「なんか、賑やかな町だねぇ」 ヒヨから降りて町に入る。目の前には、活気のある露店がずらり。あちこちから、いい匂いが漂ってくる。 「変だよなぁ?」 「あぁ…」 「ん?どうしたの?」 訝しげなおっさん三人。 「いえ、いつもなら、もっと落ち着いているのですが……」 「お祭りでもあるのかな?」 「もう少しで、刈入れ時なのにかぁ?普通、その後だろ」 ヒヨを従えたおっさん達は、分からないという表情を貼り付けたまま、露店通りに入っていく。 聞けばいいよね? 「すいませーん」 「はいよ、どれがいいんだい?」 目の前に、美味しそうな匂いをあげている串焼き。それを焼いているおっさんに話しかけた。当然、商売するよねぇ。 「あ、じゃぁ……これ四つ」 「あいよぉ〜」 何かの肉と何かの野菜が、串に刺さっているのを買って、おっさん達に配った。 「あのねー、おじさん。今日、何かあるの?」 一口食べて、聞く。あ、美味しいぞ。 「あぁ、すっげぇ賑わってるだろ。ピエから、行商団が来てんだよ」 「だって、ローラン……?……ディック…さん?」 振り返ったら、ローランさんが固まっていて、ディックさんが逃げようとしたのだろう、ファビさんがガッツリ捕まえていた。 「ファビっ!離せっ!」 「お前、どこに行く気だぁ?」 じたばた暴れているディックさん。ファビさん、凄い!ディックさんに比べて細身なのに、がっちり押さえ込んじゃっているヨ。 「ローランっ!とにかく、逃げるぞ!野宿でいいなっ!」 固まっていたローランさんが、慌てて頷く。 「ったく、てめぇら、どこに逃げるってんだぁ?折角町に着いたんだ、俺は、野宿なんて嫌だぞ」 「そーだねぇ、どこに逃げるんだい?フレデリク」 「挨拶もなしに、どこへ行くのかしら?ローラン」 カッチコチにローランさんが、固まった。じたばたしていたディックさんは、脱力して、頭を抱えた。そして、目の前に現れた叔母様二人は、楽しそうに笑った。 「まぁ、可愛いお嬢さん。この服を選んだのは誰かしら?」 「あ……あの……??」 おっとりとした叔母様は、にっこりと笑いながら、あたしの服を検分している。 「あんた、随分と細っこいねぇ。そんなんで、剣なんか振れるのかい?ちょっと、それ見せてごらん」 肝っ玉かーさん風味な叔母様は、ファビさんに何も言わせず、腰に下げた剣を寄越せと手を出している。 「ん?まだあんた達居たのかい。行き先は、分かってるだろう。手伝ってお・い・で!」 「……俺は、王の命で動いている最中だ」 ディックさん、声に勢い無し。 「叔母様、私もです」 「ローラン、ほんの少しの時間も取れない緊急の用事には、見えないわよ。明日まで、お願いね」 一生懸命言ったローランさんの言葉は、おっとりした叔母様の柔らかい言葉に切って捨てられた。 「母さん、私は、サミ殿の護衛です。離れる訳には、いきません」 「かーさん、俺もだ」 母さんっ?!かーさんっ?! 「お嬢さんが、サミ殿かい?」 「は、はい…あ、殿、全然要りません!」 「一緒においで。アデール、見立てたいんだろ?」 「えぇ。貴方もね」 「あぁ。あんた、名前は?」 「ファビオ・シモーニと申します。初めまして、ローランの母上殿、フレデリクの母上殿」 優雅な礼。ファビさん、素晴らしく素早い状況判断と対応だ!いや、もしくは、対女性用の外面、条件反射? んでも、絶対心ん中では、ものすごぉく楽しんでいる。絶対、絶対、ニンマリ笑っている。だって、あたしもそうだもん。 「何だい、随分と躾のいい子だね。叔母さんでいいよ」 「うふふ。私も、叔母さんでね。でも、ちょっと嬉しかったわ。ありがとう」 ちらっと背後を見る。