交差する記憶  番外・蜜月  

    ◆交差する記憶  番外・蜜月   「あんたの方は、終わったか?」 「あぁ、そこそこはな」 「コーヒ、入ったぜ」   未だ少々ごったがえしている部屋の中で、不思議そうな顔があがった。   「あぁ、あんたは、まだキッチンを見ていないのか。フランが、最低限のもんを揃えてくれていた」 「そうだったのか」   そう言ってバッシュは立ち上がり、伸びをする。 現在、自分の部屋の整理中。 日本を出発してから15時間後。 この家に到着してから、2時間少々。 二人は、部屋の扉を開けた瞬間に目に入った大量のダンボール箱にうんざりし、それを片付ける事を最優先の仕事とした。   「ほらよ」 「あぁ、すまない」   最低限片付いていたのは、これからもほとんど使わないであろうキッチンと、寝室。 最低限の食事摂取と、睡眠不足解消用に、フランが配慮してくれたのだろう。   「フランのセンスは、たいしたものだな」   バッシュは、コーヒーを飲んだ後、しみじみと言う。 二人共社宅だった為、全ての家具は用意されていたもので、身の回りの物と書物以外自分の物はほとんど無かった。 それにも関わらず、出迎えた各自の部屋の家具やカーテンは、それぞれの好みが反映され、すんなり溶け込める空間が用意されていた。   「な、あいつにカード渡しておいて良かっただろ?」   事前に予算を言い、二人共キャッシュカードをフランに渡していた。   「そうだな。ただ……寝室は見たか?」 「あぁ、あれなぁ……」   寝室の家具は良かった。お互い、こんなものだろうと納得はした……したのだが……真っ先に目に入って来た、シーツとベッドカバーと枕カバー。 それを見た瞬間バッシュは、かなり長い時間硬直し、バルフレアは、顔を手で覆い深々とため息をついていた。   「あんた、ベッドサイドのテーブルにあった、カードを見たか?」 「い、いや……」 「A happy time of the honeymoon…だとよ」 「なるほど………そういう事か」 「あぁ、そういう事だ。  普通のものは、クロゼットの中にあったからな、一応安心しとけ」   あからさまに、安堵の息を漏らすバッシュに、バルフレアは笑い出す。   「あんたなら、可愛いなの一言で済ますと思っていたんだがな」 「いや……流石にあのピンクとフリルは……」   寝具が全て、淡い桜色と同色の大量のレースで飾られていた。 それが、女性の部屋なら、バッシュも「可愛いな」の一言で片付けていただろう。 だが、使用するのは、180センチを超える、おっさんという年齢の男が二人。 100歩譲って、バルフレアだけならいいかもしれない。 (バルフレアは綺麗だからな)と、恋する男は、真剣に心の中で頷いていた……が、だ……髭の生えた筋肉質なおっさんとなると、話は別。 バッシュは、自分が寝ているところを想像して、鳥肌が立っていた。   「だが、今夜は、あれで寝るしかないぜ。一晩中やるんだろ?」   既に荷物整理で体力を奪われてしまった。この上、寝具交換までしたくない。 バッシュは、眉間に皺を寄せ黙りこみ、非常に複雑な視線をバルフレアに送った。   「覚えてないのか?」 「……いや…覚えている。覚えてはいるが……あの中で俺があんあん言って、萎えないか?」   そのストレートな台詞に萎えると、速攻バルフレアは心の中でぼやく。   「別に、あんたを抱けるんなら、もっと派手なもんでも構わないぜ」 「そうか?」 「当然」 「じゃぁ、やろう!」   目の前の憂いが無くなったバッシュは、楽しそうにバルフレアの腕を掴み、寝室に進んでいく。 空いている片手で、服を脱ぎながらの作業。   「おいおい、どんだけがっついてんだよ」 「お前は、違うのか?」 「そりゃぁ、直ぐにでも喰いたいが、寝室は目の前だぜ」   バッシュは立ち止まり、バルフレアと視線を合わせる。   