【所変われば九尾も変わる(前)】 「失礼致します、長はご在宅でしょうか?」 訳がわからぬまま、【バイト要員】というそれだけにつられて。 大量の書類を片手にハヤテとゲンマは奈良家にやってきた。 「ふふふ…いるわよ。どうぞあがって下さいねVv」 ニコニコと上機嫌なヨシノに、首をかしげる。 まぁ、ナルト何かしら機嫌をとったのだろうと、かしげた首を元に元に戻した。 そのまま、居間へと続く扉をあけた。 「「失礼致します」」 一応、最低限の常識を持って挨拶をする。 此処があの、最低最悪な上司の家だとしても・・・だ。 頬杖をついて、茶を飲むシカマルとその向かいで、ニコニコを笑っているナルト。 「よー」 手をヒラヒラとさせて、ニヤリ、と笑うシカマル。 確かに、自分の上司であり、お隣さんがそこにいる。 いるのだ。 いるのだが・・・。 「………………なるほど…ではこれをお願いしたいんですね」 大量の書類を机にドサドサと置いた。 ゲンマも持たされていた書類を、シカマルの前におく。 勝手にくつろいで座る様は、勝手しったるなんとやらだ。 もっとも、勝手を完全に把握しているのは二人の家のほうなのだが。 「へぇ〜…」 にんまり笑うゲンマに、もうバレタかなー?と内心クツクツと笑う瑠璃と玻璃。 あの二人と付き合うためにはこのくらいの技量がいるのだろうな。 そう思いながらも、とりあえず、完全にバレました!宣言までは演技を続ける。 「イヤだ」 『シカマル』・・・玻璃がニヤニヤと笑う。 違和感に気づいているなら、とっとと指摘してくれないとなぁ・・・と。 「で?」 ゲンマは『ナルト』・・・瑠璃に近づいて笑った。 頭に手を置いて。 瑠璃はその反応に、一瞬怯んでから、どうしようかなぁ?と考える。 表面上はニコニコしながら。 その嫁二人のやり取りを横目で見ながら。 ハヤテが額に手を置いて、溜息をついた。 こんな遊びを提案したのは、確実にウチの長だろうと思いながら。 ニコッと、その病人の様な顔に笑みを浮かべて。 背後にはイルカも真っ青な、凝り固まった蠢くような真っ黒いオーラを乗せて。 そのオーラは勿論、目の前の『シカマル』にではなく。 絶対、どこかで隠れてみてるだろう、『長』に対するものだ。 「貴方がバイト要員ですよね?腕前を見せていただかないと話にならないんですね」 その回答に、満足げに頷く玻璃。 「う〜ん、何でかねぇ?ちょ〜っと違うんだよな。もう少しがんばらねーとな」 野生の感で答えているような感じで、笑いながら瑠璃の頭を撫ぜるゲンマ。 それに、やはり満足そうに瑠璃は笑った。 「・・・ジャスト五分だな」 「えーマジで?賭け誰も勝ってないじゃん!」 時計を見ながら、玻璃がそう宣言すれば。 瑠璃がつまんなーい!と、ゴロンッと横になった。 壁の向こうであー・・・と部下の才能に溜息をつく、上司。 そういやぁ、こんなヤツだったっけー・・・と、再確認。 (ちっ…ハヤテの才能を忘れていた) (速攻だぁ〜こえーハヤテ) うんうん、と、頷き合った。 「長っ!!出てきたらどうですか?それとも壁を破壊しても?」 あくまでも笑顔で、刀を構えるハヤテ。 壁の向こう新月は…別にオレは構わないけどなぁと、ケロッとした顔で頷く。 ここは実家であって、自分の現在の住みかではない。 ただし、それを実行した場合。 ヨシノの最上級の怒りが飛んでくることだけは・・・覚悟していただきたいが。 「で、おめぇらは変化解かねぇの?」 ゲンマの素朴といえば素朴な疑問に、瑠璃はただニコニコと笑った。 ある意味、性質が悪い。 「オレ、ナルトだし」 返答はそれだけ。 混乱するのを見て楽しんでいる模様だ。 「あのなー壁を壊したら、かーちゃんに殺されるだろ」 楽しそうにニヤニヤと笑いながら、日食と共に部屋に入ってくる。 横で日食がニコニコしながら、二人に手を振った。 普段なら、そのまま二人並ぶのに。 今回だけは最後まで楽しもうという魂胆なのか、新月は玻璃の隣へ。 日食は瑠璃の隣へと、それぞれ並んだ。 見れば見るほど、良く似ている。 