絶対に渡さんっ!!  

    ◆絶対に渡さんっ!!◆   「この、くそっ!火影様っ!!」   三代目の目の前に、真っ白な面を被った暗部が突然現れた。 パイプを燻らせながら、その言葉を聞いた三代目は、『怒鳴りながらも、様を付けるあたりがイルカよのぉ〜』と、冷静に観察している。 そう、怒鳴り込んできた暗部の名は冷夜(れいや)、昼間中忍をやっているイルカの夜の姿だった。   「なんじゃ?」 「何で今日の任務は、狐夜(こや)と一緒じゃないんですかっ?!」   狐夜とは、昼間アカデミー生をやっているナルトの夜の姿。 ナルトが暗部になった最初から、ずっとイルカが先輩として、木の葉の暗部トップとして、ツーマンセルを組んでいた相手である。   「お主は、狐夜に成長して欲しくは、ないのかの?」 「当然、狐夜の成長は、俺の喜びです!」   冷静沈着、氷の暗部、絶対零度の闇の帝王等々、暗部冷夜の肩書きはいっぱいあれど、目の前の姿、熱血教師姿を知っているのは、三代目だけ。はっきり言って噂は、真実とまったく違ってたりする。   「ならば、他の者と組み精神的な成長を願う、儂の思いも分かってくれるな?」 「ぐ………」   イルカは、ナルトを愛していた。あのプニプニっとした頬が好きだ。あの上目遣いに見てくる大きな目が好きだ。あの切れのある素早い印を結ぶ可愛い掌が好きだ。 とにかく、イルカはナルトが大好きだった。 だからこそ、毎晩任務で、一緒に過ごす時間は非常に大切なもので、それが無くなるのは耐え難い。 加えて、あの可愛いナルトを見て、懸想しない輩は居ない。居るわけが無い!絶対居るものか!自分以外の者と一緒に任務したら危険だ。ナルトの貞操の危機だ!イルカの拳がぎゅぎゅっと握り締められる。   「狐夜が、怪我をしたらどうするんですかっ!」 「お主……狐夜の腕は、木の葉のナンバー2ではなかったか?」 「ぐ………いや、しかし……」 「冷夜…」   三代目の目が細まる。この疲れる会話を早く終わらせたい。   「組むのは、鹿夜(かや)じゃ。お主も噂ぐらいは知っておろう?」 「鹿夜………」   冷夜、狐夜とは別に、海(かい)という暗部と組み冷夜達と同じぐらいの実績をあげている暗部の名。   「誰なんですか?」 「冷夜…、暗部の名は、極秘ではなかったか?」 「そんな素性も分からぬ者に、狐夜は預けられません」   三代目の額に青筋、ついでに汗、怒りたいのだが、あまりに頭の痛い会話に疲れていたりもする。   「確かに彼の行った噂は聞いています。しかし、それが事実かどうかは分かりませんし、あれは三年程度の経験しかないはずです」   目の前で力説して、机を叩いている姿を見ているのも嫌になってきた。 三代目は深々とため息をつく。予定通りといえば予定通りだが、やはり、こうなったかと、激しく頭が痛い。   「鹿夜…」   イルカの背後に鮮やかな気配が現れた。   「っ………」 「なんすか?」   あくび交じりの声。 イルカの額に青筋一つ。   「証明しなさい」 「あー?あんた火影だろ?何で、こんな表面上中忍に、証明してあげなきゃぁなんねぇんだ?」   イルカの額に青筋、もう一つ。   「鹿夜、冷夜の素性をなぜ、お前が知っているのじゃ?」 「あー?そんなの、ちょっと調べれば分かるだろうが」   イルカの額に青筋、もう一つ。 三代目の口元からため息が一つ。   「……相変わらずじゃの……。鹿夜、狐夜と組みたいと言ったのは、お主だったな?」 「確かにそう言ったが、証明する理由にはなんねーだろ」   ぶちぶちぃ〜っと切れた。   「んだよ、危ねーな」   今まで鹿夜が居た場所に、クナイが数本打ち込まれていた。 そして、火影執務室の中は戦場となる。 