島国の新年  

   時は正月。ニューイヤーそのものの日。  アーサーは、菊に誘われ、いそいそと日本にやってきていた。  今、アーサーの目の前には……    低く重く暗い色に敷き詰められた雲。  ちらちらと白い羽のように降る雪。  目の前に広がる、寒々しさと、暗さを見事に引き立てる海。  波ぃ〜がぁ〜♪どんとくぅりゃぁ!  そんな声が、そこかしこから、ヤケぎみにあがっている。  全員同じ格好で、赤々と空を焦している焚き火にあたっていた。   「突然の申し出を快く了承して頂きまして…………嬉しいです」    アーサーは、「お、おう」といいながら、菊に見惚れる。  目の前で、そんな、はにかんだ笑みを見てしまったら、後悔なんかしていられない。菊の頬が赤いのは、寒さのせいなのだが、そんな風には、頭が解析しない。よーく見たら鼻の頭も赤いのだが、恋という名のフィルターに排除されて見えなくなっている。なにせ、目の前の菊は、褌一丁の姿。アーサーも同じ姿なのだが、そんな事も、頭はしっかり排除。極寒の中、アーサーは、一人幸せに浸っていた。   「あの…本当に大丈夫ですか?」 「あ?あぁ、当然じゃないか。同じ島国だ。こんなの、平気にきまってるだろ!」    ものすごーく寒いし、紳士は、パンツ一丁なって、真冬の海に飛び込む事はありません。  そう、これから、ここに集いし褌集団は、新年を祝って、海に飛び込み、幸いを祈願するのです。   「準備はいいかー!!」    主催者が、大声で全員を鼓舞する。全員が拳を空へ叩き「おーーー!!」と勇ましく返答。たとえ、寒さに震えてようとも、気合は、ばっちり。  空が白み始めている。日が昇るのも、間近。  そして、元旦の日の光が見えた瞬間、男達は「行くぞーー!」と叫んで、われ先へと、波に向かって走り出した。  声の勢いだけで、極寒の海に突入。  そして、なぜか、先頭に居たアーサーと菊は、100人はいるだろう人達を全員海に入れるよう、ざぶざぶと沖へ走るはめになっていた。   「うおあっ?!!」    突然アーサーが叫ぶ。  菊は、それを見ながら、『アーサーさん、あんなに必死になって……楽しんでくれているのですね。誘って良かった』と、しみじみ思う。  バシャバシャと両手を動かしているアーサーに、菊は、にっこりと笑う。  現在菊は、立ち泳ぎ中。この海岸は、ある地点から、かなりの身長が無いと立っていられない。急に深くなる海岸だった。  そう、アーサーは、溺れていた。必死になって溺れていた。海賊をやっていたはずの海の男は、かなづちだった。ばっしゃばっしゃと海を叩く。だが、そんなんで体が浮く訳もない。そして、最後のあがきとばかりに、海面を一回おもいっきり叩いたアーサーは、ブクブクと沈んで行った。   「アーサーさんも、お茶目な所がおありになるのですね」    かなづちだとは思いもよらない菊は、にっこり笑っている。そして、10秒がすぎ…30秒がすぎ……アーサーは、沈んだまま。ようやく状況を理解した菊は、「嘘ですよねっ?!!」と叫びながら、慌てて海に潜った。       「1、2、3………」    アーサーを救助した菊は、必死になって人口呼吸を施していた。アーサーの胸を数えながら押す。大きく息を吸って、空気を吹き込む。菊は、わき目もふらず繰り返していた。  再び空気を吹き込もうと唇を重ねた瞬間、目があった。そして、「げぼげぼっ……」っと、激しい咳が続く。「良かった……」少し目尻に涙を浮かべた菊は、安堵の笑みを浮かべ、へたりこんだ。  そんな菊をよそに、アーサーは天国に居た。気管に入ってしまった水で咳は止まらないが、そんな些細な事は、どうでもいい。同盟調印時に惚れて、恋人という立場になるまで半年。それから手を繋ぐのに一ヶ月。そして、今年こそは、その先へと決意をして来た元旦。ニューイヤー!ハグを飛ばして、キスに行けたーーーという喜びに、体から半分出かかっていた魂がパブった。   「アーサーさん、大丈夫ですか?」    心配そうに、撫でてくれる背中の手が、激しく嬉しい。まだ咳、止まらないけど。   「泳げないのなら、言って下されば……」 「げぼっ……泳げないんじゃげぼげぼっ……ちょっと浮かないだげぼっ……」 「はい……」    未だ背中を撫でながら菊は、小さく笑う。   「それより………」 「なんでしょうか?」    ようやく静まった咳。それで荒れてしまった喉をゴクリと唾を飲み込むことで湿らし、アーサーは菊を見上げる。   「後で……二人の時に……」 「はい」    菊は、続きを促すように頷く。   「もう一度………」    そう言ったアーサーは、全身を真っ赤に染める。言葉が続かない。だが、無意識にアーサーが唇を触りながら言っていた事で、菊は彼が何を言っているのか、気づいてしまった。同時に、菊も真っ赤になる。   「あ…はい」    見つめあいながら、固まっている二人に、周囲からひゅーひゅーと口笛が飛びかう。  「なんか、あそこだけ熱いなー」とか、「初々しいなぁ〜」とか野次が飛ぶ。そして、酒を飲んであったまっていた酔っ払い達は、アーサーと菊を神輿のように担ぎ、再び海に二人を放り込んだ。   <え?夜の話?風邪ひいてそれどころじゃなかったらしいよでお終い>       11.01.01 砂海
年末、頭が沸騰している状態で、書いた結果がこれだよ…orz うん、色々アレだけど、ソレで、コレだけど………m(__)mすんませんすんません…やっぱ、慌てると書き込みが足りないよなぁ(´;ω;`)