交差する記憶 W  

  ◆交差する記憶 W   「お父様」 「あぁ、ファムラン。どうしたんだ?」 「お兄様達からお借りした本が読み終わったので、新しい本が欲しいのです。けれども、お兄様達に聞いたら、お父様に選んでもらいなさいって言われました」   体に不似合いな分厚い大きな本を抱えた子供が、不安げに父親を見上げていた。   「この本の続きか?」   少し緊張している顔が、頷く。   「はい」   ファムランの父親、シドルファス・デム・ブナンザは、ファムランが持っている本の表紙を見て、目を見開いていた。まだ11歳の子供が分かる内容ではない。飛空挺に関する一般的な機械構造を述べているもの。当然、高度な知識を前提としているそれは、子供向けではない。   「あの、お父様、出来ればグロセアエンジンの事が詳しく分かる本が欲しいのですが…」 「……お前が今持っている本は、ちゃんと理解しているのか?」   ファムランの持っている本の内容は、自分も読んだから知っている。いくつか、質問をすると、おずおずとだが、間違いのない正解が返ってきた。それではと、複雑な解析用の式を提示し、問題を解かせた。それも全て正解。   「ファムラン、何でそんなに勉強したんだ?」   あまりの衝撃に、ほめる前に浮かんだ疑問を解消する事が先になってしまった。   「お父様は…、毎日、お忙しいですよね?」 「あ…あぁ、そうだな」 「お父様も、長兄様も、随分一緒に、お食事をされていません」 「す、すまん」 「い、いえ…、お仕事がお忙しいのですから、仕方が無いのだと、ポールから言われています」   家に居る執事長のポールが、二番目の息子と、目の前に居る三番目の息子の面倒を見ていると言っていい。なるべく、休日を作り、なんとかして、子供達と一緒にどこかへでも出かけたいと思っているのだが、大量の仕事がそうはさせてくれない。   「だから、私は勉強をする事にしたのです」 「は?」 「早く、お父様と、長兄様のお手伝いをしたいのです」   ファムランを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。   「お、お父様?」 「ファムラン」   ファムランの目の前には、酷く嬉しそうに歪んだ顔。そして、目じりに光るもの。ファムランは、慌ててポケットから、ハンカチーフを取り出し、「ごめんなさい」と言って、それを拭いた。   「なぜ、謝る?」 「私が……、お父様を泣かしてしまったのでしょう?」 「ファムラン。儂は、凄い息子を持って喜んでいるんだぞ」 「…凄い?」 「そうだ。儂は、仕事が忙しくて、お前の面倒をほとんど見てやれなかったのに…ポールに感謝しなくては、いかんな。  いつの間にか、こんなに大きくなって、こんなに、凄くて、優しい子に育っていたのだなぁ」   父親は、嬉しそうにファムランの頭を撫でる。   「私は、凄いのですか?」 「あぁ」 「お父様は、それが嬉しいのですか?」 「そうだ」   不安そうだったファムランの顔が、嬉しそうにニッコリ微笑む。 実の息子が、自分に会う事で、こんなに緊張していたのだと、ようやく気づいた父親は、もう一度ファムランを抱きしめる。   「お父様?」 「すまんな。本当に、すまなかった」 「お父様?」 「今日から、毎日ここに来なさい。今まで学んできた事全てを、お前に教えよう」 「……いい…のですか?」 「もちろんだ」   流石に腕が疲れてきた父親は、ファムラン静かに床に下ろす。   「儂の手伝いをしてくれるのだろう?」 「はい」 「楽しみに待っているぞ」 「はい!」   二人は、心から笑みを浮かべていた。                  ◆◇◆                 それから日々は、ゆっくりと流れていく。 シドの三人の子供達は、それぞれ研究所に自分の場所を持つようになり、三人共尊敬する父親と同じように、飛空挺の研究に従事していた。   「最近、父さんを見ないけど、どこに行ったんだ?」   末っ子は、兄二人の自慢の末っ子で、機工士として誰よりも才能豊かだった。   「父さんは、ヤクト・ディフォールだ。調査に行ったよ」 「ふぅ〜ん」 「寂しいのか?」 