Fantasy with O3(Talk in the bed) ナデージュ6  

  「おーお嬢ちゃん、やる気じゃん」  沙美は小首をかしげる。 「んで、お嬢ちゃんは、もう、何を説教させるか、分かってるよなぁ?」  沙美は、にっこり笑い、「ぜんぜん」ときっぱり言い放つ。 「おいおい、まじかよ。よーし、順序よく行こうかぁ。まず、お嬢ちゃんは、面がばれてっから、腹黒の前に出ちゃぁだめだよなぁ?」  沙美は、ほいきたとばかりに、鞄にしまった紙を取り出し、ファビオに渡す。渡しながら、ニコニコ笑って自分を指差した。 「あー?」  必死になって、沙美は自分を指差す。 「なるほどな……これだけ化ければ分からないと言いたいのか…」  未だ分かってなかった、ファビオとローランは、フレデリクの言葉に、目を丸くし、沙美と紙の上を行ったり来たりと視線を動かす。 「まじか?」  沙美は、「うんうん、まじだ」と言いながら、こくこくと頷く。 「これなら、あたしだって、分からないでしょ?  三人は、まじまじと沙美の化けた写真を見て、ため息をはく。 「あーーーー、確かにわからねぇ…お嬢ちゃん、この胸は詰め物だろうが…お嬢ちゃんの世界では、目の色まで変えられるのかぁ?」 「そうそう、うすーーーーい色付きのガラスみたいなのを目に入れるの。  すっごいでしょ?のっぺりした顔が、色々努力してもらうと、うっすらおっさん達の国の人に見えるようになるんだよ〜」  物凄い褒めてオーラを発している沙美に、三人は再びため息をつく。フレデリクが、「ほら、がんばれ」とファビオをつっつく。 「へーへー。んじゃ、この件は、お嬢ちゃんの勝ちなぁ」 「んと、あたし達戦ってるの?」 「いいや、違うけどな。まぁ、いいじゃねぇか。んじゃ次なー。  お嬢ちゃん、いくら舞踏会だからって、警備はいるんだぜ。って事は、突然自称魔法使いなんつーもんが現れてみろ、いっくら招待状を持っていたとしても、警備のもんから注目を浴びる。そんなやつが、さっきみたいに火なんか出したら、即、四方八方から矢が飛んでくるぞ〜」  再び、沙美が、鞄の中を物色して、ベストを一つ取り出し、ファビオに渡す。 「あ”−?って、これ、何だ?」 「ベスト、ベスト」 「結構重てぇじゃん」  沙美は、頷きながら、「これって、あたしの世界の飛び道具を防ぐ服。たぶん、弓ぐらいなら、楽勝で防げる!……と、思うんだけど……」一般的に防弾チョッキと呼ばれる、立派な防御用品。沙美は、結構高かったと懐が痛かった記憶を思い出して、防いでくれないと困るよ!と心の中で叫ぶ。 「ほれ、ディック」  不信の視線をファビオに投げながらも、「この中じゃ、お前が一番マシか…」と呟く。沙美のサイズとまったく違うフレデリクは、腕は通さずに肩にベストを羽織る。 「お前、あっちな」  指差した方向にフレデリクはすたすたと歩いて、壁際で立ち止まり、ファビオに背中を向ける。その間、部屋にあった小さな弓を取ったファビオは、正反対方向の壁に立った。そして、そのまま、弓を引き絞り、矢を放つ。  二人が何をしようとしているのか悟った沙美は、腰を浮かせかけた。キーーーーンと高周波の音。そして、ポトリと床に落ちる矢。沙美は、安堵の吐息を吐いて、再び座りこんだ。 「ディックさん、大丈夫?」 「平気だ。小弓だった上に、ファビオの腕だからな。だが……衝撃は吸収されんようだ。あいつらの腕でやられたら、軽く肋骨はいくぞ」 「え?…腕で?…えっと、室内だろうから、物凄く大きい弓は使わないと思っていたんだけど……腕?腕で小さい弓でも、物凄い衝撃になっちゃう??」 「なるな」 「う………じゃぁ、根性で立ってないとだめだねぇ……うん、分かった」  真剣に頷く沙美の頭を、ファビオが小突く。 「お嬢ちゃん、根性出す前に死んでるぞー」 「え?このジャケット装備していても、だめ?腕のいい人の矢だと、これ貫通する?」  沙美は、弾丸より、腕のいい弓使いの方が上なのかと感動する。 「流石に貫通するとは思えねぇけどよぉ、お嬢ちゃん、これって、上半身だけだろー?頭と足はどうすんだぁ?」  それを聞いた沙美は一人でぶつぶつと呟き始める。「頭かぁ…やっぱりヘルメット装備すべき?」沙美も一応、一回は頭の防御も考えていた。だが、舞踏会にヘルメットはないだろうと、速攻ボツにした。