Fantasy with O3 7  

   一応、少々の寝坊で済んだかもしれない……嘘です。ごめんなさい、ごめんなさい。んで、今は昼近くで、ヒヨの上。   「なぁ、お嬢ちゃん、もう筋肉痛は、落ち着いたかい?」 「ぐっ…、そこそこ大丈夫です」    そこそこも、大丈夫じゃない。なんつーか、筋肉痛に筋肉痛を重ねていって、体が復調してんだか、悪化してんだか、さっぱり分からない。   「あのよー、次の町を出た後辺りが、やべぇんだと。そろそろ訓練を始めといた方方がいいと思うぜ」 「その情報は、どこからだ?」 「そりゃぁ〜、ひ・み・つ」    おっさん、人差し指を口元につけて、首を傾げるな!   「どうせ、昨日の女からだろ。分かってて聞くな」    あぁ、なるほど。流石だ、エッチぃ事だけじゃなく、情報までゲット!って、まるで映画に出てくる某諜報部のおっさんみたい…って言うと、カッコよさげだが、首を傾げて、ひ・み・つと来ると……やっぱり、カッコいい人というのは、映画の中だけなんだろうかと思ってしまう…嫌だなぁ。   「サミ殿、体が楽になってからで、十分ですから」 「ローラン、魔法使いの所為で、山から山賊達が各地に引越ししやがったらしい。少しでもやっとかねぇと、マジやばいって」    ローランさんが何か言う前に頷いた。また、筋肉痛が増えるんだろうなぁ。頑張れ、あたしっ!              本日の野宿は、結構広い空き地。他の旅人さん達も、そこかしこに、自分の場所を作っている。   「さぁて、食後の運動を始めるぜぇ」 「体を解しておけ」    フレデリクさんの言葉に一つ頷いて、ラジオ体操を始める。日本の学生の基本だね。小学生の夏休みに洗脳される、あれ。未だ、第二体操まで、しっかり体が覚えているヨ。   「…それ、何だ?」 「ん〜?あたしの国では、誰でも知ってる体操」    腕を回す運動。   「へぇ〜」    げっ、マネすんなっ!!ファンタジーな格好したおっさん達が、ラジオ体操をしているのなんか見たくないっ!   「街で、流行っているのですか?」    あぁっ!旅商人風味のおっさんまでっ!   「僕もまぜてぇ〜」 「あたしもぉ〜」    はうっ!!家族旅行者までっ!!  夏休みのラジオ体操に、どんどん近づいて……、ファンタジーから、どんどん遠ざかっていく。頭の中には、綺麗な発音の●HKアナウンサーの声と例の曲。あ〜、カードとスタンプは、用意しなくちゃいけませんか?   「お嬢ちゃん、これいいな」    前に三回、後ろに大きくぅ〜。   「毎日やるか」    腕を上下に伸ばす運動…もう、ファンタジーは消えたヨ。   「サミ殿、城の者に教えても構いませんか?」    腕を振って、足を曲げ伸ばす運動…城ん中でラジオ体操?   「曲……付いてるよ……これ…」    大きく深呼吸。せめて、お姫様だけはやめて下さい。   「歌えるか?」 「歌詞は…ないです…」 「鼻歌でいいんじゃねぇの?あいつらなら、それで、なんとかすっだろ」    ファンタジー世界に、ラジオ体操進出。しくしく、考えなしの行動は、ろくな事が無い…って、これだ。絶対これだ。自分で、好きな世界壊してどうする?  これで、終わりだと告げると、ラジオ体操参加者は、ばらばらと自分達の場所に戻って行った。なかなか好評なのが、かなり悲しい。準備運動で精神力を根こそぎ奪われて、この後大丈夫だろうか?             「これ」  手に渡されたのは、結構長めの棒。両端に、金属なモチーフ付き。   「持ち方は、こう」 「えー、何でディックぅ〜?どう考えても、お嬢ちゃんのタイプは、俺方面だろうがぁ〜」 「ローラン」    駄々こねている、そうとしか見えないファビオさんを無視して、フレデリクさんは、ローランさんを見る。   「確かにそうだが…」 「俺達が、監視すればいい」 「……仕方が無い。  ファビ、サミ殿に失礼な事をしたら、即座に切り捨てる」 「へーへー、安心しろ〜」 「出来ん」    ファビオさんの言葉を、無条件で切って捨てたよ。うん、まぁ、普段の行いが悪すぎるんだろうなぁ。   「じゃぁ、適当にやるぞ〜」    気合なんか、一切入らない台詞。   「お願いします」    でも、一礼。   「最初に、持ち方な」    ニンマリ笑った笑みに、覚悟を決めるべきだった。