【知らない自分の家族(後)】     「なーお前らって夫婦じゃねーんだよな?恋人?それとも仲間か?」 その問いに、目尻に溜まった涙を拭いつつ瑠璃が頷く。 「恋人?つーか半身?」 玻璃の方を見れば、未だに笑いつつも、瑠璃の回答に頷く。 どうやら、ツボに嵌ったらしい。 「どっちが上っ?」 日食は瞳をキラキラさせながら、身を乗り出す。 それにシカクは飲んでいた茶を噴出しかけた。 今、この場に妻がいなくて良かった・・・と、思いながら。 居てもいいのだが・・・。 収拾が付かなくなりそうだからだ。 「玻璃だけど?」 あっけらかんと、瑠璃は笑った。 それを誇るかのように。 笑う。 「だって、オレ玻璃のだし」 「玻璃は瑠璃のじゃないの?」 首を傾げる日食に、瑠璃は笑いかける。 「オレのだけど、オレは玻璃に拾われたからね」 「良かった。」 ニコニコと互いを見遣って、笑いあう『ナルト』。 頬杖を付いて、ニヤニヤと笑う新月は酷く楽しそうだ。 玻璃は呆れたように瑠璃を見る。 髪をグシャグシャとかき混ぜて。 「つーか、瑠璃・・・お前まだ拾われたとか気にしてたのか?」 「うん。厭きるまでは一緒だっていったでしょ?」 「だから・・・最後まで面倒見るから、つったろー?」 そんな二人のやり取りを、興味津々に聞き入るのは日食と新月。 別の人生を歩んでいる自分というものは、やはり興味惹かれるだろう。 「へへvで、そっちの馴れ初めは?」 満足したのか、日食と新月に向かって満面の笑顔を浮かべる瑠璃。 「いーね、聞かせろよ。夫婦だろ?」 ニヤリと意地悪そうに、笑う玻璃。 少し遠くを見詰めながら。 「馴れ初めねぇ…赤ん坊だったな」 眉間に皺を寄せて、苦笑する新月。 「そん時に約束したんだよ。ずっと一緒だってな。」 ふいっと、視線を逸らせた新月。 そっぽを向くその耳は赤い。 「へー」 クツクツと笑う、玻璃。 「赤ちゃんかぁ・・・いいなぁ。赤ちゃん時知らないし」 「さすがに赤ちゃんの頃は覚えてないって。記憶があるのは、2才ぐらいからだよ。  しー可愛かったんだー。お父さんって舌足らずで…Vv」 舌足らず・・・と、瑠璃と玻璃の視線を一身に浴びたのは。 云うまでもないだろう。 未だにそっぽを向いているその人だ。 思いついたように、瑠璃が首を傾げた。 「オレ微妙に記憶あるよ?殺されないように必死だったし」 「ヤ、オレらが特殊なんだって;でも舌ったらずなオレねぇ・・・」 ちらり、と、新月を見遣る。 つい、とその視線を避けた。 「そうか…」 苦笑を零す、日食。 「あれは忘れるのが難しいよな……。」 「命がけで結果ん中で生きてたし」 沈んだ表情の日食。 対照的に、サラリと云ってしまうのは瑠璃。 「オレは、お父さんやお母さん…じじぃに…しーに皆に守られてばかりだから…。」 「そっか、でも、良いと思うなぁ・・・。だって、守りたいんでしょ?」 うん、と笑う日食。 「はー、正反対じゃね?オレら」 「そうか?お前がやってる事は、オレと同じだと感じるけど?」 そうかもな、と。 微笑する玻璃。 気に食わないが、ふうん、と生返事を返す新月。 そういえば、と瑠璃が話題を切り替えた。 「お前らの仲間って、誰と誰?」 「俺も気になってたんだよな。特上でてくっし」 片手を挙げて、賛同する玻璃。 明るく笑う日食。 「ハヤテとゲンマのおっちゃん、イルカ先生っ!」 二人目までは素で聞いていた二人だったが。 三人目の名前が出た瞬間、目を見開いて驚く。 「イ・・・イルカ先生!?」 「なんでまた・・・?」 本気で驚いている二人に、首をかしげて。 悪戯っ子のような笑顔を日食と新月は浮かべた。 「イルカ先生とオレらで、木の葉のトップ3!」 「オレらが出てくる前は、凛…イルカせんせがトップだったぜ。」 ブイサインを送る日食と。 その横で、不敵に笑む新月。 