【俺様ンち 7】     「今日こそ、絶対に勝つっッス!」 「おう、楽しみにしているぜ。」   ジェクトがニヤニヤ笑いながら、ティーダを小突く。 速攻で、ティーダが子供扱いするなよなっ!と叫ぶ。 二人が試合をする日のいつもの光景。   「食事が冷める。  お前らさっさと食えっ!」   ティーダが速攻で、いただきますと言葉を添えてから食事をパクつく。 ジェクトが野菜ジュースを片手にそんなティーダを楽しそうに見つめている。   「しっかし、おめぇ試合前に良く食うよなぁ。」   ティーダの目の前には、サラダに、ベーコンエッグに、トーストに、野菜ジュース、果物、ポテトフライ。 ジェクトの目の前には、何も無い、掌の中の野菜ジュースだけ。   「俺は、オヤジみたいに年寄りじゃないからいいんだって!  スタジアムに着くまでに全部消化しちゃうッス。」 「へーへー、アタックくらって、吐くのだけは勘弁してくれよなぁ。  俺様は、おめぇのゲロん中で泳ぐのは嫌だぜ。」   まったく、毎回毎回・・・・・どうしてこの親子は同じレベルの会話をするんだ? 偶には、スポーツ選手らしく、爽やかという言葉は当てはまらないものか?   「ティーダ、もう出かける時間だぞ。」   口に頬張った食事を慌てて飲み込もうとして、喉につっかえる。 これで、子供扱いするなと叫ぶのか? 馬鹿者と一言添えて、ティーダの背中を叩く。 ジェクトは、ジェクトで、ジェクトさん家のおぼっちゃん、先に行ってくるな〜と余計な一言を沿えて出て行く。   本当にこの親子はっ! どれだけ一緒に生活したら、落ち着くとか、年相応の振る舞いをするとかになるんだ? そんな事を思っていたら、支度を終えたティーダが俺の肩を叩いてきた。   ニヤッと笑いながら親指を立てる。 俺も、ティーダの肩を叩く。   「楽しみにしているからな。」 「うッス!今日こそはッス!  アーロン期待してろよなっ!」   そう言ってぶんぶん手を振り、大きな音をたててドアを閉めて行く。 もう、スタジアムに向かってダッシュしているのだろう。 口元が緩む。 今日の試合だけは見逃せない。 さっさと家事を済ませて、のんびりと観戦しよう。      ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・   朝飯の片付け、掃除、洗濯、夕飯の準備・・・・何でこいつらの家政婦しなくちゃいけないんだ?と思う事もあるが、馬鹿な子供二人(確か片方は自分より10も上のはずだったのだが)を野放しにしておくわけにもいかず、ここに住み着いてしまった。 まぁ、退屈だけはしないな。 こんな異界に居るには丁度いいだろう。   今日は、特別な日。 俺とティーダとで行った訓練の最終仕上げの日。 その成果が何処まで出るかは、あの子供次第。 テレビの前に酒とつまみを用意する。 ソファーに体を預け、のんびりとグラスを傾ける。   ビサイド・オーラカとルカ・ゴワーズの試合が始まる。         『再びティーダ選手囲まれたっ!  ベノムタックルSっ!  耐えましたっ!再びティーダ選手タックルを耐え切りましたっ!』 『成長しましたねティーダ選手。  あのルカ・ゴワーズのディフェンダー相手に3回目ですよ。』   アナウンサーと解説者の二人がティーダの変化に興奮ぎみに伝える。 画面は、ガッツポーズを取ってるティーダの大写し。   ティーダの試合は素早さが全てだった。 タックルを弱点とするティーダにとって、デフェンダーを振り切りシュートする事が仕事であり、また見せ場でもあった。 確かにトップクラスの素早さなのだから、防御を強くする必要もないのかもしれないが、それではジェクトには勝てない。       「アーロン、頼みがあるんだけどいいッスか?」   少し大人びた、それでも子供から抜け着れない顔が真剣な面持ちで俺を見上げる。   