Fantasy with O3(Talk in the bed) ナデージュ5  

   沙美は、背筋を伸ばして正座し、おっさん達をまっすぐ見返している。その周囲に、それぞれ適当に格好で、妖精の長達が並ぶ。ふわふわとしていて、座っているようには見えない。   「まずは、あんた達からな」    ファビオが、長達を一人一人睨む。だが、長年この世界に居る精霊の長達、オトンヌは、小さな笑みを口元に乗せ、エテは、面白そうに口の端をあげ、イヴェールは、優雅に微笑み、プランタンは、興味深そうにファビオを見返していた。   「だーーーーーー、すっげぇ話ずれぇっ!ディック、お前なら出来る!これをなんとかしやがれっ!」 「これとは、随分な言い様じゃのぉ」 「これは、これだ!今のあんた達には、それで十分だろうがっ!ったく、ナデージュを試すのに、お嬢ちゃんを泣かすんじゃねぇよっ!」    沙美の目が丸くなって、長達を見る。ファビオの言葉に、是も否もあらわさず、何一つ変わらない。それでもファビオの言っている事が正解だと、沙美にも分かった。友達を選ぶ基準は高いと言っていた、長達の言葉を思い出した。   「ナデージュを試すのは、構わんが、あんた達の術レベルなら、ナデージュに悟らせず、サミに意図を伝える事は出来たはずだな?」    フレデリクの重低音の声に、オトンヌが、当然とばかりにコロコロと笑う。   「それでは、正確な判断ができぬじゃろう?」 「サミの反応も、考慮のうちか?それとも、サミも試されたのか?」    オトンヌは、楽しげに笑いながら、「わらわ達は、サミに意地悪をしただけじゃ」と、さらっと言ってのける。先の臨時会議で、二人の会話を大よそ掴んでいたおっさん達は、それぞれ、顔をしかめた。   「お嬢ちゃんは、あの王妃さんが大好きなんだから、王妃さんに習うに決まってるだろうがっ!」 「そうじゃのぉ。決まっておるのぉ。だからこそ、サミも、お説教を受けるのじゃろう?」    ファビオが、「う"〜」と唸る。この世界が誕生した時から存在している者達に勝てない。勝てる気がしない。そして、長達の気持ちも分からないでもない、ファビオは言葉が続かない。   「それで、あんた達は、ナデージュに何を言ったんだ?」    プランタンが、「僕達を見れるようにしてー。魔法使いを援護するって言ったー」と言いながら、にっこり笑う。それに、オトンヌが、詳しい説明を加えた。   「サミに意地悪をするのはいいが、ギュスターヴが化けて出てくるぞ」 「再び会えるなら、どんな事でもしますのに……いつ化けて出てきても、構わないのですがねぇ……」    イヴェールは、優しい笑みのまま、答える。  沙美は、以前、聞いたお化けの話を思い出す。ナディーヌは、死んだ後、この世界に溶ける。もしくは、精霊になると言っていた。その補足説明として、ローランから聞いた話。  心を残していると、世界に溶けず、精霊にもなれず、昔の姿のままで、人に悪さをするようになると。  沙美の世界でいう、悪霊である。  ただ、ローランから聞く限りでは、精一杯生きるのがいいという教訓的な話だと、沙美は思っていた。   「お前達が、その事を試験に使っている以上、いつまでたっても出てこないぞ。あいつは、間違いなく怒っているはずだからな」 「そうだよなぁ……命はって、友達を守ったのに、その友達に裏切られちゃぁなぁ…」 「そうですね……間違いなく、ギュスターヴ殿は、怒っているでしょう」    おっさん達は、たたみかけるように言葉を添える。ネタは、ギュスターヴしかない。  そんな必死の戦い?の中、沙美は、本当にお化けっているのかなぁ?と、あの話は教訓じゃなかったのかな?と明後日の方向に思考が飛んでいた。だが、そこに駆け抜ける風。プランタンが部屋の中を転げまわっていた。沙身は、目を瞬いて、再び心を話に戻す。考えている場合ではない。   「あの頃の友達がいなくなってから、山奥に引きこもったもん。強大な魔法使いが生まれるまで我慢したもん。久しぶりの友達なのに……」    「なのに、皆、意地悪だーーー!!!」と、プランタンが、頬を膨らませる。   「意地悪じゃない…」    プランタンの言葉に、俯いた沙美が、ボソリと呟く。