【ジェクトのLove Story外伝2:アーロンのLoveStory】
 


傍らで寝息を刻んでいるジェクトを少し眺めた後、起こさぬようベッドから出てベランダに出る。
空にはまだ少し欠けた月が輝いている。

『おめぇいつ俺を好きになったんだ?』

今日夜からずっと聞かされた問い。
いつからだったかな?そんな事を生真面目に考えてしまう自分に少し苦笑して。
ブラスカやジェクトに少しは近づいたと思っていたのに、二人に恥ずかしくないよう生きてきたと
そんな大人になったと思っていたのに、あまりに変わらない自分を見つけて、より苦笑を深く刻む。

初めてジェクトに出会った時の自分の感情は、悔しさと恐れ。
ブラスカに自分だけでは頼りないと思われたのではという悔しさ。
そして、スピラという全てを閉鎖された社会の枠にはまらない、自由な言動をする男への怖れ。

俺はあまりにスピラの人間だったから、その心の自由さが理解出来ず恐かった。
元は同じ地点にいたはずのスピラとザナルカンド。
なのにまったく違う者を産む。
スピラに固着化した俺。
夢のザナルカンドそのままの自由なジェクト。


いつも勝手気ままで、尊大なやつが、それだけじゃないという事を見せ始めたのはいつだった?
最初は不慣れだった剣の扱いが、徐々に自分の長所、素早さを特徴とした動きに変わって行く。
ミヘン街道あたりでは、すでに申し分のない働きだった。
そう言えば雷平原で戦闘中に良く視線を感じたな。
俺の動き、腕の使い方、魔物の倒し方、一つも見逃さず見ていた。
ふ・・・それで戦闘不能になった事もあったな。
素直に俺に教わるような性格はしてなかった。
ただ見て覚えるのはた易い事ではないはずなのに、おまえはやり遂げる。
元々の才能もあるのだろうが、才能だけでは一番になれない。俺を脅かす者になれない。
夜、よく散歩に行っていたのは練習の為か?たぶんそうなのだろう。
努力する姿を人に見せるのをよしとしない、おまえらしい。
そしてついにおまえはやり遂げる、剣の使い方を覚え、それを自分らしくアレンジする。
確かに我流の剣ではあるのに、俺は、美しい動きに目を奪われた。
あの時俺は、自分と同じ物を見、語り合える可能性のある者を見つけた。

そうか、俺はジェクトの剣技に惚れたのか。それが最初だったのか。

肩を並べるようになったキーリカからは、抜かされるかもしれない一抹の不安と、
それ以上にあふれる気持ち、同じ物を見、語れる者を見つけた喜びに支配された。
むろん簡単に肩を並べさすつもりはなかった。だからこそジェクトに教わった。
ふ・・・・あれはすごく楽しかったな。

教わる事によって、おまえがブリッツのエースだったという事を実感した。
俺の状態を把握し適切な指導、助言をする。仲間と受け入れた者への気配り、配慮。
ブリッツという団体競技のエースは有能な指揮官と同じだった。

それ以来か・・・・・俺は無意識におまえに頼っていたんだろう。
ブラスカを失わない方法を探していた自分。
誰に吐き出す事も出来ない、一人で道を見つけなければならないあの辛い状態。
10年経った今でも一人で抜け出す事は困難だろう。
そんな状態を無意識のうちに、自分の背中をおまえに預ける事によって・・・・頼っていた。

初めての真剣勝負。
おまえと剣を交えている時だけは、ただその事だけで、全てを忘れられた。
目を奪われる剣技。たった一ヶ月間のうちに、俺の剣を受け流すまでなった見事な仕上がり。
己を刺激する相手所ではない、追い抜かれるかもしれないと思わせる技量、背筋を走る決して不快ではない戦慄。
確かに今自分は勝つだろう。でも明日は?明後日は?いや、本当に今自分が勝てるかも確かで無くなってきていた。
そしておまえは俺を誘う。

『さぁ〜もっと俺と遊ぼうぜ!』

血をはらんだ魅力的な笑みを浮かべて。
一瞬目を奪われ、命のやり取りを遊びと楽しそうに言うおまえに心から魅かれる。
最後に遊びの仕上げ。おまえは俺の剣を両手でだったが、はじき返す。
あの時胴を瞬時にかばったのは、剣と一緒に成長してきた時間のおかげ。
俺は、大剣を操る自分の隙を心得ていたに過ぎない。それでも少しでも遅れたらあの勝ちは無かった。
そう、自分も一ヶ月の訓練は無駄で無かった事を知って、初めて人から受けた剣の傷を誇りに思った。

はは・・・・・さかっていたのは俺だな。よく勝てたものだ。

その夜か、初めておまえとキスをした。
気が遠くなるようなキス。
あれは慌てたな。自分の気持ちを自覚させられた。
惚れたのは剣技でも頼れる司令官でもなく、ジェクトというあの魅力的な男だと。
その男自身に惚れたのだと目の前に突きつけられた。

ただ、良かったのか、悪かったのか、ミヘン公司を出る朝ブラスカとジェクトの会話で現実に引き戻された。
自分はまだ見つけていない。ブラスカを失わずにシンを倒す方法。
今思い出せば、あの頃のジェクトだって不安定な状態だったはずなのに、あいつは俺にまで気を配っていた。