ファビさんの態度に、ディックさんとローランさんがうんざりしていた。 「ファビさん、ご一緒しましょう!」 「はい、サミちゃん」 うっわ、ウィンク付きで、サミちゃんときたもんだ。 「ローラン……、ディックさん、行っくよぉ〜」 すっごい恨みがましい視線が、返事をしていました。スルー、スルー! 連れて来られたは、沢山あるテントの一つ。 広場と思わしき場所には、沢山のテントがあって、それぞれ、いっぱい人が集っていた。 来るまでに聞いた話だと、二人の故郷は、職人さんで有名だとか。ついつい考えるようになっちゃった標語。「さぁ、ここに生まれたからには、凄いものを作ろうぜ!」ってな感じでどうだろ? ここには、装飾品、服、食器、家具、武器、防具、使い方の分からないモノ、何でもあるヨ! 「何だ、つかまったのか」 一つのテントに入った瞬間、真ん中に居て作業していた叔父さんが、チラリとこっちを見て言った、第一声。 ものすごぉく渋い声のディックさんに似た、ごっつい叔父さん。うわぁ、きっとお父さんだ! 「ローラン、フレデリク、武器」 何をするのか分かっているらしい二人は、それぞれの武器を叔父さんに渡した。 そして、叔父さんは、無言で作業続行。 「鍛冶屋さん?」 「そうだ」 「あんた、これも」 ディックさんのお母さんが、ファビさんの剣を投げる。投げたヨ。それも、結構な勢いで……。なのに、それを、当然のように片手で受け取って、何事も無かったように作業続行。すっごい、職人さんだ。 「えっと……ディックさんのお父さん、だよね?」 「そうだ」 「作業中、すみません」 挨拶だ。挨拶。叔父さんと、叔母様の前で正座。 「サミと申します。いつも、フレデリクさんにお世話になっています。よろしくお願い致します」 日本式で挨拶。だって教えてもらった挨拶って、立ったまんまなんだもん。あれって、相手が座っていたら、失礼じゃない?あー、日本人的感覚? 「ここの者じゃないな?」 「あ…はい、かなり遠い所から来ました」 そうとしか言えません。異世界って、ここの世界では常識じゃないよね?後で、聞いておこう。 「寂しくないか?」 「あ、皆さんが一緒に居てくれますから。全然寂しくないです」 おおっ、やっぱりディックさんのお父さんだ。同じ属性の持ち主。優しい。 「で、いつ嫁に来る?」 「は?」 「っ、親父、違う」 「違うのか?」 あたし…嫁?あ、ディックさんのか!右手を上げて宣誓。 「ふつつか者ではありますが、一生かけてディックさんを幸せにしたいと思っています!」 両手を付いて、もう一度深々と挨拶。 「サミっ!」 「サミ殿っ!」 「お嬢ちゃん、俺とは、愛人契約ねー。いっぱい、愛し合おぉ〜」 「頑張ろうねー」 「だよなー」 「ファビっ!サミっ!」 めったに見られない、素面のディックさんの怒号。非常に慌てています。非常に非常に珍しい光景だ。 「ふぅ〜ん」 あ、叔母様、何か楽しそうに思案している。そして、叔母様の声がした瞬間、ディックさんが大人しくなった。 「これのどこがいいんだい?」 この会話が冗談だって分かっている雰囲気。安心だ。 「えっと、お酒さえ飲まなければ、真面目で優しいです」 「酒?……酒乱だったかい?」 「い…いえ…暴れるって訳じゃ……あの、ご存知じゃないんですか?」 視界の端で、ディックさんが、どんどん頭を抱えて小さくなっていく。あたしを止める元気も無さそう。御母様、すっごく強いんですね! 「悪いっ!急ぎで、お願い〜…ん?ディックが、いるじゃん」 突然現れた男の人。ディックさんぐらいの年?…おっさんの年齢は、外見じゃ分からないなぁ。