Fantasy with O3 4  

   昨日の夜は、荷造りに、旅程の確認に、様々な約束と──危険な時は必ず背後に隠れているようにと、ローランさんのご指導──最後に王様とお姫様との会食をして寝た。  あ、お姫様は、ローランさん達と一緒に居た時と違って、お姫様だったヨ。数時間前の記憶を疑っちゃうほど優雅で、気品があって、綺麗で、ちゃんとしたふわふわキラキラドレスを着て。正真正銘のお姫様だった。 「勇者殿に危険がせまった場合には、すぐさま元の世界に戻って頂けるよう、術士長には頼んであります」  その言葉で、王様の優しそうな笑みが消えたっけねぇ……お姫様の視線も、きつかったなぁ……やっぱり、腹黒の件を聞いておいた方がいい?戦争をしないっていう選択をしただけで、即効高得点にしちゃったあたしは、浅はかだった?…でも、そうしたら全員いい人だって判断している現状さえも、不安になってくる訳で…人を見る目って、どうやって養われるんだ?   「サミ殿」 「は、はいぃ〜?」    目の前にヒヨコが居た。うん、ヒヨコ。これがヒヨ?確かに、可愛い名前にあった外見だけど…激しく巨大。乗れるように、鞍らしきものも付いているけど…外見ヒヨコ。なんつーか、小動物虐待風味?いや、巨大だから虐待イメージが微妙に薄れるけど…。   「お嬢ちゃ〜ん」    ヒヨコの上に乗ったおっさんが、ひらひらと手を振る。なんつーか、眩暈に襲われる光景。どんなカッコいい騎士様がのっても、へっぽこ風味に成り下がる乗り物。あぁっ、フレデリクさんが乗ってる光景がっ……へっぽこなんだけど果てしなく…怖っ。   「サミ殿、どうなされましたか?」 「や…あの、これ……ヒヨ…ですか?」 「そうです。戦場にも出る、強いヒヨを選びました故、どうか安心してお乗り下さい」    安心って、言われても。なんつーか。馬って、安心感のある立派な生き物だったんだねぇとか、思ってる最中なんですが。   「うわっ」    突然、目の前のヒヨが、あたしの顔を覗き込んできた。   「……り、凛々しい…で、ですね〜」    目つきは、戦に使われているだけあって、鋭い気が…する?   「ピーーーーーーーーーーっ」 「サミ殿が、好きなようですね」    ピヨピヨと、鳴くんじゃないんだねぇ。目の前で揺れている、黄色いフワフワを撫でてみる。ヒヨコを触った事はないが、たぶん同じだと思う。これに乗って、本当にいいの?   「おら、お嬢ちゃん」    目の前に出されたファビオさんの手は、ローランさんによって瞬時に払われた。   「あ〜ん?何だよ」 「お前じゃ、不安だ」 「あのなぁ、俺って、傭兵から将軍にまで上り詰めちゃった、兵じゃなかったっけかぁ?  ヒヨに、何十年乗ってると思ってんだよ」 「そんな事を、心配してるんじゃない!サミ殿に悪さをしそうな輩からは、引き離す。それだけだ」 「妥当だな」 「お前ら……あのなぁ、素人のお嬢ちゃんに、即効手ぇ出す訳ねぇだろうがっ!  ちゃんと、手順は踏むぜ」    や、そこで胸はられてもね。なんだそりゃ?   「サミ殿」 「あ〜、はい」    出されたローランさんの手を掴む。どう手順を踏むか気になる所だけど、とりあえず確実に安全な場所を選んでおこう。  ファビオさんの、「お嬢ちゃ〜ん」つぅ、声も聞こえるけど無視。なにせ、目の前のヒヨは大きいのだ。鐙らしきものに足を乗せ、よじ登る風味。当然素人なあたしは、『ひらり』なんつー音付きで乗れるような勇者じゃない。   「癒し系だねぇ〜」    目の前全部が、黄色もふもふ。   「あの…怖くは、ありませんか?」 「は?こんなに可愛いのに?」 「可愛い…ですか?」 「黄色い丸いフォルム。手触りふわふわ。