飛び交うクナイ、手裏剣。 顕現する術。 溢れるチャクラ。 その中で、唯一結界に守られた、机と三代目が頭を抱えていた。   「お主らっ!やめんかっ!!」 「俺に怒鳴るのは筋違いなんじゃねーの?」   戦いながら(訂正)冷夜の攻撃を避けながら鹿夜が、のんびりと答える。   「真面目に戦えっ!」 「ったく、そんなメンドくせー事する訳ねーだろ」 「それでも暗部かっ!」 「暗部が火影執務室で戦う事自体変じゃねーか」 「煩いっ!」   果てしなく平行線の会話は続く。 三代目の頭痛進行速度は増すばかり。諦めた。部屋が崩壊する前になんとかしなくちゃいけない。   「狐夜…」   ため息と共に、呟いた。   「どうし…ん?」   結界の中にもう一人暗部が現れた。   「あれを、どうにかしてくれ」 「冷夜と……誰だ?」 「今夜、お主が組む相手だ」 「鹿夜?……へぇ〜、冷夜に負けてないじゃん」   負けてないどころか、冷夜の攻撃を全てかわしている。ナルトの視線が、楽しげに鹿夜の動きを追った。   「眺めているのではない。早く止めなさい」 「えー、こんな面白い見世物めったにないのに〜」 「執務室が無くなるっ!」 「むぅ〜、分かったよ」   狐夜の左手が上に伸び、三代目が張った結界が崩れる。右手が上から下に下ろされた時、執務室に静寂が訪れた。   「これでいい?」   冷夜の影にクナイが刺さっていた。冷夜は、身動きが取れない。だが、歯軋りは聞こえていたりする。 そして、鹿夜は放置。攻撃を逃げていただけだったので、処理しなくても止むだろうとナルトは判断した。   「すまないのぉ」 「いいって。んで、任務に行って良い?」 「あぁ、これ以上遅くなる前に行ってきなさい」   三代目は鹿夜に視線を投げる。 鹿夜は、一つ頷く。 そして、二人は執務室から姿を消した。   静寂が………訪れなかった。 ギリギリと音量があがる歯軋り音。 そして、バリバリと部屋の中を走り出した稲光。   「冷………夜……っ!!」   恐々と冷夜の方を見た三代目は、激しく後悔した。 既に冷夜の影をおさえていたクナイは転がっていて、役立たず。 そして本体は………ランランと暗く光る面越しの瞳。浮き上がっている体中の血管。そして、稲光を纏いながら、鹿夜が消えた場所を穴が開くほど睨んでいる姿。まるで悪鬼。   「ちょ…ま、待てっ……も、もう鹿夜はい、い、待てぇぇぇぇぇぇぇっぇっ!!!」   轟音と共に執務室は崩壊した。 三代目が必死になって張った結界の中だけを残して。   「冷夜っ!!!!」   未だ稲光を背負い中。   「冷夜っ!!」   ぎぃ〜と音を立てそうな、いやぁんなゆるりとした動作で、イルカが三代目に振り向く。   「ひっ……!」   三代目が睨もうとしたが、あまりの迫力に、かなり怯んだ。   「火〜影〜様ぁ〜」 「な、な、なんじゃ?」 「殺します。  鹿夜〜〜、この先、木の葉で息が吸えると思うなよぉ〜」   そう言って、イルカは消えた。   「……鹿夜……いや、シカマル……お前……なんか、余計な事を言ったじゃろう……」   非常に風通りが良くなった執務室で、三代目は気が遠くなるぐらい痛む頭を抱えていた。             『ナルトは、もらったぜ。イルカ、せんせ』           -End-    


08.10.16 砂海
はっはっは…なんて楽なんだ!この話にかけた時間……トータルで2時間ぐらい?これから校正するから+1時間。
慣れ親しんだ、データブックの必要の無い世界は楽だなぁ……(゚゚ )一部だけだけど。
突然浮かんだ、スレイルのネタをほかすのがもったいなくて、書いたブツ。続きは……期待しないで下さいm(__;)mニゲデスカラ…