「ち、違う」 「兄さん、これ」   ファムランの手にしている図面を、二番目の兄が覗き込んでいた。   「もう、出来たんだ」 「え?…あ!兄さんっ!」   手に持っていた図面は、しっかり二番目の兄の手の中。   「随分と凝った造りだな」 「あ〜、長兄さんまでっ!」   図面を見た瞬間、二人の兄は、直ぐに研究者の目になり、細かいチェックを始める。 その真面目な表情を見たファムランは、諦めて兄達が何を言い出すかを待つしかなかった。   「なぁ、何で開閉翼にしたんだ?」 「グロセアエンジンが6基。この機体には、多すぎではないのか?」 「小さくて小回りの効く、速い機体が造りたかったんだ………あの…、だめかな?」 「いいんじゃないか?なぁ?」 「あぁ。今回も頑張ったな。  即効、試作機を作って、帰って来た父さんを、びっくりさせてやろう」 「うん!」 「じゃぁ、YPA社にこもりに行こうぜ!」   兄達は、末の弟の頭をぐりぐりと撫で回しながら、歩き出す。   「兄さん達!」 「どうした?」 「頭、ぼさぼさ」 「どうせ、これからぐちゃぐちゃになるだろう?」 「そうだけどさ…」   父親に似て、息子達は、作る事を始めたら、何一つ省みない。 軍事の研究を行うドラクロア研究所と、飛空挺を開発するYPA社の繋がりは深い。研究所から新たな図面がひかれると、そのままYPA社にて試験機を作るのが常だった。当然そこの専門人員を借りて作るのだが、小型機でも人間よりもはるかに大きい空飛ぶ機体、長期計画で作るならともかく、短期間で作るとなると人手がいくらあっても足りない。 そして、この兄弟は父親に似て、三人が三人共、現場での作業も好きだという変わり者だった。つまり、これから、作業服を着込んで、突貫作業に入る事になる。 三人は、楽しげに更衣室に向かっていった。                  ◆◇◆                 そんな楽しい日々が、ずっと続くものだと思っていた。 父親と二人の兄と、そして自分の四人が揃えば、どんなモノでも造れる。新しい空を飛ぶ美しいモノを生み出せると思っていた。 ファムランは、それが戦争に使われるもので、その結果それが大量の死を産むものだという事を頭では分かっていたが、それは御伽噺のように遠いもので、まるで実感がわかなかった。 ただ、自分達の夢を、飛空挺という形を取らせていた。そういう意識しかなかった。 そして、それは、とても幸せな日々だった。 今、ファムランは、空を飛ぶ鳥をぼんやりと見ている。自分に翼があったのなら、そんな日に戻れるかもしれないと、ぼんやり思っていた。   「巻き込んでしまって、ごめんなさい」   目の前に綺麗に伸びた長い爪を持った掌、それが魔法を伴って自分の傷を癒していた。   「別に……」   ツィッタ大草原、失われた街道、目の前に広がる草原。その片隅に、ファムランとヴィエラが傷つき、座り込んでいた。 少し前、ヴィエラは、一人で数体のクアールと戦っていた。そこに突然剣を構えたファムランが、ヴィエラを庇うように割って入ってきた。 もう、そのクアールは居ない。二人が、全て倒した。   「俺は……」   言葉が続かない。ファムランは、ただ拳を握り締めるだけ。   「私は、ヴィエラのフラン」 「俺は、……ファムラン」 「助けてもらったお礼に、貴方の事を聞かせて。  通りすがりの私になら、言いやすい事もあるのではないかしら?」   ファムランは、訝しげにフランを見る。   「私を助けに入ってくれた剣は、貴方にまだ馴染んでいない。なぜ剣を?  そして、まるで、死にたいかのような戦い方。泣きそうな瞳」   ファムランの顔が、無様に歪んだ。   「言ってごらんなさい」 「ヴィエラは、ヒュムと関わらないんじゃなかったのか?」 「えぇ、ヴィエラなら。でも私は、もうヴィエラではないの」 「ヴィエラではない?」   目の前の美しい姿は、ヴィエラである長い耳と、しなやかな体、長い爪、ヴィエラそのものだった。   「私は、はるか昔に森を捨てたわ。森を捨てたモノは、もうヴィエラではないのよ」 「捨てた…」 「えぇ、私には、今があるだけ。過去は、森は、ヴィエラは、もう私には無いの」 「辛く……寂しくないのか?」 「そうね、寂しくないと言ったら嘘になるわね。