だが、その声は、全員に聞こえた。   「皆、長さん達が大好きだから、一緒に遊びたいの我慢して、一緒に居るのを諦めて、大好きな今の仕事を手放して、慣れない新しい仕事を頑張ったんだ……」    沙美の声は、酷く小さい。   「ギュターグさんは、命までかけたんだ……」    途切れる言葉。   「ナディーヌは、大好きだから、友達として接してきたんだ……」    酷く悲しげ。   「それを試験に使っちゃだめだよ………長さん達なら、ナジュに見られず試験が出来るでしょう?」    膝の上の拳がギュッと握る。  そこに、ふわりと、オトンヌが、飛んできた。   「のぉ、サミ」    のろのろと沙美の顔が上がる。   「わらわ達はの、何も感じない訳じゃないのじゃ」    パチパチと音がするんじゃないかと思うぐらい、沙美の目が瞬く。   「あの時まで知らなかったのじゃ。人と一緒に仕事をするのは、楽しかったのぉ……それを教えてくれたアニーには、物凄く感謝しておる。あの時、魔法使いはいなくなるという予言はあったがの…それは、わらわ達にとってもずっと先の事じゃと思っていた。そして、楽しい時間は終わらないと思い込むほどに長かった……だがのぉ…それは、終わってしもうた。魔法使いは、もうおらぬ。  わらわ達は、人が大好きで、人が大嫌いなのじゃよ……」    オトンヌは、沙美を見つめる。   「術者が生まれて、随分と経ってしもうた……あやつらが、歩んで来た道は長すぎるのぉ……もう、魔法は、あの言葉は、二度と紡がれないのじゃろう………なぁ………」 「……長さん達が、農家の方々のお手伝い以外一切手を貸さないというのと…もし、お友達が脅迫されていても、それを貫けるのなら、魔法使いを復活させる事が出来るかもしれないけど……でも、それは、ナジュを国のトップに置いて、裏から手を回してもらって、術士長と手を組んで頑張らないと無理だと思う………ヨ」    オトンヌが、イヴェールをチラリと見る。   「……イヴェール以外は、なんとかなるやもしれぬがのう……それでも、難題じゃのぉ」 「だって、よその国には、ナジュもローランも居ないんだよ。この国だけの事なら、おっさん達が居る間なら問題ないと思うけど……ほかの国じゃ、すぐに戦いに巻き込まれちゃうヨ」 「わらわ達がいるのは、この世界全てじゃ……」    オトンヌの口から、小さなため息が漏れた。   「ほんに、人は、争う事が好きな生き物じゃな…」 「そうだねぇ……この世界には、長様達が居て、術者さん達がいるから、あたしの世界とまったく同じ方向に進むとは思えないけど……でも…きっと、もっともっと大規模な戦争が始まる……あたしの世界は、今でも、そこかしこで戦いが続いているよ……そうならないようにするには……どうしたらいいんだろう?せめて、この世界だけでも……」 「オトンヌ様………貴方方は、当然術を、医療を勉強しましたよね?」    二人してしんみりしている所に、少々棘のあるローランの声。  沙美は、その声にびっくりして、顔をあげた。   「私は、まだ、拝見させて頂いてませんが、かなりレベルの術者に対抗出きると判断していますが、違いますか?」    ころころとオトンヌの口から、笑い声が漏れる。   「強大な魔法使いは、聡いのぉ」 「術の事だけです。それで、どうなのですか?」 「そうじゃのぉ……わらわ達が勉強出来たのは、ギュスターヴが生きている間だけじゃったからのぉ…あやつが習得したものは、全てわらわ達も出来るようにしたぞ。  後は、たまに山から下りて、術士の仕事を眺めていたりはしたのぉ」    ローランの目がうろんげに細まる。「では、基礎は、完璧なのですね…」とため息交じりの言葉。   「貴方方が、ご自身の素性を詐称し、能力を一切使わず、術だけを使うのであれば、仕事はいくらでもあります。当然、国外にもです」 「それは、わらわ達に息をするなと言っているのと同義じゃぞ」 「ですが、能力を示した瞬間にギュスターヴ殿が危惧していた事が現実になります」    「ん〜」と少し難しい表情を浮かべたプランタンが、ローランの上にふわりと飛び乗る。   「あのさぁ、見つからなければいいー?」 「突然の暴風や、山火事、季節外れの雪に地震が頻発するのは、困りますが…」 「そんな事しないよー。