300years ago … 7  

   既にこの世界の魔法使いさん達には、多くの通達が終わっている。  もし、国に追われるようなら、この国に来れば保護されるという事も伝えられている。でも、この国に来る人はほとんど居ないらしい。今まで、どの国でも医者というのは、貴族階級の人間が恩恵を得るものであって、農村に住む人々には、民間伝承のような毒にも薬にもならないもので凌いでいたそうだ。魔法使いさん達は、農村で暮らしてきた。これからは、作物を守るのでなく、人間そのものを守れるようになる。それが嬉しかったらしい。皆さんは、やる気満々の心を伝えてきたそうだ。  城に入ろうとした時に、怒鳴っていたおっさんは、真っ赤になってギュスターヴさんに謝り。ローランさんにいっぱい頭を下げた。実は、お子さんの病気が深刻で、効くかどうか分からない薬を遠方から取り寄せる為に、お金が必要だったのだそうだ。既に医者になる事を伝えていたのに、それが信じられず、あのような態度になったらしい。ローランさんが、そのお子さんを見て病状を改善しようとした時は、ギュスターヴさんに羽交い絞めされた状態で、それを見ていた。その後、お子さんが、にっこり笑って、「ありがとう」と言った時には、泣き出したらしい。  そんな微笑ましいお話は例外で、やっぱりお金に執着する人は居るようで、魔法使いさん達と、その周辺は、あわただしいらしい。でも、その詳細については、教えてもらえない。「それは、私達の仕事ですからね」と、ギュスターヴさんに、やんわりと断られてしまった。ローランさんは、色々な事を知っているようだけど、あたしと同じようにギュスターヴさんから行動を止められてしまっている。「何でも手を差し伸べようとするのは、お前の悪い癖だ」と、仕方が無いなぁ〜という表情付きで、ディックさんがローランさんを慰めていた。そう、あたし達は、歴史を曲げちゃいけない。だから、手を伸ばせる範囲が、限られている。  あたしは、ナディーヌさんとギュスターヴさんの会話をローランさんに伝えた。その後、その話を詳しくギュスターヴさんから聞いた所、妖精と魔法使いの関係は、友達という関係だと知った。結果、ローランさんは、妖精の長と話す事を決め、魔法は無くすが、その関係は壊さないようにすると約束をした。魔法は、己の才だけでは無く、友達を大事に思う気持ちが具現していたものだった。  今、あたし達四人は、誰も居ない城の一番上に立っていた。    これから、魔法が無くなる。   「ねー、ローランは、妖精が見えるんだよね?」 「はい。ですが、私の時代には、このように多くの妖精を見る事は出来ません」 「居ないの?」 「そうですね…たぶん、私達に関わらないよう、人の居ない場所に引越したのでしょう」    関わらない?魔法という技術が無くなったのだし、普通の人には見えないんだから、どこに居たっていいだろうに…??   「サミさん、以前ロニーの魔法をなくした時、妖精に言われた言葉があるのです」 「うん?」 「これで、お前との約束は、全て完了した。我々は、これから人と関わる事は無いだろう…と」    どういう事だ?   「たぶん、これから彼らと約束するのでしょう。  魔法は、人間だけでは決して実現しません。妖精の手を借りなければいけない。たとえ、記憶を無くしても、その手を無くなさい限り魔法は、無くなりません。  ただ、300年後、ロニーにだけは、発動してもらわないといけませんから」 「凄い………あの時、あたし達がした事ってのは、今を知らないのに…………」    なるほど。これからローランさんは、魔法を忘れる術を唱えるだけじゃなくて、妖精さんと話さなくちゃいけないんだ。魔法を忘れても、誰かが、いつ、思いつくか分からない状態じゃ、意味ないもんね。   「あのさ、あたし妖精さんを見た事無いんだけど、今回の術を行う時に、ローランが見ている景色を、あたしも見る事出来ないかなぁ?」 「サミさん………」    ダメモトで聞いてみたんだけど、もしかして可能性がある?ローランさんが、考え始めた。  うーん、世紀?の大術を使う日なのに、余計な事をお願いしてごめんなさい。とは、思う。思うけど、ものすっごく見たい!妖精だよ。妖精っ!あのうすっぺらい羽と華奢な体、美しいお顔……見たい、見たいぞ、いや、ぜひ見せろってなもんです!   「そうですね……。では、私の後ろに。何があるか分かりませんから、決して、動かないで下さい」 「うん!やった!!」    あの、絵画の世界の美を見れるんだぁ〜!   