【はじめまして?(前)】 何時もの通り、暗部の服を着て。 六人が中庭に立つ。 今から、仕事だ。 とはいっても、今日の任務はAランク。 ナルトとシカマルはでしゃばるつもりはない。 依頼の巻物を広げ、作戦を全て伝えて。 諜報の任務というコトも手伝ってか、普段の変化よりも少し下。 十五前後に変化をする。 髪の色も、目の色もそのままだ。 面で顔を隠してしまうのだから、キバやシノ、ヒナタにネジにとってはさほどの問題は無い。 ナルトとシカマルにしても、背後から見ているだけなので必要はない。 いざ・・・という時に限って、現れる人物・・・否、妖に溜息をついた。 「おーい」 笑顔で機嫌よく手をふる、保護者に苦笑と溜息が零れる。 「あ?」 「どしたの?」 ナルトが首をかしげ、シカマルは嫌そうな顔をする。 だが、まぁ・・・邪険に扱えないのは仕方が無いことだろう。 金茶の髪を自らの手で梳いて、九重が笑う。 「や、面白いもん見っけたから。一緒にいかねぇ?」 九重が面白いというものだ。 心底、楽しめるモノだろう。 けれど、この言い回し・・・なんだか嫌な予感がする・・・と。 シノとネジは顔を見合わせた。 「別にいーけど・・・任務どーすんだよ?」 ヒラヒラと巻物をはためかせて、溜息をつく。 一緒に行くというコトは、九重に任務を任せるわけでもないのだ。 「そうそう」 ナルトがしたり顔で頷く。 二人の反応に、ニヤっと。 艶やかで、けれど嫌な笑いを唇に浮かべて。 紅い瞳を細めた。 「キバ達にやらせる」 半分は想像していた言葉だが、言われるのと想像はまた別物。 キバが、拳を空に向けて反論する。 「ちょーっとまてっ!!」 「流石に無理があると思う」 それに同調して、シノも眉を寄せて否定する。 おろおろと、視線を彷徨わせて、けれど言わなければと、ヒナタが口を開く。 「えっと・・・あのね・・・昼の方の任務は・・・」 「がんばれ!」 ヒナタの肩に手を置いて、似非爽やかに九重が励ます。 ・・・しかし、それは最後通告に近い。 「・・・影分身を?」 誰が・・・と言おうとしたネジの言葉をシカマルの言葉が遮った。 「訓練に丁度いいか?」 「確かに・・・」 その横で、ナルトが含み笑いをする。 それに、焦るのは他の面々。 「おい、ちょまっ!?」 「後、よっしくー」 九重の間延びした声と共に、三人が姿を消した。 後に残されたのは、途方に切れる四人。 「どーしろってんだよ!!」 至極最もな、キバの叫びも。 虚しいだけだ。 静寂を打ち払うように、シノが呟いた。 「・・・とりあえず」 「とりあえず?」 「じゃんけんか?」 聞き返すネジと視線を交わして、真面目にそんなことを言う。 「え?」 ヒナタが判らないと、首を傾げれば。 「昼の任務の影分身」 要るかどうかは判らないが、と付け加える。 「・・・ま、負けらんねぇっ」 キバがグッと拳を前に突き出す。 それに従うかのように、他の三人も拳を突き出した。 「「「「じゃーんけーんぽん!」」」」 暗部の姿の四人がじゃんけんをしている姿を。 見るものが居なかったのは、幸いかもしれない。 食卓について。 愛妻の夕食をのんびりと食べる。 あれこれと世話をしながらも、どこか幸せそうだ。 本人達にとっては、至極幸福な時間である事に間違いは無く。 二人とも心なしか目尻が下がっている。 ポツポツと交わす会話も、嬉しいものだ。 まさか、それを壊すものがいる筈が無い。 なにしろ、この家の周りには数々のトラップや結界に阻まれているのだから。 しかし。 イレギュラーは起こるものだ。 突如空間が歪み。 黒く楕円に切り取られたかと思えば、目を開けていられないような眩しい光に視界を遮られた。 家の中にそんな発光物を置くわけも無く。 つい、呆然とコトの成り行きを見てしまう。 反応という反応が出来ない。 唖然と目の前に落ちてきた三人を見遣る。 殺気は無い。 逆に暢気に首や肩を回していたりする。 ナルトが、青い大きな瞳を更に見開いて。 お椀を左手に、右手の箸は口にご飯を運んだままの体勢で固まってしまっている。 