僕達、術士からも姿を消す方法知ってるからー、それ使ってー、軽い息抜きするー」    ローランの視線が不信げ。非常に軽い言葉に、信頼性皆無。   「その軽い息抜きの内容を聞くまでは、お答え出来かねます」 「妖精同士が連絡とりあってー。ほらー、僕達に、あの声を伝える術なくなっていないからさー。それでー、何するか分かってないんだけどー術士がお仕事している場所近辺で農家の人が困っていたらー、僕達が影からお手伝いするのー」    ローランは、米神がズキズキしてきたと思いながら、首を横に振る。   「長様方々は、魔法使い無しで、細かい天候の調整が出来るのですか?」    口調が、出来ないでしょう?と言外に、非常に強くあらわしている。   「あはははは…もう失敗はいっぱいしたから、大丈夫ー」    ローランの頬が、引きつった。   「僕達、山奥に隠れていた時にー、色々試してみたんだよねー」    プランタンの非常にかわいらしいニッコリ笑顔付きの言葉。だが、ローランは、そんな事では騙されない。   「もしかして、地形とか天候とか激変させませんでしたか?」    長達が、微妙に視線をそらす。   「ギュスターヴ殿は、操作されない天候に不安に思い、魔法使いがいなくなる前に、世界中の魔法使い達と、天候に関しての記録を取る事、異変が起きた時には、近所に伝える事など、天候に関してのいくつかの取り決めをしたのです。  ……この国でも、異変の記録が………いくつか残っているのですが……」 「んー、いつ頃?」    張り付いた笑顔のまま、プランタンが小首をかしげる。   「王妃様の孫の代です……丁度、大規模な戦争が落ち着いてから数年後ですね」    長達が、きっぱりと視線を逸らした。   「……やはり、術士としての、ご協力の話は無かっっ……フュ、フュランタンひょのっ!!」    プランタンの手が、むにゅーっとローランの両頬を引っ張っていた。   「だーかーらぁ、練習したって言ったでしょー。もう、大丈夫だもん」    口が、ビローンってなって、非常に笑いを誘う光景だが、ローランの目は、非常に冷たかった。プランタンは、少々びびって、顔を引きつらせる。   「ちゃんと、気持ちよく力を使って、ちょっとの効果を出せるようにしたもん」    冷ややかな視線変わらず。   「むーーーーーーー」    両者にらみ合い。   「ローラン、お前さぁ、優秀な人手が欲しいんだろ?」    ローラン、目を逸らしたら負けだとばかりに、ギンッとプランタンを見据え、「あぁ」と答える。   「だったらよぉ、ちょーっと、お嬢ちゃんから、ギュスターグの本借りて勉強してさぁ、精霊さん達をテストすればいいだろぉ?  だいたい、お前達の事だから、天気について、かなりの知識は、溜め込んでいるんだよなぁ?何が失敗かも十分分かるよなぁ?」 「当然だ。それは、学校で習う事の一つだ」 「だったら、判定ぐれぇ出来るだろ?」    今までローランと睨みあいをしていたプランタンが、ニコニコ笑って「テスト、テスト」と嬉しそうに繰り返している。   「私達をテストするねぇ……随分と大きく出たな」    純粋に楽しそうなプランタンと違い、エテを始め、イヴェール、オトンヌが不敵に笑っている。少々タカビー目線。   「エテ殿は、山火事もどきを起こしましたよね。イヴェール殿は、かなり季節の早い雪をどっさり降らせましたし、オトンヌ殿………火山の噴火に関係していませんか?」    三者とも見に覚えがありすぎるのか、非常に自然に、ローランから視線を離す。   「大きく出て十分だと思いますが?」 「うんうん、だから、テストー、いつ?いつやるのー?」 「場所を検討させて下さい。なるべく早めに行いましょう」 「うんうんうんうん、それで、そのテストに合格したら、僕達、何をやらせてもらえるのかなぁ?」    きっらっきらの視線がローランを見上げている。   「新人術士の助言とお手伝いをして頂ければとおもっていまっ?!!」    突然、開かれた窓から、ものすごい勢いで大量の精霊が入ってきた。   「皆ぁー、聞いたぁ?僕達頑張ってー、テストに合格するからねー。そうして、昔みたいに、楽しく人と遊べるよー!!」    