300years ago … 4  

   ギュスターヴさんは、本を全部書き上げた。  ローランさんは、それ全てに術をかけ、背負っている鞄の中に無造作に放り込んである。  ディックさんとファビさんは、楽しげに通りすがりの兵士をボコッている。  そして、あたしは、そんな皆に付いていってます。  今、あれから二日後の、全員でお城に向かっている最中。  まだ、術は開放していない。   「なぁ」    ファビさんが珍しく不愉快そうな顔をして、ギュスターヴさんに声をかける。   「何でしょうか?」 「こいつら、城勤めの兵士達だよなぁ?」 「はい」 「何で、こんなに弱っちいんだ?」 「は?」    ギュスターヴさんは、言われた事に目を丸くして、立ち止まった。   「すっげぇ、弱いよなぁ?」 「使い物にならんな」   ファビさんと同じような顔をしたディックさんが、忌々しげに肯定する。   「もしかして、強い奴等って、城ん中かぁ?  片手剣一位の奴ぐれぇは、ましな事を祈りたいぜ」 「確かに、強い方々は、城の中だとは思いますが……、こちらへいらっしゃってる兵士達は、二軍の方々だと思いますので、かなり強いと聞いているのですが……」    そんなギュスターヴさんの言葉に、二人は一層目つきを悪くした。   「あの…、一位というのは、何でしょうか?大会があるのですか?」 「まじ?武術大会ねぇの?」 「そのような催しは、一切ありませんが……」    あー、ファビさんもディックさんも頭を抱えちゃったヨ。   「ファビ、ディック、大会が開かれるようになったのは、この頃だぞ」 「あー、もしかして、俺、まずい事いっちまった?それとも、元々俺が原因かぁ?」    うっわ、もー頭が混乱しまくり。やっぱり、あたし達が来ちゃった事で知っちゃったリスト、激希望っ!  迂闊に会話が出来ない〜〜。   「武術大会とは、どういうものなのですか?」 「得物別の競技会だ。ファビは、王女を抜いて片手剣一位。ローランは、大剣一位。俺は、槍一位だ」    ギュスターヴさんは、一瞬目を見開いた後、騎士様の礼を取った。   「色々お聞きしたい事がありますのに……残念ですね」    本当に残念そうに、おっさん達を見ている。   「とりあえず、競技会は、王さんに勧めておいとくといいぜぇ。みんな必死になるからな、レベルアップにはもってこいだ」 「分かりました。  今日、無事に話しが進みましたら、勧めてみます」 「そうしろ。このままじゃ心配で、帰れん」    にっこり笑ったギュスターヴさんに、ディックさんは、眉間の皺を寄せて、ぶっきらぼうに言う。  うんうん、三軍の長様としては、いくら300年前だとはいえ、非常に気になるよねぇ。   「そういやぁ、何で、研究所が、城にあるんだ?農家と友達してんだろ?」 「お金を出して頂きましたので」    凄く綺麗な笑顔が、目の前にあります。んでも、なんとなく違和感。   「どうやって脅したんだぁ?」 「脅すなんて、とんでもない。  私が、その当時知っていた術で、内乱で疲れていた王を癒してあげたのが、きっかけですよ」 「……脅しの台詞は?」    ファビさん、脅したと決め付けていますが、えぇ、あたしもそう思います。ギュスターヴさんの纏う空気がとっても不穏。   「研究が進めば、奥様を癒せるかもしれません。とは、言いましたね」    またまた綺麗な笑み。質問したファビさんは、「ディック並みの立ちの悪さ〜」とぼそり。  なるほど、あの不穏な空気って、ギュスターヴさんの、実は計略屋さんな性格が醸し出したのか。   「実際、現実になりそうですし」    そんな事を実現出来ると、いまいち思っていませんでしたー風味な、ご発言。   「皆さんのおかげで、研究所の存続も救って頂いたという事ですね」    そう言ってから、ギュスターヴさんは、再び足を止めて、暫し考え込んだ。   