Fantasy with O3 9  

   という事で、この先に行きがてら、山賊退治。荷物の入ったリュックを背負って、手には一応棒を持って、森の中をてくてくと歩いています。  いかにも騎士らしい武器を持った男三人が歩いていても、山賊も敬遠するだろうという意見により、はーい、あたし、囮です。真横に、見えないローランさんがくっついているけどね。自分の体に術をかけたらしい。詳細は不明だけど。術って、色々出来るんだなぁ〜と、現在感心中。   「サミ殿」 「ん〜?」 「やはり、私が囮に」 「ダ〜メ」    あまり喋れない。だって、あたしにだって、あたししか見えない。ローランさんの声だけしか聞こえない。こんな状況で喋っていたら、やばい人だよ。   「お嬢さん」    きたきた?   「最近、この辺は一人じゃ危ないという噂ですよ」    一見、商人風のおじさんが、背後から声をかけてきた。   「そうなんですか?」 「えぇ、山賊が出ているとか」    一応困った顔をしてみる。あたし…演技力あるか?し、知らないけど…大丈夫?   「私、これでも腕には、自信がありして。お嬢さん一人じゃ危ないですよ。森を出るまで、ご一緒しましょう」 「あ…ありがとうございます…って、そちらへ、行くんですか?」    なんつーか、わき道に行こうとしているんですけど…やっぱり、怪しい?   「こちらの道の方が、遠回りですが、安全らしいですよ」    もっと困ったという顔をしてみる。   「あの…緊急の用事で、急いでいるんです……あたし…頑張って、真っ直ぐ行ってみますね」    突然、キーンという高い音が、森の中に響く。気がついたら、遠くに光るものが落ちていた。あれ…刃物?   「ちっ…お前、術士か?」    あぁ、言葉使いが変わったヨ。うんうん、悪い人だったんだねぇ。てっきり、良く聞く「命が惜しければ、金を出しやがれ!」から始まって、「女なら、高く売れるぜ〜へっへっへぇ〜」とかの王道を期待してたもんだから、一瞬信じちゃったじゃないか。  ここまで、冷静に観察出来るのは、ローランさんが居るって事を知っているから。一人だったら、黙ってついて行ったと思う。   「術士なら、高く売れるぜ」    あぁっ、なんつーか、あたしの価値って、術士?女より術士の方が高価?それとも……胸のせい?  高々と口笛が鳴った。  滔々と落ち着いた声が響た。  そして、突然現れた団体さんと、突然現れた見慣れたおっさん三人が対峙した。   「なっ?!!」 「え?!!」    最初が、商人風味の山賊さんの声。次は、あたしの。ローランさんだけだと思ったら、三人居たヨ。いつの間に?   「さぁて、今日も、俺が勝つぜぇ」 「先回は、俺だった」 「俺は、参加しないぞ」    ファビオさんが、厳つい顔した山賊が居るのを忘れたかのように、「えーー!」と不満をたれる。   「サミ殿、私から決して離れぬよう」 「はい!」    三人が持つ雰囲気が、怖さを軽減させる。だけど、消える事はない。これは現実だ。敵は本物の刃を持っている。ゲームと違って、リセットは出来ない。棒を持って数日しか経っていないけど、それをぎゅっと握り締めた。  目の前で、剣が触れ合う高い音と、怒声が響く。見た事のない顔で、ローランさん、ファビオさん、フレデリクさんが戦っている。手が小刻みに震えてきた。   「お・嬢ちゃ〜ん」 「は、はい」    体がビクンと跳ねる。   「俺様が勝ったら〜、ちゅ〜ね〜」 「はぁ〜?」    手の力が抜けた。棒が落ちそうになって、慌てて握りなおす。   「ファビッ!」 「俺が勝ったら、酒を注いでくれ」 「ディックッ!」 「怒るんなら、お嬢ちゃんを完璧に守って、勝てばいいだろぉ〜」    地面には、何人もの山賊が倒れているけど、血はどこにも見えない。それが、ようやく見えた。おっさん達は、ちゃんと、いつものおっさん達だった。   「サミ殿、離れず付いてきて下さい!」 「は〜い」    手の震えは止まっていた。  あたしの為の会話。あたしの為の無血。きっと、切って捨てた方が、おっさん達にとっては、間違いなく早いはず。これだけ敵が居て、あたしにまで、気を使う余裕まであるんだから。  ちょっと視界がぼやけた。             「んで、誰が勝ったのかな〜?」    地面の上に立っているのは、あたし達だけ。  森の入り口で待機していた、お役人さん達が、気絶していた山賊全員を縛って、運んで行ってくれた。   「俺様、11人」 「10だ」 「ならば、俺の勝ちだな。16」    総勢37人だったのか。   「ローランさんの、ご希望は?」 「何の希望ですか?」 