「っっぁ!!」   おやじが飛び起きる。 そして、俺の方を見て、安堵のため息をついて、起き上がる。 偶に起きる出来事。 俺もおやじもチームに参加しているから、いつも一緒に寝ているわけではない。 俺が居ない時に、おやじが遠征している時にどうなっているのか分からない。 隣の部屋の扉の音がする。 アーロンがおやじに何か作りに行ったのだろう。 ここ異界の俺達の家で何があるわけでもないのに、相変わらず眠りが浅い。 いつでも攻撃に移れるようにとのアーロンの癖。 そしてアーロンは、おやじを助けに行く。   俺は、ただ一生懸命寝てるふりをするだけ。 いつだって楽しそうに、そして自信に溢れたおやじ・・・・・何を夢見たら、あんな風になる? アーロンがおやじの側に居たのは1年程度。 俺がおやじの側に居たのは6年・・・・・でもちゃんとした親子になったのは、異界に来てから。 それでもアーロンと変わらないはずなのに。 おやじに何をしてあげていいか分からない。     【俺様ンち 8】   「アーロン・・・・。」 「どうした?」   俺の目の前に素敵な朝食を並べる厳ついおっさん。 あれから、ずっと起きていたんだろうか?   「あのさ・・・・・・おやじの・・・・・事なんだけど・・・・・。」   どう言っていいか分からないで、考えこんでいると、頭をポンと軽く叩かれた。 相変わらず俺は、アーロンにとって保護の必要な子供扱い。   「夜中の事か?」   俺は、口にオムレツを頬張ったまま、こくこく頷く。 慌てて口の中のものを飲み込んだ。   「偶に、おやじ・・・・・飛び起きるよな?  何でだ?」   アーロンがため息をつきながら、俺の横に坐る。   「・・・・・シンの中に居た夢を見ているようだな。」 「シン?」 「あいつは、あの中に10年間一人だった・・・・・・だろ?」   馬鹿な俺はやっと思い出す。 たった一人で、明かり一つない場所。 ザナルカンドの景色はあったが、誰も居ない。   そんな中でオヤジは10年も、エボン・ジュと精神的な戦いをしていた。 言葉だけでは知っていたが、それがどんなものか想像する事を忘れていた。 俺はなんて馬鹿なんだ。   「ティーダ・・・・・お前ならあの夢を忘れられる方法を思いつくのではないか?」   アーロンが俺の頭をポンポンと叩いて、静かに微笑んでいる。 子供扱いするなと思う反面、やっぱり長い間一緒に居て、そんなさり気ないアーロンの温かさが嬉しい。   「暗い・・・・・世界・・・・・・・暗い世界にも楽しい思い出があれば、あんな夢を見ないですむか・・・・・な?」 「暗い世界・・・・・・何かいい案があるか?」 「・・・・・アーロン闇なべって知ってるッスか?」   暗い中の楽しい事って言ったら闇なべだよなぁ。 あれなら笑える事間違いないッス・・・・・ただ、相手はおやじ・・・・ろくでもない物を入れてきそうな気が・・・・・俺やばい事思いついちゃった? 何か目の前のアーロンも闇なべを知ってるようで、俺と同じようなヤな結論に達したようだ。 顔が引きつっている。   「相手はジェクトだぞ。」   俺はうんうん頷く。   「俺は参加しなくてもいいな。」 「逃げるなよなアーロン!  それとも、他に良い案があるんッスか?」   アーロンが真剣な顔で考える。 相手は俺のおやじ。当然の配慮かもしれない。   「・・・・肝試しはどうだ?」 「だめッス。  怖がらせてどうするんッスかっ!」 「星空を眺めるのはどうだ?」 「・・・・綺麗だけどさ、おやじにその感性があると思うッスか?  すぐに飽きて暴れるのがおちだって。」   アーロンが考える・・・・・・早く諦めた方がいいと思うけどなぁ。 本当に往生際が悪いんだから。 俺は腹くくったッスよ。   