「あの…、見て見たい魔法は、ありますでしょうか?  皆さんにお礼をしたいのですが、私が出来る事と言えば、魔法ぐらいですから」 「あ、俺、火ぃ出すやつ!」    真っ先に、ファビさんが、物凄い勢いで、火が見たぁ〜い。と主張。  それに、にっこりと笑って、ギュスターヴさんは、「フー」と一言。   「うっわー!」    ギュスターヴさんの掌から、炎が上に向かってメラメラと。   「すっげぇなぁ!」 「松明がいらんな」 「便利ですね」    ファビさん、ディックさん、ローランさんが、まじまじと、掌で踊っている炎を見ていて、感心している。うん、凄いよ!生魔法だよ!生っ!うっわ〜、感動だー。   「なぁなぁ、お嬢ちゃんは、何かねぇの?ファンタジーだっけ?そんな本を山のように読んでんだろ?おもしれぇ魔法知識を出せよぉ〜」 「う……えっと、……空から隕石やら、火の玉やら、水の塊やら、雷が大量に降ってきても、あ、地震…も迷惑だよね……闇とか聖関係の魔法は無さそうだし……毒を食らうのは地味そうだなぁ…召還獣も関係無さそうだし……あれだよね、天候と精霊が宿りそうなもの関係………………あ!」    「そうだ」と言おうとして、皆を見たら、みんな引きつって……何?そんな凄い事言ったっけ?   「サミさんの世界では、凄い魔法を考え付くのですね…」    代表してローランさんが、あたしの独り言に感想を。   「想像力が、果てしなかったりするみたい」    うんうん、確かに凄いかも。だって、実際見た事も無い魔法が、大量に、ある意味常識として扱われているもん。   「それで…、綺麗で、おっきい虹が見たいです!」 「そうですか。分かりました。  それなら、魔法が無くなる時に、ギュールズの魔法使い全員で、作りましょう」 「うっわぁ!楽しみにします!」 「はい、頑張りますね」    道々で、わらわらと現れてくる兵士達を、面倒そうになぎ倒していくファビさんとディックさんを先頭に、あたしとギュスターヴさんが続いて、しんがりをローランさんが守ってくれている。  そして、懐かしい?いや、前見たときよりは300年ほど新しいはずのお城の目の前に来た。   「ギュスターヴ、何をしに来たっ!」 「陛下に会いにきました」    穏やかなギュスターヴさんとは対照に、怒鳴り声をあげている……おっさんが一人。   「裏切ったお前になんかに、陛下の午前に立てるとでもっ!」 「おや、私は、陛下を裏切ったりしていませんよ。今も、陛下の望みを叶えようとしている所です」 「魔法を無くそうとしているヤツが何言ってる!それどころか、陛下に害を与えようとしているんじゃないのかっ!!」 「そうきましたか。困りましたね」    本当に、おっとり、おっとりと、困ったなーという顔のギュスターヴさん。その表情と対を成すように、怒鳴っているおっさんの顔が一層険しくなる。   「この先も、こんな迷惑をかけられては、困りますし…」    杖を掲げた。   「この距離なら、届きますでしょう」    地面に杖を叩きつけた。   「皆さん、耳を塞いでいて下さいね」    言われたとおり、慌てて耳に指を突っ込んだ。   「ヴァン……陛下、私の声が聞こえますか?私は、貴方の一番の望みを叶えに来ました。最初に会った頃の話を、まだ覚えておいででしょうか?」    耳を塞いでいても十分聞こえた。それどころか、かなり煩い。ってことは、耳を塞いでなかったら……チラリと周囲に居る兵士さん達を見る。うっわ……涙目だ。   「もう大丈夫ですよ」    にっこり笑って、ギュスターヴさんが言う。   「あ、あの……ヴァンってのが、魔法の呪文ですか?」 「はい。風の呪文なのですが、その強さを大きくして、少し工夫すると、なぜかその中心の音が増幅されるようなのです」 「そ、そうですか。