「ファビ、ディック」 「あ〜?」 「何だ?」 「サミさんを守れ。周りに立ってろ」 「は?」    疑問に思いながらも、ファビさんは、あたしの横にディックさんは、その反対に立つ。   「なんだか知らんが……見覚え、ある……大きいのが、サミさんのまわりにうろちょろと……」    ローランさんの眉間に皺。見覚えあるって言った時だけ、物凄く躊躇って、その声は、独り言みたいに小さかった。  いつ、見覚えた?この時代?300年後??   「えー、そうなのかよ?俺、見えねぇから、守りようねぇぞ」 「分かってる。お前らにも見えるようにする。少し、待ってろ」    ローランさんが、杖を構える。ものすっごく、胸がドキドキしているよ。   「世界よ  全てを司る世界よ  その厳しき手を伸ばし、我らの愛を受け取られよ  世界よ  貴方の見るものを、聞く音を、貴方の愛し児に  ファビオ、フレデリク、サミに、一時(ひととき)の力を  世界よ  我が心をご存知なれ  貴方の目と耳を彼らに与えられよ」    見え………たっ?!!  慌てて全方向を順に見ていく。わらわらと浮いている。大量に浮いている。浮いているけど………き、綺麗だけど、ものすっごい、美人さん達だけど………羽………無い。華奢…な人も居るけれど……目の色とか髪の色とか奇抜だけど…、そんなもんは日本人でアニメ見慣れていれば、一切気にならない……問題は、なんつーか、人間?空飛ぶ……人間……服着てるし……人間、それにしか見えないんだよ〜!!妖精って、そんなんじゃないでしょぉ〜。間違ってる〜、この世界の妖精ぇ〜〜。  う…、目が、あった。   「随分と腕の良い魔法使いだな。  姫、私の声が聞こえるか?」    姫って誰?あたしをまじまじと見て言っているんですけど……あ、あたしじゃ無いよねっ?!  えっと、目の前に居る、緋色の長髪で、真っ赤な瞳で、胸がばいーんってのが、ものすっごく分かる、黒の戦闘服を着ていらっしゃるお姉様……。立派な筋肉が腕についているけど、膨らんだ胸ときゅっと締まったウエストが筋肉なんか気にしなくなるぐらい色っぽい曲線を描いている。腰に下げているのは、ローランさんと同じ大剣っぽい。   「っ?!!えぇっ?!!」 「ちょっ、おい、こら、そこの綺麗なねーちゃん。何しやがるっ!!」    あたし、その、緋色なお姉さんの腕に抱えられています。んで、空に浮かんでいるっ?!!ってか、ものすっごく抱擁?!ぎゅってされている。なんか、頬ずりまでされているんですけどーっ!   「綺麗なねーちゃんとは、私のことか?」 「そうだ、あんたの事。んで、サミを下ろしてくれねぇかぁ?」 「安心しろ。私は、姫を絶対に落としたりしないし、怪我などさせないぞ」    大らかに笑う笑みが、非常に男らしい。   「いや…安心しろって言われてもよぉ〜」    ファビさんが、非常に困っている。   「すまんが、初対面では、信用できん」    ディックさん、怒っているような気がする。完璧に槍を構えている。   「エテ、彼らは、姫の騎士なのじゃろう。心配するのは当然じゃ。下ろしてさしあげなさい」    落ち着いた優しい古風な口調の女性は、足先まであるような長い黒髪に黒い瞳。透き通るような白い肌…って、皆さんそうだけど。ゆったりしたローブ。刺繍沢山。なんかキラキラしているものが織り込まれている感じの服を着ている。黒魔法使い風味のお人形さん。  そのお人形さんが、両手を広げている。下ろしてさしあげなさいって言ってなかったですか〜?   「オトンヌ……、それは、抱っこしたいって意思表示じゃないのか?  私が、どれだけ姫に会いたかったか、知っているだろう?少しは、満喫させてくれ」 「エテ、それは、わらわも同じじゃ。エテだけが、姫を独り占めするのは、ずるいと思うのじゃが?」 「……はいはい。分かったよ」 「はいっ?!」    はいはいって所から、あたしを半回転させ外側に向け、わきの下に両手を入れ、お人形さんにあたしを向けた。あの…あたしの体重感じていますか?なんか、全然空気のように扱っていらっしゃいますけど、あたし……普通に体重あるんですけどー。そして、目の前のお人形さんはね、赤いお姉さんと違って、箸より重いものは持った事が無いようなご令嬢に見えるんですけどーーー、どうやって受け取るのーーーっ!!   「ちょ、ちょい、待て、待てぇっ!その黒い服着たお嬢ちゃんに、持てる訳ねーだろうがっ!!」    ファビさん!正しいぞ!止めてぇ〜〜っ!   「案ずるな。