「なんだ?」 「あのさー、俺に体術を教えて欲しいんだけど・・・・だめッスか?」       あの時俺は、異界に居ても成長続ける子供が眩しかった。 自分の人生なんてものは、エボン・ジュを倒した時点で終わったと思っていた。 ここに居る自分は、もう何も目的も無く、ただ悪戯に時間を費やしているだけだと。   時間という概念がここにあればの話。   これが生だというのであるならばの話。   そんな俺の目の前で鮮やかに生きている二つの魂。 一人は親として、先輩として、頂点に立つ者としての生。 そして、もう一人は、子供として、後輩として、頂点を目指す者としての生。     今画面は、ジェクトが映し出されている。 口の端をあげ、子供のように輝いている瞳。 その眼差し全てがティーダに注がれている。     この親子は、俺の居場所を、そしてこれも生だと教えてくれる。 まったく敵わない。     ボールがルカ側に移る。 ジェクトにパスが廻る。 ゴール前。ディフェンダー一人と、ティーダがジェクトを阻む。 ティーダがジェクトに仕掛ける。 ジェクトの笑みが広がる。      ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・   「おやじっ!次回は無いと思えよっ!!」 「あぁ〜?それもう聞き飽きた。  偶には違う台詞を言えねぇかぁ?」   ジェクトがニヤニヤ笑いんがらティーダをからかう。   「アーロンよぉ〜俺様が勝ったってのに、この料理はねぇんじゃねぇ?」   目の前には、ティーダの好きなメニューばかりが並んだ食卓。 ジェクトは笑いながら文句を言う。   「お前もこの料理は好きだろう?  どうせ、今日は飲むのが主体ではないのか?」 「そうだなぁ、おめぇらがコソコソやってた成果ってやつを見れたんだもんなぁ。」   ジェクトがグラスを口に運んで、ニヤリと笑う。   「っっ?!!おやじっ!」 「何だぁ〜?」   ティーダがふて腐れて、ソファーにどかっと座る。 堪えきれずに口の端を緩めていたら、ティーダの文句がこっちに来た。   「アーロンが教えたんッスかっ!」 「いいや、覗かれてただけだ。」 「・・・・それって、アーロン分かってったんじゃないか〜〜〜っっ!」   頬が膨れて、上目遣いでティーダに睨まれる。 怒った顔は相変わらず。 まったく、お前は幾つになったら年相応の怒り方が出来るんだ?とティーダに言いたい。 どうせ、今言っても、より頬が膨れるだけだろう。 だいたい、あれだけあからさまに覗いていたのを、気づかない方がおかしい。   さっさと食卓に付けと、ティーダの頭を小突く。   とりあえず餌さえ与えておけばご機嫌な子供。 さっきまでの表情を一変させて満面の笑みで食事をする。 フォークに肉を突き刺し、ジェクトに向ける。   「今度は絶対タックル成功させるッス!」   高らかに宣言。 行儀が悪い・・・・・何度言えば口に物を入れて喋らなくなったり、フォークで人を指したりしなくなるんだ?   「へーへー楽しみにしてますよジェクトさん家のおぼっちゃま。」   ジェクトは、相変わらず楽しげにティーダに挑発する。   「そのうち、ティーダさんのお父さんって呼ばれるようにしてやるっ!」   あまりな物言いに、ジェクト爆笑、酒を飲んでいた俺は不覚にも吹き出してしまった。   「うわっアーロン汚ねーっ。」 「ばっ!馬鹿者っ!お前が間抜けな事を言うからだっ!」   未だジェクトは笑い転げている。 ティーダは再び膨れて、今に見てろっなどと叫んでいる。   毎度毎度の低レベルなお子様同士の口喧嘩。 さっき、この二人の試合を見て、うかつにも感動してしまった自分が恨めしい。 ティーダにさっさと食べろと促す。 一々俺が指示しないと食事も出来ないのかと怒鳴りたくなってきた。   