いや、些細な仕草を気にしないというのなら、完全に同じ存在だ。 「説明するんで、とりあえず武器置いてくれません?」 「柄を握っているだけです」 「握っているのは、構えているのと同意義ではないでしょうか?」 柄を握っているだけ、というのは嘘ではない。 しかしそこから、抜刀へと瞬時に変えられる行為である事は否めない。 左手に刀を持つ・・・それ自体、敵意を相手に向けている証でもある。 同意義・・・そう言われてしまったら、返す言葉というものはない。 左手に刀を持ち、右手を柄にかけているのだから。 ハヤテは溜息をついた。 確かに目の前の『コレ』は、長ではない。 しかし、『シカマル』ではあるようだ。 「へ〜…なぁなぁ、小首傾げて分からないのぉ〜ってな感じのポーズ取ってくれねぇ?」 「はぁ?」 ゲンマの注文に、とりあえず首をかしげる瑠璃。 「うんうん」 ゲンマは頷いて、瑠璃を頭を撫でる。 少しばかり、捻くれてる方が【ニセモノ】のようだ。 【ニセモノ】という言葉が正当であるかどうかは、別としてだが。 「ゲンマ、説明をしてくれるそうです。とりあえず、面白そうな事はその後にするんですね」 ハヤテの言葉に従って、Wシカマルを見遣るゲンマ。 ニヤニヤと笑ってるほうが【ホンモノ】で、言葉遣いが丁寧なのが【ニセモノ】だな、と頷いた。 「聞きましょう」 ハヤテがスッと、瞳を細めた。 「確認しますけど、月光特上と不知火特上・・・ですよね?」 「確かに私の名前ですね」 「間違いねぇよ」 そうか、と頷いて。 瑠璃がニヤリ、と笑って言葉を引き継いだ。 「うずまきナルトと奈良シカマルだってばよvただし、別の世界のな?」 なんとなく、ハヤテは驚かないだろうなーというのが、四人心の中での一致の意見だった。 そして、それは正しかった。 「なるほど……バイト要員ですね」 「まじかよっ?!何だそれっ!」 これでもか!、と、爽やかな笑顔を受けるハヤテと。 目を見開いて驚くゲンマ。 ウケがいいのは、ゲンマのほうに決まっている。 「バイトはしますよ。ただし、報酬は貰いますが」 玻璃が淡々と、言えば。 「はい、規定に沿った報酬を支払います。結果次第では、長にもなれるんですね」 新月を半眼で睨む。 完全なる、あてつけだ。 とっても面倒臭い上司以外を【長】とみなしていないだろうに。 (……ハヤテって…まーそういうヤツだよなー。あいつらの目にこの二人ってどう映ってるんだか…) 半眼で睨まれても、どこ吹く風だ。 自分の興味のあるほうにだけ、脳味噌を回転させる。 「報酬さえ、払って頂けるのなら、出来る範囲でお手伝いいたしましょう。長に興味はないので、辞退しますが」 「では、これをお願いするんですね。貴方がシカマルくんであるなら、すぐに終わりますよ」 目の前に出された紙を受け取る。 お試し、といったところだろう。 上忍ないし、暗部、上層部の幹部ですら、難しいだろう問題が並んでいた。 鉛筆も受け取って簡潔に答えを書き連ねて、ハヤテに渡した。 「…………貴方は不精者ですか?」 その答えを満足そうに読み終えて、二コっと笑った。 「まぁ、無精者といえばそうですが・・・」 (ハヤテ楽しそうだな…) なんだか、言い出しそうなことが判ってしまって、新月は呆れた。 そんなに切羽詰ってんのか?と、我が事ながら人事のように遠くを見た。 「一日中寝ていないと気がすみませんか?」 「仕事なら、割り切りますが・・・新月の仕事は新月にやらせてくださいね?」 「それは当然です。ところで、貴方も暗部ですか?」 「遠回りな質問は嫌いなのですが?」 二人、背後にブラックなオーラを湛えての会話である。 (怖いなぁ・・・薬とか使い出しそう・・・九重のトコに非難しようかなあ・・・) 瑠璃が逃げ腰になるのも判らなくはない。 なんというか・・・な、人外魔境が繰り広げられている気がした。 「では、単刀直入に言います。こちらに居る間で構いませんので、私に雇われませんか?仕事は、長に仕事をさせる事なんですね」 にっこりを笑みを湛えてハヤテが言えば。 