まるで満員電車みたいな状態の部屋の中。一斉に精霊達が嬉しさを表現する。   「テストは二種類用意致します。天候の操作のテストと、術のテストです。助言する為には、しっかりとした基礎知識が必要です」    部屋の中の精霊から、一斉にブーイング。   「合格しない限り、絶対にお手伝いしてもらう訳にはいきません。これだけは人命に関わる事ですから、曲げられません」 「大丈夫じゃ。わらわ達が、今まで伝えた事を思い出せばいいのじゃ。何一つ不安に思う事はないぞ」    オトンヌの言葉に、再び部屋の中が、楽しそうな雰囲気に包まれる。   「では、皆さん、お帰りください。テストが決まり次第、お呼び致します」    精霊たちは、嬉しそうにローランを撫でたり、触ったり、少し小突いたりしてから、さーーーーっといなくなった。   「オトンヌ殿、この国の付近では、どれぐらいの人数が集まるのでしょうか?」 「そうじゃなぁ…この国にだけ限定すれば、少ないものじゃよ。大地の精霊だけで言うなら、片手で足りるじゃろう。  わらわは、この世界と同時に生まれたものじゃが、後の者達が、うまれてくるまでには、随分と時が過ぎたからのぉ。そして、わらわのように、あらゆる術を使いこなせる者が生まれるのは、ほんの一握りじゃ」 「今、部屋に来た者達は、随分な数だと思いますが?」 「あやつらは、昔のように天気を操りたいもの達がほとんどじゃよ。ギュスターヴ達がいなくなってから、人に近寄らぬよう、きつく言い渡したものじゃからの。少しでも人に近づきたいのじゃろう」 「今でも人に近づくのは、非常に危険です。その辺は、長様方々が、しっかりお伝え願えますか?」 「そうじゃな。あやつらも残念じゃろうが、それは、仕方あるまい」 「では、長様達のテストに向けて、術士達を動かしましょう。  ですからもう二度とギュスターヴ殿、魔法使い達を悲しませるような言葉を慎んでもらえますね?」    長達は、話が最初に戻ってしまった事に、それぞれ心の中で舌打ちをする。まったくもって、真面目すぎるとローランに対して、ため息をつきながら、それぞれ視線を遊ばせた。   「長殿」 「そうじゃの。考えておこうかのぉ」    視線を泳がせながらも、楽しげにコロコロと笑いながら、オトンヌが答える。ローランは、がっくりと肩を落として、これ以上は無理だとため息をついた。そんな様子を見ていたファビオは、チラリとフレデリクを見る。   「いっその事、お前の術でギュスターグか、王妃を連れてこさせて、こいつらに直接説教をしてもらったらどうだ?俺達が言うよりかは、堪えるだろう」    ファビオが、できるか?と無言でローランを見る。   「あー……そうだな、術を考えておく。また、こんな事があるようでは困るからな」    周囲で、長達が、ぶつぶつと文句を言っているが、全員がスルー。とりあえず、反省をして欲しいと、ローランが代表のように、もう一度ため息をついた。   「それで、ナデージュは、合格したのか?」    フレデリクが一応の確認をする。   「そうじゃのぉ。面白い姫君じゃ」とコロコロと笑って言うオトンヌ。「随分と生真面目なお嬢さんだな」と大らかな笑みを浮かべるエテ。「昔の貴方を見ているようですね」とファビオを見ながら優雅に微笑むイヴェール。「もーーーー頑固なんだからぁ!」と少し膨れて一回転するプランタン。   「それが答えか?」    フレデリクの問いに、長達は、それぞれ笑みで返す。とことん、一筋縄ではいかない素直から程遠い長達だった。再びおっさん達の口からため息。だが、そんなため息をさっさと終わらせたファビオを楽しげに手を叩いて、沙美に向き直った。   「お嬢ちゃんの番だぜ」    その言葉に沙美は、慌てて背筋を伸ばし、にっこり笑い返した。       12.05.04 砂海
あっはっは……4月に間に合わなかったw というより、この倍はあったのを、諦めて二つに分けました(´;ω;`) うん、まだ終わってないのよ…orz とりあえず、次で終わるのを夢見て……日々頑張ろうw 長らくお待たせというか、約一年過ぎてしまいましたm(__)m リアルのばたばたが落ち着かない昨今ですが、絶対終わらせるぞー!!