おっさんって言葉で一くくりにしちゃうもんなぁ。 「ヨルゴさん、忙しいんだろ?」 ディックさんのお父さんが頷く。その間も、手にした武器を修繕している。 「ディック、悪い。これ、急いで作れるか?」 「あぁ」 この、居心地の悪くなった雰囲気を払拭する風味で、渡された紙を見つめるディックさん。そのまんま、工具が置いてある場所に移動して、何かを始めた。 「ディックさん?」 「何だ?」 「鍛冶屋さん、するの?」 「あぁ。捕まったからな」 叔母様が言っていた、手伝えって、この事ですか…。 「ん?お前の彼女か?」 「違う」 「名前は?」 「あ、沙美です」 このおっさん、ディックさんの話は、一切スルーですか? んで、何?何?上から下まで、じっくり見られているんですけどー。 「フランツ……何か、売りつけようとしても駄目だぞ」 「あれ?ローランも居たのか。 何もつけてないなんてダメだろ。んだよ、二人も揃ってるのに、ちゃんと飾ってあげなきゃ、ダメじゃないか」 えっと、何もつけてない? 「華奢な首飾りだけね…ったくローランとディック、使えなさすぎだろ。 ん〜、ちょっと待っててね〜」 そう言って、押しの強いおっさんは、走ってどこかへ行っちゃった。 「えっと…ローラン……?」 「フランツは、宝飾屋です」 なるほど、それで、さっきの会話になるんだ。あ、帰ってきた。 「ディック」 「ん?」 「この代金、これでよろしくな。彼女だろ、お前から渡しといて。 んじゃ、出来たら、持って来いよ〜」 そう言って、瞬く間に居なくなった。なんつーか…忙しい人だねぇ。 「ああいう性格ですから…」 「なるほど〜」 「あの…サミ殿」 「なぁに?」 「……大変申し訳ないのですが……、母のテントに行ってもらえますでしょうか……」 「うん!ってか、挨拶しなくちゃだよね!行こう!」 お仕事中のディックさんに手を振って、ファビさんとローランさんと一緒に隣のテントに移動した。 「えっと……洋服屋さん?」 目の前に広がるは、数々の衣装と布地。 「いらっしゃい。待っていたわ」 「あ、いつもローランさんには、お世話になっています。沙美です。よろしくお願い致します」 「いやぁん、可愛いわ〜」 抱きしめられましたヨ。何で? 「ねぇ、うちには、二人ほど余っている男が居るのだけれど、どちらか、もらってくれないかしら?」 「は?」 「母さんっ!」 「だって、貴方達ったら、面白くないんですもの〜」 ローランさんと、テントの隅に居た男の人が頭を抱えている。弟さん?お兄さん? 「お城に行ったら、可愛いお嬢さんの一人や二人、簡単に連れてきてくれると思ったのに」 ローランさんの方を向いて、ため息。 「行商に行けば、ナンパの一つや二つしてくると思ったのに」 隅に居る男の人に向かってため息。 「まったく、うちの息子達ときたら、本当に甲斐性が無いんだから」 えっと、ファビさんみたいな息子さんが、ご希望でした?それは…間違っているような……。 「ねぇ、どっちも面白みは一切無いのだけど、どうかしら?」 「あ、あたし、ですかっ?!」 今日のあたしは、親御さんにモテモテだ。 「えぇ。だって、ねぇ。珍しい綺麗な黒髪、同じ色の瞳。すっごく、着せ替えのしがいがありそうだわぁ」 どうかしら?って、嫁にって事だよねぇ?んでも、このご意見は、着せ替え人形がご所望なのでしょうか? 「えっと、あたし、ですか?」 「そうよ。ねぇ、これなんか、どうかしら?」 目の前に出てくるは、非常に可愛らしい、フリルを多用したドレス。絶対、あたしには、似合わないヨ。 そして、コノシチュエーション。とっても、デジャブ。流石親子だ。 