瑠璃と玻璃は顔を見合わせた。 これは笑うしかないだろう。 「へぇ・・・ウチはオレと瑠璃の前は畑上忍だったしなぁ・・・」 「えぇ〜〜〜カカシ先生ぇ〜〜〜っ?!!」 凄いブーイングが起こる。 それはアタリマエだな、と。 うんうんと頷く瑠璃、玻璃、新月。 だがまぁ、事実は事実だ。 致し方あるまい。 「うん。今はオレらのおもちゃv」 「…むぅ…とことんやって。 」 どうやら、とことんカカシが嫌いなようだ。 何処に行っても、例え異世界でも。 嫌われ者のようだ。 もし、カカシがマトモな世界があるなら、是非、是非、是非、行ってみたい。 そして、此方のカカシの愚考の数々を余す事無く云い連ねて。 真面目に反省するところが見てみたい。 叶わぬ願いだな。 溜息の後、四人共に少し遠くを見詰めた。 「今は、オレと玻璃と・・・キバたち?」 「へぇ〜キバとあと誰?」 現実へと己を引き戻そうと思ったのか。 瑠璃がそう切り出せば。 日食が興味深そうに、身を乗り出した。 「キバ・シノ・ヒナタにネジだな」 指折り数えて、玻璃が言えば。 へぇ、と、面白そうなものを発見したかのように新月が頷いた。 「そうか、今度はそいつらも連れてこいよ。見てみてー」 「かまわねぇけど・・・あ、後、砂わかるか?」 玻璃の問いに、片方の眉を器用にあげて。 「あぁ。」 低く、頷いた。 我愛羅を思い出しているのか、ソレは判らないが。 あまりいい記憶は無いと見える。 それとも、記憶していなかったのだろうか? 中忍試験という面倒だった物の記憶を、適当に消去していたのかもしれない。 「砂のテマリな。アイツも仲間」 「へーおもしれー。」 本当に驚いたようだ。 口調はまんまだが、瞳が一瞬、見開いたのを玻璃は見逃さなかった。 同時に、玻璃の唇が一瞬楽しそうに綻んだ所を、新月は見逃さなかった。 「こっちはどうなんだろな?悪ぃ事しちゃったか……。」 「さー?でもテマリは我愛羅を一言『可愛いv』って言う、つわものだってば」 声真似付きで、瑠璃が云う。 いやもう、常々だ。 なにしろ砂の暗部に入った理由が、『可愛い弟達を父に代わって守るためだ!』とのことなのだ。 ツワモノ以外の何者でもないだろう。 考えようによっては、家族思いの素敵な一家の御姉さんなのだが・・・。 如何せん、それで守るために暗部になるという手段を選ぶところが、テマリだ。 「いいやつだな。」 うん、と頷く日食と新月。 「普通に、良いヤツだぜ?テマリは」 「そーそー。お姉ちゃんみたいな?」 二人のそれに、ニィっと笑って。 其方と此方は。 根本が同じかもしれない。 色々、違うけれど。 それなら、『テマリ』という存在も、『そう』なのかもしれない。 自分達のように。 まるで鏡。 どこかが違うけれど。 例えば、笑い方。 例えば、仕草。 例えば、思い出。 例えば、生き方。 例えば、家族。 例えば、仲間。 そう。 もし、あの時、あの場所で。 あの人が、あの行動をとらなければ。 こうなっていた『かも』しれない、という、自分の姿。 もし、シカクがナルトを養う事を是としなかったら? もし、シカクが一族の反対を押し切ってシカマルを育てていたら? もし、もし、もし・・・。 そんな、『もしも』の例え話。 そんな、存在。 万が一にも、何処かが補われて。 何処かが欠けたら。 そう、成っていただろう、自分。 それが、目の前の存在だ。 新月はニィと、唇を吊り上げる。 その『もしも』があったなら。 『そちら』のテマリと『こちら』のテマリとに、共通の何かがあるかもしれない。 ないかもしれない。 結局は、確かめなければ判らない。 もしもの話。 面白い。 試してみようか。 「今度遊びに行くか。」 その笑顔の裏で、どうすればいいかはもう決まっているのだろう。 日食は手伝う気満々だ。 「結構、面白いぜ砂の日常」 なにかを思い出したのか、玻璃がクツクツと笑い出す。 