「寝不足すぎ?幻が見えるんだけど・・。」 口に入れたご飯だけは必死に飲み込んで、ポカンと今度は口を開けてイレギュラー達を指差す。 これで目の前の存在に殺気さえあれば、すぐさま迎え撃つのだが・・・。 殺気のさの字も感じない。 それどころか、一種安心感さえ感じてしまう。 目の前の。 三人に。 一番背の高い金茶の髪に紅い瞳の青年が、キョロキョロと辺りを見回して。 六人掛けのテーブルにさっさと座ってしまう。 それに黒髪と金髪の二人が溜息を着く。 少し年齢が高いようだが、どこか自分達に似ている面影に内心首を傾げるナルト。 シカマルはといえば、スッと一度瞳を細める。 ずば抜けて高いIQを誇る。 その知識量も半端ではない。 自分の仕掛けたトラップ、それに一つも引っかからずに辿りつく事。 それは容易い事ではないが、不可能でもない。 それ相応・・・否、五影以上の実力の持ち主ならばギリギリの所で可能な範囲だろう。 しかし、いくらトラップを潜り抜けたとしても、結界ばかりは誤魔化せない。 壊すか、弾かれるか。 二つに一つだ。 だが・・・箸を離すことも、夕食を食べる事も忘れずに心の内で頷く。 現に、此処に存在する。 それは紛れも無い事実。 ならば、自分の知らない未知の術か。 ・・・・・・在りえないとは言い切れない、並行宇宙論の実証か。 とりあえずは、と。 先ほどから固まってしまっている、愛妻に言葉を返す。 「大丈夫だ、オレにも見える。」 その言葉にホッとしたのか、ナルトのこわばりが僅かながらに解ける。 「トラップは全部正常だから、オレの知らねー術かなんかだろ。」 味噌汁を啜りながら、食事を進めるように促す。 それにぎこちないながらも、視線は現れた三人組に注ぎつつも。 あと少しだった夕飯を食べる。 何かを企んでいるだろう、旦那には溜息をついて。 いったん箸を置いたシカマルが取り出したのは書類の束。 無造作に使っていないテーブルの半分に、置いて。 「オレに見えるあんた、これな。 ナルトに見えるあんたは、これ。 それから知らねーあんたはこれ。 やっとけ。」 さっさと配当して。 唇にはシニカルな笑み。 横柄とも言える台詞に、『見える』との評価を貰った二人と『知らねー』との評価を貰った青年が互いに顔を見合わせて、フッと背ける。 心なしか、肩が震えているように見えるのは気の所為か。 「終ったら飯食わしてやる。」 並行宇宙論が実在するならば、別の次元からの異邦人に対してこの位の事は試してみてもいいだろう。 年上に見えるが、それは変化だろうとわかる。 暗部の服を着ているのだから、それ相応程度の能力はあるだろう。 何よりも、自分の仕事が減る。 一石二鳥とは正にこのことだ、と笑みを深める。 が。 座っていた金茶の髪の青年と、少し大人びた自分たちは噴出し、笑い始める。 「・・・あははははっっ!!」 腹を抱えて、テーブルを掌で叩く青年。 「いい!ウケるっ!!」 「お前、最高っ!!」 ほぼ同時に、爆笑を始めた少し年上の自分たちは、ヒィヒィ言いながらも書類を片付けていく。 やる気などサラサラ無かったが、横柄で厚顔なその物言いが気にいったのだ。 ただ、金茶の髪の青年だけはその目尻の涙を拭っても、書類に手をつけない。 後の二人がその青年の分までをこなしていく。 あー笑った、と独り言を呟きながら。 優しげに目を眇め、微笑を湛える。 「こっちのナルは可愛いなぁ・・・ああ、昔のナルとシカはこんな感じだったかー?」 笑いながら、未だに事態を把握していないのかキョトンとしているナルトの髪を撫でる。 敵ではありえないだろう、慈しむような手つきだから。 ナルトはフッと笑みを溢して。 青年の前に夕飯を差し出す。 未だに笑いながら、それでも書類をこなす二人と夕飯を食べだしている青年を繁々と観察しながら。 面白い、とナルトは評価を下す。 シカマルは夕食に夢中だ。 「「ごちそうさま。」」 二人同時に、そう挨拶をして。 シカマルがほんの少し未来の自分たちの姿を象っただろう、二人を指差して。 「なー、こいつらの分の用意。」 