わらわは、力持ちじゃ」 「そうだぞ、この中で、一番の力持ちだ。なにせ、地の精霊だからな」    そう言って、赤いお姉さんが、ほいとお人形さんにあたしを渡す。お人形さんの腕は、びくともしない。す、凄いな、この細腕…。   「初めましてじゃな。わらわはオトンヌ。エテが言ったように、地の精霊の長をやっておる。  姫の名は、なんと言うのじゃ?」 「あ、は、初めまして。あたしは、サミ、です」 「そんな会話は、下でやれっ!」    ディックさんが、怒鳴った。絶対怒ってる。間違いなく怒っている。   「オトンヌ、エテ、降りますよ。我々は、姫にも、姫の騎士達にも、失礼な事をしています」    先にローランさんの横に降り立った白い男の人が、二人に言う。  青く長い髪の毛に青い瞳で、一番の色白の、ものすっごい美人さん。そんな美人さんだけど、男の人。白い生地に銀糸よりもっと銀に近いような光る糸で刺繍のしてある、ローランさん風味の衣装を着ている。剣をさげているけど、剣士様というよりは、学者様のような雰囲気のお兄さん。   「そうだよ。騎士さん達が、可哀相だよ」    天使様というのが一番相応しい外見。小学生の高学年ぐらいの男の子。ふわふわっとした短い銀色の巻き毛。薄い緑の大きい瞳。ふんわりと笑いかけてくる顔は、とっても愛らしい。腰にさしているのは、剣だけど、それが非常に似合わない愛らしさ。  ぐはっ、目があった。なんか、ものすっごい可愛い笑みが向けられたよ〜〜。きゅん!っていった。まじいった!   「分かった」 「しょうがないの」    赤いお姉さんと、私を抱っこしたままのお人形さんが、ディックさんとファビさんの傍にふんわりと降りた。   「悪かったの騎士殿。だから、もう少し、姫を貸しておいてくれりゃ」    お人形さんは、ディックさんに、にっこり笑って言う。  ディックさんは、諦めたようで、ため息をついて、頷いた。   「貴方方が、長と呼ばれていらっしゃる方々ですか?」 「そうです。初めまして、強大な魔法使い殿」    ローランさんが、恭しく頭を下げる。   「私は、水の妖精の長、イヴェールと申します。強大な魔法使い殿に大変失礼なのですが、私達は待ち焦がれていた姫にようやくお会い出来た所なのです。どうか、お時間を下さい」 「僕は、風の妖精の長のプランタンだよ。ごめんねー」    おっさん達には、一切自己紹介をさせない。  さっさと自分達だけ自己紹介をして、あたしの周りに陣取った。  あのぉ〜、何が起こって、いる、の?   「え〜……」    なんかねー、あたしの頭の上で火花が散っている。比喩では無い。実際、なんか、飛び散っているんですけど……早く、誰か、解説して下さい…って。   「お姫様〜、ちょっと待っててねー」    天使様に言われたら、何も言えないじゃないですかー。  んでも、頭の上の火花は、会話だったんだか、なんだか、一応落ち着いたみたい。  全然状況が分からないんですけど、なぜか今、あたし、白いお兄さんの膝の上に座っています。何で?  おっさん達は、仕方が無いという風情で、あたし達が座り込んだ場所の近くに、同じように座り込んだ。  誰か、現状を、ぜひ、ぜひ、説明して下さいよぉ〜。   「初めまして、あたしは、異世界から来た中島沙美と言います。沙美って呼んで下さい」    頭を下げる。   「私は、火の妖精の長エテだ」    もう一度初めから自己紹介。エテさんは、赤いお姉さん。   「わらわは、地の妖精の長、オトンヌじゃ」    黒いお人形さん。   「私は、水の妖精の長、イヴェールと申します」    白い美人のお兄さん。   「僕は、風の妖精の長、プランタンだよ」    天使様。   「それで、あの〜、姫って何ですか?」    あたしの知っている姫の定義と、妖精さん達の定義は違うに違いない!   「そなたは、異世界から来た姫なのじゃろう?」 「は?…あの、確かに異世界から来ましたが、ごく普通の一般市民ですけど…」 「ほぉ。あの時アニーは迷っていたの。最終的に姫を選んだが、なるほど、女の子で良かったのじゃな」 「あの……アニーさんってどなたですか?」 「この世界で、初めて天候の魔法使いになった者じゃ」    オトンヌさんが、にっこり笑って言う。   「最初の話を聞きたいか?」    めっさ、頷いた。それは、非常に興味があるぞ。横の方で、ローランさんも頷いている。   「わらわ達の時間でも、かなり昔の話じゃ」                山間にある一豪族の村。  