Fantasy with O3 2  

   ケンタッキーが言うには、魔法使いを捕らえて欲しいとの事。  魔法なんつーもんは、消えたって言ってたのにも関わらず、魔法使いなんつー言葉が出てきた。術ってのも魔法にしか見えないけどね。  術の説明は、さっぱり分からなかった。理解したのは、人間が持っているものに対してしか働きかけられないという事。でも、それなら、あたしをここに運ぶ事が出来なさそうなのに…それも説明してもらったけど……理解不能。とりあえず、存在も人間の中にあるらしい…さっぱりだ。  んで、本題。  突然現れたと思われる、その魔法使いのせいで、ありえない時期に雪がふったり(作物が全滅したせいで、お百姓さんが泣いて訴えに来たとか)、山の一部が焼失したり(その山は、山菜が豊富だったらしい…当然ダメになったのだろう)、突然の突風が吹き荒れたり(家や田畑が悲惨な目に)、激しい雷が数日に渡り落ちたり……天変地異のオンパレードを引き起こした。  確かに国を治める王様としては、ほっておけないだろう。国土が荒地になったら洒落にならない。でも、魔法使いが居るからと言って、軍が動いたら、折角今の所平和な日々をすごしているのに、戦争なんつー非生産的なものが始まりかねない。軍は、絶対動けない。  なぜなら、この国は、隣の国と仲が悪い。んで、魔法使いが居座っているのが、隣との国境近くの山ん中。誰もその魔法使いは、見た事が無いので、もしかしたら魔法使いは、自国の者じゃないかもしれない。  ケンタッキーは優しげな表情を曇らせて、魔法使いは隣国が戦争をしたいが為の布石だと考えたら、一層手を出せなくなったと……なるほどと、感心をした。この王様は一応戦争がしたくないらしい。良い事だと思う……思う……思うけど、それで勇者を召還したってどうよ?しかも、その勇者ってのがあたしだよ。まったくもって一般市民。平均的な外見、平均的な頭、ついでに運動神経も平均的……激しく使えない。  ファンタジー小説を愛好し、ファンタジー系RPGを嬉々としてやるあたしとしては、完璧な人選ミスとしかいい様が無い。あれか?結構終盤戦で、レベル1のあそび人を入れた風味?一応よくあるネタの一つ、魔法を覚えちゃうという王道な技を考えて、ローランさんに聞いたんだけど……才能というか、もって生まれたモノがゼロだそうで……情けないよ、あたし。役立たずだ。   「勇者殿…」    もう、ケンタッキーは居ない。  さっき掌を重ねてしまった理由と同じ。頼まれたら断れない根性なしの性格が災いして、魔法使いとやらに会う事を承諾しちゃいました……ケンタッキーは、それだけ聞いて、ほくほくと自分の仕事に帰っていっちゃったヨ。  今現在あたしは、自業自得という言葉をかみ締めている最中である。   「えっとですねー……あたし、使えないですよ」    なんと、三百年前の書物に、同じ制服を着た女の子の絵と、その子の詳細、そして召喚術の内容が書かれていた。術なんか、さっぱり分からないけど、名前、学校名、そして趣味の項目を読むに至って泣きそうになった。何がどうなって、ここに書かれているんだか分からないけど……間違いなく……これあたしだよ……何で?しかも勇者サミって書いてあるし……何やったんだ?あたし…らしきやつ??   「頭も並、運動神経も並……足引っ張るんだったら、保障出来ますけど〜…」    ローランさんを見れない。無責任に何でも引き受ければいいってもんじゃないよねぇ…あたし。   「……行きます……頑張ります……でも………ごめんなさい」    俯いたあたしの視線の中に、あの固そうな手が現れて、あたしの手を握った。   「勇者殿、貴方だけではありません。私と他に二人、この国の騎士がご一緒致します」    顔が、あげられない。   