足には安全靴も考えていた。以下同文で却下。沙美はぶつぶつと呟き続ける。「全部防御できるような安全靴じゃぁ……歩けないよ…ね……だいたい、とことん舞踏会という場所に似合わなくなるよぉ………ううっ……まぁ、はなから異世界の格好しているんだから、それもお洒落とか思って……ううっ…自分がいやだぁ……」呟きは、続く続く。ファビオがあきれたように、もう一度沙美を小突いた。 「お嬢ちゃんが、それなりに防御を考えてきたのは認めてやるが、近衛兵団5軍をなめちゃぁいけねぇよ。あいつらの弓は、はんぱねぇって。一瞬のうちに針山だぞ」 「うーーーーーー……分かった、もう少し考える」  速攻、おっさん達から、「サミさん!」「違うだろ!」「お嬢ちゃぁ〜ん」同時の突っ込み。 「えーーー、例えば、ナジュに速攻傍に来てもらうとか、シナリオを練り直せばいけると思う!」 「お嬢ちゃんさぁ、俺達の手はいらなくて、姫さんの手は借りるのかよぉ。俺、拗ねちゃうぞぉ」 「ファビさんが拗ねても可愛くないから、効果なしっ!だいたい、ナジュのお友達っていうふれこみで行くんだから、ナジュの手を借りても大丈夫だけど、おっさん達まで友達だと、設定的に無理!」 「サミさん…ナデージュ姫は、ほとんど城から出ません。姫と友達というのも無理があると思いますが……」  恨みがましい視線付きのローランの台詞。せめて自分だけでも、仲間に入れてオーラをバリバリ出している。 「んー、それは、魔法使いですから、姫君の鏡を使って、今まで遠くからお話していました〜とか、城の外から姫君を見かけて、窓からお邪魔しました〜とか、何でもアリだと思うのだけど?設定しちゃえばこっちのものっ!」  なにせ妖精のいる世界。以前魔法使いがいた世界。何でも言ったもの勝ちだと、沙美は思っていた。 「サミさん……一応、世間一般でも、魔法使いの伝説は残っています。そこには、沙美さんが言ったような魔法はありませんが………」 「なかったら、作っちゃえばいいと思うんだけどなー?」 「いえ、サミさん、突然そのような奇抜なお話をされても、世間が受け入れるかどうかは……」 「そうかなぁ……そういう話って、世間は好きだと思うけどなぁ……事前に吟遊詩人さんにお話をお願いするとか」  突然現れたSFという夢満載の妄想満載ジャンルを受け入れた世界がある。沙美の世界。確かに全員が全員受け入れた訳じゃないが、徐々に浸透するものじゃないかと、沙美は思っていた。 「あれ?この世界って吟遊詩人さんって職業の人いるよねぇ?」 「あぁ、いるが……広めるなら、酔っ払いが一番だぞ」 「あ、なるほど。ファビさん伝説方式だね」  フレデリクの言葉に、ファビオがいやぁんな表情を浮かべる。ついでに、「お嬢ちゃんのフォローしてどうする」とフレデリクに手近なクッションを投げる。当然フレデリクは片手で受けて、ポイッと背後に投げ捨てた。 「ほら、一勝一敗だぞ。勝てよ」 「え?あたし負けたの?」 「お嬢ちゃん、敵地に赴く時は、最大限身を守る策を練るのが常識だ。中途半端すぎ!」 「う”〜分かった。次はそう言われないよう頑張る!」  「だぁかぁらぁ〜」「違います」「サミ…」おっさん達が順番に、更なる突込み。ファビオの、「同じ事言わせんなよなぁ」とボヤキが続く。 「だいたい、お嬢ちゃんは、女の子のお話をしに来たんだろぉ?んで、何でこんな事になってんだぁ?」 「ちゃんと女の子のお話をしたよ!もう、ナジュが、ものすっーーーーーーーーーーーーーーーーーごく可愛かったぁ」  沙美の両手は胸元で握られ、乙女のポーズ。 「可愛いって言ったら、ナジュみたいな大人の女性に対して、ものすっごく失礼だとは思うけど、けど、けど、でも、真っ赤になったナジュは、ものすっごく可愛かったんだよー!」 「へぇ〜、あのお姫さんがかい?」  ブンブンと音が出るくらい、勢いよく沙美の頭が上下に動く。 「想像つかねぇ………ま、お姫さんが可愛かったと、それはいい。その結果が何で、あの戦略会議になったんだぁ?」  沙美の笑顔が凍りつく。顔には、しまったとデカデカと書いてある。目の前の相手にだけは、理由がいえない。なにせ、ナデージュの片思いの相手。そこら辺を誤魔化して、詳細はいえず。あいまいに言っても、真理を見抜きそうな相手に、語る言葉がない。だけど、沙美は頑張る。