そこの長の娘として、アニーは生まれた。  その当時、妖精を見る事が出来る者は稀で、多くの子供は、多くの一般市民とはかけ離れた、その才によって隠されるか、排除されていた。  だが、アニーは、占い師だった母が、己の石が示した結果に従い、慎重に子供に言い聞かせ、世間から隠し通した。アニーも、その事を幼いながらも理解し、人目のある所では、決して妖精の事は言わず、無いものとして行動した。  その中で、アニーは、母の後継者として育った。    アニーが12歳になった年、その年は、雨があまり降らず、作物は、いまにも枯れそうにだった。  長の家では、その対策の為に、毎日討議が行われていた。  そんな大人の不安を敏感に感じ取っていたアニーは、自分用の占い石を入れた袋を持ち、いつも行く占いをする場所へ一人で出かけた。アニーは、大きな占いをする時は、必ず一人山に登った。そこは、妖精と会える場所でもあった。ほんの小さい頃、母親が居ない時に会いに来ていた妖精が、誘った場所だった。   「こんにちわ」    にっこり笑ったアニーは、妖精が多く住む山の中腹の開けた場所で、大きな声で挨拶をした。  そこには、必ず四人の妖精、エテ、プランタン、オトンヌ、イヴェールが居て、アニー迎えた。   「また、占いか?」 「うん、エテ、こんにちわ」    白い布を広げ、その端にアニーは座り込む。   「今日は、何の占い?」 「日照りをどうにかする方法が分からないかなぁって思ったの。こんにちわ、プランタン」    占い用の細かい文字が四方に描かれた大きな布を敷き、それと同じもので作られている袋の口をあけ、中身を布の上に広げた。   「どんな結果が出るのか、楽しみじゃの」    色とりどりの石が、布の上に散らばっている。  それを見たアニーは、オトンヌの声に対し返事が出来なかった。   「どうしましたか?」    イヴェールの声に、ビクリとアニーの肩が揺れ、ゆっくりと顔があがる。その顔は、困惑して困っている表情を貼り付け、妖精達を順に見ていった。   「……石は……嘘をつかない…って、お母様が………でも、でも、どうしよう……分からない事も……あるけど……どうしよう………」 「どうしたのじゃ、アニー。言ってみよ」 「オトンヌ……あの……あの……」    アニーの母は、妖精が居る事を否定は、しなかったが、信じては居なかった。アニーは、目の前の石をもう一度見る。その結果通りになれば、自分と同じように妖精が見える事で孤独な人達が、居なくなるかもしれない。そんな未来が、目の前で示されていた。  だが、アニーは、目の前の優しい妖精達を従えると語る石に対し、酷く反発した。それでは、友達でなくなってしまう。冷ややかに光る石が、酷く傲慢なものに見えた。   「アニー」 「イヴェール…」 「どうも、その石の結果は、私達に関係があるようですね」    アニーの肩が、怯えるように揺れる。   「言ってごらんなさい。どんな結果が出ようと、私達の心の繋がりにヒビが入るものではありませんよ」    その優しい声に、肩から力が抜けた。   「そうだぞ。私は、アニーが物凄く好きだ。この気持ちは、どんな事だって、変えられない私の気持ちだ」    エテの言葉に涙が一つ毀れる。   「アニー、大好きだよ。だから言ってよ」    ぎゅっと首に抱きついてきたプランタンに、笑みが浮かんだ。   「さぁ、わらわ達の可愛い占い師。アニー、わらわ達は、お告げを所望じゃ」 「……うん」    オトンヌの言葉に、いっぱい頷いた。   「……あのね、妖精が見える人達は、魔法使いになるの。  あの…今までの魔法使いって呼ばれる人達と違って、おまじないとか、薬草とかを売るんじゃなくて、天候を操って、農家の人達と仲良しになるの。  ただ……その……操るのには、妖精さん達の助けがいる。私には、良く分からないけど、……妖精さん達と一緒になって天候を操るって出ている」    アニーは意識して、従えるという言葉を使わなかった。それを使うのは、嫌だった。   「なるほどのぉ。そうすれば、アニーのような子らが、今までのように悲しい思いをする事がなくなるのじゃな?」    アニーは、オトンヌの言葉に安堵する。   「う、うん。  この石達が、未来。妖精が見える人は、今のように隠されず、魔法使いとして農家の人達と、楽しく一緒に作物を作るようになるって言ってる。……でも……」 「どうしたの?」 「未来の先の未来が出ている……」    アニーは、プランタンに、未来を言う石達の先にある別の石達を指差した。   