   「危ねぇなぁ。」 「避けるなっ!」 「そんな事言われても、俺よけ方知ってるしよぉ〜。」 「忘れろっ!」   再びアーロンが、ジェクトに向かって拳を繰り出そうと一歩足を踏み出す。 その瞬間足元が崩れた。   「アーロンっ!」 「うわぁぁぁっ!!」   ジェクトが伸ばした手も空しく、アーロンは霧深い谷に吸い込まれて行った。      ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・     「うわっ!!」   緋色の塊が、浜辺でのんびり休んでいた青年の腕の中に落ちてくる。   「な…何だ?人?…人が降ってきやがった?」   青年は腕の中の人間を、あっけに取られて見る。 空から降ってきたようにしか見えなかった。 頬をペチペチ叩いてみる…しかし、まったく反応が無い。   「空から落ちてきたって事は、天使ってやつ?  ……ま、とりあえずお持ち帰りしてみっか。」     青年は、天使…アーロンを肩に担いで、言った通りに持ち帰った。 静かに自分のベッドに下ろす。 未だ身動き一つしない、どこにも怪我が無かったから、そのうち目が覚めるだろうと、のんびり眺めた。 珍しい格好をしている。緋色の上着の下は、鎧?…そんなものは博物館でしか見たことが無い。 長い黒髪に包まれた顔はとても綺麗だった。 天使といえば羽はどうしたんだろうと、背中に手を入れた時アーロンが身じろぎした。   「ん…?」 「目ぇさめたか?天使さん。」 「こ…ここは?」   自分の生活から掛け離れた部屋を呆然と見る。   「俺様んち。ザナルカンドの港近くだ。」   声の主を見たアーロンは、絶句する。 目の前の青年と言っていい年齢の人間、印象的な赤い瞳、偉そうな態度、そして今では聞き慣れた声に似た声……髭は無い、赤いバンダナも無い、しかしその顔は間違いなくジェクトのものだった。   「誰…だ?」 「知らねぇの?俺様超〜有名人だぜぇ〜。」   聞き慣れた偉そうな物言い。   「やっぱ空の上までは無理ってかぁ?俺様ジェクト。」 「ジェ…クト。」   アーロンは、もう一度マジマジとジェクトを見る。 あまりにも慣れ親しんだ雰囲気、気配、間違いなくジェクトだと納得する。 しかし、何で自分がここにいるか分からない、アーロンは混乱していた。   「空の上とは?」 「天使さんが居た所じゃねぇの?なぁ、天使さんの名前は?」 「天使?」 「はは、知らねぇ?空の上には天使が住んでるって決まってんだけどなぁ。  なぁ、名前は?じゃねぇとずっと天使って呼ぶぞ。」 「アーロン…。」 「アーロンね。で、どうしたんだアーロン。空から足でも踏み外したか?」 「分からない…それに俺は空の上に居たのではない。」 「ふぅ〜ん。じゃぁどっから来たんだ?」   アーロンは、混乱しながらも自分の置かれた状況を把握しようと話を続ける。 そしてジェクトは、そんなアーロンを楽しそうに見つめていた。   「ミヘン街道…。」 「どこだそりゃ?」   アーロンは窓の外を見る。 空は今まで自分が居た所と変わりなく青い。 そこから落ちてきたと言われても、自分は崖から足を踏み外して落ちた。 その下には普通の野原があるはずだった。 あの時、なぜジェクトが落ちなかったのだろうと一瞬思う。 あれほど帰りたがっていた男は崖の上で今も自分を探しているのだろうか? なぜ、ジェクトの代わりに自分がここに居るのかが分からない。   そして、もう一つ気が付く。 目の前に居る若いジェクト。 スピラで出会ったジェクトは、スピラの事をまったく知らないようだった。 自分が過去のジェクトに出会ったというなら、なぜジェクトに何も教えなかったのだろう? ちゃんと教えていれば、ジェクトは家族と別れないで済んだはず。 自分がジェクトに何で何も教えなかったのが不思議でならなかった。   ジェクトはアーロンを見つめる。 目の前の空から落ちてきたアーロンと名乗る人間はとても興味深かった。 自分が空から落ちてきた事に驚いているのは分かる。