ピンとキたのか、その横で瑠璃も笑い出した。 「そーそー、カンクローが笑えんの!」 ケラケラと、笑いながら。 カンクローの失敗談を話す二人。 あまりにもな実話に、日食と新月も爆笑した。       子ども達が会話を繰り広げる中。 台所から帰ってきたヨシノは、優しく笑った。 う〜んVvどこでもうちの子達は可愛いわぁ〜Vvと、その笑顔の下は、こんな感じだが。 パッと見は、慈愛の笑みを浮かべる聖母だ。 そんなヨシノから、おつまみになりそうな皿を受け取って。 九重がニヤリ、と笑った。 人を食ったような笑み・・・とでもいうのか。 いや、実際に九重は人を食っているのだが。 そちらの方は今回のコレに関係は無い。 「おい、奈良・・・酒でも飲まねぇ?」 「あぁ、いいつまみがあることだしな」 酒を飲むジェスチャーをする、九重に。 ニィ、と、笑って。 顎でじゃれあっているとしか見えない、子どもを指す。 「確かに極上の肴だなーv」 「だろ?」 ヨシノから受け取ったグラスを目の前に掲げた。 それに習うように、シカクもグラスを掲げる。 グラスのぶつかる澄んだ音が響いた。 「つか、奥さんは?のまねぇの?」 子どものように首を傾げる九重。 「うーん、酔っぱらったら目の前の楽しみが堪能出来ないわ。」 ヨシノはにっこりと、笑った。 シカクやシカマルにとっては脅威でしかない笑みも。 「ソレもそうだなー。」 うんうん、と、頷いて九重は流してしまう。 人に向けられるそういった感情に流されるほど、人として長く生きていない。 「ツマミを持ってくるわね。」 二人の目の前に置いたつまみの減りが激しい。 よくよく見てみれば、喋りながらも、新月や日食。 瑠璃に玻璃まで、手を伸ばしていた。 微笑ましく思いながら、子ども達にはジュースをと思う。 台所に消えたのを気配で確認してから。 九重は、シカクのわき腹を突付いて、にやぁと笑った。 いやもう、心底楽しいですvと云わんばかりの笑みでもって。 「良い嫁さんじゃん、奈良?」 「あたりめーだろ?オレの嫁さんだぜ?」 からかったつもりが、逆に惚気られた。 向こうのような反応を期待してたんだけどなぁ・・・と。 横目で、そっぽを向いて顔を赤らめている新月を見遣る。 目の前にいるアレを成長させた人物はニヤリ、と笑っただけだ。 まぁ、この反応も面白いからOKだ。 「ごっそーさん。と、おくさーんv旦那がねー!」 子ども達の前にジュースを置いて、此方へとおつまみを持ってきたヨシノを捕まえる。 ニヤッと笑う九重と、何故か慌てるシカク。 急所はやはりヨシノか。 「なぁに?九重ちゃん。 」 少女のように可愛らしく、頬に手を置くヨシノ。 九重はニッコリと、誰もが振り返るだろう微笑を浮かべた。 「奥さんのこと、デレデレと惚気られちまったーv」 あら、と目を軽く見開いて。 自身の夫をみると。 スッと、視線をはずされた。 あらあら、と。 余裕の笑みを九重に返す。 「ん〜〜早く九重ちゃんもお嫁さんをもらうといいわ。そうしたら仕返しが出来るわよ。」 やられた。 そう、内心、爆笑する九重。 堪えきれないように、肩が揺れて忍び笑いが洩れる。 うん、面白い。 面白い人間は好きだ。 「オレの恋人は、仕事デス」 茶化すように笑う。 けれど、真実味を帯びていて。 クスクスと、お茶を飲みながらヨシノは悪戯っぽくウィンクをする。 「仕事じゃ色っぽくないわね。いい子紹介するわよ。」 「人間との子だと、寿命がなぁ・・・」 少し真面目に唸る。 ああ、確かに、と。 シカクとヨシノが顔を見合わせた。 そういえば、スーパー九尾だっけ。 と。 どうやら、二人の脳には『スーパー』九尾とインプットされたらしい。 「そうね、それじゃぁ寂しいわよね。」 うーんと、小首を傾げるヨシノ。 ふっと、ひらめいたのか。 