「すごく先……私の孫……ううん、それよりも、もっともっと先に、魔法は無くなる……世界?……前に、皆が言っていたよね?世界に意思があるって……その意思と関係がある、魔法使いは、魔法を捨てて、その意思と会話する?  あの、分かる?」 「あぁ、分かるぞ。  世界と意思を通わせる術がある。それを使えば、私達の力では、出来ない事が出来るようになる。私達は、たまにその力を使っているぞ」 「そうなんだ。  でも、エテ、どうしてだろう?何で妖精さん達と一緒に仕事しなくなるんだろう?」 「それは、出てないの?」 「うん、プランタン、出てな………ううん、私には、読めない、の」    アニーが、困ったように石を見ている。   「世界…違う世界?……女の子?ううんお姫様?どっちだろう?……二人の…騎士……魔法使い、みたいな人…一人?………たぶんお姫様だね。その人が来る。それが、妖精さん達と仕事しなくなる印になる。違う世界って…何だろう?」 「アニー、世界は、とても大きいのですよ。私達が住んでいるこの世界だけではなく、まったく異なった世界が沢山あるのです。その全てをあわせて、私達は世界と言っているのです。  その石は、この私達が居る所とは、異なった場所から姫が来ると言っているのでしょう」 「そうなんだ。ありがとう、イヴェール」    アニーは、再び石を見直す。   「違う世界からお姫様が来たら、妖精さん達は、仕事を一緒にしなくる。その時の魔法使いさん達が死ぬ頃には、妖精さん達は、全員山に帰ってしまう。  そうする事で、魔法使いさん達は、悲しい事を……しないですむ?……何があるんだろう?それは、分からない……」    アニーは、もう一度現在という石から、ゆっくりと順に石を読み直す。自分の出した結果に誤りが無いか、一つ一つ確認していく。   「妖精さん達を見える人は、魔法使いになって、天気を操り、農家の人達と一緒に作物を育てていく……でも、どうやってするのかな?」 「私は、空気を暖める事が出来る」    エテが言う。   「僕は、風を呼んで、雲を遠くからでも持ってこれるよ。それが雨雲だってね」    プランタンが言う。   「もし、雨雲がなければ、私が水を呼びましょう。そうすれば、雲が作れます」    イヴェールが言う。   「わらわは、土地を豊かにしよう。天候には関われぬが、作物には、土が必要じゃろう?」    オトンヌが、にっこり笑う。   「それに、私は、枯れた草を火で無くせるぞ」    エテが笑いながら、「そうだな、「フー」とでも唱えてくれれば、いつでも火を具現しよう」と言った。   「そうか、言葉を唱えるんだね。それが合図なんだ。あ、でも、私は聞いたけど、他の妖精さん達が見える人にどうやって伝えよう?」 「世界に意思を通わせる事によって、遠くの者と会話する方法を教えてあげる!」 「……突然、私と会話をするの?プランタン、私の言葉、分かってもらえるかな?」 「事前に、全ての妖精に連絡をしておこう。そうすれば、近くに居る妖精が見える者に伝えられるぞ」 「うん、エテ、ありがとう」    アニーは、にっこり笑って両手を広げ、一生懸命四人の妖精を腕の中に収めようとする。   「私、私……みんなに会えた事、みんなが見えて、声が聞こえる事を世界に感謝する!すっごく、すっごく、幸せ」 「私もだぞ」 「わらわもじゃ」 「僕も!」 「私もですよ」    天候を操る魔法使いが生まれる、ほんの少し前の物語。  妖精の長達は、懐かしそうに、幸せそうに語っていた。               「その後、わらわ達とアニーとで、多くの規則を作り、魔法使いが誕生したのじゃ」 「あの……妖精さんが見えると、排除って……」    それが酷く気になった。   「何も無い空間と会話を始めたら、どの親も子供の気が触れたと思うようだな」 「酷い場合には、山奥に捨てられていました」    エテとイヴェールは、それぞれ己が言った言葉に、顔をしかめている。   「だからね、僕達が気づいた子は、ちゃんと他の魔法使いに知らせたよ」    それは、良かった。   「あれ?今は、魔法使いさん達って、ちゃんとした職業だよね?だったら、何で、唐突に魔法を使ってしまう事で見つかるって……変だよね?」 「農村で無い街中ででは、未だに魔法使いは、遠い存在なのじゃ。わらわ達も、好んで石造りの多い街中には、来ることは無いしのぉ」 「だとしたら、街中では、魔法が使えない?」 