自分だって、そんな事を言われたら驚くだろう。 しかし、自分を見つめる視線に、親しみが含まれているのが分からない。 確かに自分は有名人だからという事で納得は出来るが、アーロンの視線や態度は、有名人に対するそれでは無かった。もっと違う親しみを感じる。 それがとても不思議だった。   「…あんたは幾つだ?」 「俺?ぴっかぴかの二十歳。アーロンは?」 「俺は、25だ。」   アーロンは、改めてジェクトを見る。 15年前のジェクトは、自分の知っているジェクトに比べて、随分と細い。 まだ体が出来ていないのだなと思っって、口元が少し綻んだ。   「へぇ〜結構歳くってんのな。見えねぇ。」 「おまえは、若いくせに随分と態度がでかい。」 「そりゃぁ〜仕方がねぇよ。俺様だからなぁ。」 「何だそれはっ!少しは目上の者に対して言葉づかいを改めろ!」 「ははは…目上のもんにしては、余裕ねぇなぁ。アーロン、少しは寛容になれよぉ。」 「う…うるさいっ!」   ジェクトは笑いながらも、ずっとアーロンを見つめ続ける。 最初の驚きから抜けたアーロンは、まるでブリッツの仲間のような雰囲気で自分に接してきている。 自分はアーロンと会ったことが無いのは確か。 面白いと思った。 病院に連れて行くとか、帰り道を探してやるとかは考えなかった。   「なぁ、アーロンはメシ作れるか?俺…腹減った。」   ジェクトらしい台詞に、アーロンがため息をつく。   「台所はどこだ?」   ジェクトは嬉しそうに笑って、アーロンを台所へ連れて行った。       「こ…これは何だ?」   台所に並ぶ見知らぬ道具にアーロンが慌てる。   「冷蔵庫だけど…知らねぇ?食材が入ってる。」 「火はどうするのだ?」 「これ…レンジ。ここ押せば火が付く……なぁ…アーロン、あんたマジでどっから来た?」   答えられないと、アーロンの顔が言っていた。   「ま、いっかぁ。説明すっから聞いてろよ?」   アーロンから視線を外さずにジェクトは説明を始める。 アーロンを見続ける。一挙一動見守る。自分に向ける感情、そして台所に向ける驚き。その全てが不思議だった。 いったいどこの人間なんだろうかと、そして自分とどこで関わりあったのだろうかと。   ジェクトは、敵の作戦を見抜く時と同じようにアーロンを見続けた。   「ま、こんなもんだけど、大丈夫か?」 「た…大丈夫だ。冷蔵庫の中のものは勝手に使っていいのだな?」 「おう。」 「ならば、適当に作る。分からない事があったら聞くから、さっきの部屋にでも居てくれ…。」 「分かった…あ?どした?」   アーロンが、冷蔵庫の前で困ったようにジェクトを見ていた。   「ジェクト…俺はここに居ていいのか?」 「どっか行くあてがあんの?」 「いや…無い…。」 「ならいいじゃん。俺天使と同居するんの初めてだから、すっげぇ〜楽しみ。」 「俺は天使じゃない!」 「ははは…気にすんな。」   そう言って、ジェクトは掌をひらひらさせ台所から出て行った。   「分からないな…。」   呟きながら、食材を慣れた手つきでさばき始める。   「あいつも、こんな風に戸惑っていたのだろうか?」   アーロンは、思いに沈んでいて声が出ている事も気づかない。 頭はスピラに居たジェクトを思い返す、手は無意識に機械的に動いていた。   ジェクトは、いつも泰然に構えていたように思える。 今自分が抱えている不安や戸惑いを見せた事が無い……記憶にあるジェクトはいつも楽しそうに自分と共に立っていた。   「…俺はスピラの話をしたのだろうか……。」 「なぁ、アーロン!」   突然間近から聞こえた声に、アーロンは身構える。 物思いにふけっていたアーロンはジェクトの気配にまったく気づいていなかった。   「ジェ…クト?」 「傷つくなー、俺って何かするように見えんのかよー。」   ジェクトの言葉に構えた体を慌てて戻す。   「なぁ、俺何食べれんの?」 「焼き飯とスープ。」 「つまみ食いしていいか?」 「少しだけだぞ。」 「やった!」   ジェクトは嬉しそうに、フライパンに入っている焼き飯を口に放り込む。   