300years ago … 2  

   どこを走ってきたか、さっぱり分からない。沢山走って、沢山曲がって、気がついたら、目の前にある建物の中に入ってた。  300年後のギュールズ城下町も、全然詳しくは無いんだけど、流石に300年前とは、随分雰囲気が違ったと思う。あ、もしかして、ここってギュールズ城下町じゃない可能性も。だって、随分長い時間走っていたよね?   「いつまで、ここに居られるかは、分かりませんが、それまでは、どうぞお寛ぎ下さい」    ギュスターヴさんが、台所から飲み物とグラスを人数分持ってきた。   「初めましてギュスターヴ殿。どうかお構いなく。時間があるかどうかが、本当に分かりませんから」    ローランさんが、立ち上がり、さっきギュスターヴさんがやったように杖を掲げ、礼をとる。   「私は、ローラン・フィノ。術士長をしております。お名前だけは、ギュスターヴ殿が書かれた書物で、何度も拝見させて頂いています」 「私は、研究所所長のギュスターヴ・バルローと申します」    ギュスターヴさんも同じように礼をとったけど、再びあがった顔には、困惑の表情。   「あの…私が、本を書くのですか?」 「はい。私達術士になったものにとって、貴方の名前は一番最初に見るものです」    ギュスターヴさんが、眉間に皺を寄せて考え込んじゃっている。   「はたして、その知識は、本当に私のものでしょうか?」 「どういう……」 「貴方が、術士長の貴方が今、ここに居ます。もしかしたら、その書物を書いた私の知識は、貴方から授かったものかもしれませんよ」    う…ややこしい。なるほど、SFで、時間移動をした場合の制限が大量に付くはずだ。頭が混乱するって。  ローランさんは、黙ってしまい。ギュスターヴさんは、困ったような顔をしている。  やばい。速攻で手をあげた。   「はい!唐突でごめん。ちょっとしたお願いがあります!  あ、あのね、あたしの世界の空想小説の話で、時間移動の話って良くあるんだけど、決まり事のように言われている台詞があるの。過去の人に、未来の話をしちゃいけないって。歴史が狂っちゃうって。今までの歴史が無くなって、新しい歴史になっちゃって、もしかしたら、自分が産まれないかもしれない未来になっちゃうかも…って。  一応、空想話なんだけど、既に300年後に魔法が無くなってるって、あたし、言っちゃった後なんだけど、皆が居なくなっちゃったら困るから、あの……そういう事で、よろしくお願いされて下さい!」 「分かった〜」 「あぁ」 「はい、サミ殿、分かりました」    ファビさん、ディックさん、ローランさん、それぞれ、楽しげに、面白げに、生真面目に返事してくれる。うっわ、本当に帰ってきたんだ。300年前だけど。   「それで、今回あたしは、この世界から魔法を無くして欲しいっていうギュスターヴさんのお願で、召還されました!」    三人の目が見開く。  あの時、何で魔法が無くなったか、ローランさんも知らないって言っていた。それで終わった話に、続きが来ちゃった感じ。あれから、300年前だけど。  ギュスターヴさんは、あたしの話を受けて、さっき話してくれた事を三人に話しはじめた。  あたしは、ここの歴史がどこまで、この時代のあたし、いやいや、あたし達によって、300年後が書き換えられたか、リストをものすっごく切望していますです。なんか、あたし、すっごくボロ出しそうなんだもん。それがあれば、しちゃいけない事が分かるじゃない?   「あれ?」    壁際にある小さな机の上にある本。非常に見慣れた雰囲気を醸し出してるんですけど……。  皆は、会話最中なんで、邪魔をしないよう、静かに机の所へ行って、本を手に取った。  あたしが知っているのより、真新しい……中を見る……最初の文章に、激しく読み覚えあり。