「いいや、ほんの少しでも火や水があれば、妖精は居るものじゃ。ただし、大きな術は、それなりの力ある妖精が居なければ、具現化はされぬの。そういう所には、ほんの小さな妖精しかおらぬのじゃ。それ故、街で魔法使いを見つけるのが難しい。親も無知が故に隠そうとするしの」    オトンヌさんが、ため息交じりに言葉を終える。  なるほど。だからこそ、唐突に見つかるんだ。後で王様に、ちゃんと……あ、魔法は無くなるのか。だったら、術士さんの学校を作ってもらえばいいのか。あの適齢期になったら、学校へ行って貰うってやつ。  んでも、学校っていつから出来たの?……今、術研究所レベルで、ギュスターヴさんも勉強中。いくらローランさんから術で教えてもらうとは言っても、学校ってレベルは無理かなぁ?   「むぅ〜………、いいっ!帰る前に、それ何とかしてもらう!!」 「何とか?」    あたしの顔を覗き込んだプランタンさんが、目をパチパチしている。   「とりあえず、強大な魔法使いに、王様を脅してもらって、ギュスターヴさんを指導してもらって、どうにかします。絶対、それ、ダメです!」    ローランさんを見たら、大きく頷いてくれた。安心だ!!   「それは、良いのぉ、姫。わらわ達にとっても喜ばしい事じゃ」 「あ、だから、姫じゃないんです〜。どうしてお姫様になっちゃったんだろう?」 「それは、姫の石の周りに、騎士の石が二つ。魔法使いだろうと思われる石が一つ、守るように囲っていたからですよ。普通の女の子には、そのような人は付いていないでしょう?」 「なるほど、確かに……んでも、あたしは、普通の女の子ですから、あの本当に、姫ってのは、ちょっと困ります」    占い凄いぞ。なんか、そこまで出るって、どんだけ正解率の高い占い?それこそ予知と言っていいレベルなんですけど。   「あの、アニーさんの占い…物凄く正確なんですね」 「占い師というのは、そういうもんだろう?」 「えっと、あたしの世界の占い師は、全然、なんつーか、お悩み相談みたいなイメージで、未来を言い当てるなんて不可能だと思います。もしかしたら、どこかに本物がいるかもしれないですけど、あたしは、知りません」    エテさんが、「それは、占い師とは言わないぞ」と呆れたように言う。   「えーと、強大な魔法使い〜、そうなの?」 「強大な魔法使い殿は、知らぬかもしれんぞ。今でさえ、占い師は、少なくなってしまったからな。  魔法使い殿の時代だと、どうだろうな」    エテさんの言葉に、固まった。うん、あたしと、おっさん達が。   「あ、あの……」    おっさん達を指差す。   「あいつらは、この世界の者だろう?」    当然のようにエテさんが言う。   「な、何でっ?!」 「サミを呼んだのって、ギュスターヴだよね?」 「は、はい」    楽しそうにプランタンが笑う。   「世界と会話するのを術って言うんだっけ?その術レベルは、ギュスターヴが一番上なんだけど〜、全然初心者なんだよねー」 「サミと、わらわ達が会話出来るのは、強大な魔法使い殿のおかげじゃろう?」    こくこくと頷くあたしを見て、オトンヌさんがくすくす笑う。   「この世界でさえ、今話している言葉が通じぬ場所があるのじゃ。同じ言葉を話している者は、この世界の、この国の近隣でしか、ありえぬ」 「あーーー……、えと……すいません、あのあたしは、異世界なんで、問題無いんですけど、あの三人の出所は、ギュスターヴさん以外、ぜひ内緒で、お願いしますーーー」 「どうしてじゃ?」 「えーーーと、あの三人は、この世界の未来から来たんです。もし、あたし達が余計な事を言って、過去を変えちゃったら、三人が戻った時点で、もしかしたら、その三人が産まれてない未来になっているかもしれないんです。  だから、迂闊な事言えなくて……、あの三人の名前が、ここの歴史に残るのも、不味いかな〜と思って、肩書き以外、謎の人達って事になっています。だから、…あの、…よろしくお願いしますっ!」 「分かった」 「うん、内緒だね」 「分かりました」    速攻エテさんと、プランタンさんと、イヴェールさんから回答を貰った。オトンヌさんは?   「お主ら、いつから参ったのじゃ?」    背後を振り向いて、おっさん達に質問していた。   「だいたい300年後です」 「そうか、生まれた場所は?」 「………私と、隣の槍を持っているのは、……ピエですが……」 「なるほどのぉ。して、赤い男は、どこじゃ?」    あたしと、ローランさんとディックさんに緊張が走る。   「俺かぁ?