「うめぇっ!アーロンって料理上手!」 「いつも作っているからな。」 「へぇ〜。アーロン主婦なんか?」 「主婦?どういう意味だ?」 「誰かのお嫁さんだったんかって聞いてんの。」 「なっ……お俺は男だっ!」 「でも天使だろ?性別無しじゃねぇの?あ、両性だっけか?」   いつも通りの軽口に無意識にアーロンの拳が動く。 ジェクトは笑いながら、掌で受けた。   「ジェクトっ!俺は天使じゃないし、主婦でもないっ!」 「ははっ、そうだな、こんな物騒な天使はいねぇよなぁ。  すっげぇパンチ。アーロン強ぇんだな。そんな風に見えねぇのになぁ。」 「俺は弱そうに見えるのか?」 「んー…顔が奇麗だからかな、腕の筋肉に目がいかねぇや。」   問答無用でアーロンの拳がジェクトの鳩尾に入る。 アーロンは、自分の拳が決まった事に驚いてジェクトを見た。 ジェクトは鳩尾を押さえ呻きながらも、そんなアーロンを見ていた。   「アーロン…?」 「あ?…あぁ。」 「俺、腹減ってる上に、アーロンにどつかれてヘロヘロ。」 「自業自得だ。」 「ア〜〜〜ロン。メシ〜〜。」   ダダをこねるジェクトに無理やり料理の載った皿を押し付け運ばせる。 アーロンは、一つため息をつく。 間違いなくジェクトだと確信した。二人のジェクトが重なる。 目の前でだだをこねるジェクトは、自分の知っているジェクトそのものだった。      ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・   あれから3日、ジェクトの家でアーロンは普通に暮らしていた。 穏やかな生活…食事を作り、他愛も無い話をする。 戦いの続いていた毎日が嘘のようだった。   今日は、ジェクトの試合のある日。 昨日の夜から豪勢な食事を頼んだとリクエストをもらっている。 既に下ごしらえを全て終えて、後はジェクトの帰ってくる時間に合わせるだけになっていた。 見ろよと言ってジェクトが付けっ放しにしたテレビが、ジェクトの試合が始める事を告げる。 アーロンは、テレビの前に座った。   ジェクトの試合は見事だった。 アーロンは時間の経つのも忘れて見入る。 スピラに居た時に聞かされた話は嘘ではなかったと感心する。 あの大きな体が、誰よりも早く動き、力強いシュートを打つ、目が離せなかった。 未だ神とは呼ばれていないようだが、その片鱗がいくらでも伺える。 最後までジェクトのペースで試合が運ばれた。 テレビの中で興奮したアナウンサーがジェクトを絶賛する。 エースが、ジェクトがいてこその見事な試合だと、解説者と共にジェクトの見事なプレイを褒め称えていた。 そこで、アーロンの眉間に皺が寄る。 スピラで聞かされたジェクトの試合はこんなものでは無かった。 どんなタックルも跳ね返し、敵のゴールを奪っていったと自慢げに語っていた。 なのに、テレビの中のジェクトは、敵のタックルに流される。 たった一回だけの事だったが、アーロンの目は、明らかに競り負けたジェクトを見ていた。   あの見事な胸のタトゥが無い、髭も無い……ただ体に付いた傷は自分が知っているだけあるように思える。   「まだ成長段階という事なのだろう…、あの体が俺の知っているモノになった時、あいつは神と呼ばれるようになるのだろうな。」   口元に小さな笑みを浮かべて立ち上がる。 あんたは、あれでも落ち着いていたんだなと、テレビの中のジェクトを見ながら笑った。         「俺様すっげぇ〜カッコイかっただろ?」 「そうだな…タックルされた時以外は格好良かった。」 「どういう意味だよっ!」   面白かったというアーロンの言葉にジェクトの腰が浮く。   「一回流されただろ?」 「なっ!…アーロンブリッツ知ってんのかっ?!」 「あぁ、俺の世界にもある。」 「でも流されたなんて、普通のやつは気づかねぇぞ!」 「俺は、ずっと闘って生きてきたからな。ああいうのは専門だ。」 「…アーロン。」   ジェクトが縋るような目でアーロンを見る。   「?」 「なぁ、頼みがあんだけど、聞いてくれるか?」   