これ、本じゃなくて、ノート?パラパラとめくって見たら、3/4以降、白紙。  振り返って、ギュスターヴさんをまじまじっと見ちゃったヨ。   「お嬢ちゃん、どうした?」    相変わらず、周りの人の感情に、物凄い早さで反応するファビさん。   「これ…」 「それが、どうした?」 「えっと、これ、あたしの家で預かってる本……だよ」    おっさん達が、ギュスターヴさんを慌てて振り返った。   「ギュスターヴさん…」 「それは、子供の魔法使いが見つかりましたので、早急に書いている教本ですが……」 「あの、魔法使いって、見つかるってものなの?」 「はい、突然、何かの拍子に魔法を具現してしまう事で、見つかるのです」    ローランさんを見ちゃったヨ。ローランさん、頬をポリポリ掻いている。あの術、まだ無いのか。   「えっと、魔法使いさんは、血筋とかで、魔法が使えるんじゃないんですか?」 「それは、無いようです」    も〜一回、ローランさんを見る。うんうん、頷いていた。   「あの、ギュスターヴさんのお話は、全部終わりましたか?」 「はい、サミ殿にお話しした分は、全てお話しましたよ」 「あのー、あたし達だけで、話をしたいんですけど、えっとー、呼んで貰って失礼かとは思うんですけど……いいですか?」 「分かりました。では、私は、二階に居ます。部屋は一つしかありませんので、お話が終わったら、呼んで貰えますか?」 「はい、了解です!」    ギュスターヴさんは、皆にあの優雅な礼を取ってから、部屋から出て行った。  その扉が閉じられて直ぐ、ローランさんが、杖を一振りした。   「なぁに?」 「一応、ここでの会話を聞かれないようにしました」 「え?だって、術って、対人にしか出来ないんだよね?」 「サミ殿、聞くのは、人ですよ」 「うん」 「私達の周りにあるモノに対して、人に作用させるよう術を展開するのです」    うーんと、凄い事言っているぞ。モノ経由で術をかけられるって事だよね?なんか、応用範囲、すっごく広そう。   「あ……へ?ひゃぁっ?!」 「こ、のっ、ディック、ファビっ!!」    えー、ファビさんの腕の上にあたしが移動してて、ローランさんは、ディックさんに拘束されてます。   「お前ばっかし、ずりぃだろ?な、お嬢ちゃん、ひっさしぶりだなぁ」 「あはは…おひさし〜」    なるほど、さっきまでローランさんに抱えられていたのが、問題だった模様。あれか?訓練するなら、全員でやりましょうって風味?ディックさんが、次は俺だと主張している。そんなディックさんは、ちょっと珍しいけど。なんだかなぁ…、おっさん達、訓練必要ないでしょ?だって、あたしを乗っけている腕、微動だにしてませんよ〜。あたし、重し以下だよ。   「あ、そだ。何で?何で、驚かなかったの?」    うっわ、たちの悪い笑みが三つも〜。   「や、いいや。その話は忘れる」    不穏な空気から、逃れるが勝ちだヨ。   「サミ殿〜」 「本が沸いて出てきた」 「そうそう、ギュスターヴ・バルロー著ってやつ〜」 「ギュールズ歴632年の9月4日に、サミ殿を召還した部屋で、武器を携帯し、三人で居るようにと書いてありました」    うっわ、えっと、過去の人が未来の人にご指定?!   「お前が、助けを待っていると書いてあったからな」 「お嬢ちゃんが関係している内容だったもんだから、嘘でもそこに居るしかねぇだろ?」 「その後の行き先も、記してありました」    嘘でも居てくれて、ありがとう〜。う、すっごく嬉しいぞ。  と、感動していたら、「次は、俺だ」と、ファビさんから、ディックさんに移動させられました。折角感動していたのに、荷物扱いは、どうだろ?   「本が、沸いて出てきたって…」 「えぇ、今までの術士長の、誰も気づきませんでした。  