毎日変わらない日々が続く。 増えた朝練の為に、30分早く起きる。 試合のある日はスタジアムで敵と戦い、無い日にはチームの練習場で汗を流す。 早く家に帰ると、アーロンが剣を渡してくれる。 それから1時間ばかりアーロンと剣を交える。 そして、あれから決まった新しい決まり事…夕食は必ず三人揃って食べる。 おやじも俺も、リーグ戦真っ最中だから、ナイター戦の時は、ものすごく遅い食事になる。 けれども、誰も何も言わずに遅い食事を取る。 ただ、いつも食事の後にあった飲む時間は無くなる…杯を傾けるアーロンの姿も楽しそうに笑いながらグラスを振り回すおやじも見れなくなった。 初めてブラスカさんの家に行った時、自分を形成する幻光虫を三つブラスカさんに渡した。 これはスピラに戻る為に必要なテスト道具だと言っていた。 もう二つ使ったと聞いている。 残りあと一つ…後何回三人で食事が取れるんだろう? 【俺様ンち 9−5】 「朝練慣れてきたな?」 ジェクトがフォークをティーダに突きつけニンマリ笑う。 速攻アーロンの躾という名の拳骨が飛んだ。 「ってーなぁ。」 「馬鹿者!何でお前までティーダみたいに行儀が悪いんだ!」 「おひゃじとひっしょにするなよなっ!」 「口にモノを入れて話すなっ!」 どうして、親子二代して自分が躾なくちゃいけなんだと、アーロンの眉間の皺が大量に増殖する。 「むぅ〜おやじのせいで俺まで怒られただろっ!」 「おめぇのを俺にカウントするんじゃねぇっ!」 「静かに食事をしろ。」 アーロンの地を這う声で二人が一応大人しくなる。 「で、どうだ?」 ジェクトにしては小声でティーダに話し掛ける。 「う〜ん、そこそこ楽になってきたかなぁ?」 疑問形の割りに笑った顔が、大丈夫と言っている。 「アーロン、そっちはどうだ?」 「…そうだな、僧兵に入ってもそこそこやっていけるだろう。」 「そこそこッスかー?」 「体に痣が出来なくなってから文句を言え。」 剣は結構いい線行ってるんだけどなーとティーダが頬を膨らませた。 アーロンとの訓練は、剣だけではなく格闘技まで入る。 どうしても、体格の差が歴然と出ている気がする。朝練で鍛えてきたものが、未だ自分の体には馴染んでいないのだろうか?とティーダは自分の体を眺めた。 「おめぇは、体質までかーちゃんに似たみてぇだからなぁ。 俺みてぇに筋肉はそうそう付かねぇんだろうよ。」 「ふっ…格闘は体格だけじゃないぞ。 少しは相手の動きを読めるようになれ。」 アーロンとジェクトが楽しそうにティーダを見る。 最初ティーダが、戸惑っていた優しいだけじゃない視線。 ティーダの顔が少し困ったように歪んだ。 「んでだ、丁度いい頃合だよな。 おめぇ、明日俺のタックルを一回でいいから、耐えろ。」 ニヤニヤ笑いながら、驚いたティーダ顔を眺めジェクトが言葉を続ける。 「一回も耐えられなかったら、俺はおめぇをスピラに返さねぇからな。」 ティーダは目を瞬かせ、ジェクトを見つめる。 ブラスカから二人の真意を聞いてからも、この家ではスピラに関する事は一切話題に上る事は無かった。 突然出てきたスピラという言葉に動揺しながらも、ティーダはジェクトに闘志をぶつける。 「一回でいいんッスか?」 一回でも難しいのは分かっている。 それでもティーダは、口の端をあげジェクトに向かって笑う。 「尻に殻付けたひよこが、偉そうに言いやがる。」 肘をついたジェクトが鼻で笑う。 「俺は残念会のパーティ準備でもするか。」 くっくとアーロンが笑う。 二人共目を伏せていた。 ティーダはもう笑っていない。二人の自分に向かわない視線に、困った顔を歪ませていた。 ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・ 「何怒ってるんだ?」 「……おやじ手加減してた…。」 ルカ・ゴワーズ対ビサイド・オーラカの試合は、3対1でルカ・ゴワーズが勝った。 試合中、ずっと浴びさせられたタックルの数は、今期一番多い17、相手は全てジェクト。 