「勘弁しろよな〜」 「新月に仕事をさせるほど、めんどくせぇ事はないからパス」 ほぼ同時に、新月と玻璃が一方はニヤニヤ笑いながら、もう一方はふざけたことぬかしてんじゃねーよという瞳で笑った。 それまでをただ、聞くしかなかった外野は『シカマル』がいるなぁ・・・としみじみと思った。 「月光特上ー。玻璃も基本スペックは『シカマル』だからさー・・・」 どんなに敬語を使っていて、真面目に見えたとしても。 中は完全なる『シカマル』なのだ。 期待する方が無理、無茶、だ。 最も、ハヤテも期待など欠片もしていなかっただろうコトは、その顔を見れば一目瞭然だ。 そして、『玻璃』とはもう一人の『シカマル』の事を指すのだろう。 「そうですか、ではそちらのナルトくんは、私の仕事を請け負ってもらえますか?」 「玻璃がやるっていうなら、やるよ? あ、オレのコトは瑠璃って呼んで」 ニコッと笑う、瑠璃。 瑠璃と玻璃ね・・・、とハヤテとゲンマは頷いた。 そーいやぁ…と、ゲンマがお茶を片手に瑠璃を見た。 驚きの説明を受けてなかったからだ。 ハヤテと玻璃のブラックな会話の方に意識が集中してしまった。 それに、そういえばと瑠璃が笑った。 「ウチの九重の特殊能力だってば。不知火特上?」 いい慣れない名前だからか、アクセントが微妙に可笑しい。 ゲンマはそんな小さい事を気にするような、小さい人間ではない。 そのうち慣れるだろうと、サラリと黙認して。 九重?と首をかしげる。 シカクと飲んでる金茶の髪が俺、俺!と、主張した。 「九重?…あそこにいる?…そんな術があんのか?」 「だって、九重、九尾だし?何でもありだってば」 まさしく人外だし?となんでもないかのように笑われれば。 それが普通な事に思えるから人間っていう生き物は、不可思議だ。 ゲンマはハヤテと顔を見合わせる。 ふと、九尾?と考える。 アイツって、『ナルト』の腹ん中にいるんじゃねぇのか?と。 「九尾ぃ?ナじゃ分からねぇな、日食、お前んとこの九尾も出し入れ自由なのか?」 内心の興奮を抑えきれないのか、キラキラっとした目で子どものように日食を見遣るゲンマ。 違和感がないのが、ある意味凄い。 (・・・こっちの不知火特上おもしれぇってば・・・) 向こうのゲンマもこんなんだったらいーなーと、瑠璃は笑った。 日食が首をかしげて、分からないんだよねーと困ったように笑う。 「オレ出し方しらないって。九重さんが、さっき出してくれたけど……あれ?…どこ??」 はたと気付けば、九重がヨシノを杓で指せば。 ヨシノはあの子なら・・・と頬に片手を置いた。 「あ?さっきまで奥さんトコで寝てたぜー?」 「おかーさん、狐夜は?」 「布団が欲しいって言ってたから、寝室に案内したわ」 まだ寝るのかと、ぽかんっと口をあけて日食が溜息をついた。 その会話に、妙に楽しそうにゲンマが入ってくる。 「なぁなぁ、狐夜って、ナルトん中のヤツの名前だよな?そいつって、九重さんとそっくりか?」 「ヤ、全然」 ゲンマのテンションについてはなんとも思わないのか、九重は普通に返す。 瑠璃と玻璃はそのテンションに少々、引き気味だ。 月光特上はともかくも、こっちの不知火特上って、不知火特上って・・・!と、目と目で会話を果たした。 「そっか〜vすっげぇ〜見てぇ〜〜Vv日食!寝室に案内頼んだ!」 日食を伴って、嬉々とした足取りで寝室に向かうゲンマ。 それを全て見てから。 「なぁ・・・こっちの不知火特上って・・・ああなんだってば?」 それには、新月とハヤテが静かに頷いた。 弧夜を姫抱っこよろしく、抱えてゲンマが戻ってきた。 起きないなら、自ら移動させればよし!と思ったに違いない。 「ゲンマっつったっけー?お前プロいなー」 九重がケラケラ笑った。 それに、眉を顰める。 いったい、なんのプロだというのか。 いや、一応忍のプロではあるのだが。 「何のだ?」 「何って、扱い〜」 抱っこしている、弧夜を指されて。 首をかしげた。 「そぉかぁ?普通じゃねぇの?」 先程までのアレを知っているからこそ、笑える。 