【はじめまして?(後)】 面白そうに笑う新月と日食に、玻璃と瑠璃は心持目じりを下げて。 苦笑を溢した。 日食と九重の攻防は続いている。 「期待したのになぁ。」 心底残念、と眉を八の字に下げる日食に九重が笑いかける。 「期待されてもこまっしなぁ・・・」 口調は困ったようでも、その表情は楽しそうで。 玻璃と瑠璃はもう暫く放置しておこうと、夕食を黙々と食べる。 「なぁなぁ、オレん中のやつ見てみたいんだけど、真似できない?」 きらきらと目を輝かせて。 無邪気に笑う日食。 それには苦笑を返して。 流石にわからないなぁ、と九重が首を傾げる。 そんな一連の会話を聞いた後。 ああ、そういえばと玻璃が眼鏡を押し上げた。 「・・・・・・向こう側サン、心話はなしの方向で」 日食は驚き、新月は面白そうに玻璃を見返す。 それに、やはり苦笑だけを返して。 「玻璃・・・お前ってさぁ・・・」 瑠璃がやれやれと溜息をつく。 今だ新月は面白そうにニヤニヤしながら瑠璃をみて。 「や、あんたらが変だって話だから。大声で聞きたかったか?」 聞きたいんなら言ってやるけど。 そういうんじゃないんだけど、と玻璃が苦笑を溢す。 そのやりとりを見ていた九重がクスクスと笑う。 「聞きたいっつーか・・・俺と玻璃には心話全部筒抜けv」 楽しそうに微笑む九重。 だが、言ってる内容は驚くに値するもので。 新月の瞳に、興味という知識欲の光が宿る。 「へー、印切ってないよな?血継限界?」 「いんやー。九重に植えつけられたんだよ」 身を乗り出さんばかりに、とは行かないが。 それなり以上に興味津々な新月。 印を組まずに、という部分が興味をそそるのだろうか? 九重は言うだけ言って、後はやる気が無いらしく。 黙々とまだ、ご飯を食べているし。 日食も興味があるのか、・・・どちらにしろ、説明はしなければならないらしい。 「・・・あー、説明いる?」 この興味津々な顔を見ればいるだろうけれど。 説明とか面倒くさいものを省いてもいいならば、と、一応聞いてみる。 「印切らなくていいなら楽だな。」 ニヤっと笑う新月。 こんなところは何処の世界に行っても共通なのだろうか?と瑠璃が首をかしげた。 「新月ってヤッパ、『シカマル』だなー」 その言葉にうん、と頷く日食。 互いに相手への認識は『面倒くさがり』だったらしい。 そのことに、二人で顔を見合わせクスクスと笑いだす。 それに少々居心地の悪い思いをするのは、新月と玻璃に他ならない。 その居心地の悪さを払拭しようと、玻璃が面倒くさそうに溜息をついて。 説明を始める。 「あーハイハイ。説明いくぞー。瑠璃、お前は食ってろ」 その言葉に、中断していた夕飯の残りを腹に入れようと、瑠璃は素直に頷いて。 それを見やりながら。 新月と日食の状況に玻璃は何処のバカップルだ?と、ツッコミを入れたくなった。 何しろ、新月の膝の上に日食が座り。 その日食にさも当然のように腕を回して、肩にあごを置いて。 それでも、興味深そうに此方を見てきたから。 これはツッコミをいれたら犬に食われるな、と玻璃は思って。 サラッと無視を決めることにした。 本人たちがそれでいいならそれでいいと。 「心での会話じゃん?結局は微弱な電波ナワケ。 んでー、オレの中には九重が植えつけてった『世界の知識』があるんだよな」 『世界の知識』はイマイチよくわからない、多分そういった呼び方をずっとしてきたのだろう。 それ以外のところにはうなずけるので、新月は軽く頷く。 「その電波を受け取れるって事か?」 簡単に言ってしまえば、そうなるだろう。 だが、実際はそこまでは簡単な話ではない。 とりあえず、目の前の自分は話について来れそうだ。 それだけのことが、少しだけ嬉しい。 「もっと、めんどくせぇんだけど・・・自然界に発生しうるものなら、全部『言葉』に変換?みたいな?」 曖昧だが、それ以上の説明も思いつかない。 本当に、『なんとなく』の感覚なのだ。 多分口に出して説明をしろ、といわれれば。 アレ以上の言葉はもう、浮かんでこない。 