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。  明日の夕飯は闇なべだ。」   アーロンは顔に悲壮な表情を貼り付けて宣言する。 俺は、せめてもの意趣返し(おやじにやられる前に考えなくちゃいけないこの状況が悲しい)を考える。       まだ明るい居間。 テーブルの上には、かなり大きめな土鍋。出汁のいい匂いが部屋の中漂っている。 各自座る場所には、色々な味を楽しめるよう、マヨネーズから胡麻だれまで各種用意。 とんでもないモノを選んでしまった場合の味を殺しましょう用一味までセッティング完了。   あとは、ニヤついているおやじの手の中にある、各種タッパーが気になる。 アーロンなら大丈夫。 料理を語らせればアーロンの右に出るものは居ない。 絶対変なものは持ってこないだろう・・・・・たぶん。   おやじの態度がすっげぇ〜不審。 嬉しそうにタッパー持っている姿がすげぇ〜嫌!   ・・・・・俺って早まったッスか?   「明かりを消すから席に着け。」   俺とおやじが、それぞれの席に着く。 その途端消えるライト。 そして、目の前のコンロの青白い炎だけが唯一の光となった。   「じゃぁ、持ってきたモノのを1つ入れるッス。」   俺が言った途端、おやじが何かを入れている雰囲気。 ぼちゃんという音がやけに響く。 俺も負けじと、用意したタッパーの中身を入れる。 アーロンの方からは、あまり音がしない。 それはそれで、不気味な気がするのは・・・・・気のせいだよな?   鍋の中の得体の知れない物に火が通るまで、冷や汗を流しながら待つ。 俺は、アーロン加工済みの、物的には食える物体。 それ以外も色々考えたけど、自分が当たったら洒落にならない事態、後はおやじが嫌いな匂い系の物だけで我慢した。 アーロンが立ち上がって、鍋の蓋を取る。 菜箸で鍋をかき回す。 とりあえず、まだ変な匂いはしてこない。 でも、油断は禁物!なにせおやじ!こんなおやじ好みなイベントで張り切らない訳がない。   「いいだろ。」   アーロンの諦めきった言葉に、それぞれが鍋から得体の知れない物を小鉢に入れる。 そして明かりがついた。   「なっ・・・・何これっ!!」   目の前に白くぶよぶよした・・・・・幼・・・・虫?・・・・幼虫ッスかっ?!!! これ・・・これを俺に食べろとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!   「ジェ・・・・ジェクトっ!貴様っ!これはお前だろうっ!!」   アーロンの小鉢には、巨大な目玉。 目玉の周りには、皮膚が少々付いている。 おやじはどうやったか、フロートアイを幻光虫に変えずに処理してきたらしい。 ここまでやるか?   「・・・・・・ということは、これはティーダのか?」   おやじがゲラゲラ笑いながら自分の小鉢を指差す。 小鉢には、シンのミニチュア練り物が出汁に浮かんでいた。   「アーロンの力作ッス!  残さず食べろよな。」 「だったら、おめぇらも残さず食べろよな。  まさか、主催者が残すなんて言わねぇよなぁ?」   ニヤニヤ笑った顔を殴らせろって! 誰の為にこんな悲惨な事になってるんだと言いたいっ!   しっかし、アーロン凄いよなぁ。 あの暗闇の中で、さりげにおやじが取るような位置に、シンのミニチュアを誘導した。 問題は、俺がアーロンの誘導で、幼虫を食べなくちゃいけないって事で・・・・・泣きたくなってきた。   「アーロン・・・・これって、食べれるんッスか?」 「俺の目の前のと違って大丈夫だ。  重要なタンパク源だぞ。」   俺は、こんなのでタンパク質を補充したくないです・・・・しくしく。   「ジェクト、これはどこが食べれるのだ?」 「あー?全部食えるってさ。  