「勇者殿、私共の我侭な願いを聞いて頂けた事に、心からの感謝を。本来であるなら、私達がしなければならぬ事。どうか、ご負担に思わないで下さい」    無理だ。   「ちょっとした旅行だと、思って下さいませんか?」    その少し、笑みを含んだ声に顔があがった。  目の前には、おっさん。どう転んでも、すっげー年上のおっさんが、こんな子供のあたしに丁寧に丁寧に言葉を紡いでくれる。うん、そうだね。せめて足を引っ張らないよう、迷惑だけはかけないようにすると言いかけ開いた口が…豪快な音をたて、突然開いた扉に開きっぱなしになった。  おっさんが、増殖したヨ!   「よぉ、邪魔しちまったかぁ?」    ニヤニヤしたおっさんが一人。琥珀色の瞳、緋色より暗めのぼさぼさの髪の毛、同じ色の髭が口元と顎を覆っている。ローランさんに比べて細身だけど、ちゃんと剣士だって分かる装備をしたおっさんが、だらだら入ってきた。   「勇者は?」    入ってきたおっさんに対し、非常〜に機嫌の悪そうなおっさんが、もう一人。碧眼、ざく切りの短い金髪、顎に無精髭、上半身は鎧を装備せずに、下着?を着て下半身は、がっちり装備、槍を担いだままのおっさんが、入り口で冷ややかな視線を送っていた。   「お嬢ちゃん、ローランは、まぁ悪かねぇけどよぉ、面白くねぇぞ。真面目なやつに飽きたら俺ん所に来な。両手、広げて待ってるぜぇ」    お、お、頤に手を添えられたなんつー漫画の中のような状況に、すっごいなと思いながらも、硬直。これが、ナンパっていう行為ですか?ってか、普通おっさんが、ナンパするか?おっさん年齢で、そんな軽くてどうする?と…あたしの歳で言うのは、失礼…だろうなぁ……。年長者には、尊敬をと教育したおかーさん、この相手にも当てはまりますか?   「ってぇっ!ディック、何しやがるっ!」    不機嫌なおっさんが、槍でナンパなおっさんの頭を掃った。そして、ナンパなおっさんと槍のおっさんの戦いが始まった。何で?   「勇者は?」 「ディック、お前の頭も殴れ」    突然ぞんざいな口調に変わったローランさんは、剣を抜き、槍のおっさんに切りかかる。   「何だ?」    剣×2と槍を交えての会話。傍目には、戦っているようにしか見えない。なんつー物騒なおっさん達だ。というより、大人気ない…おかーさん、本当に尊敬するべき??   「あの〜」 「お嬢ちゃん、これからデートにでも行くか?」 「馬鹿者っ!その方が、勇者殿だっ!」    ローランさんの剣が、ナンパなおっさんの横っ面を叩いた…んだと思う。ナンパなおっさんは、まじまじとあたしを見ながら吹っ飛んだ。器用だ。  そして……不機嫌なおっさんから、激しく痛い視線を感じる。生まれて初めて、視線って痛く感じるんだって知った本日。チクチク刺さってるヨ。もんのすごぉ〜く、値踏みをされてる?   「え〜、不束者ではありますが、せめて皆さんの足を引っ張らないよう頑張りますので、すみません……ごめんなさい。よろしくお願い致します」    こちらで通るか分からないが、とりあえず日本人らしく深々と一礼。そして恐々と顔をあげた。   「ローラン」 「何だ?」    うわっ、返事するローランさんの目つきが怖いヨ。   「どこに行く?」 「ヴァートとの国境、ラルム山」 「へ〜、魔法使い退治って訳か」 「退治じゃない。捕らえるだけだ」    仲良しなのかな?おっさん同士で仲良しって、妙に似合わない形容詞な気がするけど…、ローランさん、非常に言葉がざっくばらん。態度もざっくばらん。感情駄々漏れ。さっきまでの落ち着いた物腰は、どこに行った?   「勇者は、建前か?」    ローランさんの眉間に、大量の皺がよる。建前?   