九重は酒を片手に大爆笑し始めた。 それに声をかけようとして、止められる。 曰く、関わるな面倒だから、だそうだ。 九重に対しては先人の瑠璃と玻璃に従おうと、ハヤテに向き直る。 「なぁなぁ、これすっげぇ可愛いぞ〜。ハヤテぇ〜見てみろよぉ〜。なんかもこもこでグーグー寝てる!」 もこもこ、というのはきっと耳や尻尾や髪をさしているだろう。 ハヤテは書類とにらめっこをしている三人を見遣る。 紙の束は残り僅か。 本日の業務は無事に終了しそうだ。 「随分と可愛らしい姿ですね。日食くん、良かったんですね」 ゲンマの腕の中の弧夜の髪を撫でて。 日食をみて、本心からと判る柔らかな笑みを浮かべた。 それに日食も頷いて、笑い返した。 ハヤテの意識は直ぐに怠けようとしてる新月に向く。 コレばっかりは仕方ないので、日食はゲンマに問いかけた。 「なぁ、可愛いと良いのかなぁ?」 「凶悪な顔したヤツよか良いだろ?」 「そ…そうだけど…そゆもん?」 「そうそう」 凶悪且つ、極悪なン年前の九尾のままだったらどうしようと思ったのも事実だ。 ゲンマが記憶している九尾の姿といったら・・・。 とりあえず、馬鹿でかい。の、一言に尽きる。 それがこんなに小さくて、可愛いのだ。 『可愛いは正義』と、どこぞの漫画にあったが・・・それは正しいと思う。 「おーい、月光特上。終わった」 「なーんで、こんなに簡単なの?つまんないってば」 どこか抑揚のない声と、剥れた声が上がって。 ハヤテは、「ありがとうございます」と頭を下げた。 純粋に手伝ってくれたことへの感謝だろう。 「つまらないのでしたら、明日戦略部にいらっしゃるのを薦めるんですね。少しは楽しめますよ」 報酬は後ほど渡します、と、楽しそうに笑った。 それから、つっと新月へと視線を向けた。 先程までとは打って変わった冷やかなものだ。 「長…貴方は終ったんですか?」 「あー?」 間延びした声の主が、紙束を指差して欠伸をした。 全ての書類に目を通して、重い溜息をつく。 勿論、冷やかな視線を相手に送るコトは忘れない。 「はー…いつもこうでしたら………」 叶わぬ望みと知りながらも、それを期待してしまう。 一番腹立たしいのは、この上司が【出来る】ところだ。 出来ない・使えない上司だったらとっとと、蹴り飛ばすものを・・・。 とても、【有能】だから本当に始末に終えないのだ。 少しズボラな位が人を良く育てると判っているところも、いらだたしい。 掌の上で転がるつもりも、踊るつもりもサラサラないというのに。 結局それを受け入れてしまう。 【有能】で【使え】て【出来る】からこそ、腹立たしいというのもなんだか滑稽だと、笑った。 「明日?九重ー!」 「なんだーナル・・・じゃなかった、瑠璃ー」 暢気に返事をする九重。 「いつまでいんの?」 「あー・・・何時までかなーでも、一日でギリだろー?」 なにがギリなのだろうか? わからないので、率直に聞いてみる事にする。 「何が?」 「キバたちが」 「「あ」」 それに玻璃の声も被った。 養いッ子達のその反応に、思わず遠くを見詰めてしまった。 「時々、キバたちがかわいそーに思うよなー」 こう育てたの、俺だけどよーと、渇いた笑みを浮かべた。 逆にそういえばそうだなーと、その位の感想しかでてこないのは瑠璃と玻璃だ。 人数いるし大丈夫だろ、という結論になった。 「こいつも一緒に遊べたら良いのになぁ。寝てばかりじゃ、シカマルじゃねぇか」 ツンツンと弧夜の頬を、ゲンマがつつく。 そんな様子を横目で見ながら、新月が思案顔で一つ頷くと。 ニヤリ、と、特有の笑みを顔に浮かべた。 その笑顔に、ほれぼれとする者は生憎いない。 なぜならば・・・何か、よからぬ事をたくらんでいる時の笑みだからだ。 「なぁ九重さん、弧夜に、そっちへ移動する方法を教えてくれねーか?」 同じ【九尾】なら、できるだろう? それに、日食とゲンマは瞳を輝かせ、ハヤテは頭を抱えた。 「異世界にまで、逃げ込む先を作る気ですか?」 それには、なにも返さない。 「あ?そりゃ、無理だ。