すっげぇ、べっぴんさんの問いに、悪いんだけどよぉ。俺のは、秘密だ」 「嬉しい事を言ってくれるのぉ。だが、どうしてじゃ?」 「俺の出は、こいつらにも言って無い。いくらべっびんさんの問いだからと言って、ダチより先に教えられねぇだろ?」 「そうじゃな。では、二人で我慢するとしよう」 「やはり……」    なんか、オトンヌさんの言葉に、ローランさんの肩ががっくりと落ちた。   「どうしたの?」 「………オトンヌ殿は、私達の小さい頃から堪能しようと言っているのです。……ようやく思い出した………見覚えは………小さい頃だ」 「間違い無いのか?」 「あぁ……」    ディックさんまで、うんざりしている。   「おい、強大な魔法使い」 「何だ?」 「俺の目と耳、この効果を死ぬまで維持出来ないか?」 「………お前の言いたい事は、分かるが、面倒に巻き込まれる可能性の方が高いぞ」 「だが、見えない所で、うろうろされんのは、もっと腹立たしい」 「分かった。維持出来るよう、再構築しよう」    なるほど、ディックさんとローランさんは、小さい頃から、妖精さん達に覗き見されていたんだねぇ。プライバシー問題として、当然の申し出だ。その横で、助かった〜という顔をしているファビさんが居る。きっと後で、二人に苛められるぞ。   「オトンヌ殿」 「なんじゃ?」 「出来れば、極たまにでお願いしたいのですが…」 「分かっておる。………楽しみじゃのぉ」    最初は、ローランさんに言って、その後、他の妖精さん達に向かって、ものすっごく楽しげにニンマリ笑う。めさめさ、楽しむ所存ですね!   「さて、それでは、城の魔法使い殿に連絡をしたいのですが、よろしいでしょうか?」    ため息をつきながら、ローランさんが立ち上る。   「城のか?」 「はい。魔法を無くす前に、今回の報酬として虹を見せてもらう事になっています」 「それなら、私の役目ですね」    イヴェールさんがあたしを抱えたまま立ち上がる。   「今度は、僕だよ」    プランタンさんが両手を広げて、ちょーだいのポーズ。  うっ…激しく可愛い。間違いなく、自分より遥か長い間生きている妖精さん。だけど、外見天使。ものすっごい天使。ニッコリ笑ってくれている姿は、おじいさんには、決して見えない。そして、当然膝の上に乗るなんて事は、絶対無理。可愛すぎ。つぶしてしまうヨ。あたしは、お願いして、抱っこさせてもらった。はぁ〜ん、可愛いぞーーーーー!   「では、私からギュスターヴに伝えましょう。最後の仕事ですね」    そう言ってイヴェールさんは、空に浮かび、消えてしまった。   「あの、何で魔法が消えるかは、知っているんですよね?」 「あぁ、あちこちの魔法使いが、戦争の道具になるのは嫌だが、どうすればいいのかって、悩んでいたからな。うちらの間では、これが、原因で、前兆なんだと判断した。  だから、ギュスターヴにな」    楽しそうに笑うエテさん。   「……なって、異世界の存在を話したとか?」 「あぁ、そうだ」    この世界のあたしの最初って、アニーさんの占いで、その結果を信じた妖精さん達の行動の結果だったんだねぇ。300年後に、そんな事をまったく知らないあたし達がギュスターヴさんの本のおかげで出会えたのって……あれ?それって、あたし達も仕組んでいて……とっても作為的?でも、自分の作為って?!   「始まるようじゃぞ」    オトンヌさんが、優雅に空を指差した。   「水の妖精を集められるだけ集めたんだね。気配が凄く大きい!」    プランタンさんの声に、返事が出来なかった。  目の前に広がる、大きな虹と、あちらこちらに見える小さな虹。そして、空に浮かんでいる、色々な年齢に見える沢山の妖精さん達……すっごく綺麗だ!   「サミさん」 「なぁに?」    ローランさんの声。でも虹から目が離せない。振り向かずに答える。   「多くの魔法使いから、ありがとうと、サミさんに伝えて下さいとのことです」 「あたし…何もしていないよ。強大な魔法使い殿がこれからやるんだヨ」 「違います。全てのきっかけは、貴方です。前回の時も、今回も、全ては貴方からです」 「そうだぜぇ〜、ちったぁ威張れよ」 「俺達は、お前の言った事に対して動いているだけだ」    ローランさんと、ファビさんと、ディックさんが、頭をポンスカと叩いていく。   「そりゃぁ〜あたしに力が無いからで〜、言うだけは無料だし。あたしって、いわゆる口だけの、使えないヤツなんですけど…」    自分で言ってて情け無さすぎ。   