聞いた事も無い不安げな口調にアーロンが頷く。   「どんなタックルにも負けねぇ体が欲しい。どうしたらいいか分かるか?」 「あぁ。そんな事なら今までいくらでも若いやつに教えてきた。  その代わり、結果を出せよ。もう体に傷を増やすな。」   アーロンの口元には不敵で物騒な笑みが浮かんでいた。 ジェクトは、その表情に見惚れる。 ずっと悩んでいた、ずっと欲しいと思っていた、どうしたらもっと強い体を得る事が出来るのかと。 慣れない専門書を読んだり、専門家から数々のレクチャーを受けたりしていたが、どれも自分の望む結果を出せない。 今、アーロンの言葉が自分の心にすんなりと入っていった。 もう大丈夫だと言われたような気がした。 俺は、天使を……戦う天使を拾ったんだなと、泣きそうな表情でジェクトは笑った。      ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・     「違う。ぎりぎりまで引き寄せてから外すんだ。」 「こ…これでいいか?」 「そうだ。じゃぁ行くぞ!」   アーロンは、この世界はジェクトの過去、そして自分はこの世界では異質だと考えている。そして、いつ元の世界に帰ってしまってもおかしくないと思っている。 だからこそ、アーロンは教えられるもの全てを一日に凝縮してジェクトに渡そうとしていた。 今教えている事全てを吸収するのは無理だと分かっていても、事細かに指示をする。 たとえ今吸収出来なくとも、ジェクトはいつか自分のものにするだろうという事が分かっていた。   そう、自分の知っているジェクトは、今自分が言っている事を全て自分の物にしていた。 共に戦っていたジェクトを思い出す。   「すごいな……あんたは…「アーロンっ!」 「あ…すまない。続きは…。」   物思いに沈んでいた思考をジェクトの声が現実に戻す。   「や…ちょっと休憩させてくんねぇ?」 「あぁ。あまり水分補給しすぎるなよ。後が辛くなる。」 「分かってるって。……なぁアーロン、いつまで居る?」   アーロンは、不思議そうにジェクトを見る。   「あんた、いつか帰っちまうんだろ?」 「…あぁ…帰れたらな…いつかは俺にも分からない。」 「でも、帰れたら、帰っちまうんだな?」 「あぁ、俺にはやらねばならない事があるからな。」 「やる事?そうなんか?  アーロンが好きな誰かが待ってるからじゃねぇの?」 「俺が好き?…誰をだ?」   想像だにしない事を言われて、アーロンが目を見開いてジェクトを見る。   「違うんか?それとも、あんた気づいてないの?」   ジェクトが苛立たしげに言葉を吐く。   「何をだ?」 「すごく切なそうな表情を浮かべて、独り言を言う。いつも、そいつの事考えてたんじゃないのかよ?  さっきもだ…俺が呼ぶ前に同じような顔をしてた。」 「俺が……?」   アーロンは、ただ訝しげにジェクトを見る。 ジェクトの言っている事が理解できなかった。自分が先ほどまで考えていたのは、目の前に居るジェクト自身の事、それだけだと自分に言い聞かす。 その事事態が不自然だという事に気が付かない。 ジェクトが、そんなアーロンを見てため息をつく。   「アーロン、あんた…全然気づいてなかったってやつかよ。ちっ!余計な事言った。」 「余計な事?」 「あんた、本当に鈍いな。」 「鈍い?」 「なら分かってっか?俺の気持ち。」 「おまえの気持ち?」   これはダメだと、ジェクトは掌で顔を多い頭を振る。   「あんた本当に25?一緒にいる相手の気持ちぐらいもう少し分かれよな。」   無理やりアーロンの腕を引き、自分に引き寄せ唇を軽く啄ばむ。   「分かったかよ?」 「なな何?」   唇が触れた事は分かっていた、ただそれが何を意味するかが頭の中に浮かんでこない。ただただアーロンは混乱していた。   「アーロンに惚れたから。」   ここまで言わないと分からねぇのかよと、ジェクトが呆れながら言う。   「だ…だが、俺はおまえと会って4日しか経ってない。」 