多分。つーか・・・こっちの九尾って立場ドコ?」 「九重、立場は『ドコ?』、じゃなくって『ナニ?』だってばよ」 「気にすんなv」 この親にして、この子ありだ。 さしたる問題とも思わないらしい。 流して、さっさと次に話を進める。 「立場って何だ?」 妖怪にんなもん関係あるのか?と、九重を向けば。 九重は、んーまぁ・・・と、苦笑を零す。 「俺こんなんでも、向うの妖の長だしー。ナニ?カミサマ?」 ケラケラと笑う、九重をみる。 とてもじゃないが、神様だの偉い人だのには見えない。 綺麗な顔の、威勢の良いただのニイチャンだ。 「そりゃぁ、本人に聞いてみないとわからねーなー。」 ちらっと、弧夜を見遣る。 相変わらずぐーすかと寝ている。 新月の視線を受けて、日食がぽんぽんと弧夜を起こしにかかった。 「ねー、ちょっとだけ起きてくれないかなぁ?」 半分目を開いて、日食の頭の上に手を乗せる。 とろんとしていて、とても眠そうだ。 「…なに?」 「あの…お前って九尾以外にも仕事ってあるの?」 神様とか…と、日食が頭上の弧夜に聞く。 (仕事か?神様って仕事なのか?) それを聞きながら新月は心の中で最愛の妻に、突っ込みをいれた。 些細なことなので、声にはださないが。 弧夜は首をかしげて。 ぼやんとした瞳のまま、天井を見上げた。 考えてるような、ただ、ぼけっとしているような、微妙な仕草だ。 「……………?…………………ぁ…………ん……………と………………忘れた」 「サイコー!!おもしれぇー!!」 ゲラゲラと九重が笑い出す。 「…お前って、何が出来るか分かる?」 「……………寝る……………食べる……………知る」 「知る?」 その、なんとも天然系な発言の数々に、日食の肩が落ちる。 コレに里が壊滅に追い込まれたと思うと、なんだか悲しくなってきた。 落ち込んでると思ったのだろうか。 弧夜が、日食の髪を撫でる。 大爆笑中の九重はこのさい、この空気から除外する。 「どうした?……………知るは知るだ」 (だぁぁぁぁぁ困ったっ!) 会話になんない!! 日食、少々涙目だ。 キャッチボールのできない事に、イライラしてきた。 「何を知るんだ?」 「………………………………………全て?」 その答えを聞いた瞬間。 日食は、頭上の弧夜を九重に押し付けた。 「ごめんっ九重さんタッチっ!」 無理!手に負えない!!と、新月に抱きつく。 頑張ったなーと、新月が慰める。 「タッチっ!!あー、笑った・・・。んで、コイツラは、お前に術を覚えて欲しいんだと」 「……術って食べ物か?」 その、【九尾】の会話に(うわ、知るとかその辺切って捨てたよ・・・)と、心の中で突っ込んだ。 さすが、人外生命体。 「いんやー、チャクラ練って使うもんー」 「…………………………?使う??……どう?」 心底判らないらしい。 小首をかしげてしまった。 「あ?さっき、お前結界張ってたじゃねーか」 「意思か?」 「ま、似たようなもんじゃね?」 言い方なんて人それぞれだろ。 そういって、また、笑った。 その二人・・・二匹の【九尾】の会話を新月は興味深く、面白そうに眺め。 展開だけは追っているものの、疲れたのか新月に身を預けきっている日食。 ゲンマは面白い玩具を見つけた子どものような顔をしているし、ハヤテは興味深い、というよりも、観察をしていた。 九重の笑顔に溜息をつくのは瑠璃と玻璃だ。 あの笑顔に関わって良いコトは結構な確率でなかった。 「玻璃、あれ、ほっとく?」 「九重だしな。めんどくせぇし」 立ち上がると、シカクとヨシノのいる台所へと移動した。 九重に、関わりたくなかったからだ。 「…………何したい?」 日食を見て首をかしげる、弧夜。 「九重さんの世界に、オレ達を連れていって欲しいんだ」 それにうん、と、首肯すると。 九重に視線を戻した。 「…………どこ?」 「並行宇宙論。パラレルワールドだなー」 言うよりも、実行させる方が早いはずだ。 弧夜のチャクラにあわせてイメージと標準をあわせた。 九重の手を無言で握って、術を発動する。