自分の知らない世界に来た不安。
自分の世界に帰りたくても変える方法も見つからない毎日。
日々命をやり取りしなくてはならない現状。

そんな状態でいてもおまえは、あがいている状態を隠す事も出来ない未熟な俺への心配りをする。

本当におまえの懐は広いな。
俺はどれだけおまえに助けられた事か・・・・・本当に俺は不甲斐ない。

その後、マカラーニャ湖で俺の神経が焼き切れる、近づくザナルカンド遺跡、順調に続く旅、
自分で抱えた重みのはずなのに、その重さに負けて吐き出してしまう言葉。

『この旅がどういうものか教えてやろう!』

ブラスカの未来を知ってしまうおまえ。
俺が重さに負けてしまった為に、おまえが一番してはいけない覚悟をさせてしまう。
一番酷い選択をさせてしまった。家に帰る事を捨て、ガードとして最後まで貫く覚悟。
なのにおまえは、俺の持っていた重い荷物をわかち合ってくれる。
どうしてなんだ?おまえは、いつも俺に甘い。ずっと怒鳴ってばかりの俺だったのに、そんな俺に優しい。

その夜おまえは俺に道を示してくれる。
最後までシンを倒す別の道を探そうと。一緒に見つけようと。

そして俺に手を差し伸べる。
あの時あの手を俺は取ってよかったのだろうか?・・・未だに分からない。
俺の得たもの、停滞したスピラを改革出来る力を持った者。
どんな場所にいようとも俺の為に、愛する者達の為に努力し続ける男。
そして誓いのままに俺の傍らにずっといつづけてくれる男。
俺は、ジェクト・・・・あんたに何か与えられているのだろうか?

「アーロン、一人で月見か?」
「あぁ。起こしてしまったか?」
「いんや、で、思い出したかい?」
「?」
「おめぇがいつ俺に惚れたか。」

揶揄うような口調は無く、静かに尋ねてくる。

「あぁ・・・思い出した。ありがとう。」
「何がだ?」
「ついでに色々思い出していた。礼はちゃんと言わないとな。」
「俺何かしたかぁ?」
「あぁ、それと同じくらい迷惑なやつだったがな。」
「言ってくれるねぇ。」
「聞きたい事があるんだが。」
「なんだぁ?」
「おまえは、俺のどこに惚れたんだ?」
「さっき言ったろ?」
「さっぱり分からん。俺は剣しかとりえのない男だ。おまえに惚れてもらうようなものは何一つない。」
「おまえ最初っから俺とずっと話してくれただろ。」
「話す?怒鳴るの間違いじゃないのか?」
「でも、ずっと気ぃ配っていてくれた。俺はうれしかったんだぜ。」
「そうか?」
「おう、とどめはあの笑顔だよなぁ〜。おめぇ闘っている時の顔すっげぇ奇麗で魅力的。」
「おまえもだ。一瞬目を奪われた。よくあの時勝ったもんだと思う。」
「俺らは同時に恋に落ちたってやつだったんだな。」
「おまえが言うと軽いな。」
「本当の事なんだから仕方がねぇだろ。」
「それもそうか。」

言いながらジェクトを引き寄せる。
キスをする。離れ離れにいた頃には想像も付かなかった。最後にこうした生活が送れる事。
引き寄せる事が出来る腕がある。唇を寄せる先がある。
おまえが消えてしまう結論を導き出した時どれだけ叫びたかったか、嘘つきと・・・・。
なのにおまえは手の届かない所に居て、俺の言葉さえ受けつけない。
俺は、おまえを消す為に、ティーダを消す為にここに居るのではないとどれだけ叫びたかったか。

「キスしながら考え事かぁ?」
「おまえは最初から消えてしまう事を知っていたのだな?どうやって俺の傍らに居るつもりだった?」
「考え事は、それかい?」
「あぁ。」
「ん〜。どうにかなると思っていたしなぁ〜。ジェクト様だしぃ〜。」
「おまえ・・・・。」
「殴るの無しだぞっ!どうにかしたからいいじゃねぇかっ!」
「少しは殴られろっ!また・・・どうする事も出来ないのかと、何もせずに終るのかと!
 おまえを再び失う将来がある事がどれだけ俺にとって辛い事だったかを・・・・分かれっ!」

俺が繰り出す拳をジェクトが片っ端から受け止める。

「アーロン、俺がおまえだけを残すわけねぇだろ?」
「なんで、おまえはそんなに自信があるんだ?」
「おまえの傍らにずっと居るって言ったじゃねぇか。俺が何もしないで居るわけねぇだろ。
 俺はおまえの為ならいっくらでも努力するんだぜ。」

なんで、おまえはこんな台詞を赤面せずに言えるんだ?聞いている俺の方が恥ずかしい。

「おまえ俺様にすっげぇ〜愛されてる自覚たんねぇ〜。」
「なら、おまえもだ。」
「それは、知ってる。」

そう言って極上の笑みを俺に向ける。

最初の旅、あの時俺が手に入れたもの。

頼れる、自分の全てを預けられる神と呼ばれていた男。

俺の一番愛する人・・・ジェクト。

【End】
 


メインの話しじゃアーロンの気持ちがさっぱるんるんだよねぇ(^-^;)
仕方がねぇ。一人称じゃん(^-^;)とは思ったけどね。
ということで補完ッス。アーロンの気持ち。

真面目に説明してくれるアーロンの性格がとっても助かりましたm(__;)m

最後のほうにね、アーロンが「〜嘘つきと・・・。」って台詞があるんだけど。
あの・・・あの35才アーロンが夜中海辺で拳握り締めながら「ジェクトの嘘つきぃ〜!!!」
と叫んでる姿想像して・・・・かなり力抜けた。・・・間抜けだよ(ーー;)
そのおかげでほとんど出来上がっていたこの小説は年を越しました(;__)困ったもんだ。