当然、一昨日までの私もです」    あ、建物経由で術をかけられるなら、本もって事?   「だとしたら、この本も?!」 「はい……きっと、そうでしょう」 「えっと、そうすると、前の旅って、ギュスターヴさんが起こしたって言っちゃう?!」 「だろうなぁ」    ファビさんとディックさんが、苦々しげだ。   「だが、もしかしたら、ギュスターヴ殿だけではなく、我々も入っているのかもしれん」 「その可能性が高いだろうな」    ローランさんが言った言葉に、ディックさんが嫌々肯定する。   「あたしが、おっさん達に会ってなければ、ここに召還しても意味ないし、だって、ローラン……を召還する方法は、あたし経由だったし。それに、言葉通じないままだよねぇ。言葉を教える術っての、まだ無いって言ってたもん」    おっさん達三人が、ため息ついてるヨ。   「ってことは、俺達がここでする事は、ロニーにその本を渡せるようにする事かぁ?」 「これ、まだ完成していないヨ」    ファビさんに、白紙部分を見せる。   「速攻で仕上げてもらわないとな。それから、俺は、その本へ術をかける…のか」    ローランさんが、非常に嫌そうなんですけど。   「それに、ロニーは、ヴァートの者だろ?」 「詳しい事は、俺が聞いている。それも、俺の分担分か…」 「ローラン……が見つけたっていう、本の事も教えないと」    あたしが言った言葉で、ローランさんは、もう一回ため息をついたヨ。  なんか、ローランの仕事ばっかりだな。   「あ、それから、あたしの外見説明付き召還呪文の本もだ」    ローランさんの肩が、がっくり落ちました。   「最後に、魔法を無くす仕事も、お前だろ」    あぁっ、ディックさんが、止めを。   「俺は、忙しくなったからな」    突然顔をあげた、ローランさんの目がすわっています。ひゃぁ〜。   「ギュスターヴ殿を守るのが、お前らの仕事か?」    楽しそうに、二人が頷く。がってんでぃっ!風味。心底、嬉しそうだヨ。  あ、そうか、それにローランさんが、参加出来ないことを、悔しがっているのか。……どこまで体育会系なんだ、ローランさん。   「ディック、お前は、王に筋を通す方法も考えとけ!」    あ、王様は、魔法を知っているんだ。反対派の人が、お城に居たって事は、ギュスターヴさんが何をしようとしているかも、知っているかもしれない。そうすると、魔法が無くなった後、ギュスターヴさんの命が危ないって事なんだ。   「それと、サミ殿」 「は、はいっ!」    うっわ、怖いぞ、その、座りきった目。何ぃ?何でぇ〜??あたしは、戦いませんよぉ〜。   「ローランです!」 「は?」    ずいっと、寄ってくるの止めて下さいーー。   「私は、ローランで。間を取って下さい。じゃないと、働きません」    真面目にギュスターヴさんの事を考えていたのに、ローランさん……おっさん年齢なのに……未だに根に持っていますか?きょ、脅迫はいけないんだぞー。   「あ、あの、ギュスターヴさんを、信用していいんだね?」 「サミ殿、まずは、私への呼びかけから」    ひぃ〜、話が全然逸れないっ。   「ローラン……」 「付いていますね」 「うっ………」    なんて、鋭いんだ。ファビさんとディックさんを見たら、二人して、目を逸らしやがりましたよ。   「ローラン、これで、いいよね!」 「はい、サミ殿の為に、全力で仕事をさせてもらいます」    なんて、なんて、現金なんだ。くっそ〜、その満面の笑みは、腹がたってくるぞ!  背後で、「俺もぉ〜」とか言う台詞は、無視だ、無視!絶対呼び捨てなんか、してあげないっ!   「サミ殿」 「あたしは、そのまんま?殿、取ろうね」 「いいのです。それで、ギュスターヴ殿の事ですが」    何がいいんだ?ってか、自分の台詞は、棚の上に放り投げ?!   「……会えなくても、良かったんだ。