九重に近寄って、こそこそと、耳打ちをする。 「…ナルちゃんのお腹の中は、彼女にならないかしら?」 「・・・つか、メスなんかな?」 首を傾げる九重。 「男でも彼女にはなれるわよvv」 コソコソ話は続く。 微妙に、シカクが不機嫌そうな顔をしている。 それに気づいているが、ソレを楽しんでいる九重と。 気づいているようで、気づいていないヨシノ。 「あー・・・俺、結婚すんなら・・・絶対に子ども残さなきゃいけねぇ身なんで」 「分かったわ、とりあえず彼女が出来たら報告してね。お祝いしてあげるわ。」 その言葉に、柔らかく笑う九重。 一瞬、見惚れた。 何の含みもない笑顔は、人を落とすには十分だ。 シカクとヨシノは顔を見合わせる。 やはり、妖狐なのだな。 そう、今更ながらに思う。 人を惑わせ、狂わせ、貶める。 けれど、その真情は常に純正。 そして・・・身内には、とても優しい。 「奥さん、見たいッスかぁ?」 先程の笑顔はなりを潜めて。 今度はヘラッと笑う。 一瞬キョトン、とした表情を浮かべたヨシノだが。 それが、日食の中に居る『九尾』の事だと思い当たり、ぱぁっと笑顔を浮かべ。 首を立てに振る。 「うんうんvv。」 「んじゃ、出しますか。つっても、オレの分身に魂宿らせるだけだけどねー。」 へらへらと笑って。 それから、虚空を見上げた。 ただ、ぼんやりしているだけにも見えるが。 その実。 チャクラが異常に集中しているのがわかった。 しかし、本人、いたって不真面目だ。 調子は軽い。 「あー・・・繋がった繋がった。おいこら、ちょっと出てこいや。」 『……イヤ』 パチパチと九重の周りで火花が散る。 それは、チャクラの破裂音。 渦巻くそれは、九重の分身を形成する。 しかし、それは途中で崩れ。 破裂音の渦が、それに巻き込まれ。 形を成していく。 「いいじゃん、ちょっと来い。つか、だすから」 似非爽やかに微笑んで。 一気に印を切った。 渦が収縮し。 人を形作った。 「……ネムイ」 ぼうっと呟く。 眠そうに半分落ちた目蓋に、中性的な顔立ち。 九重がニッコリと笑った。 「はいはい。ツーコトで、奥さん。コレがコッチのナルん中の九尾ー。」 まるで何かの新商品を紹介するかのような、言い草だ。 だらしない、寝ぼけた顔でヨシノに片手を挙げた。 どうやら、挨拶のつもりらしい。 「…しーの中の間違いじゃなくて?」 ふっと、こちらを訝しげに見た日食の言葉に、「ヤ、お前の中からだから」そう云って笑って。 九重が自身を指差す。 「つか、ここにもいるだろ?シカん中からじゃねーのっていう、九尾がv」 「あ、そうか。」 納得するのもどうだろう、と。 その場の何人かは思った。 「オレとナルは別人格だからなー。気にすんなv」 日食の頭を撫でながら、笑う。 そっかぁ、と頷く日食と。 不機嫌そうに、九重から日食を奪い返すように引き離す新月。 「……カエル」 億劫そうに、クッションに寄りかかって云う。 いや、駄目だな。サラッと九重は云った。 「つか、お前名前は?名乗ってねーだろ?」 「狐夜…。」 茶と黒を混ぜたような色合いの髪を、掻き揚げる。 足首まで届きそうな髪が、クッションに、床に散らばった。 「へいへい、狐夜と。俺は九重な」 笑いかける九重。 眠そうだが、大きい瞳がふうん、と頷いた。 「ココノエ………カエル」 「却下」 へラッと笑いながら。 弧夜の頭をぐりぐりと撫でた。 「九重・・・苛めるなてば」 その様子に、呆れる瑠璃。 「いじめてねー」 ケタケタと笑いながら狐夜を構い倒しす。 眠いのに、邪魔をされていい気分になる者等いないだろう。 「寝てるの邪魔してるんだから、いじめだって;」 溜息をつく瑠璃。 弧夜は周りを見渡した。 ヨシノに近寄ると、正座を崩して坐っていた膝に頭を乗せた。 あら、と、驚いているヨシノを一瞬上目遣いで見遣って。 