Fantasy with O3 8  

  「お待ちしておりました、術士長御一行様っ!」    新しい町の入り口には、ほとんど平伏していると言っていい状態の人々。術士長御一行様って…、この旅…お忍びだったんじゃぁ……。   「…あの…だ…な…」 「どうぞ、こちらへ。領主様が皆様方をお待ちしております」    この状態になった瞬間、ローランさんを生贄にして、あたしをその後ろに設置し、背後で二人がぼそぼそ討議中。   『…ここって、デュカス卿ん所だったよなぁ?』 『だからだろ』 『しゃぇねぇなぁ…ったく、あれか?あの腹黒おやじの陰謀か?』 『ありえるな』    ……さっぱり分からないけど、腹黒おやじって、王様の事だよねぇ?  大量の先導者の後を、一応、外見だけは取り繕って、歩いている。なんつーか、大名行列風味。町の人全員が、ものすごーーく歓迎ムード。何、これ?             「お久しぶりです」    ここでも、話役をローランさんに押し付けて、その背後でおっさん二人とあたしは、のんびりと領主さんこと、デュカス卿と、その横に居る青年さんを見物中。   『どんな人?』 『ものすごぉ〜く頭脳明晰』 『城の文官のトップだ』    凄いね。叔父様という言葉が非常に似合う優雅な外見の叔父様は、東大一直線、大臣様になって、国をブイブイ運営しちゃうぜってな感じの、エリートコースな人なんだねぇ。   『横に居るのは?』 『息子だ』 『へぇ〜』    お姫様ぐらいの年齢の若い男の人。うわぁ〜城関係者で、おっさん達の部下以外に、初めて若者を見たヨ!うわうわぁ〜若いよ〜!……いや、待て。若いけど、20は軽く超えているよね?……あたし、おっさん達に囲まれすぎて、若い条件が緩くなってる?ダメじゃん、あたしっ!  じゃなくて、その息子さんは、非常に生真面目そうな外見なんだけど、眉間に皺が寄ってる。その下の瞳が非常〜に冷ややか。あたし達をまったく歓迎していない風情。  親子して細いなーとか思っちゃうのも、おっさん達を見慣れちゃったせい?すっげく細身。というか華奢に見える。腰にレイピアを装備。うんうん、片手剣も持ちそうもないもんなぁ。あ…だとすると、お姫様って実は隠れた筋肉とかあるんだ。だって、片手剣の第2位様だもんなぁ。   「えぇ、お久しぶりですね、術士長殿。まさか、ここでお会い出来るととは思っていませんでした。  そちらの、可愛いお嬢さんは?」    はぁ?可愛い?なんだそれ?そんな肩書き、生まれて初めてもらったぞ。   「私達を呼び止めたのであれば、ある程度事情を知っていらっしゃると思っているのですが?デュカス卿」 「えぇ、知っていますが、ご紹介下さってもよろしいのではないですか?」    えっと、仲が悪いのですか?この二人…。   「山賊を退治する事の方が、先なのでは?それとも、兵士を訓練する方法を伝授致しましょうか?」    デュカス卿が、苦笑を浮かべている。なるほど、術士長御一行って、山賊退治用の肩書きだったのか。   「山賊退治に行かせた者達は、全員不首尾に終わりましたので、本当であれば訓練と言わざるえないのですが、それも言えない状況です。今や山賊は、その勢いのまま大活躍。  ブーシュから物資が途絶えました。  おかげで私は、毎日領民に怒られている所です」 『ブーシュって?』 『穀倉地域だ』 『魔法使いが、居る場ぁ所』 『ふぅ〜ん…あのさ、山賊ってものすご〜く強いの?』    ファビオさんもフレデリクさんも違うと、首を振る。ついでに呆れている様子。何だ?   「お嬢さん、うちの兵士が弱いのですよ」   き、聞かれていた…。   「分かってんなら、さっさと対処しやがれ。お隣さんは、ラグエル卿なんだから、どうにでもなんだろ」 「彼とは、話しにならないので」 「ならなくしているのは、貴方もではないのですか?」    ローランさんと、ファビオさんの口調が厳しい。   『この領地の標語がな、目指せ執務官!ペンは剣よりも強し!命は大切に!だ』    頭が痛くなってきた。目の前の素敵叔父様は、間違いなく文官さんだ。なるほど、こんな戦いが主な世界で、頑張ってきた結果の標語かもしれない……。しっかし…、暴力で何でも解決するのは大嫌いだけど、せめて悪い人を逮捕出来るぐらいの腕は欲しい。や、必須だ。お巡りさんだって、武道やっているって聞いたヨ!   『文官さんなんだよね?』 『あぁ』 『口は、お手の物じゃ…』    フレデリクさんが、小さく笑う。   『根本的に、相容れない』 『ラグ…なんとか卿って、目指せ剣術大会一等賞、ペンなんか握りつぶしちゃえ!ゴーゴー命をはろうぜ?って感じ?』    フレデリクさんが、ブッと小さい音をたて、噴出した。慌てて背中を向け、一応あたしへの返事として、いっぱい頷いていくれている。  あー分かりました。