「えーと、ちゅーは困るけど、お酌ぐらいなら何杯でも!」 「では、今夜は頂いたもので、宴会を致しましょう」    お役人さん達が置いていった、どうやって運ぶんだ?って量の食物とお酒。一応、運ぶ為のヒヨも一羽…いや、一頭?一匹?頂いたけど、う〜ん、今夜中にある程度消費しないと、ヒヨが可哀想ってな量だよ…これ。   「この森で、やんのかよ?」 「仕方ないだろ」    一応、全員のヒヨ+1に荷物を分けたが、可愛いヒヨの顔が、少し曇っている気がする。確かに、仕方が無い。   「大丈夫だ。一応、朝まで役人達が、見張ってくれるそうだ」 「役に立つのかぁ〜?」 「酒は、ほどほどにという事だな」    ちぇぇ〜と、ふてくされたファビオさんは、チラリとフレデリクさんを見て、仕方が無ぇなぁと、ヒヨから荷物を降ろす。  あたしは、ローランさんが下ろしている荷物を受け取り、宴会場を作る。野宿に慣れてきたおかげで、一応自分のやる事は決まっている。なんつーか、やる事を作ってもらっているという感が、情けない。かといって、待っているだけなんつーのは、居心地悪すぎ。う〜ん、野宿に慣れるには、キャンプに行く?それとも、ボーイじゃない、ガールスカウト?やっておけば良かった?…じゃなくて、せめて、本だけでも買って読もう。   「お嬢ちゃんのは……これか?」    ファビオさんが、あたしの目の前で振っているのは、果物がいっぱい入ったジュースの瓶。   「うっわぁ〜色んなものが入っているね〜」    色は紫。ブドウジュースかな?その中で、レモンっぽいのとか、オレンジっぽいのとか、いかにも果物っぽいものが、いっぱい浮いている。どんな味がすんだろ?受け取って、匂いをかいでみる。すっごく甘いVv   「お子様用だ。甘いぞ」    甘いんだVvうわぁ〜、飲んでみたいぞ。早く準備を終わらせよう!  背後で、ファビオさんが、「これ作んの、結構手間だよなぁ」とか言っている。手間のかかったジュース。流石、一領地を預かる領主様。報酬の飲み物も高級感漂うね!  という事で、無事準備も終わり、宴会になった。  火を起こし、色々な肉をさばき、野菜をちぎり、持ってきた鍋に色々放り込んで作られた、即席素敵シチューが、目の前で湯気をあげている。  はは…、あたしは当然のごとく、ちぎるだけの役立たずでした…はい。料理も勉強しなくちゃいけない…てか、戻ったら勉強しなくちゃいけない事が増えている……物凄い勢いで増加中……。   「美味しいね〜」    火を囲んで、いっぱい食べて、いっぱい飲んで、さっき感じた怖いという気持ちなんか、もうカケラも残ってない。   「さぁみちゃぁ〜ん」    あ……せっかくほのぼのしていた気持ちが、引き締まる。目の前には、フレデリクさん2が沸いていた。   「ななな何かなぁ?」 「食べながら寝ちゃぁ、だめだよぉ〜ん」    う…確かにうとうとしていた。んでも大丈夫だ。いくら、ファビオさんとローランさんが居るとはいえ、このフレデリクさんを前にして、どうして眠られようか?いや、絶対眠れないともさ!   「あぁぁぁぁぁぁっ!ディックッ!そ、そ、その空き瓶はっ!」    ローランさんの指を辿った先には、いつの間にか沸いて出てきた空き瓶の数々。あ〜、隠れて大量に飲みやがりましたね……フレデリクさん。   「あ、ずりぃっディック!」   羨ましげに空き瓶を見ているファビオさん。よ、余裕だな。   「ずりぃじゃないっ!拘束しろ!!」 「えー、お前がやればいいじゃん」 「俺は、サミ殿の傍に居る!」 「それが、俺だって構わねぇだろっ!」 「お前は、信用がおけん!」 「えー、俺ら仲間じゃねぇのかよぉ」 「サミ殿に関しては別だ」    延々と続くかと思うような、なんつーか低レベルな会話。その会話を楽しそうに見ながら瓶を煽って「あぁぁっ!フレデリクさん、だめぇぇぇぇっ!」。慌ててフレデリクさんの腕を掴む。   ぶら〜ん。   私の全体重をかけて抑えた腕は、そんなものが無いかのように、自由に動いています。この腕は、何で出来ているんですか?   「サ、サミ殿」    慌ててローランさんが、私を背後に抱えて移動させ、フレデリクさんの頭に拳を落とし……おいっ……マジですか?…やっぱり、瞬間移動魔法持ってる?フレデリクさん、かわしましたよ〜!  そして、ローランさんとフレデリクさんのおっかけっこが、始まった。凄いよ、フレデリクさん、走りながら、かわしながら、酒…飲んでいる。   「才能あるよなぁ?」 「う…ん」 「いくら俺でも、ローラン相手に、あんな事出来ねぇぞ」 「そ、そうなんだ。…あ、変態って呼ばれちゃうローランさんは?」 