「あの……あたし、この服、ものすっごく、気に入っているんですけど……」 「いやぁん。そんなシンプルな服。折角女の子に産まれたんですもの、着飾らなくちゃ。ね!」 「でも、すっごい綺麗な刺繍が入っているんですよ〜」 「ありがとう。でもねー、それは男の子用」 ありがとう? 「サミ殿、あの店の服は、ほとんどうちから仕入れています……」 「え?これ、叔母様が、作られたんですか?」 「そう」 「すっごい!これ、すっごく綺麗で、一目惚れなんです。尊敬します〜」 「まぁ、嬉しい事言ってくれるのね」 また、抱きしめられちゃったヨ。 「なぁ、お嬢ちゃん、俺も、可愛い服のお嬢ちゃんが見てぇなぁ〜」 抱きしめられたまま二人を見ると、助けてくれる雰囲気皆無。ローランさん、とっても頷いている。ファビさんも、楽しそう。くう〜、味方が居ないっ! 「当然、貴方達も、手伝ってくれるわよね」 「私ですか?」 「えぇ、細身の貴方。 モーリス、この二人の着付け、頼んだわよ」 瞬間、状況を察したらしいローランさんは、逃げようとしたんだけど、ファビさんに捕まりました。 いったい、何が始まるの? 始まったのは、宣伝活動でした。 最初に叔母様達に会った時、お二人は店の宣伝活動をしていた最中だったとか。んで、今、あたし達は、三人揃って、叔母様製作の素敵衣装を身に着けて、町中を闊歩中。別にティッシュも、ビラも配る訳じゃない。歩くだけで十分らしい。まぁ、確かに、城を除いて、今までの町で見た服よりは、ずっと可愛いし、カッコいい。 「ぶぶっ…」 堪えきれない。だって…だって……。 「お嬢ちゃん」 「サミ殿」 「だってぇ〜………」 笑いが止まらないんだヨ。 非常に見慣れない光景。んでも、二人がカッコいい服を着ているってだけなから、こんなに笑わない。 無いんだよ〜、ずっと、顔にへばりついていた、あれ〜、あれが無い〜。 「ったく、すーすーするぜ」 「折角、あそこまで伸ばしたのに……」 うん、髭が無いの。ファビさんの口元から顎から、綺麗さっぱり。そして、適当に伸ばすままに伸ばされたローランさんの不精髭もばっさり。 ついでに、綺麗に整えられた髪の毛。 最初見たとき、本気で誰だか分からなかったヨ。普段着の騎士様に見えたんだよ。この二人が。カッコいいレベル、100ぐらい軽くアップしているヨ! 「いっつもそうなら、ものすごぉく、モテモテだと思うなー」 「俺は、こんな格好しなくても、モテモテなんだよ。ったく、城の式典じゃねぇんだぞ」 非常に情けない声のファビさん。 「私は、ファビみたいに、モテたいと思いませんから」 ある意味、慣れているのだろう。だけど、慣れているからこそ、嫌〜ってオーラが、ローランさんから駄々漏れ。 「あたしは、すっごく世間に威張りたくなっちゃうけどな。 だって、ものすっごぉく、カッコいいおっさん二人を従えちゃってるんだよ〜。鼻高々だヨ」 「おー、可愛い事言ってくれるじゃねぇの。 だがなぁ、なぁ、ローラン」 「あぁ」 「鼻高々なのは、俺達だぜ」 「うわっ」 ひょいと、担がれた。あたし、ファビさんの肩の上っ?! 「こぉんな可愛い、お嬢ちゃんと一緒に居られるんだもんなぁ」 「あぁ。 サミ殿、とても、お可愛らしい」 うー、お世辞とは分かっているけど、ちょっと、ううん、かなり嬉しいぞ。だって、あたしって、一般市民の中の中程度(だと思いたい)レベルの容姿。 それでも、ひらひらとリボンが大量に付いたブラウスと、真っ黒なふんわりとしたスカート。同じく黒のベスト。髪の毛には、同じ生地のリボン。なんか、お人形さんみたいな衣装。 そんな衣装に助けられて、中の中が、中の中ちょっと上には行ったかな?って感じ。