一切相容れないんだ。共通点ゼロってやつ。お互い、お互いの言葉を一切聴く気にならないんじゃぁ〜会話にはならないねぇ。   『大人なのに…』    あたしの一言を聞きつけた、フレデリクさんと、ファビオさんが笑い出した。もう止まりません状態な様子。   「失礼ではありませんか?」    お、息子さんが、見た目通りの冷ややかな声を出す。クールな秀才さん風の印象を裏切らない。   「や、失礼だとか言われても……」    ファビオさん復帰できず。   「サミ殿の年齢の者に、『大人なのに…』と、ため息交じりに言われたら、笑いたくなるでしょう?」 「あ、わ、ロ、ローランさんっ!」 「いいのです。私も常々思っていますから」    その言葉に安心して、質問をしてみる。   「あの…会話術の本というか、人付き合いのような本を、見かけた事があるんですけど…。大人の人って、主義主張が合わなくても、相手の良い点を見つけて、受け入れられるモノは受け入れるとか、お互い譲歩するとか、そんな内容なんですが……そういう事が出来るから大人って言うんだなぁ〜って、今まで思っていたんですけど…」    電車内広告で、見かけたような。   「痛いですね」    デュカス卿が、苦笑を浮かべている。   「大人って、凄いなぁ〜って思ったんですけど……。違うんですか?」    あぁっ、おっさん達が、爆笑だよ。どれだけ大人げないという会話をやらかしたんだ?   「頑張れよ〜大人なデュカス卿。とりあえず、山賊退治はしてやるからよ」 「そうですね。このままでは、領民に迷惑絶大です」 「サミ」 「うん」 「待って下さい」    あ、冷ややか君に、呼び止められた。   「先日お渡しした、書類は見て頂けたのでしょうか?返事が一切返ってこないのですが」 「ディック?」    そんなのあったかいな?という風情のファビオさんが、フレデリクさんに振った。   「最初の10行を見て、捨てた」 「なっ…」    一刀両断だねぇ。   「もしかして、あれか?」 「あぁ」 「馬鹿でも分かる、お優しい説明が必要かぁ?頭でっかちのガキ」 「えぇ、お願いします」    うわぁ〜、ものすごぉ〜く絶対零度な声と視線。   「机上の論理を振りかざされるのは、迷惑なんだよ」 「ですが」 「お前に言われなくても、上を束ねるやつらは、経験でそんなもん知ってんぜ」 「しかし、それを順序だてた知識を早いうちから得る事は、大切だと思うのですが」 「あー、言いたい事は分かるんだけどよぉ。まずは、余分な知識無しで、上の言う事をしっかり聞く事と、腕を磨くのが先決だ。  戦場で、功を焦って部下が勝手に動いたら迷惑だろ?」 「しかしっ、それを、それを貴方は、実践されましたっ!」 「こいつは、知識もあって、腕もあって、肌で戦場を感じる事も知っていた。でなければ、誰もついていかない」 「ま、知りたければ、あんたも戦場で戦ってみるんだな。知らないってのは、悪なんだぜ」 「しかし…」 「リオネル」    デュカス卿の声で、冷ややか君が口を閉じる。リオネルさんって言うんだね。   「リオネルが何を送ったか、想像が付きます。一応、貴方方も、大人なのですから、捨てずにご意見を返答して頂けたら嬉しかったのですが」    あぁっ逆手にっ。   「私も、大人なので、ラグエル卿の事も合わせて、今後を考えていこうと思います」    優雅な礼。   「お嬢さん。目的地からお帰りになる際には、ぜひ、もう一度お会いする機会を下さい。次は、ゆっくりとお話を致しましょう」    落ち着いた笑み。なんつーか、頭が一般市民なあたしは、東大レベルの方とのお話なんつー機会は、ものすごぉ〜く遠慮したいんですけど〜。   「は、はい…」    否定文が出ませんでしたぁ〜。あぁっ、一般小市民は、頷くしかないのですよぉ〜。はう〜。   「んじゃ、行くぞぉ〜」    ファビオさんが、さっさと背を向ける。   「取り押さえておきますので、引取り人を用意しておいて下さい」 「取り押さえ?」 「ここには、ちゃんとした制度があんだろ?使え」    制度?領地ごとに、法律があるのかな?   「ありがとうございます。では、手配致しますので、明日朝でよろしいでしょうか?」 「おう、よろしくな」    ローランさんは、デュカス卿と同じく優雅な礼を。ファビオさんとフレデリクさんは、気の無い手を上にあげてヒラヒラと振った。あたしは、日本式一礼。こっちの、未成年の礼の仕方を教えてもらわなくちゃいけないなーと思いながら、部屋を出た。     to be continued…     09.01.11 砂海
おじさんというか、もう少し上の叔父様が一人増殖。だけど若者が一人。ちっ……<おいおい 現在:叔父様1人、おっさん3人、若者2人(姫様と冷ややか君) ふふふ、これからも上二つの項目がバリバリ増えますヨ!