どのタックルも力強く、何度も吹き飛ばされた。 しかし、ティーダはタックルを受ける度に違和感を募らせる。 どのタックルもアーロンと訓練して受けるモノより弱く感じる。水の中だという事も忘れて叫びそうになった。 ふざけるな! その勢いのまま、最後に受けたタックルを、体全てで受け持ちこたえる。 ジェクトは苦笑を浮かべていた。 そして、ティーダは悔しくて泣きそうになっていた。 「ティーダ……お前はザナルカンドで何度もジェクトの試合を見たのだろう?」 ティーダは訝しげに、それが何だと目で問う。 「お前は気づかなかったか? お前の言葉を使うならば、ジェクトはどの試合でも手を抜いていた。」 「な…何でっ?!!」 アーロンが一つため息をつく。 「あいつが仲間になって間もない頃、俺達は初めて拳を使って喧嘩した。 俺は、あの横柄な馬鹿が仲間だとずっと認められなかった。 あいつは、俺の生真面目な言い方と小言にずっと腹をたてていた。 ブラスカが、バハムートを召還し、メガフレアは入りますか?の一言を聞くまで、ずっと殴り合っていたな。」 アーロンが少し笑みを浮かべながら、ティーダに話す。 ティーダはなぜそんな話が今されるのかが分からなかったが、黙って続きを聞く姿勢を取った。 「ブラスカに止められた後、随分長いこと二人共座り込んでいた。 あいつが、嬉しそうに笑って言った内容がな… 『初めて本気で喧嘩が出来た…でも、おめぇはブリッツやらねぇんだよなぁ…。』 あの時俺には、その意味が分からなかった。 分かったのは、ザナルカンドで試合の記録を見た時。 あいつは、神と呼ばれていた…それは孤独だという事だ。 分かるか?ティーダ。 あいつが真剣に試合をする訳にはいかないのだ。 そうしたら、間違いなく試合にならない。あまりに一方的すぎる。あまりに怪我人が多く出てしまう。だからあいつは、手加減して試合せざる得なかった。」 見開いていた瞳を一回閉じてから、再び開いたティーダの瞳は強い光を湛えていた。 アーロンに拳を見せティーダが笑う。 「俺が帰ったら、嫌でも本気で闘わせるッス!」 「へぇ〜ひよこが、面白ぇ事言ってんじゃねぇか。」 「っ!!」 ティーダはジェクトの声に驚き慌てて振り返る。 「ひよこじゃないッス!」 「殻は外してやったぜ。」 ティーダがジェクトに向かって言葉を返そうとした時、アーロンの抑えた笑い声が聞こえた。 「アーロンっ!」 「くっくっ…食事だ。」 「そうそう、おめぇ用にミミズでも取ってきてやろうか?」 「おやじっ!!」 「怒ってたなぁ…。」 「それに気づくぐらい成長したという事だろ。」 既にティーダは寝室に行ってしまった。 朝からずっと起きていて、ハードな試合までした今日は、明日の朝練まで起きないだろう。 大人二人は、傾けるものがジュースなのが不服だが、仕方がないとばかりにグラスを傾ける。 「早く本気でやりてぇなぁ…。」 「あっという間だ。」 「そうかぁ?あいつは、あっちで一生を過ごさなくちゃいけねぇんだぞ? もうシンもいねぇ…。」 「…それでも、いつかは戻ってくる。 こっちで試合している間に帰ってくるさ。」 「………そうだな…。」 アーロンが口の端をあげる。 「お前がそんな顔をしている間に、抜かされるぞ。」 アーロンの言葉にジェクトが意地の悪い笑みを浮かべる。 「へっ!そうなってりゃぁいいけどな。」 ジェクトは、グラスに残ったジュースを一気に飲み干す。 「最後の一個は使われなかった。」 アーロンも、ジュースを一気に飲み干す。 「あぁ。」 ジェクトもアーロンも笑っていない。二人共手にもったグラスを凝視している。 「ユウナちゃんが願った。」 二人共笑おうとして失敗していた。 【続く】
毎回一人称の主人公が変わるわ、今回は三人称だわ…すんませんm(__;)m でも色々な視点が欲しかったのよ。 どうしても、今回からは三人称じゃないと…書きづらいなー…f('';)って…あはは。 さて…終わりは見えてきた……よね?<人に聞いてどうする? 【05.05.10】