えぇ、片手剣部門優勝者という肩書きは、戦いに気合の入った愛があるという事だと気づかなかった、あたしはお馬鹿です。はい…。  持ち方から始まり、各種構え、基本動作、そして、それを繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、……。  それだけで、すっげぇ時間が過ぎた…と思う。こっちの時間の流れは分からないけど、あたしの腕時計は、3時間近くの経過を示していた。   「生きているかぁ〜?」    声が出ない。手を横に辛うじて振った。   「サミ殿」    目の前に出された水に、のろのろと手を伸ばし、ゆっくりと飲む。誰か、酸素下さい。……ここには、ないよねぇ…。   「腕力を付けろ」    あー、確かに。ないよねぇ、あたしの腕に筋肉…。   「当分、毎日これだけな」    一瞬恨みがましい視線を上げそうになったけど、うん、それは出来ない。とりあえずコクコク頷いた。   「……読める…か…な…」    キャンプみたいに、真ん中に明かり用の火が焚かれていて、野宿にしては、結構明るい環境。  ここは、一応野外。物騒なんで、こういう、人が集まる場所には、一晩中火が絶えないんだそうだ。使った木は、ちゃんと使った人が集めて端っこに集めておく。いい感じの習慣だと思った。  ついでに、本ぐらいは読めそうな所が、もっといい。普通の野宿じゃ、暗くて読めないもんね。  あたしは、間違いなく、活字中毒患者で、物凄い愛が本にあったりする。だから、ローランさんに我侭を言いまして、文字も読めるようにしてもらってしまった。そして、城にあった図書館に私の腕時計で1時間ぐらいの時間を使い本を漁った。すっごい楽しかったぁ〜。そして、そして、一冊だけ本を借りてきました。   「サミ殿、本を読まれるのは、宿に泊まった時だけにした方がいいと思いますよ」 「続きが…気になって…」 「何だ?本って?」 「ローランさんから、小説を借りたの」 「タイトルは?」 「パームルのティジェ!」    すっごく美人でカッコいいおねぇさんが、主人公。城の騎士様の筆頭で、なんくせ付けて攻めてくる敵をばったばったで、ございますよVv今日もらった武器が、主人公ティジェさんと同じ棒だったのが、すっげく嬉しいVv   「あー、俺もそれ読んだ。あれよぉ〜、ぐっとくるよな〜。最後の…」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!黙れぇぇぇぇぇぇっ!  あんたは、図書館の推理小説本の中扉に犯人の名前を書く、嫌がらせ小僧かっ!」    ボカスカ叩きたいのに、棒をひょいひょい避けやがる。   「逃ぃげるなっ!」 「当たったら、いてぇじゃねぇか」 「当てたいのっ!」 「俺、痛いのやだもん」 「もんじゃないっ!  むぅ〜、ローランさんだって、酔ったフレデリクさんだって、親切に殴られてくれたよっ!」    うん、こんなへっぽこ初心者に、いくら喧嘩最中だからといって殴られる訳が無い。今日あたしがやった地味な基本訓練を毎日毎日、何十年もやってきた人に、それは失礼ってもんだ。   「親切だろぉがぁ〜」 「どこがっ!」 「いい訓練じゃねぇか」 「むかつくぅ〜〜っ!!」 「げっ!ローランっ!」    親切なローランさんは、なんとファビオさんを拘束してくれた。ありがとうございます。一礼。   「ずっりぃ〜」 「大丈夫!あたし、腕力ないから、全然痛くなぁい!」    棒を持った手を振り上げる。基本動作には、忠実に。   「んで、続きを絶対言わないと誓えば殴らないけど、どうする?」 「ん〜〜52点」    拘束されたまま、手首だけ捻って、あたしを指差す   「手首ぐらついてる」 「持ってるだけで、精一杯なの。それ、考慮して」    立ってるのも、しんどいぞ。   「仕方ねぇなぁ。じゃぁ、読み終わったらな」 「うん」    体の力が抜けた。膝が抜けた。あぁ〜っ、お風呂にゆっくり浸かりた…い。そうすれば、筋肉痛も、少しは和らぐのになぁ。     to be continued…     09.01.07 砂海
ティジェさんVvあぁ、パムールのティジェさんVv昔あたしが書いた、オリジの話を読んだという稀有な方は、ニヤニヤして下さい。