それに素直にナルトは頷くと、台所へと消えていく。 出来上がった書類をとりあえず、確認する。 そして、じっと自分に似ている誰かを見つめる。 喰えない笑みを浮かべて誰に聞こえるわけもない音量で、「長の代わりみつけたな。」ポツリと呟き。 二人の方へと面倒臭そうな、けれど面白いものを見つけたときのような。 そんな視線を投げかける。 「オレは新月、あいつが日食だ。あんたら暗部名あるよな?何?」 確実に同じ名前だろうと、シカマル・・・新月は暗部名の方を聞く。 それに、目の前の二人が瞳を細めた。 所見だと、かなりの実力の持ち主だ。 新月は楽が出来るのならば、手段を選ばないタイプ。 先ほどの書類といい、時折見せる油断ならない視線といい。 夜の仕事・・・そう。 暗部と戦略部の長という立場を押し付けるに、ふさわしいと踏んだ。 つっと眼鏡を押し上げて、とりあえず口を開く。 「んー?オレが玻璃。んで、こっちが瑠璃。それは九重」 シカマルに似た少し大人びたシカマルは、自分を玻璃と。 その横に座る少し大人びたナルトを瑠璃と。 最後に、先ほどから暢気に夕食を食べている青年を九重と。 そう、指をさしながら答える。 それに憮然と顔を上げて。 「おいこら、俺はソレかよ!?」 九重が抗議をするが、それはサラリと眼鏡の奥の瞳に無視をされてしまう。 いつもの事だろ、と瑠璃が苦笑を溢して。 玻璃がお茶を飲み干して。 「ちなみに、九重は九尾な」 重大だろう、発言を溢す。 「おいおい、言って良いのか?ソレ」 瑠璃と日食が目を見開いて。 九重は知らぬ存ぜぬを通し、新月はふうん、と興味なさそうにちらりと見ただけだ。 「いいんじゃねー?だって、いるだろ?」 「まぁ、感じるし。いーけど・・・あ、ご飯頂戴v」 あっけらかんと、日食にご飯を強請る瑠璃に。 日食は頷いて。 九尾だという、九重に視線をむける。 特に実害もないようだし。 九尾だといわれても、さほど実感がわかない。 そっと自分の腹に手を当てて見る。 今、目の前で。 暢気にご飯を食べている人と、同じ者が腹の中に入っているのだろうか? 首を傾げて。 ジッと、九重を見た。 新月が特に反応をしないのだから。 この目の前に存在する、九尾を信じてもいいのだろう。 一瞬、力が抜けて。 後に湧き上がるのは、疑問だけ。 首を傾げて。 聞いてもいいのだろうかと、おずおずと話題を繰り出した。 「えっと・・・オレの腹の中の人も、もっと食べる?てか、オレの中にあんた居んの?」 よく食べる人・・・あれ?獣だな、と思いながら。 「あー、食う。俺じゃないけど、いるなー」 茶碗を渡して、楽しそうに笑う。 本当に里を襲ったのはこの人なのだろうかと、思う。 目の前の人物でなくても。 害がなければ、会ってみたい。 山のようによそったご飯を、九重の目の前において。 「ふ〜ん・・・・オレのも出てこないのかな?」 繁々と自分の腹を眺める日食に。 九重の目尻が下がる。 「出てきてもさー・・・オスかメスかもわかねーぜー?」 判らないのか、と真剣な表情で聞きながら。 全員の配膳を済ませ、新月の横へと座った。 「・・・え?ちょっとまて!」 瑠璃が立ち上がると、九重の襟元を握り締めて。 ガクガクと揺らす。 「あー?」 「なんで、性別がマチマチなんだよ、コラ!」 さり気なく、その二人だけを結界の中に押しこめている玻璃。 どうやら夕飯を台無しにはしたくないらしい。 「は?・・・・・・あんた・・・じゃなくて九重さんだっけ?・・・・・は、どっち?」 九重の発言に不思議そうな顔をして首を傾げる。 日食に揺さぶられたままの九重は、顔を向けて。 「俺はオスー」 ヒラヒラと手をふる。 そうすれば、話題を逸らされたのを怒る瑠璃。 「オレを無視すんな!九重!」 「メスにもなる?」 期待しているような日食の目に、九重が苦笑を返す。 「変化すればなー」 笑う九重に、聞けよ!!瑠璃が更に揺さぶる。 『なんかこいつらもおもしれーな。』 『変・・・・だよねぇ?』 頷く日食に笑う新月。 それなりに楽しい夕飯の風景だ。