「時間が何か関係あんの?」 「そ…それに俺は男だ。」 「俺はアーロンに惚れたって言った。たまたまアーロンは男だったったけどな。」 「たまたま…?」 「あんたなぁ恋愛したことねぇの?…ってか、そんな所も可愛いって思っちゃう俺が馬鹿?」 「可愛いって何だっ!」 「そこが突っ込む所かぁ?違うんじゃねぇのアーロン。」   ジェクトは、自分の言葉に絶句しているアーロンに苦笑する。   「なぁ、アーロン。俺に惚れねぇ?」 「惚れるって…ジェクト…あんたをか?」 「おう、俺の傍にずっと居て欲しいんだけど…だめか?」   ジェクトにしては、珍しく自信なげな言葉。 それに驚いたアーロンは、いつも通りの言葉を自然と返す。   「ジェクトどうしたんだ?あんたがそんな自信なげだなんて、熱でもあるのか?」 「アーロン!それ誰に言ってる?」 「え?」 「それ、本当に俺に言ってるんか?違うぞそれ!」   ジェクトは、アーロンの言葉に違和感を感じて叫ぶ。 アーロンから出た言葉は、今まで自分に言っていた雰囲気とまったく違っていた。 浮かべた表情は、忌々しいと感じてた、あの切なそうな表情だった。   「アーロン!俺は…俺は、あんたの帰りを待ってる誰かじゃないっ!」 「ジェク…ト。」   ジェクトは、アーロンをきつく抱きしめる。   「俺じゃだめか?そいつ以上にはなれねぇ?」 「ジェクト…お前の言っている事は俺には分からない。俺には、俺にあるのは、大切な旅をしなければならないという事・・・・他を見る余裕はない…。」 「なら、戻る時に俺を連れてけ!助けるから、俺がアーロンを助ける!」   ジェクトの腕の中で、アーロンは言えない言葉を心に綴る。 もう助けてもらっている、背中を預けているではないかと…声にする代わりにジェクトと同じ強さで抱き返した。 そして、ようやくアーロンは自分を理解する。 腕の中のジェクトを通してスピラのジェクトを思っていた事。そしてその思いは、仲間という言葉では解決されないものがあるという事。 ただ、目の前にいるジェクトには言わなくてはいけない。これから家族をつくるジェクトを連れて行く事訳にはいかなかった。   「すまない…お前はこの世界の者だ……。」   言葉は、シンに触れないよう海に近づくなと続くはずなのに、アーロンの口は凍りつく。 たった今気づいた気持ちが、ジェクトと再び会いたいと願い、今まで思っていたジェクトをずっと家族と過ごさせてやりたいと願う気持ちの二つが目の前に突きつけられ、アーロンはどちらも選ぶ事が出来ず、呆然とジェクトを見つめた。   ジェクトの掌がアーロンの頬に伸びる。 自分の聞きたくない言葉をこれ以上聞けなくて、ジェクトはアーロンの声を自分の唇で閉ざす。 逃げようとしないアーロンに安堵を覚えながらも、結局は自分から離れてしまうだろう事が怖くて、口付けを深くしていった。   その時、二人の周りを漂っていた霧が意思を持ったかのように、二人を包みはじめる。 その一番濃い部分がアーロンに触れた時、霧はアーロンを引き込んだ。   「っ?!!」 「アーロンっ!」   慌ててアーロンがジェクトの腕を掴むが、霧がアーロンを引き込む力は強く、二人共引きずられる。 その時、アーロンは、これが帰り道だと気が付く。 ジェクトを掴んでいた手を離した。   「ジェクトっ!あんた・・・絶対海で訓練なんかするなよっ!家族と離れたくなければ、絶対にだっ!!」 「アーロンっ!…………俺は、絶対あんたともう一度会うっ!!」    ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・   「よぉ、アーロン。」   ミヘン街道の崖の下で、のんびりと座っていたジェクトが突然現れたアーロンに手をあげる。   「ジェ…ジェクトっ!」 「どうしたよ?」 「俺は最後に海で訓練するなって言ったぞ!何で未だ居るっ!!」   嬉しそうにジェクトが笑う。 小さく、やっと出会ったと漏らす。   「そりゃぁ〜惚れた相手に会いてぇからに決まってんだろ?」 「ジェクトっ!」 