類は友を呼ぶ  

    ここはザナルカンド遺跡。 果てしなく広がる廃墟の中で男が三人怒鳴りあっていた。   「ってか、おめぇはこの魔法しらねぇだろうがっ!」   偉そうにふんぞり返る、キング様。   「煩いっ!スピラに私ありと、キング・オブ・ウィザードと呼ばれた私に、何を言うのですかっ!」   杖を振り回しながら、怒鳴る召還士様。   「あんた達は、いい加減大人になったらどうなんだ?」   二人から少し離れて、やってられないとばかりに酒をあおる、剣士様。   「魔法を知らない者が、何を言うのですか?」 「おめぇは、魔法知らねぇんだから、黙ってろ!」   同時に言われる台詞は、アーロンの額に青筋を作る。   「今回の旅で、召還魔法以外は全クリアだ!」   三人は、睨みあった。   類は友を呼ぶ   十年前、一人は異界に旅立ち、一人は異形の者となり、一人は体の時を止め異世界の住人となっていた。 そして十年が過ぎ、三人は異界の入り口で再び出会う。 その十年について話す事もなく、佇んでいた時、そのうちの一人が、「ザナルカンドに行かねぇ?」と突然言い放った。 実際は、その三人プラス一人だったのだが、その一人は三人の醸し出す人外のオーラを早くに察知し、美しい建前を矢継ぎ早に並べ立て、一人ビサイド(完璧に逆方向)に逃げていった後。 そして三人は、再び旅をする。その様は、モーゼの十戒を具現したかのように、人々を退かせ、魔物を蹴散らし、後には何も残らなかったという。 そして、やってきましたザナルカンド。 感慨深げに風景を見ていた時、一人が一歩前に進んだ。   「いっちょ、直すか」   二人を振り返った顔は、不敵に笑っている。 そして冒頭に戻る。   「てめぇらには、出来ねぇよ」 「いいから、さっさと教えなさいっ!」 「そうだ、教えろっ!」   とても生徒という立場になろうとする者の、物言いじゃない。 二人は、ジェクトを睨みつけていた。   「あんなぁ、意識の取り合いしてた時に得た知識なんだぜ。  んなの、理路整然と頭ん中に入ってる訳ねぇだろっ!」   シンの中、エボン・ジュが仕掛けてくるのは、絶え間ない精神攻撃だった。 自分の体に浸透してくる、強烈な意思との戦い。 それは、自分の中にある、あらゆるものを奪い取ろうとしながら、それそのものも晒していた。 結果、今のジェクトは、エボン・ジュが蓄えていた知識を、感覚で知っている。   「出来るのでしょ!だったら、言えっ!」 「感覚なんだよっ!」 「いいから、やってみろっ!感覚ならなんとかなるっ!」   これは、示してみなければずっと煩いままだと、ジェクトは諦めて崩壊した建物の方に首を鳴らしながら、歩み寄った。   「理論なんて、全然分からねぇからな。  おめぇらが見て、どうにかしろよ」 「杖は?」 「いらねぇ」   ブラスカが差し出した杖を、無視して建物に集中する。   「直っちまえ!」   ジェクトの言葉が具現する。強い光が建物を覆い、まるでフィルムを逆回しをしたように建物が修復されていく。 それをブラスカは、逐一漏らさぬよう凝視し分析をかけ、アーロンは、意思の流れを気配を漏らすことなく追う。 ものの一分と経たずに、廃墟の中に立派な建物が出現した。   「出来たぜ」   ブラスカは、その声に答えられない。呆然と目の前の奇跡を見つめている。   「…お前の気が、あの建物の……何かを刺激した?」 「お、それそれ!そんな感じ」   その声を聞いて、のろりとブラスカが恨みがましい顔をあげる。   「な、なんだよっ!」   ちょっとホラーテイストな表情に、一瞬びびるジェクト。   「むかつくっ!」   自分が長年魔法に関わってきた歴史を、粉々にされたに等しい仕打ち。 しかも、他人の言葉を使わないと説明出来ない魔法使いなんか認めてやるかと、杖を握り締め、詠唱を始めた。   「ぶぶぶぶぶブラスカっ?!」 「ふん」   杖を振り上げげる。   「おおお大人気ないぞっ!落ち着けっ!」 「ほぉ〜、私達の旅の後半戦、貴方がどうだったか、思い出したらどうですか?」   額の皺を寄せ一瞬考え込んだアーロンは、納得して一歩下がる。 剣を握ったことも無かった男が、瞬く間に上達していく。