「馬ぁ〜鹿」    ファビさんは、罵倒付きで、ポンスカからバシバシになった。あ、ディックさんまで。  だって、そうじゃない?出来ない癖に口だけって、最悪だよねぇ。いつか召還されたら、自分の力だけで解決出来るようになれるといいなぁ……。   「サミ、また、馬鹿な事考えているだろう?」 「あぁ〜、そんな雰囲気だよなぁ」 「剣士さんや、槍士さんみたいに、ちゃんと人の考えている事を汲めるといいんだけどなぁ……」 「そんなんは、徐々に出来ればいいんだよ。ったく、お嬢ちゃんが、俺達みたいだったら、俺ら必要ねぇじゃん」 「そんな日は、絶対に来ないヨ……」    あたしにとって、ものすごいグーが来た。  すっかり目を奪われていた虹から、おもいっきり視線が外れるぐらいのグー。その手の持ち主を見上げる。出会った時と同じぐらい、無表情になってるディックさん。その背後で、困っているけど、ディックさんを止めないローランさん。面白そうな表情をしているファビさん。   「お前に宿題だ」 「へ?」 「お前、自分に対する採点が辛すぎだ。それだと、お前に付いてきた俺達を馬鹿にしているのと同じだぞ」    そんなことは無い。頭をぶんぶん横に振った。   「少しは、自分を認めろ。俺達が言った言葉を信じろ」    ……どうやって?   「今度、俺達の言葉を疑うような事を言ったら、強大な魔法使いに、今後一切召還させないからな」 「うっ……、は、はい!頑張ります!」    とにかく、どうやるか分からないけど、頑張る!おっさん達を信じないのは、ありえないし、失礼なのは、絶対に嫌だし、ここに来れないのは、もっと嫌だ。   「よし」    近くで笑い声があがった。   「随分と優しい騎士殿じゃな」    ディックさんが、チラリとオトンヌさんを見て、プイっとあっちを向いてしまった。   「サミは、良い騎士に巡り合えて、よかったのぉ」 「はい!」    とりあえず、なんとか自分と折り合いをつけるぞ。必死に頑張れば、未来は少しでも変わるかもしれないしね。変わりそうもないけどなぁ…って、へたれた事考えたらダメだ!気取られる!前だけ見るんだ、前だけ見るんだ、とにかく見るんだ、頑張れあたし!未来は、明るいととりあえず、信じるんだーーーーーー!   「虹も消えた事ですし、魔法も消しましょう」    強大な魔法使い殿ことローランさんが、真ん中に進み立ち止まる。  その前には、長と呼ばれる妖精さんが三人。ううん、イヴェールさんが戻ってきたから四人だ。   「お願いがあります」 「何だ?」    代表はエテさん?   「300年後に、隣国でロニーという名のものが生まれます。場所は、ヴァートのベック。農家の5人兄弟の末っ子です。  その者が、唱えた時だけ、力を貸して下さい」 「その頃には、唱える言葉を知る者は居ないんじゃないのか?」    ローランさんは、手に持っている本を前に出す。   「これは、魔法初心者用の教本ですから、全ての基本魔法が載っています。これを、彼の手に渡るよう術をかけます」 「なるほどな。だが、なぜ、その者が必要なんだ?」 「私達は、サミさんと出会わなくてはなりません。それには、彼の魔法が必要なのです」 「分かった。必ずそうしよう」    エテさんが、大らかに笑う。   「では、我らの友達の為に、強大な魔法使い、よろしく頼むぞ」 「承りました」    ローランさんは、妖精の長達に頭を下げた後、杖を掲げ、静かに目を閉じる。そして、ローランさんの口から魔法の記憶が無くなる唱が流れた。     to be continued…     09.07.21 砂海
えー、まず、すっごく長い一節になってしまって、すんませんm(__)m 切れ所を見つけられませんでしたm(__)m^^^   そして、すんません。どうしても、過去話は、一人称になりえず…… <そりゃぁそうだ。サミちゃん居ないし、別話に仕立て上げているからなぁ。 その部分だけ三人称になっています。 読みづらくてごめんなさい。   そして、もう一つごめんなさい。上記の日付は、校正前の日付……今日は、31日…orz どうしても納得いかない数行を睨んで数日……今日まで、修正+校正に時間かかりましたーm(__)m^^^ んでも、いい感じに変更出来たと信じて……。   無事、魔法がなくなりました! さぁ、最終行まで、あとどれくらい書けばいいんだろう? あと一つで終わりだなんて、間違っても言えません(/_;) とにかく、最終行目指して頑張ります!