バルフレアは嫌な汗を流していた。 目の前には、正気の光が消えた赤い瞳。 口の中には、甘ったるいチョコの後味。 (早く…) 自分が正気なうちは、自分の行動理念に基づく意志。 理性を失った相手と、抱き合う趣味はカケラもない。 確か目の前の相手もそのはずだったのに、『何しやがった、昨日の自分!』 (早く…早く…) 部屋の間取り、そこに置かれた物、空賊として当然把握している。 それを、見る必要もない。 じりじりと動く。 視線だけで相手を牽制しながら、目的のものを手にする。 手の中に冷たい重み。 (早くしろっ!) すぐさま、手にした槍を逆さに持ち、構えた。 相手を、傷つけるつもりはない。 だが、逃げるだけで勝てる相手でも無い。 ガッッ!! バッシュの動きが、槍によって妨げられる。 理性を失ったバッシュの動きは早く、力も普段より跳ね上がっている。だが、欲望に溺れながらも自分を傷つけまいとする動きは、バルフレアにとってあしらい易いものだった。 (まだかよっ!) 自分もチョコによって理性を失ってしまえば、後はどうなろうと知った事じゃない。 頭を抱えたくなるような事をしたとしても、誰も見ていない。そして、唯一知っているはずの自分と相手の頭から記憶からすっぽり抜けてしまうのなら、無かった事と同じ。 そして、起きたら怒鳴る。 二度とこんな事をするなと言って、二日間の夜を闇に葬る。 予定はたった。 だが、未だ自分は素面だ。 (くそっ…) お互い睨みながら、相手の隙を伺いながら、じりじりと場所を移動していく。 その時、突然バルフレアの体がグラリと揺れた。 (よしっ、きたっ!) バッシュに隙をつかれ、抱えられているのも気にならない。 後は忘却の淵に沈むばかりだと、バルフレアはようやく訪れた状況に安堵していた。 ベッドの上、視線が交わる。 どちらの瞳にも、理性は残っていない。 自然と唇が重なり、最初から濃厚な交わりが始まった。 「あんた…色っぽいな」 バルフレアの舌が、ゆっくりと自分の濡れた唇をたどる。その厭らしさにバッシュの喉が鳴る。そして、その衝動のまま手を伸ばそうとしたら、逆にバルフレアの腕によって、バッシュがベッドに倒された。 「動くなよ。俺が、あんたを気持ちよくしてやる」 「お前が?」 「あぁ、あんたはそこで寝てな」 彼の申し出は、理性ゼロのバッシュの頭に、昨晩のめくるめく素敵夜を思い出させた。バッシュは、再びゴクリと唾を飲み込み、うんうんと頷く。 それを、口の端をあげたバルフレアが楽しそうに受け取った。 「楽しめよ」 そう言ったバルフレアの笑みは、やけに男くさかった。 ◆最高の夜・二日目の不幸は誰だ?! 「バルフレアっ!!」 「あ〜?」 バッシュの眼下に見える光景は、とっても素敵Vv 自分の熱を咥えたままのバルフレアが、視線を自分に向けている。これだけならいい。萌える。 ただ問題が一つ。非常〜に大きな問題。 彼の右手は、自分の熱を握り締めている。これもいい。いいけど、左手の場所が激しく悪い。いつの間にか用意されていたジェル。それで濡った指が、自分の中に入っていた。 「くっ……っ……」 「痛くないだろ?安心して、俺に喰われちまいな」 バッシュの全身が逆立った。安心できない。全然出来ない。 だが、逃れようにも、急所をおさえられていて、一切動けない。 それに加えて、一層安心出来ない己自身。食べてしまったチョコの効果のせいか、バルフレアの手が気持ちいいと感じてしまう。 バッシュは、必死になって、声を抑えていた。 「声を抑えているあんたって、すっげぇそそるな」 「っ……はっ…あ、……」 突然、バッシュの体がはねた。 「ここか……なぁ、バッシュ、俺と一緒に天国へ行こうぜ」 バルフレアは、バッシュの唇に啄ばむようなキスを落とす。 その表情を見ていたバッシュは、彼から目を離せなくなった。 いつも自分が組み敷いて見ていた顔とは、まったく違う色気。自分を喰らおうとする意思を湛えたその目に、ゾクゾクする。 「バル…フレア…」 「行くだろう?」 体から力が抜けた。 バッシュは、こんな表情が見れるならいいと思ってしまった。欲しいものは、彼の全て。まだ手に入れてないものがあるのなら、たとえ自分が受身になったとしても手に入れたい。奪いつくしたい。 今、バッシュの中にあるのは、この姿を見たであろう、彼の過去の相手に対する嫉妬だった。 「当然だ」 そう紡いだ唇にキスが落ちる。 