それは、あの厳しい旅ではありがたい事だったのだが、素早さを武器とした戦いに目を奪われた時、感動よりは怒りを感じる自分がいた。 剣と共に生きてきた自分を、全て否定するかのように戦う傍らの男。 それは、八つ当たりだとは分かっていたが、つくられてしまった感情は消える事もなく、気が付くとジェクトに試合を申し込んでいる自分がいた。 そう、確かに、己の人生を、意味の無いものに変えようとする相手に対し、八つ当たりは当然だろうと、アーロンは傍観者になる。   そして、ブラスカ特別異界仕様バハムートが現れた。   「なっ…?!!お、おめぇっ!折角開放された祈り子に、何超過労働させてやがるっ!」 「うるさいっ!お友達だからいいんですっ!」 「お友達を、使役させるんじゃねぇっ!」   怒鳴りながらも、慌ててシェルやらリフレクをかける。   「直っちまえって何ですかっ!  それでは、魔法のありがたみが薄れるでしょっ!」 「呪文しらねぇもん」 「もんじゃねぇっ!  まったく貴方は、気付いていますか?  もしアーロンが魔法を覚えていなかったら、また前回の二の舞ですよっ!」 「あ〜?」 「後でゆっくり考えなさいっ!メガフレアっ!!」   綺麗に復活した建物と共に、ジェクトは閃光の中に消えていった。                 ◇◆◇                 立派な廃墟に戻った遺跡の中で三人の男がそれぞれ勝手に活動していた。 一人は、紙とペンで方程式のようなものを書き連ねている。    だいたい、専門外の剣で勝とうなんて、さらさら思ってなかったから、それはいいんですけどね。  ちっ…この方程式、違うっ!  アーロンまで、魔法使えるんじゃ、「様」無くなるはずですね…くそっむかつくっ!! 負けませんよジェクト。  二人共、私の足元にひれ伏させてやる!     一人は、正座して崩壊した建物を見つめている。たまに崩れた石が何かの力によって音を立てていた。    シンの中で大人しくしているかと思えばっ!  クソむかつく旅を二度もしたのに、離されるとはな。   ラップ音のように、建物の残骸が音をたてる。    流れは読めているんだ。  くそっ、これ以上離されてたまるかっ!  それに剣だっ!あいつの事だから、シンの中で魔物と戦ってたぐらいの事は言い出しかねん。  これが出来たら勝負だ!叩き伏せてやるっ!     そして、最後の一人は、浜辺でねそべりながら海を見ていた。    しまったよなぁ〜。  つい、新しい事覚えちまったからよぉ〜早く試したかったんだよなぁ〜…。  俺…すっげぇ馬鹿。   砂浜に書かれるのの字。    真っ先にやる事があっただろ。   波に流されるのの字。    アーロンに好きだって、いつ言えばいいんだ?  って、言うだけか?だめだろっ!?って、薔薇百本?ここのどこに花屋があるってぇんだっ!   のの字大量発生。    アーロンと試合した後、普通に話せるようになるまで、どれ位時間かかったっけなぁ〜…。  でもよぉ〜だいたい、自分だって魔法覚えやがったクセに、この仕打ちって何?  俺だって、努力無しに得た力じゃねぇよ!じゃねぇっ!めいっぱい努力してました!俺様の存在自体を賭けてました!  そうだよなぁ〜、あの時だって、必死になって剣を覚えたのによぉ〜。すっげぇ努力したのによぉ〜。おめぇが役に立てって、毎日毎日がみがみがみがみ言ってたから、頑張ったのによぉ〜。  なのに、役立ってきたかな〜って辺りから、冷たくなったよなぁ〜。  俺様って、ぜってぇ〜好かれてねぇ〜?どころか、敵?   波が片っ端からのの字を消した。 手の中の棒っきれが、ボキリと音をたて、折れた。    いいぜ、くそっ見てやがれ…敵でも何でもいいっ!  若造なんかに負けるかっ!  みてろ!おめぇら!俺はぜってぇー負けねぇっ!!  俺様は、キング様だっ!  欲しい者は全部手に入れてやるっ!                 負けず嫌いで構成されていた、伝説の召還士御一行。 お互いの苦労をねぎらうとか、思い出話に花を咲かせるとか、甘いムードとかからは、からっきし縁の無い人間達だった。    −End−  

 
  06.06.27 未読猫