でも、私は森の意志ではなく、私の意志を選んだの。だから辛くはないわ」 「選ぶ……」   ファムランは、フランの言葉を必死な瞳で聞いていた。   「まるで、森に居た頃の私のような瞳をしたヒュム、ファムラン、言ってごらんなさい」   ファムランの瞳から、一滴涙が零れた。   「…数ヶ月前まで、俺と二人の兄さんと、父さんは、研究所で、一緒に飛空挺の研究をしていた。新しい図面をひいて、多くの試作機を作ってきた。それだけが、俺の全てだった。そして、俺は、それがずっと続くと思っていたんだ…」   また、涙が零れる。   「でも……違った…。  ヤクト・ディフォールの調査から帰って来た父さんは、別人になっていた…」 「別人?」 「うん……、父さんが帰ってくるまでに、俺が設計した飛空挺の試作機を作ったんだ。いつもなら、真っ先に見てくれていた……だけど、たぶん…まだ見てもいない……」   ぼたぼたと涙が零れる。   「突然、虚空に向かって話し始めたりするようになって……今までの研究全てを捨てて、破魔石の研究なんか始めた……」 「破魔石?」 「ヴィエラなら、知らないか?」 「えぇ、御伽噺としてなら。ミストを吸収し、蓄える。神より与えられた石ね」 「うん。父さんは、それにかかりっきりだって……」」 「飛空挺は?」   ファムランは、首を横に振る。   「俺は、もう研究所に居ないから…でも、兄さん達から聞いた話だと、見向きもしないって…」 「貴方は、今、何をしているのかしら?」 「……ジャッジになれって…言わ…れて……」   その絶望に満ちた瞳を見て、フランは、ほぼ全てを理解してしまった。 彼にとって、研究をする事が、彼の父親に認められる事が、一緒に仕事をする事が幸せだったのだ。 それを、その父親によって取り上げられ、まったく意に沿わない者に仕立て上げられた。   「貴方は、ジャッジという生活を続けていたいのかしら?」   首が、力無く横に振られる。   「では、貴方はどうしたいの?」 「……どう?」 「えぇ、ジャッジをこのまま続ける?それとも、研究所に戻りたいのかしら?」 「戻りたい……けど、もう俺の居場所は……無い……」 「お兄様達が、居るのでしょう?」 「でも、父さんは、あそこの所長だから……」   戻りたくても、父親が戻してくれない。   「それに、俺は、忙しい父さんを助けたかったんだ。飛空挺を作っている父さんを、助けたかった……っ」   ファムランの顔は、両手に覆われ、その下から嗚咽が漏れる。 その体をフランが、抱きしめた。 身動きできない子供は、未だ、父親を愛し、その仕事を愛していた。 まるで自分のようだと、フランは思う。 未だ森を愛している自分。だが、自分は、外の世界を知ってしまった。その瞬間から、まるで時が止まっているかのような、あの世界に居られなかった。 あそこに自分の居場所は、無かった   「ファムラン」   彼の体が、小さく揺れる。   「私と一緒に来る?」   ファムランの顔が上がり、フランを見た。   「私は、今トレジャーハンターをしているの。今日みたいな事もあるから、仲間を募集中なの」 「トレジャーハンター?」 「えぇ、未知の遺跡を探し、そこにある宝を取ってくるのが仕事」 「モンスターは?」 「沢山出てくるわ」 「一人なのに?」 「えぇ、だから募集中なの」 「俺…強くないよ」 「そうね…でも、そんなものは強くなればいいのよ」 「……そうか」   無意識にファムランが見た先は、帝国のある場所。   「ねぇ、貴方が作った試作機は、今どうなっているのかしら?」   ほんの少し前を懐かしんでいた心は、突然の問いに反応出来なかった。   「もし、誰も必要が無いのなら、一緒に持ってきたらどう?  貴方、メンテナンスは、出来るのでしょう?」 「う、うん」 「試作機がそのままほっておかれたら、どうなるの?」 「……………廃棄される」 「折角作ったものを、廃棄してしまうのは、可哀相でしょう?」   ファムランの胸がツキンと痛んだ。今、自分の持てる知識を全て注ぎ込んだ機体。それを今まで忘れていた事が、信じられなかった。 ファムランの顔があがり、まっすぐフランを見る。   「フラン」 「何?」 