「あいつ、酔っ払う前に寝ちゃうからよぉ。分かんねぇ」 「そ、そうなんだ……」    目の前のあまりの光景に、ただただ機械的にしか会話が出来ない。呆然。その言葉しか出ないヨ。   「まぁ、ほっとけ。いつもんこった」    そう言って、ファビオさんは、あたしのコップにジュースを注いでくれる。  あたしは、一つ頷いて、それを飲み干し、「ご返ぱぁ〜い」と言って、お酒を注いだ。   「あ、デュカス卿の所で言ってた、制度ってなぁに?」    いたる所から、金属の音と怒号が聞こえる。ローランさん、剣…抜いたんだ。   「基本、城から出される法ってのがあってよ。まぁ、それは、どの領地に行っても同なじな。だが、その領地の特色に合わせてプラスアルファしたってもんがある。それが制度ってやつだ。  デュカス卿ん所は、犯罪者はなるたけ無傷で捕らえて、罪によって罰が決まるようにしてんの。まぁ、城が出している法も、同じようなもんだけどよぉ、出来るだけ無傷って所を明言してる所と、罪に対して罰がはっきり決まってる所が、珍しいな。  普通山賊なんかは、速攻切伏せるもんだ」    なるほど、騎士様が闊歩しているような世界、ばっさばっさと切伏せるが主流なんだね。流石東大一直線、バリバリ官僚エリートコースのデュカス卿!常識に対抗出来るというか、そいう発想が出来るってのは、尊敬っVv   「凄いねぇ〜」    自然と、声が出ちゃう。   「だよなぁ〜」    ファビオさんが、もう一杯と、ジュースを注いでくれる。う〜流石にお腹がたぷたぷになってきたぞ。   「あ〜……あれぇ〜?!」    小用にと、棒を持って立ち上がろうとしたら、真っ直ぐ立っていられない。何だ?   「おいおい、あれだけ飲んだんだぜぇ、そんな勢い良く立つんじゃねぇよ」    あまりにフラフラするから、近くの木に抱きついた。   「お嬢ちゃんは、顔に出ねぇけど、酒にはよえぇんだなぁ〜」 「はい〜?!!」    自然とゆらゆらするあたしの指が、ジュースだったはずのものを指差す。   「酒?」 「おう」 「まじ?」 「まじだぜ」 「やばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 「どうしました?!!サミ殿っ!!!」    かなり距離があったはずなのに、瞬時に現れて、ファビオさんに剣を突きつけるローランさん。   「あ〜、あたし、二十歳未満なんで、国の制度ってやつで、お酒のんじゃだめだめなんです〜」 「あ"〜?二十歳だぁ?」 「二十歳ですか?」 「それじゃぁ〜人生そぉん〜」    こちらでは、あたしぐらいの年齢って飲み放題?   「幾つから?」 「そんな制度じたい聞いた事がありません」 「アル中が、多くないですか?」 「んな訳ねぇだろ。子供なんか、親の監視下なんだぜぇ」 「普通のぉ〜一般家庭はぁ、イベントぐらいしか飲めなぁい」    フレデリクさんの台詞を聞く度に、力が抜ける。やばい、速攻小用に行かないと、一人で行けなくなる。   「えっと、とにかくあたしの国では、二十歳からなのっ!んで………ちょっと行って来るっ!」    木にしがみ付いていた体を、ふらふらしながら建て直し、棒を杖代わりにして蛇行しながら歩いていく。   「サミ殿」    心配そうな声が聞こえるけど、ファビオさんあたりが引き止めてくれたのだろう。過保護なローランさんが、声だけで止まっている。とりあえず、ありがとうファビオさん。  う〜お酒って、なんて危険なんだ。まっすぐ歩いているつもりなのに、歩けない。頭がほわほわする。実は、眠いからほわほわしているのかと思ってたよ。違うヨ、これ、たぶんお酒のせいだ。  もう絶対二十歳になるまで飲みません。かーさん、とりあえず今日はノーカウントで。だって、知らなかったんだよぉぉぉ〜。      そして、次の日、ファビオさんが期待していた現象は起きませんでした。二日酔いってやつ。「介抱しようと思っていたのによ〜」とか、ぶちぶち言われちゃったヨ。  あたし、お酒に強いの?弱いの?     to be continued…     09.01.12 砂海
このお話しは、去年春頃に、こそ〜り自分用に書いていたんで、一応書きあがっています。(言ったっけ?) 今回、宴会部分は、新しく付け足した部分。 つい…、みんなが楽しそうだったから、宴会描写を……((((;   沙美ちゃんが飲んでしまったお酒は、サングリアという赤ワインをベースに果物で甘くしたスペインの飲み物を参考にしています。ブランデーを入れる時もあるそうです。当然、領主様から頂いたものには、ブランデーが入っていました(乾笑)