胸を張ったまま、「話の流れ」と適当な言葉を言ってみる。 「あ”〜?」  通用しない。 「サミ」 「ひゃっ・に?」  突然のディックの呼びかけに、声が裏返る。 「準備を見る限り、今日の事は全て計画してきたんだな?」  話がそれた。これは、フレデリクからの助け船だとばかりに、安堵の表情を浮かべながら、コクコクと頷く。 「あれと、友達になったと言ったな?」  もう一回コクコク頷く。 「友達を利用したで、あっているな?」  沙美の表情が固まる。友達になったのは、計画が動いてからだというのは、言い訳にすぎない。間違いなく、フレデリクの言っている事は、正しい。ナデージュの恋心を利用しての計画。沙美にとっては、ナデージュの心よりも、おっさん達が大切だったから、おっさん達の事を優先してしまった。 「分かってたな?」 「うん…」 「ならば、お前の計画が終わった時点で、あれに謝れよ」  沙美は、まじまじとフレデリクを見て、目を瞬かせる。そして、勢いよく「うん!」と頷く。 「それで、お前の目的は何だ?」 「あのね、目指せ!毎日、最低6時間!!」  沙美は、ブイサインして、胸をはる。 「はぁ?何だそりゃぁ?」 「サミさん、全然分かりませんよ」 「お前、言葉省略しすぎだ」 「え?目的用標語って、分かりやすく簡潔にまとめるのが基本だよね?」  詳しく言うのは、少々照れるからねとばかりに、沙美は、にっこりと笑う。 「まとめないで言ってみろ」 「うっ………」 「そうだよなぁ、お嬢ちゃん、俺達を巻き込んだからには、詳しく言うべきじゃねぇの?」 「計画の目的を知らずに、協力するのは難しいと思います」  沙美の目がうろうろと空中を漂う。その途中途中に、ぷかりぷかりと浮かんでいる長達が、少々棘のあるニマニマ笑顔で迎えてくる。沙美、現在味方皆無。そして、最後に諦めたように、おっさん達へ視線が戻る。顔が熱い。自分で赤くなっているんだろうなぁって分かる。お姫様みたいになっているんだろうなぁって分かる。恋心を伝える訳ではないのに、こういう言葉って、何て照れくさいんだろうと、心の中で、ぎゃーーーー!とか、わーーーーとか叫んでいる。  だけど、おっさん達の追及の視線は、緩まない。沙美は観念して、誰も視界に入らない壁を見ながら、少し不服そうな小さい声で、「おっさん達の睡眠時間、毎日最低6時間………」と呟いた。  そんな見えない視界の中、三人のおっさん達は、一瞬それぞれ目を見開き、その後、ローランは、嬉しそうに笑い、ファビオは、苦笑を浮かべ、フレデリクは、口の端をほんの少しあげた。そして、沙美がおずおずと顔をあげた時には、三人共綺麗にその表情を消し、沙美を見下ろしていた。 「あのなぁ、俺達には、そんなに睡眠時間なんか必要ねぇの」 「だって、おっさん達は、おっさんなんだよ!もう少し年齢を考えた方が、いいんだからね!今までどおりの体だと思って無理をすると、怪我したり、体を痛めたり、疲れが取れなくて、ばったり倒れちゃうかもしれないんだからね!!」 「聞き捨てならねぇ事を聞いてねぇかぁ?」 「そうだな…」 「サミさん、私は医者なんですよ!」  沙美は、ぶんぶん首を横に振る。 「おっさん達は、確かに毎日鍛えているけどっ!でもっ!人間って歳を取れば、体の回復力って絶対低下するんだよ!  だから、ちゃんと寝て、ちゃんと疲れを取って、新しい一日を迎えないと絶対だめなんだからねっ!  疲れたまんまで、怪我なんかしたら、今度は、治癒力だって、絶対低下しているんだから!術で、治したって、絶対体に無理がかかると思うっ!」  沙美は、音を立てそうな勢いで、ローランに視線を合わす。 「ローラン!術の治療って、例えば骨折の治療って、外部からの何かエネルギーとかもらって治すの?それとも、自分の持っているものを使って治すの?」 「それは…自分の持っているものに働きかけて治すのです。骨折ならば、基本は己の治癒力に少々働きかけて、ほっておくよりは、少し早く直る程度の治療になります」 「なら、剣で傷つけられたら?」 「それは、深さにもよりますが………沙美さんが分かりやすいように言いますね。まず血をそれ以上流さないよう、血管を元の状態に戻すように体に働きかけるのです。その後流れてしまった血を除き、他の部分を元の状態に戻すよう働きかけます。  