「今から、アルケイディスに来れる?」 「えぇ」 「操縦は?」 「教えてもらえるかしら?」 「分かった。準備が整うまで、勉強していて」   ファムランは、ゆっくりと立ち上がった。   「それでいいのね?」 「うん」 「貴方は、貴方の意思でそれを選んだのね?」 「……分からない。でも、俺は、もうあんな重たい鎧を着ていたくないんだ」   座っているフランに、手を差し伸べる。フランはその手をそっと握り、立ち上がった。   「フラン…、俺、飛空挺の事以外何も知らないから、フランと一緒に行けば、知らなくちゃいけない沢山の事を知る事が出来る…」 「何を、知りたいの?」 「…………父さんが、見ているもの」   フランは、再びファムランを抱きしめ自分の顔を隠した。 たぶん、自分は彼の言葉に否定的な表情をしてしまっている。それは見せたくなかった。   「そうね…貴方は知らない事が多いのでしょう。多くの事を知ったら、きっと、新しいものが見えてくるわ」 「そう…か」   ゆっくりとフランの手が解ける。   「行きましょう」 「うん」   二人は、クリスタルに向かって歩き出した。                  ◆◇◆                 「兄さん」 「ファム!」   久しぶり会った末の弟は、今まで見た事も無いほど面代わりしていて、やはりと慌てて駆け寄る。   「兄さん…」   言葉が続かない。言わなければならない事があるのに、自分で決めた事を兄に言っていいものかが、判断つかない。   「作った試作機が廃棄される」   ファムランの顔が、強張った。   「なぁ、ファム。欲しくはないか?」   瞬きしない瞳に、溢れそうなほどの涙が溜まる。   「いいんだぞ」   一滴頬に零れた。それが限界だった。 ファムランは、兄に抱きつき、泣き出した。   「辛かったな。お前は、生粋の機工士だからな」   そこに、突然扉が開く。   「あ、ファムっ!」   入ってきた瞬間ファムランに気づき、慌てて扉を閉めロックする。そして、ファムランに駆け寄った。   「お前、食べてないだろ」   すっかり細くなったファムランを見て、二番目の兄は、長男にしがみ付いて泣いていたファムランを抱き上げ、部屋に置いてある椅子に座らせる。   「食べろ。それから、お前のしたい事を言えよ」 「脅すな。ファムが怯えるだろう」 「俺が、ファムを脅す訳がないだろ?泣かしてたのは、兄さんじゃないか」 「俺が、泣かしたわけじゃない」 「この部屋に、他に誰もいないじゃないか」   少し前と変わらない会話。ようやくファムランの体から力が抜ける。   「ここは、俺が戻ってきて…いい…場所?」 「当然!」 「当たり前だ!」   即効、返ってきた言葉が嬉しい。   「兄さん達、俺……行くよ」 「そうか」 「分かった」 「あいつも、一緒に連れて行こうと思って……」 「そうだな」 「じゃぁ、もう少し綺麗にしておいてやる。一週間ほど待ってろ」   ファムランは、小さく頷く。   「俺…ヴィエラのフランと一緒に、世界をまわってくる。飛空挺の事しか知らないから……もっと…いっぱい、勉強して…く…る」 「頑張れよ」   一番目の兄が、ファムランの頭を撫でる。   「何かあったら、ここに来るんだぞ。メンテナンスだろうが、部品調達だろうが、何でもやるからな」   二番目の兄が、ファムランの手を握り締める。   「うん…うん…あ…りが…と…う…」 「そこでだ」 「うん、そのフランさんに会わせろ」   ファムランの目が瞬く。   「お前を預けるのに、相応しい相手か見極めたい」 「どんな人だ?」   畳み掛けるように言われた。その勢いにファムランは、再び固まる。   「き、綺麗な人」 「そりゃぁヴィエラだ。綺麗だろ」 「初めてヴィエラを見た…から。あんなに綺麗だと、思わなかった……」 「そうか、外見は合格なのだな」 「それで中身は?」   外見とか、中身が、どう自分に関係するかが、分からない。   「ほんの少しの時間一緒に戦っただけで、俺の状態がおかしいって、分かってくれた……でも、それはあの人も同じように苦しんでいたからかもしれない………自分の意思で森から離れたって。