う〜ん、行っているといいなぁ。 町を二周して、最後にディックさんに見せて。ディックさん、二人の姿を予想していたらしく、自分は、鍛冶の仕事をしていて良かったとホッとしていた。あ、ディックさんも、可愛いって言ってくれた。 本当に、おっさん達は、優しい。 ただ今、ようやく仕事から解放されたディックさんを加えて、宿屋の一室で食事中。なんと、食事は、叔母様二人の手作りの品々。すっごく美味しい。 お会い出来て良かったと、胃が言っています。や、頭も心も思ってるよ。だって、ローランさんとディックさんの反応、すっごく面白かったから。すっごい、堪能しました! 「あの服は?」 最後に合流したディックさんが、不思議そうに聞いてくる。 「あれ着て、ご飯食べる勇気無いよ〜。絶対汚す!」 「白い、エプロンを用意しましたのに…」 そうなんだ、ローランさんは、フリフリが効いたエプロンを用意していた。「これなら汚して構いませんから」って、そのフリフリが、物凄く綺麗なんですけど。絶対汚せないヨ。ローランさんの感覚間違ってるヨ! 「その格好は、マルタンさんか?」 ディックさんの言葉に頷く。 あたしは、ローランさんの叔母様に請われて、高校の制服を久しぶりに来た。白いブラウス、スカートとベストは、同じ緑をベースにしたタータンチェック、ジャケットは緑一色。胸元に淡い緑のリボン。白いソックスに黒のローファ、手には、リュックにもなる、茶色の鞄。久しぶりに着るのにも関わらず、あたしにとって、着れば直ぐに馴染んでしまう一品。 「だとすると、ウリエンさんとレイモンさんも来ただろ?」 「えっと、靴屋さんと鞄屋さん?」 「あぁ」 ローランさんのお父さんは、行商に行く度に、あちこちで服を物色して、新しい服を考えるデザーナーさんだった。それを聞いたあたしは、何気なく制服の事を言ってしまいまして……えぇ、考え無しの言動でございましたヨ。でもね、あんなことになるとは、普通思わないってぇ。 素材、染め、製法、作り方、事細かに聞かれた。 あたし、服や靴、鞄の素材の知識なんか、これっぽちも持ち合わせがないです。だって、だって、××の作り方なんつー事で、物を買ったりしないよね?製法なんか、見ないよね?見るのって、デザインと色ぐらいだよね?ついで言えば、制服だから、一切の選択肢無かったんですけど〜。 アクリルって何?プラスチックって、どうやって出来るの?原料石油しか、分からないヨ。それをどうしたら、繊維になるんだか、う〜〜、勉強不足がたたってるの?それとも、世間は、自然と知ってるもんなの?あたしの世間には、無かったんだよ〜。 分からないあたしに、質問の嵐は続く。靴屋さんも鞄屋さんも服屋さんも、そりゃぁ〜も〜、なんていうか、プロでございましたです。はい。 「分からないでもないが、それに携わっていない者に聞いてどうする」 「分かってはいるのだと思うのだがな」 あー、ローランさんも、ディックさんも、同じ目にあった風味? 「すっげぇ職人気質だなぁ。あの環境で、よく術士や剣士になれたもんだ」 確かに、あたしもそう思う。 「サミ殿も試しましたよね?あれを、5歳までに、必ず一回試さなくてはいけないのです。 そして、才能がある子供は、有無も言わさず、エールの学校行きです」 あ、ローランさんの術をBGMにして、杖を持ったやつ。あれをやるのか。 「んじゃぁ、店は弟が継がなくちゃいけねぇって事?あんまり、楽しそうじゃなかったみてぇだけど?」 「親父が店の世話もせずに、どっかに行くのが嫌なんであって、あいつはやりたい事をやっているさ」 「もしかして、自分が行きたいとか?」 ローランさんが、楽しそうに頷く。