ヨシノを見、九重を見、他の面々を順繰り見遣ってから。 結界を張った。 よほど、寝たいらしい。 「生意気ー」 ケラケラと笑う、九重の陽気な声が響いた。       茶を啜って一息ついたところで。 新月が瑠璃と玻璃をふと見遣った。 「そう言えば、お前らっていつまでここに居る?ゆっくり話を聞きてー。」 その問いに、異口同音に出た答えは、一言。 「九重が厭きるまで」 やけにキッパリと云う。 「ならハヤテ達を見れば、ずっと居れるな。」 「……しーとハヤテの方が、もっと面白いと思うけど?」 ボソッと呟いた、日食のツッコミは新月に黙殺された。 「・・・特上んなに面白れぇの?」 「あぁ、ハヤテとゲンマも夫婦だ。ゲンマが妻。」 云われた言葉を反芻して。 互いに顔を見合わせて、溜息をついた。 「もう、好きにしろ・・・って感じだな」 心底呆れた声を出したところで。 堪えた様子は無い。 新月なのだから仕方ないだろう。 「あいつらは良い感じだから、一回見とくといい。」 「へー・・・みてみてぇな・・・呼べねぇの?ここに」 ココ、と指差す。 かなり遠い目をした新月。 「………仕事が終ってるといいな」 その言葉に、日食があー……とやはり、遠くを見詰めた。 『ハヤテ聞こえるか?  速攻ゲンマを連れて、オレの実家にこいって。おもしれーもんが見れるぞ。』 「なに、まだ仕事してんの?」 瑠璃が首を傾げれば。 日食が曖昧に笑った。 『………長……貴方の仕事のせいでまだ帰れないんですね。…貴方がこちらに来て頂けるのでしょうか?』 「・・・おい、お前・・・」 呆れた顔で、新月の方を向いた。 その視線を一切無視して。 『や…ハヤテくん、オレすっげぇ〜忙しいノヨ。それに良いバイト要員も目の前にいっから、速攻終らせて来てくれるカナ』 「・・・新月ってさ・・・つか、オレらがバイト要員か・・・」 玻璃の溜息は無視して。 『バイト要員ですか……分かりました、行きましょう。  あぁ、仕事ももっていきますから、楽しみにしていて下さい。』 『バイト要員が仕事をするって言ってんから、いくらでも持ってきな。』 途絶えた心話。 日食がニッコリと笑う。 心話を読み取れるようにと開発された印で。 二人の会話を聞いていたからだ。 ゲンマに教える気なのだ。 ふうん、と玻璃が頷いた。 「・・・なぁ、賭けしねぇ?」 ニヤッと笑う玻璃に、瑠璃が身を乗り出した。 「なにするってば?」 「新月と日食にオレら成りすますから。何処までバレねぇか。」 その提案。 言葉にした瞬間。 ニィっとほぼ同時に、新月と瑠璃が笑った。 「じゃぁ、オレ達は隣の部屋で、覗き見な。」 目を輝かせて、何度も頷く日食の髪を撫でた。 「何分がいい?新月」 「オレ、二十分にかけるからv」 玻璃が問えば、瑠璃が手を挙げて応えた。 「10分ぐれー?」 「3分っ!」 ニヤニヤ笑う新月と、元気良く返事をする日食。 「まー確かに、上司見抜けなきゃダメだよなー・・・。オレは15分で。」 クツクツと笑う玻璃に。 シカクとヨシノ、九重も勿論参加する。 「オレも3分。」 「あたしは、15分ぐらい見ていたいな。」 「んじゃ、俺は三十分でー」 思い思いの見解と反応に、笑いあって。 瑠璃がよっしゃ!と、拳と掌を合わせた。 「んで、狐夜は・・・寝てるし、いっか」 ヨシノの膝の上で幸せそうに寝ている弧夜。 起すのは忍びない。 よっこいせ、と新月が立ち上がった。 「なー、あっちへ行くぞ。」 隣の部屋へと続く扉を開けて、日食を手招きする。 うん。と頷いて、瑠璃と玻璃の方を振り返る。 頑張ってね、と言い残して、新月と一緒に隣の部屋へと消えた。 「さて、オレたちは準備しますか」 やる気のあるんだか、ないんだか、わからない独特の口調で。 そういう玻璃。 瑠璃は、おー!と、腕を揚げて。 二人、変化を解いた。