「俺だけを見てろよ」 零れ落ちた涎を舌でねっとりと舐め上げ、そのまま首筋にキスを落とす。 「あんたのここ、すっげぇ指に絡み付いてくる。早く俺自身であんたを感じさせてくれよ」と耳元で呟く声に、バッシュの体が震えた。 ◆◇◆ ? ここは? どこだ、と薄目を開けると目の前には、白濁した、馴染みのものに塗れたシーツが、ぐちゃぐちゃになって転がっている。 軽く唸り横向きから仰向けの体勢になる。 身体が、激しく重たい。 目に映るのは見慣れた天井であり、身体に触れるのは慣れた感触のベッド。 上体を起こすと頭と下腹部が鈍く痛む。 「何だ…これは?」 頭の痛みは...二日酔いか? そんなに飲んだ覚えは無いが。 ほんとに? いや、まてよ。記憶が... 昨日は...バルフレアが居て……、「チョコっ!!」 ようやく思い出した記憶は、もう一度薔薇色の夜を過ごす為に食べたチョコの味。 「っ…………な、………」 突然下半身に滑る感触。ドロリと体の中から何かが流れていく。 「ばっ、ばっ、バルフレアっ!!」 「あー?」 「バルフレア、バルフレア、バルフレア!!」 「何だよ…ん?」 身体が、とーても軽い。というより、通常通り。 目に映るのは見慣れた天井であり、身体に触れるのは慣れた感触のベッド。横にはバッシュ。 上体を起こすと、この状態じゃありえない、すっきりとした頭と体。 「珍しいな…」 「バルフレア!」 「んだよ、聞いてるぜ。どうした?」 「こ、こ、こ、これ!」 バッシュが指差した先は、股間の下。 「あ〜〜っと…、やったのは俺か?」 今までバッシュが心の中で一生懸命否定してきた言葉を、バルフレアが言ってしまった。 「ふぅ〜ん」 バルフレアは、絶句したまま硬直しているバッシュの下半身を押さえ、白濁としたものをだらりと零している場所に指を突っ込む。 「バルフレアぁぁぁぁぁぁっ!」 普段よりも1オクターブ高い悲鳴。 「へぇ〜、3回分ぐらいか? あんた、今日仕事あんだろ?」 眼下の冷静なバルフレアが凄く嫌。 「仕事は、休みだな」 「い、いや……」 「ま、やってみても構わないが、無様な姿を晒すだけだぜ」 裸のまま立ち上がり、ベッドの傍にあるテーブルに行く。 「昨日食べたのは、3粒だったな」 バッシュの方へ振り向いたバルフレアは、ニンマリ笑っていた。 「バッシュ」 掌には、3粒のチョコ。 「もう一回やるか?」 声が出ない。首をぶんぶん横に振った。 「昨日の記憶は、ないんだろ?俺の熱を全部記憶したくないか?」 二人共昨日の夜の記憶は一切無かったが、今バルフレアが浮かべている笑みは、昨日記憶を無くした時と同じ。 それを見たバッシュは、理由も分からない背中の震えに困惑する。伸ばしそうになる手を、慌てて抑えた。 「そう…したいのか?」 恐る恐るの言葉に返ってきたのは、爆笑。 「バルフレアっ!」 「わ、悪ぃ………はっ……なんて、顔してんだよ…っ」 ひとしきり笑った後、手の中のチョコを握りつぶす。 「もう、これはいらないな?」 「あ、あぁ…」 「二度とすんなよ」 「絶対にしない」 未だ自由に動かない体を無理やり動かし、バルフレアを腕の中に収めた。 「無理すんなよ」 「大丈夫だ」 バッシュは、項に顔を埋め唇を這わす。 「バルフレア…」 「ん?」 「たまになら…」 何を言おうとしているのか推測がついたバルフレアは、小さく笑い始める。 「そんなに、良かったのか?」 「覚えてない……覚えていないが……」 「が?」 「お前のそんな姿も、見たいと……思った……」 「へぇ〜」 「知らないお前が居るのは、腹立たしい」 「んだ、嫉妬かよ?」 「当然だ」 バッシュの隠しもしない心情に、笑いが大きくなる。 「俺も、あんたのそういう姿が見たくなったらな」 バルフレアの腕が伸び、バッシュの顔を寄せる。 「なぁ、今日は休みでいいだろ?」 唇が重なる。 恋人達の甘い時間が………… 始まらなかった。 「学習しただろ?今後は、俺に無茶はすんなよ」 ベッドで寝ているバッシュを眺め、バルフレアは笑いながら酒を飲んでいた。 -End-
08.03.27 砂海 「くさっ!」と叫びだしたくなるようなバルフレアを目指しました。 おかげで、死にそうになった。<語彙を要求されるんだ………こういう疲れるタイプを書くのは、2度目なのに……いつまでたっても慣れん…orz 相変わらずエロは短めで…っていうか、疲れて先を書く気にもならんかった……orz敗北なり