とてとてと音をたてそうな足。本当に、ヒヨコみたいですよね」 「ヒヨコ?」 「あ、ここには居ないんですか?私の世界には、このヒヨさんが手乗りサイズになったものをヒヨコって言うんで………あ…ニワトリ?…いや、ニワ?ってもっと巨大?」 「ニ…ワ?」 「あのー、この子の親ってどれだけ大きいんですか?」 「このヒヨは立派な大人です。子供も作らせたはずですが…、サミ殿?」    固まった。こ、こんな、こんなに可愛いのに、子供作ったって…、『ここは異世界、ここは異世界、ここは異世界…』とりあえず十回唱えた。          さて、出発だと、お城を背にしようととしたら、大量の叫び声が背中をド突いた。おっさん達は嫌そうに顔を顰め、のろのろとヒヨの向きを声の方へと変えた。   「将ぉ〜軍〜〜」    威勢のいい、元気なダミ声の集団。兵士やら、騎士やらに見えるご一行。   「早く、帰ってきて下さい〜」    あ、部下さん達なんだ。遠くにローランさんと同じような服装の人達も居て、静かに会釈している。でも、全員の顔が豪雨注意報状態。   「酒場ばっかり、寄ってちゃダメですよ〜」 「ナンパは、ほどほどにして下さいね〜」 「帰ってきたら、仕事して下さいよ〜」    ……ファビオさん……なんつー懇願を……皆さんの涙が、これは事実だと語っている。   「てめぇら、うっせぇよっ!」 「気長に待て」    ……え〜と、フレデリクさんも答えているって事は……。   「本当にですよぉ〜」 「明日には、帰ってきて欲しいんですからぁ〜」    そんな可哀想な光景に目を奪われていたら、突然私の手が暖かい手に包まれた。   「勇者殿」 「あ、お、お姫様」 「ナデージュと、お呼び下さい」    なんつーか、このお姫様の態度より、その背後の背後の方〜に居る、『きゃぁ〜Vv』なんつー、ハートマーク入りの声の方が気になる。   「ナ、ナデージュさん」    にっこり笑う笑顔が、麗しい。こんなに綺麗なお姫様なのに、笑顔が凛々しい。なぜだか王子様に見えてくる。間違いなくファンタジーな世界の住人様だ。   「くれぐれも、お気をつけて。どうか、これを」    渡されたのは、小さな首飾り。   「貴方に、ご加護を」    首飾りごと、手を握り締められ、口付けなんつーもんを手の甲に……まるで騎士様。『きゃぁ〜っ』なんつー外野の甲高い悲鳴が、頭に響く。  そして……   「てめぇ……勇者殿に手ぇ出してみろぉ〜、殺すっ!地の果てまで追いかけて、殺すっ!!」    素晴らしい変わり身だ。   「へぇ〜、返り討ちに合いてぇと。いいぜぇ〜」    なんつーか、仲の悪そうな会話なのに、ファビオさんとの会話、楽しそうに見える。   「俺は、手を出していいのか?」 「ダメに決まってるだろうがっ!」    フレデリクさんが、手を出す。想像外。という事は、お姫様をからかっているのか?いや、他人をからかっているフレデリクさんも、なんつーか、イメージに合わないんですけど。   「姫、くれぐれも、後をお願い致します。決して、ついて来ないよう」 「あぁ、分かった、分かった。うっせぇよ」 「じゃぁなぁ〜」    悲壮なお見送りと、静かなお見送りと、麗しいお見送りと、黄色い声を背後に、ヒヨが走り出した。  なんつーか…こんな旅立ちで、いいのか?背後の人達のほとんどが、泣いてるぞ!     to be continued…     09.01.05 砂海
えっと…姫さんの性格ですが……えぇ、これも前のサイトのあれを見てらっしゃった方が居ると……あれですなぁf(^-^;)ティジェさんを利用させてもらいました…orz<ちゃんと作れよ…<あれもオリジナルだから…ね…<今更…<あたしだし<ごめん