魔法も、色々と応用先が広いんですね」 「はい。ですから、それぞれが独特な魔法を持っていたりします。たまに、お酒の余興で披露して、楽しんできたおかげですね」    お、酒の余興ですか?あー、まぁ、術士さん達もしているのかもしれない。それに……ファビさんとディックさんを見る……絶対、余興とか言って、剣で芸とかしてそうだ。うん、この世界では、普通の事かもしれない………けどさぁ……よ、興〜?   「ギュスターヴっ」 「聞こえたようですね」    歯軋りしているおっさんの背後から、駆け足の音が響いてきた。   「ギュスターヴ殿」    怒鳴ってたおっさんは、新たに現れた騎士様装備完璧なおっさんに、「下がれ」と言われ、悔しそうに、んでも大人しく下がった。   「陛下がお呼びです」 「分かりました。では、皆さん、参りましょう」 「いえ、陛下が呼ばれたのは、ギュスターヴ殿だけです」    またしても関門だ。ギュスターヴさん一人では、絶対危険。   「あのさぁ、面倒だから、これ、ぶったおしていい?」 「彼は、王の次に強い方なのですが…」 「あの、へなちょこ兵士達の上だろぉ?簡単だと思うぜぇ、なぁディック」    ファビさん…挑発しているのかな?   「雑魚」    ディックさんは、チラリと目の前の堂々とした人を見て、一言。あ…もしかして、怒ってる?ファビさんとディックさん……すっごく怒っています?   「あんた、まさか、自分が俺達より強いなんて寝ぼけたこと、言わねぇよな?」    ファビさぁん…っ。   「………やってみなければ分からんと、言いたい所だが……言えんな。  だが、だからこそ、お前達を陛下の御前に出させる訳には、いかん。危険すぎる」    ちゃんとした大人の人が居る。おっさん達比です。や、別におっさん達がちゃんとしてない訳じゃないけど、うーーー真面目な大人の人が居るって方が言葉あってる?  その真面目で、すっごくちゃんと職務をまっとうしている大人の人は、ファビさんの言葉を聞く限り、絶対負けると分かっているのに、あたし達に向かって剣を向けた。   「俺達は、こいつを、あんた達から守ってるだけで、ここの王さんには、用はねぇよ」 「だが、ギュスターヴ殿と陛下が対立したら、守るだけではすまんだろう」 「安心して下さい。私と陛下が対立することは、ありえません。私は、陛下の望みを叶えにきたのですから」    少々殺伐とした雰囲気の中、ギュスターヴさんがふんわりと笑う。   「ラキル卿、貴方はご存知のはずですよ。もうお忘れですか?」    ラキル卿と呼ばれたおっさんは、一瞬考えるような表情になって、激変。   「で、ではっ?!!」    まるで、ギュスターヴさんを押し倒す勢いで両腕を掴んだ。   「はい。ここにいらっしゃる方々は、その為に来て下さったのです」    ラキル卿は、慌ててギュスターヴさんから手を離し、恭しくあたし達に、騎士様の礼を取った。   「大変失礼致しました。  ようこそギュールズ城へ。歓迎致します」 「さぁ、行きましょう」    ギュスターヴさんは、にっこりと笑って、歩き出した。    ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・    いかにも執務室という場所。実は、王様が居る場所は、豪奢な広間の真ん中奥と決め付けていたけど、あれは、謁見の間だよねぇ…。あそこじゃ、仕事は、…うん、出来ないな。  あ、だからと言って、質素な部屋って訳じゃなくて、とーても高そうな、手のこんだ模様だったり、細工の入った家具や、ふわふわの敷物なんかが置いてある。間違いなく、王様が居てもおかしく無い空気の場所。  その王様は、執務机に必死になって座っているって感じ。本当は、さっきのラキル卿みたいに、詰め寄りたいんだろうなぁ。   