「以前、こちらに来た時の事を思い出しました。 私に課せられた仕事は、一人の王に対し一度きり。 今代の王との約束は、これで終わり。次に私が来るのは、ナデージュ姫がその椅子に座った時でしょう。 それまで何事もなきよう、異世界で祈っております」 そう言って、あたしはあの世界を去った。皆と検討して出来た台本&偉そうな態度の演技指導により、…たぶん、伝わったかと…。腹黒王様に見透かされてないといいなぁ。 そして、あたしは、自分の世界の自分の部屋に戻った。 服は、自分で洗濯して、部屋の中に干した。 靴は、泥を落として、窓の近くに置いた。後で、革靴用のクリームを買う。 世界の愛で貰った読み書きの知識は健在で、新しくローランさんから借りた本は机の上にのっている。 例の魔法使い指南書は、鍵付き引き出しの中。新しい本を読んだ後に、ゆっくり読む予定。 そして今、いつも通りラジオ体操をして、型のおさらい中。折角教えてもらったものを、忘れる訳にはいかない。 「沙美?何をしているんだ?」 「あ〜お帰りなさい。これ、棒の訓練。最近、友達に教わってんの」 「そうか」 楽しそうな返事の後、父さんは足音高く、どっかに走っていった。そんな姿なんか見た事ないぞ。何だ? 「沙美、沙美」 誰だこれ?確か、うちの父さんは、プログラム好きの寡黙なおたくのはず。何だ?手に持ってんの、竹刀? 「父さんは、強いぞ〜」 すっごい楽しげ。でも、確かに竹刀を持った姿は、様になっている。 「えっと、ここ狭すぎだよね?」 「大丈夫だ!」 何が?と問いたい。誰だこれ?ってか、あたしは、ここにファビさん菌持ってきちゃった?? 「こい!」 や、こいって言われてもなぁ…と思いながらも、ついつい構えて、おっさん達に教わった通りに動く。 「沙っ………………」 「と、父さん!……、ご、ごめっ!さ、避けると思って…だ、だだだ大丈夫?」 おっさん達は、あたしをしっかり指導したけど、その指導成果は、出ないままだった。けど、今、達成出来ちゃったヨ。鳩尾狙い。まさか、当たるとは思わなかった。だって、急所どころか、一回も当たらせて以前に、掠らせてもくれなかったんだヨ。あのおっさん達! 「あんた達、家の中で何やってんの?」 「沙美の…技…炸裂…だ。凄い…な」 まだ痛そう。 「ったく、しょうがないわね。早く手を洗ってきて。食事よ」 「分かっ…た…」 「はーい」 父さんは、よろよろ立ち上がって、歩き出す。 その後姿は情けないけど、竹刀を持った姿は、カッコよかった。メタボなお腹も気にならなかった。 「……おっさんってのは……」 こっちの世界でも、あなどれない生き物だったんだ。 背後でコトリと音がして、振り向く。机の上に一通の手紙が増えていた。 世界への愛を唄って届いた手紙。 あっちの、あなどれないおっさん達からの手紙。 あ、明日腕時計を買わななくちゃだ。あたしの腕時計は、世界への愛の為に、あっちの世界で動いている。 笑いがこみ上げてきた。 時間は、無くなってない。これからも、ずっと刻み続ける。 コトリと本棚の奥から、音が生まれた。 代々の術士長の部屋の一番奥の本棚。 今まで、誰にも見えなかった本が、かび臭い匂いと共に存在を現した。 記したのは、300年昔の術士長。 『勇者殿、皆さんとは会われたようですね。 では、数週間後にお会いしましょう。 どうぞ、お体には気をつけて、楽しみにお待ちしております』 術は、放たれた。 あたしは、まだ知らない。 =End= 09.03.04 砂海
現在:叔父様3人、お父さん3人、お母さん3人、おっさん6人、若者6人(男4人、女2人)、子供(十代)2人沙美ちゃんのご両親が加わりました。 ということで、ようやっと話が完結! 次は、300年前の話。 頭ん中には、漂っているけど、一切文字におこしていません。ので、かなり気長にお待ち下さいm(__)m 今回ほど、長くない予定。…まぁ予定は未定ですがf(^-^;) 長々とお付き合いありがとうございました。そして、これからもよろしゅうにm(__)m