感覚、だから。 日食は首をかしげているが、新月は眉をしかめた。 「・・・・うるさくねー?」 どうやら、あの説明でもわかったらしい。 それに苦笑を溢して。 「マジうっせーよ。でも、なんもしなくても、情報は入ってくるな」 「だりぃ・・・・そんな機能なくていいわ。お前メンドくさくねぇの?」 めんどくせぇよ、そういって笑って。 でも、と眼鏡を押し上げる。 「慣れれば楽っちゃー楽だしな。普段はふさいでっし」 「そうか、慣れね・・・・。」 ふうん、と納得したのか。 二人の『シカマル』が頷く。 納得がいったのか、次の質問が頭を掠めた。 「で、お前ら何でここに居るんだ?」 とても初歩の質問だと思う。 日食と瑠璃はそう思った。 「ああ、それは九重のチカラ。九尾である自分がいる世界なら、何処でもワープ機能?」 「へー・・・。」 何か考えるそぶりを見せる、新月と。 のんびりと、確実に求めてた答えと違うんじゃないか?ということを言う玻璃と。 その二人にツッコミを入れていいのか迷う日食と瑠璃。 お互い顔を見合わせ、なんとなく、困ったように首を傾げる。 目的を聞いたんじゃないの?、という言葉を飲み込んで。 方法を聞いたんじゃないと思うなぁ・・・、という言葉を飲み込んで。 「ご馳走さん。コッチのナルの飯もうまいなv」 そんな雰囲気など何処吹く風の九重が日食の頭をなでる。 それに金縛りが解けたように、日食が首をかしげた。 「あのさー、オレん中のやつが出てきたら、にぃちゃんの世界にもいけんの?」 にぃちゃん、が九重をさすのか、あるいは自分たちを指すのかわからなかったが。 玻璃と瑠璃はつっと、九重を見る。 「さぁ?」 みられても困るよん、とあっけらかんと笑う九重。 未だに日食の頭をなでながら。 「九重、自分に責任もてってばよ」 溜息とともに瑠璃が言えば。 えー、と抗議が九重からあがる。 それを楽しそうに、けれど何処と無く意地悪くニヤッと笑った新月が止めた。 「九重さん、日食はオレの嫁さんだから、着やすく触らないでくれっかな。」 「嫁ねぇ・・・・」 構わずなで続ける九重。 が、瑠璃は間をおいて、お茶を噴出した。 「・・・・嫁!?」 目を見開いて、今さっきの言葉を反芻する。 「日食・・・つったっけ?コッチのオレ!」 「うん。」 素直に頷く、日食。 「嫁って、なんだ?嫁って!?」 その驚きように、ニヤニヤと新月は笑って。 テーブルに頬杖を着いたまま、からかうように口を挟んだ。 「言葉の通り。オレの妻。嫁。」 「はぁーーー!?」 「ちゃんと戸籍上の夫婦だけど・・・・何?」 心底、わからないと日食は首をかしげ。 やはりニヤニヤと笑う新月。 それに目を見開いて。 瑠璃はポカンと口をあけた。 「こせ!?・・・じっちゃんはコイツらどう、育てたんだってば!?」 呆れて溜息をつく瑠璃に。 新月は手を横に振って、勘違いを訂正する。 「じじぃに育てられた覚えはねぇなー。」 楽しそうに笑う新月に。 瞠目する瑠璃。 九重も玻璃もどうでもいいらしく、茶を啜っている。 「え?うっそ、マジで?」 「普通に育ててくれたけど?」 日食が小首を傾げてそういえば。 その日食の髪を撫でながら、新月が目を細める。 「日食も3才までは、オレの家で一緒に育ったぜ。」 優しい声音でいうそれに。 日食は嬉しそうに、けれど困った顔をこちらに向けて。 「3才までと今は、居るって事だよ。」 それに絶句する瑠璃。 横に座る玻璃のほうを見て、二人を指差した。 「はい?・・玻璃・・・幸せ家族がいる」 「ヤ、ところ変われば、扱いも変わるって」 だから、指差すなよ。 そういって、立ち上がっていた瑠璃を椅子に座らせた。 それを見ながら、今度は新月が聞いてくる。 「じじぃに育てられたんか?」 玻璃の目を見て言う。 両親は?という含みがあった気がするけれど。 それには答えないことにする。 「ん、ああ。じーサンに三歳ん時瑠璃と一緒に拾われてさー」 「育ててくれたのは、九重だけどね」 九重を見て。 笑う。 日食が少し遠くを見て。 