「陛下、お待たせしました」    ギュスターヴさんは、優雅に礼をし、その背後で、ラキル卿も同じ動作。  確か、王政下で、王の騎士だったり、王の術士だった気がするおっさん達は、一切礼もとらず、その光景を眺めている。あたしも、何もしてないけど、まぁ、あたしは、いいんだ。だって、王政なんか知らない日本に住んでいるんで、対応付きませんから。んでも、おっさん達は、心理的に抵抗ないのかな?一応、事前打ち合わせで、役割を決めているから、礼をする訳には、いかないんだけどね。   「ギュスターヴ……」    酷く感情が詰まったような声。あの腹黒王様よりは、全然若い。というか、おっさん達と同じぐらいの年齢に見える。少し長めの金髪を後ろに撫でつけ、300年後のお姫様と同じような空色の瞳が、焦れたようにゆれている。   「はい」 「さ、先ほどの、言葉は……」 「はい。その為に、この方々に来てもらいました」    実は魔法を無くすのがメインなんだけど、建前を作りましたー。   「では、我の望みを叶える為には、魔法を無くすしかないのだな?」    おっさん達が、楽しそうな表情になった。あたしは、たぶん、びっくりした顔をしていると思う。  だって、王様だよ。王様。あの腹黒王様を代表に、なんつーか、我がままの頂点にいそうな雰囲気で、真面目で民の事を考えている人なんて、希少価値の絶滅危惧種っぽい職種。その人が譲歩している。確かに王妃様の健康という利点は、あるけど、王様なら、健康も魔法も、全部取ろうとするのかと思った。   「はい」    王様は、その言葉を聞いて、大きく息を吸って、それからゆっくりと吐いた。   「では、お主が連れて来た者達を、紹介してもらえるか?」 「私がやるよりも、彼女にお願い致します。  サミ殿」 「始めまして王様。私、人材派遣屋のサミと申します」    いいえ、一般女子高生です…が、事前打ち合わせにより、おっさん達が未来から来たというのを、誤魔化す方策でっす。  あたし、この世界に来ると、一回は演技力試される?…今からでも、演劇部に入るべき??   「ギュスターヴさんのご依頼により、最高峰の術士」    ローランさんが、一歩前に出て、会釈する。   「無敗の戦士二人を用意させてもらいました」    ファビさんとディックさんが、一歩づつ前に出るだけ。頭は下げない。  自分の王にでさえ頭を下げるのが嫌なのに、過去の王に下げる頭は無いというご意見と、この時代と同じ騎士の礼をする訳には、いかなかったという理由で、偉そうな態度の二人になっています。   「既に、ギュスターヴさんからは、報酬を約束して頂いています。  王様は、王様の望みと引き換えに、どんな報酬を用意してくれます?  あ、お金とか地位は、意味がありませんからね」    あたし、顔、引きつってない?こんな年上の人に、こんなこんな偉そうにするのは、非常にしんどいんですけどー。   「報酬が決まり次第、私達を使う条件をお知らせしますね。  その内容を受け入れられない場合、返せるものであれば、報酬はお返します」 「そうか……」    困った様子の王様は、ギュスターヴさんを見た。   「私は、魔法が消える前に、この辺りの魔法使い全員で、綺麗で大きな虹を作る事になっています」    王様の目が瞬いた。  そりゃぁ、瞬きもするだろう。意味不明だろうなぁ。   「そうか………では私は、この世で一番美しい人を見せよう」 「美しい…人?」 「あぁ。この世界の中で一番美しい。いや、今まで生きてきた者、これから生まれる者、全てをあわせても、彼女より美しい者などあり得ん。  人とは思えないほど、まるで妖精のように儚い、美の結晶。この世の者では無い、天上人が作りたもうた美。虹なんかより、遥かに綺麗だぞ!」    なんか、ギュスターヴさんが、頭を抱えている。  