「相変わらずの腹黒さだな」 「だがよぉ、俺達は言い逃れ出来ねぇよな?」 「ものは言い様だろ」    不機嫌なおっさんがそう言った瞬間、ローランさんが剣を抜き、再び戦いが始まった。会話で話を進める気ゼロ……でも、見ごたえはある。間近での剣技。豪華特等席まん前。あたしは、床に体育座り。まるでテレビを見るがごとく眺めていた。とりあえず直前の会話の内容は保留。腹黒…非常にいやぁ〜んな感じ。   「お嬢ちゃん?」 「馬鹿者っ!勇者殿だと言っただろうがっ!」 「や、でもお嬢ちゃんじゃねぇか」    何であんなに剣を振り回していて、こんなのんびり?とした会話が出来るんだろう?   「なぁ、ディック」 「俺を巻き込むな」    また、この不機嫌なおっさんが凄いんだ。この人、二人と違って非常にやる気が無い。二人が攻撃してくるから、仕方がなく対応しているという風情。素人目には、二人がそれなりの勢いで攻撃しているように見えるのに、このおっさんときたら、面倒だという態度を一切崩さず、適当にかわしているようにしか見えない。   「早く説明しろ。準備が要るだろ?」    不機嫌なおっさんは、戦いながら視線だけであたしを指す。そうだねぇ。制服で長旅は出来ないだろうねぇ。交通機関は、どうなってんだろ?魔法で一瞬に運びますなんつー便利なもんがあればいいんだけど……大抵、最初は徒歩だよなぁ。馬車か人を運ぶ動物があれば、少しは楽なんだけど……一応王様に頼まれたんだから、有料って事は……腹黒って…だ、大丈夫だよねぇ?   「ローランっ!!」    またもや派手な音を立てて、扉が開いた。でも、おっさんは増殖しなかった。  眼福。すっごい美貌。まるで月の精霊のような女の人が、もの凄い勢いで入ってきた。   「うわぁ〜ボン・キュッ・スラリ……」    そう、思わず呟いてしまうほど、スタイルのはっきり分かる、防御力としてはいまいちそうな簡易?の装備をした女性。淡い金色の髪が綺麗に背後に真っ直ぐ流れている…まるでシャンプーのCMのよう…、そして怒っている空色の瞳、腰には剣?女剣士さん?でも、そんな無骨なもん全然似合わない。箸より重いものなんか持ったことなんかないのですわVvという、まるで月の精霊のような儚げなさかげん。あ、竪琴とか持たせたら、非常に似合うと思う!   「ナデージュ姫」    楽しげ?に剣を振り回していた態度を再び一変させて、ローランさんが胸に手をあて頭を下げている。  姫って事は、あのケンタッキーの血を分けた娘さん…………よっぽどケンタッキーの奥さんは、美人さんに違いない。   「うざいっ!それ止めろって、何回言えば分かりやがるっ!」    は?……………い?こ、この、こ汚い言葉使いは?何?何?何で、いわゆる鈴のやうな音声で聞こえるのっ?!   「それより、何でこいつらなんだっ!私を入れろと言っただろっ!!」 「以前より無理だと、何度も申し上げました」 「年功序列だよなぁ?」 「腕の序列だ」    お姫様が、ギンッとローランさんの背後の二人を睨み付ける。美人が怒ると迫力あるって、本当なんだねぇ〜。激しく怖い。   「という事ですので」    ローランさんが、お姫様に、何かを手渡す。   「……ローラン」    歯ギシリ音が聞こえたような…。   「どうか、勇者殿の為にも、お願い致します」    お姫様は、少しの間ローランさんを睨んだ後、「けっ!」と、信じられない返答をし、座り込んでいる私の前に来て跪いた。   「勇者殿」 「は、はいっ」 「すまない…」 「は?」 「勇者殿の手を煩わせる事になってしまい、本当にすまない」    真摯な瞳が、まっすぐあたしを見ている。   「ここに居る奴等の人間性は、……まったく保障できない。というより最悪。