「3才からずっとしーと一緒かぁ・・・・・・それでもいいなぁ。」 そんなことを言うから。 新月は苦笑を溢す。 自分としてみれば、まったく構わないけれど。 「お前なぁ、そんな事言ったら、おやじ達が泣くぞ。」 日食はそれは嫌だな、と頷いて。 瑠璃が興味津々に二人を見る。 幸せ家族とは一体どんな感じか。 というか、奈良家の中に一緒にいる自分というのが想像できなくて。 興味がわいた。 「普通の家族ってどんな感じ?」 「あ、オレも気になるわ。母さんと父さんってどんな人?」 瑠璃が言うのはまだしも。 それに玻璃が参戦したことに、少し以外に思った。 日食は首を傾げる。 「お父さんもお母さんも優しいよ。」 「てか、あいつら日食にすげー甘ぇ。」 にこにこと笑う日食と。 憮然とする新月に首を傾げるも、そうなのか?と頷く。 「へー」 その返事に、あの両親が普通だと思うのは少し待って欲しい。 そう思って。 新月が口を挟む。 日食と自分と、差があるのだから。 「おやじは、間違いなく変だ。かーちゃんは・・・・・懐がすげー広いってとこか?」 少し遠い目をして話す新月に。 首を傾げて。 「変なのか?母さんがねぇ・・・ウチの方は泣いてばっかいたしなぁ」 遠い過去の記憶を引っ張り出してみる。 どうがんばっても、思い出すのは泣きじゃくる顔。 「泣く?あ"〜?」 それにありえねぇ、と顔を顰める新月。 あの元気で怒ってばかりの、かーちゃんが?と、驚く。 「記憶にある母親なんざ、全部泣いてるぜ?」 苦笑交じりのその返答にありえない、と首を振る。 というか寧ろ、見てみたい、いや、本当に。 「怒鳴られる。殴られる。ナルトを嫁にしろと迫られた。」 指折り上げて、溜息をつく。 ウチのかーちゃんじゃ泣かないな、絶対に。 それに、ああ、と笑って。 「・・・あー・・・最近の母さんはそーみてぇだな。分身に聞いた」 「お、元気になってよかったな。」 「元気っつーか・・バレたらまた泣かせるんだろーなーと思うとなぁ・・・」 素直に喜べない。 それに、暗部とかそういうのがばれてないのか。 そう、わかって。 新月はふうん、と頷く。 そういう自分もいるんだな、と。 「ま、メンドくせーの返上して自分の幸せってやつを話してやんだな。」 ニヤリと笑う新月。 なるほど、と頷くのは玻璃。 そんな感じで書類とか操作して、戸籍上も日食を嫁にしたのか。 すごいな。 そう思う。 でも、なんとなく思うのは。 「・・・親不孝だろ、それは・・・」 「違うんじゃねーの?親孝行だろ?話せば分かる。」 うんうん、と頷く新月。 それに溜息をついて。 ボソっとつぶやいた。 「分かってくれるなら、座敷牢からオレは逃げなかったつーの・・・」 そういって苦笑する。 それに、新月は耳を疑った。 あの親が座敷牢に入れる?ありえねぇ・・・本気でありえねぇ。 そんな話を聞くと。 本当に目の前にいる、自分と同じような人間が。 まったく別の人間であると認識できた。 生き方も。 考え方も。 全部違う。 「それでも自分の事は話た方がいいと思うけどな。ま、事情を知らねーオレが言う立場じゃねーな。」 「わかってんだけどな・・・でも、謝罪以外の感情はあの人たちには持ってないしな」 互いに苦笑しあって。 先ほどから、奈良の家に行くの行かないのと話し合っている『ナルト』を見た。 今度は楽しそうに笑い合って。 「ま、オレん家の両親でも見て、少しは楽しみな。」 「おー、ま、観察させてもらうわ」 クツクツと笑いあった。 日食から奈良家の話を聞いて。 ふうん、と瑠璃は頷く。 「コッチのオレも子どもみたいな感じかー・・・良いってばね」 笑う顔は、少し寂しそうで。 どうしてかわからなくて日食は、首をかしげた。 先ほどの会話を再生してみて。 瑠璃は三代目と九重に育てられたのだと、思い当たる。 そうか、両親っていうものがわからないのか。 どうすればわかるか。 そんな事を考えて。 ポンと手を打った。 「そっか!オレん家来る?」 その言葉に目を見開いて、日食の実家=奈良家と思い当たるのに数秒かかる。 