沙美さんが言ったように、自前で用意されたものを使って修復力に働きかけるというのが正しいですね」 「だったら!歳とったら、おっさんになったら、絶対自前で用意なんかしたら、その補給するのに、時間が倍かかるんだからね!若い頃の倍だからね!!」  沙美は、ばんばんと床を叩きながら、主張。倍というのは、個々の鍛え方や、食事等、色々な条件によっても異なるだろうが、年齢によっての衰えが、あるって事を知っている。周囲の人の会話や、ニュースや、ネットでの情報等で、しっかり調べなくても、自然と知識として蓄えられる自分の世界の常識。だから、おっさん達には、過信しないで、ちゃんと健康を維持して欲しい。それが、根底にあるから、絶対目をそらさない、この計画を突き進める。自分は間違っていないと、おっさん達をきっちり見返す。 「あたしにとって、おっさん達の健康が最重要事項なのっ!」  その言葉が嬉しいから、三人は怯んだ。今まで、たとえ王だろうと、対峙する敵だろうと、戦いの最中に一切目を逸らした事のない三人が負けた。ローランは、こんな妹が実際に居たら、幸せだなぁ…と貰った言葉をかみ締めながら、沙美から顔を逸らし、だらしない表情を浮かべる。ファビオは、ぐっと来たなぁ…お嬢ちゃん天然のたらしだぜぇとか思いながらも、同じく顔を逸らし、でへっと鼻の下を伸ばす。フレデリクは、負けたなと小さい笑みを浮かべながらため息をつく。そして、沙美の頭をぽんと叩いた。 「さぁてローラン、姫さんを起こそうか」 「そうだな」  そう言ってファビオとローランは、ナデージュの方へ歩く。 「サミ」  沙美は、状況が分からないとばかりに、きょろきょろ三人のおっさん達をみながら、最後にフレデリクを見上げる。 「お前、当分ここに居る予定だな?無理やり寝かせた理由を追求されないよう、あいつらをフォローしろ」  一瞬きょとんとした後、目の前にある3つの笑みを見て沙美は、満面の笑みを浮かべる。ファビオは、ニンマリと笑って、おいでおいでしている。ローランは、お願いしますと言いながら、小さく笑う。フレデリクは、「ほら」と笑みの混じった声で沙美の背中を押す。 「任せて!」  そう言って、沙美は見上げる。プランタンに向かって、お願いのポーズ。 「プランタンさぁん」  未だに少し拗ねていたプランタンが、膨れっ面で沙美を見返す。 「お願い、手伝って下さい〜」  その言葉に、空中で少し身を乗り出す。 「なぁに?」 「プランタンさんの武器で、ナデージュをめろめろにしちゃって下さ〜い」  プランタンは、小首を傾げる。 「最高の笑みで、ナデージュを篭絡するの!」  プランタンは、満面の笑みを浮かべて、沙美の横に降り立つ。  お友達で居られる範囲の些細なお願い。それでも、頼られる事が嬉しいプランタンは、少し真面目な顔をして、沙美に言う。「難しいお願いだけど、沙美のお願いだから、聞いてあげるんだからねー」そう言って、沙美を下から見上げる。 「うん。ものすっごい難しいお願いでごめんね。すっごくすっごく頼りにしているから、よろしくお願いします」  真面目な顔で見合ったが二人が、クスリと笑う。  背後で、イヴェールが、「私もお願いされたいのですが…」と少しいじけている。エテとオトンヌは、お願いされなくても、既にナデージュの周囲にふわふわ浮いている。「わらわが、寝かせたことにしてよいぞ」とコロコロ笑い。「私が起こしてやる」と言って、すぐに呪文を唱える。  沙美は、小さく息を吐いて、「プランタンさん、頑張れ〜」と声をかけて笑う。  ナデージュが、ゆっくりと目を開く。  目指せ!毎日、最低6時間!!計画が始まる。       14.3.12 砂海
がふっ、大変久しぶりです……がふっがふっ…二年放置っすか(;。。)mやべぇ 日常が仕事で忙しくて、精神削る仕事なんで、文字書きをやる余裕もなく… 影にかくれてこそーーーり、自分好みの文章をただ乱雑に書きなぐっているだけという日々← だめじゃん。中途で放置だめじゃん… ということで、ナデージュ完了! 頭の中妄想は、すっかり二部も終わって、沙美は大学生だわ、ラブロマンスはあるわ、色々進みすぎています← さて、なんとか続きを、ちょぼちょぼと書いていきたいとは思っています。 気長に見守ってやって下さい。って、ここ見ている人、いねぇだろwwww