ローランは、あたしと会いたくなかったんだ…」 「サ、サミ殿」 「そうか〜、ローランって、もう、魔法使いの事が終わったら、あたしなんて、どうでもよかったんだ」    脅迫の視線に対抗するは、恨みがましい視線。ローランさんが、そんな事思ってない事ぐらいは、分かっているけど、脅迫するのは、ずるいと思う。だって、あたしだって、ローランさんに、サミって呼ばれたいぞ。   「サミ殿ぉ〜」 「殿つけるようなおっさんは、仲間じゃないっ!」    ディックさんを覗き込んで、「ねー」って言う。ディックさんも、あたしに合わせてくれて、頷いてくれた。   「そうだよなぁ。仲間で、殿はねぇよなぁ」 「ファビっ!」 「という事で、殿無しで」 「さ…サミど…」 「ローラン」 「サミ……」 「間ぁ付いている」    普段、頭の中で「さん」をつけていたから、その間ぐらい、分かる。   「あたし、なくしたのになぁ」 「サミさん」    うっわ、「さん」ですか?   「こ、これが、限界です!」    しかも、胸張りやがりましたヨ。このおっさん。   「………ローラン……、あたし、元に戻す…」    そう言ったあたしに、ディックさんとファビさんが、「これ以上の譲歩は無理だぞ」「そうそう、諦めた方がいいってぇ〜」だと。ローランさんは、うんうんとか頷いているし。ずっるいヨ。   「分かってないけど、分かった。  んで、ギュスターヴさんを信用する理由って?」 「信用している訳じゃない」    ディックさん、そろそろ下ろしてもらえませんかぁ?   「とりあえず、言動を眺めてっところ」    なるほど、言動を観察するのか。うっ……それを解析する能力が無いじゃん。   「私は、同じ術士として、信じたいのですが……、なるべく先入観を持たずに、見ていこうと思っています」    各種本の著者様だもんねぇ。長年慣れ親しんだ名前を持つ当人に対し、疑う事は難しいよねぇ。   「とりあえず、ギュスターヴさん呼んでくるね。もう話す事ないよね?」 「おう!」    代表ファビさんの景気いい返事。  しっかし、最後の方の会話は、要らなかったよねー。かといって、ギュスターヴさんの前でやりたいとも思わないけどさ。   「あのー、降りたいんですけど」    ディックさんが、あたしを持ったまま、扉の方へ歩いている。えー、このまんま行ったら、あたし、扉の上の壁にデコをぶつけるね。   「ディック!  サミさん、危ないですから」    ローランさんが、無理やり奪還?してくれた。   「お前の方が、時間が長かっただろ」 「それなら、俺の方が、もっと短かったよなぁ〜」    えっと、鍛錬時間は均等に!という合言葉でもあるんですか?   「あー、あたし行ってくるね」    おっさん達の爆笑会話を聞いていたら、また時間が経っちゃう。する〜して、さっさか行くに限る!   「って、何でファビさん?」    背後から、ファビさんが、ついてきてた。   「そりゃぁ〜お嬢ちゃん一人で、知んねぇヤツ、会わせに行かせられないだろぉ?」    なるほど。  って、目の前にファビさんの掌。  騎士様のように、ってたぶん、一応、きっと騎士様だけど、えーと、手を前に出して跪いている。   「はいはい。さぁ、行きましょうぞ。騎士様」    ファビさんの掌を掴んで、階段を上る。「ちぇぇ〜、お嬢ちゃん、のりが悪ぃ〜」なんて、声が聞こえるけど、ちゃんとのったから。行きましょうぞって言ったから。ったく、おっさんってのは〜!     to be continued…     09.04.29 砂海
色々300年前の事が分かってきました。 実は、頭の中、全削除してしまった最初に考えていたストーリーですが、この話+旅だったんですよ。旅なくして良かった……それどころじゃ、ありませんってf(^-^;)