「ヤ、マズイっしょ?第一、九重どーしろと?」 「え?平気じゃない?お父さんもお母さんも喜ぶと思うけどなー。」 喜ぶか?喜ぶものなのか!? 息子×2が増えて尚且つ、九尾が邪魔しても喜ぶものなのか!? 考えてもわからなくて。 目の前でニコニコと笑っている日食に問いかけてみる。 「よろこ・・・そういうもんか?」 先ほどまで此方の話など全く聞いていなかっただろう、九重がTVを見ながら笑う。 「家庭それぞれー」 TV見ながら言われても・・・九重、威厳とかないってば。 胸中そんなことを思って、日食を見遣れば。 さっきと変わらず、ニコニコと笑って。 「そーいうもん。」 さらりと返された。 そういうものだと言われれば、他を知らない瑠璃は頷くしかない。 「ふぅん・・・面白いってば」 「じゃぁ、片付けたら行こうっ!しー、お父さんに連絡っ!」 食器をガチャガチャと下げだす日食。 食器を下げるのはいいと思うんだけど・・・と瑠璃。 「まて、日食・・・任務は?」 あ、っと台所に食器を置いて、手を打つ日食。 「しー今日は?」 「単独無し、S4つ。こいつらが居るんだから、後回しでも大丈夫だろ。」 ニヤっと笑う新月。 手伝わせる気満々のその顔。 「手伝わせる気だってば?」 一応、確認すれば。 「暇だろ?」 そう返ってきて。 まぁ、確かに、と頷く。 「ま、手伝うってば。でも、任務先ね」 瑠璃のそれに、どこからか舌打ちが聞えてきた気がしなくも無い。 満面の笑みを浮かべる瑠璃の横で、日食が新月を見上げる。 「さっき渡した任務書、あれ今日のだろ?」 「しゃぁねーなー、分けるか?それとも、俺達は後方支援でいいか?」 その方が動かなくて楽でいいなーと、玻璃を見れば。 時間の短縮の方が嬉しい玻璃が目を細める。 「手分けしようぜ。めんどくせぇし」 少し背の高い、年が上の自分を睨みつける。 露骨なその態度と、顔にでかでかと書かれたメンドくせーの文字に。 日食がいつものことだなーと笑い。 瑠璃が呆れた。 「しー諦めろって。」 「玻璃以上のめんどくさがりだってば」 なんとなく、一人悪者になった気がして。 新月が溜息をついて、わーぁったと口を開いた。 「へーへー、じゃぁ1時間後ここでな。」 任務の指示書を持って立ち去ろうとする新月に、玻璃がストップをかける。 「ちょっと待て。頭数に、アレいれたか?」 アレ、と九重を指して。 新月は首を傾げる。 アレは数に入れてもいいのか?と。 「入れていいのか?」 頷く、玻璃。 「ふーん、じゃぁ九重さんS2つ。」 爽やかに微笑んで、指示書を二つ差し出す新月。 任務が減るのが嬉しいらしい。 そんな新月に、日食を腕の中に閉じ込めて、九重が爽やかに笑って流し目をする。 どうやら、対抗しているらしい。 「ソレは無理だなー」 「・・・・・きしょい。」 ボソッと新月がつぶやいて。 九重の腕の中の日食に、手を伸ばす。 「なーこっちこいって。」 それに、迷わず日食は駆けていって。 九重は爆笑する。 「聞いたか!?きしょいっつたぞ、おもしれー!」 腹を抱えて笑う九重に、玻璃と瑠璃は溜息をついた。 「からかうなって」 「慣れてないんだしさ・・・」 深い溜息は、九重の爆笑に途切れて。 ますます、溜息が深くなる二人。 日食は新月に抱きついて。 「・・・・しー元々オレ達のだろ?半分で諦めなって。」 ね?と上目遣い。 そんな二人に更に笑って。 目じりに溜まった涙を拭って、九重が二人の頭を撫でた。 「えー?一つはやってやるぜー?飯食ったし」 新月の持っている指示書を一つ抜き取って。 笑う九重に。 疲れた気がする・・・と溜息を一つ。 その気持ち、なんとなくわかるなぁ・・・と瑠璃と玻璃が苦笑をした。 「へーへーへー。じゃぁ30分後。」 そういう新月に。 九重はふっと消え。 瑠璃と玻璃は、三代目にやるように。 方膝をついて。 「「承知」」 そう言って。 舜身で消えた。 それを見送って。 日食と新月は顔を見合わせ。 互いに微笑を溢して。 闇に、消えた。