なるほど、弟さんもデザーナー志望なんだね。だとしたら、行きたがりのお父さんと息子さんに囲まれて叔母様が大変そうだなぁ。 「ディック、お前は?」 「目を離したら、ろくでもないヤツになりそうなのが、城の方へ行ったからな。俺は、それに合わせただけだ」 「誰の事だ?」 「分かってるなら聞くな」 ローランさん、苦虫を噛み潰したような表情ですよ〜。 「もしかして、ローランの御母さんに頼まれたとかか?」 「学校で曲がった根性を正したやり方が、気にいられた。馬鹿素直で、染まりやすい息子をどうか頼むと言われたな」 「母様……」 あぁ〜、ローランさん知らなかったんだ。頭抱えちゃったヨ。 「そんで騎士かよ?」 「俺は、文官をやるような頭は、持って無いからな」 「本当かぁ?」 ファビさんの視線は、ディックさんの言葉を目一杯否定している。 「本当だ。 ラグエル卿の所では、戦う以外にも大量に勉強をさせられてな。それで十分だ」 え?騎士様って勉強まで必須?!あの体育会系のノリで、勉強までも……なんか、宿題忘れたら、校庭十周とか言われそうなんですけど。 「わりぃ、あそこで勉強……なんか、色々想像出来ちゃうあたりが……ディック、お前、偉すぎ」 「だろう」 ファビさん、ディックさんを哀れんじゃってるよね?ディックさんも、素直にそれを受け入れてるって事は……もしかして、あたしが想像したよりも、もっと酷い目にあっていた? ラグエル卿さんに何か教わるのは……遠慮しておこう。あたしみたいな、一般市民には危険だ。かといって、ついつい一緒に思い出しちゃったデュカス卿さんも、怖そうだよねぇ。こんな事も分からないのか?という言葉を大量に満たした絶対零度の視線で見られちゃいそうだよ。 「ごちそうさまでした」 夢に見そうだ。見ない為にも、今夜の訓練頑張ろう。 「んじゃ、着替えてくるねー」 「サミ」 ディックさんが、おいでおいでしている。 近寄ったら、「手首を出せ」と言われた。ひょいと出したら、腕になんか付けられた。 「ディックさん?」 「お前のだって、言っていたからな」 手首に、淡い桃色の石がはまった細身の銀色バングル。たぶん、宝飾屋さんからだ。 「うわぁ。綺麗だねぇ」 「お、趣味がいいじゃん」 「あいつの作る装飾品は、人気が高いんだぞ」 ローランさんが、「最高級品の腕なんだぞ」と、もう一言付け加える。 「分かる。 お嬢ちゃん、お似合いだ」 「へへっ、ありがとう。 でも…貰っていいの?これ、ディックさんの作業代じゃ…」 「あぁ、構わない」 ディックさんが、頭をぽんぽんと叩いて、言外に大丈夫だと言ってくれる。 「ほら、さっさと着替えて来い」 「うん!」 今日も、最後まで頑張るぞ。 だって、こんな素敵なもの貰っていて、サボってないかいられない! to be continued… 09.02.3 砂海
現在:叔父様2人、お父さん2人、お母さん2人、おっさん5人(加:宝飾屋さんと弟)、若者6人(男4人、女2人)靴屋と鞄屋は、お父さんと同年代です。(でも話にしか出てきて無いんで、カウントしてない。まぁ、お父さん一人もだけどね<差別) 新規エピを思いつくまで、時間がかかりました。その間、ああだ、こうだと、妄想を繰り返し、頭の中に大量のボツを発生させました。 そのかいあってか、なかなか良いエピが出てきたと……(自分しか誉めてくれないんで、自力で絶賛) 元々、各メインメンバーの履歴は、作ってあったので、書きやすかったVv 後は、ファビさんだけ。たぶん彼の家族が出てくるのは、二部だなぁf('';) 次も、今から書きますんで、少々お待ちをm(__)m^^^