◆異郷の地で 「どうして、そんなに遠くばかりを見ている?」 振り向いたバルフレアの顔は、いつもと変わらない。 「お前もそうだろ?」 「私が…?」 「あぁ、お前が見ているのは、何だ?それとも誰だ?と聞いた方がいいか?」 口元に湛えた皮肉げな笑みを、瞳の色が裏切っている。 彼が、いつものようにからかっているのでは無いと分かる。 「俺は、そいつに似てないだろ?」 「何…を…?」 「気づいてないのか?いや、違うよな。俺は、気づかないふりをしてやるほど、親切じゃないんでね」 いつもと違う雰囲気を纏ったバルフレアが、あまりにらしくなく、ついかけてしまった言葉。心配をしていたのは自分だったはずなのに、逆に心配をされている。そんな気がする。 大人だと言う彼の言葉は、あまりにも難しく、率直でない言葉は、自分を混乱させる。 今、やらねばならない事は、あまりにも多く、自分の心などに構ってはいられない。それなのに、それを見透かすような言葉。そう感じるのは、自分を誤魔化しているやましさからくるのか、それとも彼がそれを見抜いているのかは、分からない。 「大人なんだろ?逃げるのは大人じゃないぜ」 「バルフレア…」 手招きされて、彼に近寄る。足が重い。 「バッ…」 「俺が見ているのも、お前が見ているのも、まったく違うものだ。そうだろ?」 突然抱きしめられた事が、理解出来ない。抗おうにも、彼の腕はまったく揺るがない。 「お前は、まったく違うのにな……、その真っ直ぐに前だけしか見ないで進む姿が、やけに思い出させる」 頤を指であげられ、真っ直ぐにバルフレアを見る形になる。 「ちっ…」 「貴方は…」 誰をとは、聞けなかった。 その苦しげな声音が、思い出させる。 まったく違う言葉。まったく違う状況。なのに、思い出すのは、彼の姿。ディリータ。 あの時は、何も出来なかった。こんな状況も無かった。 だから今、バルフレアの体を同じ強さで抱き返す。 「……お子様に慰めてもらうとはな」 「いいえ…慰められているのは……私………」 「同病相哀れむねぇ。不健康だな」 「今…だけです…から…」 前を向いているだけの瞳が、バルフレアをまっすぐに見る。バルフレアは目を眇める。色は違えど、まったく同じ種類の瞳。 「ラムザ、最後まで付き合ってやるよ。なにせ、俺はこの話の主人公だ。主人公と一緒なら、死ぬ事はない。お徳だろ?」 「えぇ、そうですね」 「お前の望みも、叶うさ」 「望み………?」 「あぁ、俺の物語は、いつでもハッピーエンドだからな」 ラムザの口元に、笑みが浮かぶ。 「だからな…」 その唇が、暖かいものに触れた。目を見開いても、あまりに近い彼の顔は、ぼやけて焦点を結べない。 「これは、駄賃な」 「バッ、バルフレアッ!」 「真っ赤だぜ、ラムザ」 手で口を押さえたラムザの顔は、耳まで赤かった。 「さてと、…」 ラムザの頭をくしゃくしゃと撫でる。 「あまり前ばかり見すぎんな」 そんな旅を知っていた。 「たまには、振り返りな。そんな目をしなくなるぜ」 ラムザの心に気づかず封印していたものが、溢れそうになる。 「そうすれば、……」 「あぁ、たぶんな。まだ、間に合うんだろ?」 視線が落ちる。もう既に遅い。彼は、守る者を見つけてしまった。 「逃げてて、いい事なんて、何もないぜ」 そんな言葉を自分が言うとは、思いもよらなかった。バルフレアの顔に浮かんでいるのは、苦笑。 「そう…ですね」 再びあがった視線は、真っ直ぐにバルフレアを見た。 どこまでも真っ直ぐなヤツだなと、バルフレアは、同じ視線をもつ者の名を心の中で呟く。 「ま、逃げ出したくなったら言いな。俺が居る間なら、相手をしてやるよ」 「もう、私は決して逃げない!」 「なら、安心だな」 子供のように、頭を撫でられる。 「バルフレアっ!」 声が出る。それに酷く安心をする。 しっかりと閉めていたはずの蓋は、外れかけていた。 それを、バルフレアに見透かされていた。 (ディリータ…) ラムザの瞳から、迷いが消える。ただ、真っ直ぐ前を見詰めるだけの、意思だけが残った。 ◆◇◆ 「なぁ、バッシュ…」 その声に返事する者は、ここに居ない。 (俺とあんたを足して2で割ったようなヤツを見つけたぜ) ため息が漏れる。 (ここに、あんたが居ればいいのにな…) まだ、旅は終わっていない。 -End-
08.02.24 砂海 えー、ラムザは幾つですか?瞳の色は、アンバーあたりですか? ヴァンよりも若いのかなぁ?ラムザの設定資料がねぇっ!!(泣) バルバシュ&ディリータ?ラムザで。あっはっはっは……((((脱フラン