背後をチラリと見たら、ラキル卿と目が合った。そんな私に笑みを送ろうとしてくれたんだろうけど、ひ、常〜に、温く、強張ってます。   「えっと……、私、ものすっごく、美しい人を知っていますけど…」    儚いとか、妖精だとか、美しいとかいう単語は、300年後のお姫様、ナデージュ姫を連想させる。あの人ほど、本気で『美』っていう形容詞の似合う人は、いないと思うぞ。   「いいや、お主の認識は、間違っている。  我が妻を一目見たら、間違いなく、お主の一番は、我が妻になるであろう」    あ………、のろけ?馬鹿夫?なんつーか、もーメロメロ?ギュスターヴさんが頭を抱えるはずだよ。これ、きっと、毎日、臣下に威張ってたりしそうな勢いだよ〜。臣下に迷惑だ。あ、だから、ラキル卿が、あんな、へっぽこな表情になったのか…。   「あーーーーーー、んじゃぁ、後で見て、判断します。もし、一番じゃなかった時の報酬も考えていて下さい」 「必要ない。我が妻は、一番以外ありえん!」    うっわ〜、言い切ったよ、王様。しかも「さっさと条件を言え」と、この問題は、終わったとばかりの態度だ。  始末に終えない愛妻家だなぁ。   「はぁ…まぁ、…う〜、分かりました。  条件は、四つです。  一つ目は、ギュスターヴさんを殺さないよう。傷つけるのも、拘束も無しです。ちゃんと、寿命をまっとうさせて下さい」 「元々、殺そうなどとは、思ってなかったぞ。  腕の良い魔法使いを殺してしまっては、もったいないだろう?」 「えっと……、脅すのも、苛めるのも、無しですよ」 「分かっている」    なんつーか、王様って、300年後の王様の方が、腹黒だけど、王様らしいというか……。   「二つ目、魔法使いさん達を保護して下さい。魔法が使えなくなったからといって、迫害されないよう国中に伝えて下さい」 「我が国の中までなら、しよう」    そうだよねぇ、他国の魔法使いさん達まで、対処付かないよねぇ。   「もし、他国から、魔法使いさん達が流れてきたら、その方々も保護対象として下さい」 「分かった、そうしよう」 「三つ目、術士というのは、医者です。彼の術で、多くの医療行為を伝授されますが、経験までは、どうしようもありません。  城の中に、お医者様が、いらっしゃると聞いています。どうか、軋轢無いよう、お医者様達と彼らを交流させて下さい」 「それで……そういう事か」    ギュスターヴさんは、王様に向かって、小さく頷いた。   「お医者様って多くないって聞いたんですけど、自分の立場が危うくなるからって、魔法使いさん達を苛めないよう、配慮もして下さい」 「いや、あいつらは、喜ぶだろう。医者というのは、ナリ手の無い職業だからな」 「は?無いぃ??」 「あぁ、無いな」 「何で?」    医者っていったら、エリートコースじゃないの??ってか、驚いた勢いで、言葉使いが乱れたぞ。それぐらい驚いた。   「元々、王の医師は、王が死んだら責任取って、死ななきゃならない位置だぞ。医師が少ないから、少しでも医療行為が出来る者は、城に来させられる。大抵、王は、医者より年上だからな。自分の寿命より短い一生を送りたい者は、いないだろ」    ……まじですか?   「その制度、直ぐに廃止して下さい。間違ってます!」 「私が即位してすぐに、廃止してある。周知の事実になっていないだけだ。早々に、広めることにすればいいな?」 「お願いします」    なんつーか、不可思議な王様だ。あたしみたいな、一般市民に、たとえ、王妃様の命がかかっている場合でも、こう……威厳はあるんだけど、話し安すぎやしない?   「あのー、何で廃止にしたんですか?」 「必要な時に、困るからだ」 「その、さっきも言ってましたよね?」 「あぁ、有能な人材というのは、希少価値だからな。 