もう、ヴィエラじゃなくなった…って…」 「……そうか」 「明日に、ここに呼んでくれ」 「うん」 「ファム、明日から、仕事の後に、こっちへ来れるか?」 「大丈夫だと…思う」 「ここで寝てもいいから来ないか?」 「一緒にやろう、ファム」   一緒に、作業をしようと言っている二人の兄を見て、またファムランの目からぼたぼた涙が零れて来る。   「うん!」   父親の事で頭がいっぱいだった事が凄く恥ずかしい。こんなにも手を伸ばしてくれる兄達を忘れてはいけないものだった。                  ◆◇◆                 「危ない所に行くのだから、装備はちゃんとしないとな」   そう言って、有無も言わさず着ていた服を剥ぎ取られ、今着ている服に着替えさせられた。 白い長袖のブラウス、凝った模様の入った胸当て、脛あての付いた皮のパンツ、皮の靴、部品を入れる皮のポーチが二つ。 なんか、そんな格好に慣れなくて、作業服に着替えたくなる。   「使い方は、覚えたな」   持たされた武器は、剣じゃなく銃。それが嬉しかった。   「あ、俺、一晩考えたんだけどさ。バルフレアってどうだ?」 「は?」 「お前の名前。だって空賊になるんだろ?ファムランじゃ可愛すぎるじゃないか」 「俺…トレジャーハンターになる……んだよね?」   恐る恐る背後に居るフランに顔を向けると、フランも背後を向いていた。肩が震えている。   「シュトラールに乗るのだろう?それなら、空……」 「シュトラール?」   言葉は、ファムランの驚いた声に消える。   「まさか、YPA−GB47じゃ可哀相だと思って、名前をつけてみた。どうだ?」 「シュト…ラール」 「そうだ」 「いかすだろ?」 「うん!」   シュトラールを見上げると、入ってくる日を弾いて光っている。とても綺麗だ。名前に合っている。   「フランさん、ファムをよろしくお願い致します」 「えぇ、もちろん」 「何かあったら、事後でもいいから、連絡してくれよな、ファム」 「うん」   涙が溜まってくる。   「行って来い」 「うん…」 「後は任せておけ!」 「うんっ!」   もう顔が上げられない。   「行きましょう」 「うん…、兄さん達、また…」 「おう!」 「また、会おう!」   扉の外から、慌しげな足音が聞こえてきた。   「ほら、行け!」   ファムランは、頷いて、機体の中に消える。   「また、会いましょう」   フランもそれに続いた。 そして、二人を乗せ、シュトラールは空に浮かぶ。 追いかけてくる機体全てを振り切って、シュトラールは、空の向こうへ消えていった。                  ◆◇◆                 「………また…か」   バルフレアは、部屋の中をゆっくりと見回す。   「俺は、バルフレアだ。バルフレア・ミド・ブナンザ……」   声が震える。   「父親は、シドルファス・デム・ブナンザ……俺に、兄弟なんか居ない……」   いくら自分で言葉を綴っても、夢を無視する事が出来ない。心の中のどこかで、これを知っていると叫んでいる。   「ま、おかげで、詳しい構造が分かった…な」   そう言って、笑い飛ばしたかった。だが、出た声は酷く弱々しい。 頭を一振りして、渋々立ち上がる。 昨日と同じようにパソコンの前に立ち、スイッチを入れた。   「……泣き虫すぎだろ?」   自分の子供の頃を思い出す。 そんなに泣いた覚えは無いと思った瞬間、突然まざまざと蘇る記憶。   「っ?!」   何かが足りなくて、探していたものがあった。 家の中をうろうろして、何かを探していた。 その何かは、自分でも分かっていなかった。 いつも父親に「居ないの?」と泣きながら言っては困らせていた。   「これは……誰の記憶だ?」   探していたのは何?…誰だ? バルフレアの体は、小刻みに震えていた。     to be continued…     08.05.07 砂海
なんつーか、今まで書きたくても、都合?ではしょっていた事を詰め込み……すぎた…orz 唐突に過去に戻っていてすんません。 でも、ファムランあってこそのバルフレアなんで。 や、現在のバルフレアにとっては、自分じゃないんで、あれ…なんですけどねf(^-^;)