「ってのは嘘、おめぇの言葉は、俺の怒鳴り声で途切れ途切れでよぉ。すまねぇな、ちゃんと聞いてなかった。」 「ジェクト…。」   アーロンが頭を抱える。 今さっき必死になって叫んだ言葉が空しかった。   「で、おめぇは折角迎えに来てやった俺様に言う事はねぇの?惚れた相手だろうが?」 「何であんたはそんなに自信満々なんだっ!」   八つ当たり気味にアーロンは怒鳴る。   「おや〜、昔の俺のほうが良かったんか?」 「そんな事は言ってないっ!」 「なぁ、俺は俺に嫉妬してたんだよな?それでいんだよな?…アーロン。」   ジェクトは満足そうにアーロンに微笑みかける。 最後まで分からなかった、アーロンの親しげな人に向ける喋り方。 再び出会った時に知る。 あれは自分に語っていたと、未来の自分に語っていたと…牢屋の中でジェクトは、泣きそうになっていた。   「なっ……。」 「ほんと、おめぇって可愛いよなぁ〜。顔、真っ赤だぜ。」 「ジェクトっ!」 「うんうん、俺様って若い時から趣味がいいよなぁ。  おめぇが可愛いのすぐに分かったしよぉ。俺様ってスゲ〜と思わねぇ?」   アーロンは、真っ赤な顔のままジェクトに拳を振るう。 それを、ジェクトが楽しそうに全てかわす。 さっきまでアーロンが教えていた事が、全て身についていた。   「ちっ…!」 「教えなきゃ良かったってかぁ?」 「なっ!」 「おめぇ、思ってる事顔に出過ぎ。二十歳の俺でさえ全部読めるってどうよ?」 「そんな事知るかっ!」   ジェクトは、再び向かってきた拳を掴んでアーロンを引き寄せる。   「なぁアーロン、俺に惚れねぇ?」   さっき聞いたばかりの言葉が、前より少し落ち着いた声で綴られる。   「俺の傍にずっと居て欲しいんだけど、だめか?」   不安を伴った声が、嬉しそうな笑みを伴った声に取って代わる。   「…何で俺なんだ?」 「おめぇは、俺の天使だから。」 「はぁ?」 「おめぇは、俺が一番辛かった時に助けてくれた俺様の天使なの。  おかげで、あれから神と呼ばれるようになったぜ、天使先生。    しかも強力なお守り付きだったしな。」   ジェクトがアーロンの上着を指差す。 アーロンが訝しげに上着を見ると、片袖が千切れて無くなっていた。   「俺の所に残っていたからな。バンダナにしちまった。」 「あれから?」 「おう!で、返事は貰えねぇの?アーロン。」   真っ赤に染まった困った顔がジェクトを見上げる。   「ど…どう…返事したら…な…何を…言えば…いいんだ?」 「おめぇなぁ…ブラスカはどうやってこんな可愛いやつに育てたんだ?」 「可愛いって言うなっ!」 「だってなぁ…しゃぁねぇ、もう一度聞くぞ。    俺に惚れたか?」   アーロンが小さく頷く。   「じゃぁ俺の傍にずっと居てくれるか?」   アーロンが再び小さく頷く。   「もうおめぇが何て言っても離さねぇからな。覚悟しとけよ。」 「もうあんたが何て言っても帰さないからな。覚悟しろよ。」   ジェクトが嬉しそうに笑う。 アーロンを強く抱きしめた。 やっと手に入れたと小さく呟く…アーロン。     【End】    




 


    一番最初に書いたのが、一昨年の十二月。そして、速攻取り下げてUPしなおしたのが去年の2/3。 そして一年経ちました。今日は2/4だぁ(゚▽゚;) うひ〜〜(T^T)全書き直しさせていただきましたです。 FFXの文章は全部はずいです。 初めて小説というものを書いた頃だけあって、もう〜(;__)_ 今がまともになったかというと、全然なんですけどねーf(^-^;)それでもマシになったと思いたひ…。 この小説で、初めて三人称を書きました。 もーーーすっげぇ〜大変だった事だけ覚えています。 今は、すっかり三人称ばかり書いています…けどこんなんだけどね(^-^;)   前よりもっと、長くなりました。 一応説明なんかを付け加えたり(まぁ同じくらい削除もしましたけどー('';)) 読みやすくなっている事を祈ってまっすm(__;)m<ものごっつー不安