なんかDHAが豊富で、どっかに良いって聞いたぜ。」   アーロンが、フロートアイの目玉と睨みあっている。 箸で少し小分けにして一口に口に入れた・・・・・・勇気あるなぁなんて関心してしまう。 それから、目の前に並べてある調味料を幾つか小鉢に混ぜ込み、食べ始めた。   「ジェクト、これ旨いな。」   アーロンが嬉しそうにフロートアイをぱくつく。 ・・・・・・旨くても嫌です。 俺は一生食わなくていいっ! 諦めてタンパク源といわれる物体に見えなくなるぐらいマヨネーズをかけて箸で掴もうとした。   「ティっ!・・・・ティーダっ!ってめぇ〜!!!!」   おやじがミニチュアシンを半分口に入れていた所だった。 口元から齧られたシンまで透明の糸が綺麗にひいている。 さすが、アーロン!ちゃんといっぱいかき混ぜてから納豆を仕込んだ模様。 糸のひき方が違うね。   「おやじ、ちゃんと食べろよ。  手にしたモノは最後まで食べるのが闇なべの作法ッス。」 「っっ〜〜〜〜!!」 「シンに食べられるよかマシだろ?」   俺がおやじみたいなニヤニヤ笑いを浮かべてやる。 おやじは一瞬目を見開いたが、突然無理やり口の中に全部のシンを放り込んだ。 少し涙目になってる気がする。 けれど、無理やり咀嚼して、飲み込んだ。   「食べたぜっ!」   あのおやじが、肩で息をしている。 叫んだ後に、ウィスキーを瓶ごとラッパ飲み。 そこまで納豆が嫌いッスか?納豆っておいしいのになぁ。   「ジェクト、納豆は体にいいんだ、そんな食べ方は失礼だと思うが?」   未だフロートアイを美味しそうに食べているアーロンがしれっと言う。   「うるせぇっ!  んだよっ!ティーダまだ食べてねーじゃねぇかっ!  さっさと食べろっ!」   八つ当たり。 俺は、マヨネーズで見えなくなった幼虫を口に放り込む。 なんか途中で硬い所があった気がするけど、気にせず飲み込む。 味はマヨネーズ。 ありがとう!マヨネーズっ!     そして、各自4つの不幸を食べた後、蝋燭の明かりだけの部屋で、無事に闇なべが終了したお祝い?をした。 今度はちゃんとしたアーロンの手料理。 俺は泣きながら食べた。       「うわっ!!」 「げっ!!!」   ベットから飛び起きる。 同時に横で寝ていたおやじが飛び起きていた。   「ティ・・・・ティーダ・・・・・どうした?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・幼虫が大量に・・・・・・・・・・・・。」   言葉にしたら目の前に幼虫の亡霊が浮かんできた気がする。   「お・・・・・おやじは?」 「・・・・・・・・納豆まみれのシンが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」   闇ナベは新たな脅威を与えただけで失敗だったみたい。 隣の部屋では、全て楽しげに完食したアーロンが寝ているのだろう。 悪食のアーロンが羨ましい暗闇の中の俺たち二人だった。     【End】    




 


    俺様ンち7を書いた勢いで、頭が三人の口調を忘れる前にと、8を書きました。 うんうん、あたしだよ。 どうして、シリアスで始まった内容がこんなんになるかなぁ?   ちなみに闇なべの作法しりませんf(^-^;) 漫画でしか見たことないです。 大抵長靴とか浮かんでいたりします。 それではつまらないので、多少?アレンジさせて頂きましたm(__)m   さて・・・・ジェクトはちゃんと恐怖を克服したんでしょうかねぇ? つか、ある意味克服したかも? その代わりに納豆まみれのシンが出てくるようになったみたいだけど。 納豆は美味しいんだぞぉ〜。 健康にもいいんだぞぉ〜。 食べなくちゃだめじゃん(^-^)v   【04.10.10】