いや、最悪なんてもんじゃないほど、最低で……」    ま、また、歯軋り…。   「………………だが、腕だけは保障致します。いざとなったら、こいつ等を盾にして、逃げて下さい」 「あの…」 「本当なら、私が同行しなければならないのだが……くそっ!ローランの馬鹿野郎っ!」 「現状で、隠し通せるものではないという事を、ご存知のはずですが」 「分かってる!チッ!!」    あぁっ、また似合わない言葉がっ!語尾がっ!…なんか、激しく悲しい。   「どうか勇者殿、そなたの命を最優先にし、無理をなさらぬよう。私は、何かあったら真っ先に駆けつけます。決して、そなたを捨石になぞしない。勇者殿の騎士として、ここに誓う」    桜の花びらのような唇が、抜いた剣に口付けを施し、あたしに捧げられる。……困った、いくつかの本で読んだものは、それぞれ作法が違った気がする…ど、どれを実行すればいいんだ?   「お嬢ちゃん、受け取ってやれや。それだけでいい」 「嫌なら、無視しろ」    おっさん二人の助言に、助けられた。不機嫌なおっさんも、親切さん?  とりあえず、捧げられた剣を受け取る。   「あの、ありがとうございます。  でも…、あたしに、そんな価値ないですよ。だから、いつでも取り消していいですから。ってか、今すぐにでも取り消し可能です」    お姫様に不似合いな、かなり重量のある剣を返す。  目の前に、それはそれは美しい、綺麗な笑顔があった。   「勇者殿、ありが…っ!!」    お姫様は、物凄い早さでローランさんに拘束されました。何で?   「ロ〜〜ランっ!」 「そこまでです」 「剣を受け取ってもらえた者として、当然の展開があるだろうがっ!」    なんつーか、これ見よがしのため息?何で?   「これと、口付けをしたいか?」 「は?」    不機嫌なおっさんの言葉、意味不明。   「この姫さんは、俺の上をいく女ったらしだぜぇ〜」 「てめぇと、一緒にすんなっ!」 「いいえ、同じです」    えっと、この話の流れは……、自然と足が後ろに出る。一番まともそうな、不機嫌なおっさんの後ろに、そろそろと移動した。   「勇者殿ぉ〜」    あんなに綺麗なのに…。   「ナデージュ姫、用事は終わりましたね。どうか、ご自身の部屋に帰られるよう。  潔さは、立派な騎士に求められる資質ですよ」    またまたまた、すっごい歯軋り音。なんつーか、真珠のように可愛い歯が、ダメになっちゃいますよぉ〜。   「勇者殿、今夜はこの城に泊まられるのであろう?  ぜひ、私の部屋で、勇者殿の世界の話をお聞かせて下さい」 「勇者殿は、忙しい故、それは不可能だと申し上げさせて頂きます」 「ローラン、お前なんかに聞いちゃいねぇよっ!けっ!いつかみてやがれっ!私がこの城の主になったら、一生こき使ってやるっ!」    ローランさんにガンを盛大に飛ばして、あたしに麗しいとしか言いようの無い笑顔を振りまいて、優雅にお姫様は扉から消えていった。最後に、目礼した姿がまたすっごく綺麗だったヨ!……なんて、落差の激しい人なんだ。   「勇者殿、大変失礼しました。  姫に悪気はないのですが……」 「あぁ、確かに無ぇなぁ。ただよぉ、あの女の子大好きVvって性格がなぁ…」 「お前と、同じだ」    ローランさんの顔は、不機嫌なおっさんの暴言?に困った顔をしても否定はしない。…なんつーか、すっごく変なお姫様なんだねぇ。でもおっさん二人の口調は、あの王様を語るような感じじゃなくて、もっと親しげ。きっと、いいお姫様なんだろうなと思った。     to be continued…     08.12.26 砂海
おっさんが、二人増殖しましたVv あたしが書く二十台の女性は、みんな雄雄しいなf(^-^;)