「…はぁ」    う〜ん…、こう、王様は偉いんだぞ、権力ごぉごぉ!その特権を存分に使っちゃうぜ!ひゃっほい!って、感じじゃなくて、なんつーか、単にここに居ただけという風情。すっごく、不思議な王様だ。   「四つ目、術研究所を、今までの場所のままで、存続させて下さい」 「当然だな。優秀な医者が増えるのは、この国にとってありがたい」    う、うん……そうなんだけど。   「条件はこれだ」 「サミ、追加だ」    ディックさんに、止められました。「どぞ」と譲って出てきたのは、ファビさん。   「五つ目ぇ〜、希望者全員参加、得物別武術大会を、年に一回開催しやがれ。参加希望者は、誰でも参加出来る事。上位者には、褒美を用意する事。一位の者で希望があれば、身分の上下関係無しに、軍の長になれる事…で、いいよな?」    最後の確認は、ディックさんに。ディックさんは、うんうんと頷いていた。  なるほど、これも条件に入れちゃったんだね。ここで言いたくなるぐらい、兵士さん達の不甲斐なさに、二人は腹立ててたんだろうなぁ。   「なぜだ?」    王様が不思議そうに、偉そうなファビさんを見ている。   「お前ら、弱っちぃから。こんなんじゃ、安心してギュスターヴを残していけねぇだろ」 「弱いか?」 「すっげぇ弱すぎ。あんたら、ちゃんと鍛錬してっか?昼過ぎまで走ったり、午後いっぱい戦い続けるとか、ねぇだろ?」 「……確かに…無い、な……」    普通無いだろ?ってか、その耐久しすぎの訓練は、何なんですか?   「俺は、鍛冶屋の息子だが、この世界のそこら辺の兵士よりも、鍛冶屋の子供の方がはるかに強いはずだ」    ディックさんが、冷ややかに。   「農民は、日々の労働で、腕を鍛えているからな、城の兵士達よりは、腕力があると思うぜぇ〜」    ファビさんが、嫌味ったらしく。   「私は、十七で、初めて剣を持ったのだが、それでも日々の訓練と、大会に参加することで経験を積み、大剣一位になった」    ローランさんが、「城の外の連中は、訓練を一切していないな」と、呆れたように。   「どうせあんたは、妖精さんだか、すっげぇ魔法使いの恩恵で、はなから強かったくちだろ?普通の人間様は、努力しねぇと、腕はあがらねぇんだよ。  だいたいあんたも、訓練はすべきだと思うぜぇ。錆るぞ、その恩恵」    王様は、じっとファビさんを見てから、あたしに視線を向ける。   「人材派遣屋のサミ殿」 「はい?」 「帰る前に、半日でいいから、彼らを貸してもらえないだろうか?」    彼らって、ファビさんとディックさん?   「妻以上に綺麗な人間は、あり得んから、宝物庫の見学ではダメか?」    前置き、要りますか?   「えっと…」 「陛下、庭園にある遅咲きの薔薇が、見頃だと思いますが……」 「それで、どうだ?」    ラキル卿の申し出に、王様がのっかる。   「えー、まぁ、とりあえず、条件は、全て受けてもらえるんですよね?」 「どれも、我が国の為になるものではないか。当然だ」 「では、王様の一番の望みを言って下さい」    知ってるけど。とりあえず、確認だ。おっさん二人のレンタルは、後回し。   「我が妻、ナディーヌを健康にしてくれ」 「分かりました。それでは、我が術士を王妃様に会わせて下さい。まずは、診察です」    王様は立ち上がり、「よろしく頼む」と言って、頭を下げた。     to be continued…     09.06.03 砂海
とりあえず、一旦ここまで。 続きも、かなりの分量を書いてあるんですが……切れ目がありませーーん;; もしかしたら、次の内容によっては、こっちの修正が入るかもしれませんが、その時には、次の後書きか、日記もどきに書きますので……m(__)mm(__)m^^^^ほんと、へたれですんません。激しい体たらく、お許しを〜^^^^