それでも元気なお子様は、用意した大量の食事を綺麗に平らげ、アーロンお休み〜!と元気良い挨拶をして寝室に消えていった。 突然静まる居間。 ティーダ一人居ないだけでこれだけ違う。 食器を片付けながら、酒の用意をする。         「成果はどうだ?」   未だ、楽しそうに飲んでいるジェクトに聞いてみる。   「おう、ありがとうな。  少しは、俺様の足元が見えてきたんじゃねぇの?」 「足元?  そんな事を言っているようでは、直ぐにすくわれるぞ。」 「すくわれてみてぇなぁ。」   目を閉じたジェクトが静かに言う。 ジェクトはずっとティーダが自分の所に来る事を待っている。 全力で戦える相手として。 そして、ティーダに神の位置を奪われたら、さっさとザナルカンドエイブスの監督になってしまうのだろう。   ずっと頂点に居た、誰も自分の元に来ない。 早く自分が衰える前に、自分を倒してくれと願っているのだろう。 それが、自分の息子である事が嬉しくて、自分の息子の成長が嬉しくて、それなら言葉に出して、態度に出せばいいのに、自分の息子には、素直になれない。 本当に不器用な男。   「素直じゃないな。  ティーダの前で嬉しいと言ってやれ。  でないと、夢のザナルカンドの二の舞になるぞ。」   今のジェクト、今のティーダだったら絶対に有り得ない事を言ってみる。   「・・・・・そうしたらアーロンに泣きつく。  おめぇは絶対助けてくれっだろ?」 「ったくお前は・・・・・残念だが、俺はティーダの保護者だからな。ティーダに付く。」   肘をついたジェクトが笑って俺を見上げる。   「そうか、じゃぁ俺は特大の餌でも用意すっかね。」 「餌?」 「ザナルカンドエイブスが出来たら、旅に出ようぜ。  剣を担いでよぉ。  ちょっくら遺跡の方まで。」   ・・・・参った。 本当にこの男には敵わない。   「いい餌だな・・・・・仕方が無い仲裁をしてやる。」   苦笑が漏れる。   「早々にティーダを仕上げないといけないな。  訓練の量を増やすか。」 「早々ねぇ・・・・・ユウナちゃんがこっちに来る頃ぐれぇかぁ?」   ジェクトと俺の静かな笑い声が部屋に響く。   「なぁ、ティーダがクラブに入った頃からでいいからよ、おめぇの知ってる事教えてくれねぇか?」 「試合の細かい所は分からないぞ。それでいいのか?」 「あぁ・・・・・。」   ジェクトが黙って俺の話に耳を傾ける。 再び会う事があったら聞きたがるだろうと思い、ティーダの事は全て心に刻んでいる。     10年という長い月日の間、シンの中で一人戦っていたジェクト。 見知らぬ世界に来てもなお、自分の求める者を掴み、そして俺の最後の舞台をくれたティーダ。   俺に出来る事は、体術を教える事、昔の子供の様子を語ることぐらい。   主夫というのもどうかと思うが、こんな時間が持てるのなら、それもいいと思ってしまう。 随分お人好しになったなと呟いたら、ジェクトに笑われた。   「おめぇは昔からそうだぜ。」     【End】    




 


    あぁっ!アーロン〜!!ジェクトォ〜!!愛しているよぉぉぉぉ!! やっぱり打ってると思ってしまいます。 懐かしいよぉ〜と思うぐらい彼らを書いていないf(^-^;)いかんなぁ。   ということで、俺様ンちでした。 どうして、FDLにこれを選んだかと言うと、どうも自分はこの話が一番好きなようです。 各話完結だから、FDLにもしやすかったですし。 一瞬ジェクトのLoveStoryの番外でも書こうかと思ったのですが、こっちの妄想の方が先に沸いて出てきました。 この三人を楽しんで頂けたでしょうか?つか、私は楽しかったです(^-^)v   FFXのサイトを作って1年経ちました。 ご来店下さった皆様ありがとうございました。 これからもよろしくお願い致します。   未読猫【04.10.06】