「それは、俺の想いが、勝っているからだ」 「はぁ?」 「34年も、やってなかった」 「……あんたなぁ……産まれたばかりの赤ん坊が、出来る訳がないだろ」   折角蜜月を堪能しようと寝室に向かっているのにも関わらず、急激に減っていくバルフレアの気力ゲージ。この会話は危険。雰囲気の改善を自分の体に要求した。 手を伸ばし、バッシュの顔を寄せる。 伸びた舌がバッシュの唇をゆっくりと辿る。 自然と開いたその中から赤い舌が迎え、ピチャと湿った音を立て絡まった。 舌が痺れるぐらい口の中へ導き、それを余すこと無く堪能しようと、舌だけでなく歯を立て、相手を貪る。   「ふ………」   鼻から漏れる甘い音に一層煽られて、彼の言っていたような数十年の飢えを、そしてこの生で無理やり抑えていた飢えをバルフレアは開放する。 それは、本当に貪り尽くすという言葉が似合うような乱暴な行為。 だが、バッシュは、自分に向かってくる激しい意思が嬉しくて、その全てを快楽に変えていく。徐々に足から力が抜けてくる。必死になってしがみ付く。その腕からも力が抜けてくる。体中が震えてくる。   「ふっ………っ…」 「おっと」   バルフレアは、崩れるバッシュを腕で抱きとめ、その勢いのまま肩に担いだ。   「バッシュ…」   脱力プラス呆れ声のバルフレア。 バッシュは、体重をすっかりバルフレアに預け、目の前の背中をベタベタ触っていた。   「この体勢に文句は無いんだな?」 「ようやく自由に触れるんだ。いいだろ?」 「ベッドの中で、いくらでも触れるだろうが…」   バルフレアの口からため息一つ。そして、もう一度担ぎなおしてベッドまで歩き、バッシュを放り投げた。   「バルフレア……」   放り投げられたバッシュは、その体勢のままじぃ〜っと、ベッドカバーを凝視している。   「どうした?」   おもむろにバッシュは、ベッドカバーを取り上げ頭から被った。   「似合うか?」   やはり少々抵抗があるのか、少し睨んだような視線でバルフレアを見上げている。   「いいんじゃねぇの?あんた、あっちでもピンクのフリル付きブラウスを着てただろ?」 「あれは、あれしか無かったんだ。それに、こんなに可愛くはなかったぞ」   バルフレアは、仕事以外の感性は、いまいち合わないとため息。 ため息が多くなってきた。気力を大量に奪われる予感。その前に、それなりの状況にならないとヤバイと判断したバルフレアは、速攻で服を脱ぎ始めた。   「早くしろ」   既に半裸だったバッシュは、ベッドカバーを被ったまま残りを脱ぎ捨て、バルフレアを眺めている。   「ったく、がっつきすぎだ」 「仕方が無い。諦めろ」 「はいよ」   バルフレアは笑いながら、ベッドカバーごとバッシュを抱きしめた。             「バッ……バル……ぁ………っ…」   下の方から聞こえる湿った音は止まらない。 音が漏れる度に、バッシュの体が跳ね、口元から甘い声が零れる。   「バル……フレふぁっ……ぁぁっ」   切なげに何度も呼ばれる声に、ようやくバルフレアが顔をあげた。   「何だ?」 「もっ……も、…い、い…か、ら」   震える手が伸びて、バルフレアの手に触れる。   「入れ、ろ……は、やくっ……っ…」 「だめだ。こんなんじゃ、入らねぇよ」   執拗に、だが丁寧に解されていく蕾は、物欲しげに指を締め付ける。   「いいっ、からっ!……入れ……」 「あんた、自分がバージンだって自覚あるのか?」 「関係、ないっ!……入れろっ!」   もどかしげにバッシュの手が伸びて、動かないバルフレアの手を掴もうとする。それが、硬直したように止まった。   「ふぁっっ!!」   今まで、ぼたぼたと蜜を垂らしたままにされていた熱が、暖かいものに包まれた。   「ちがっ……」   じゅるりと下品な音が下から止むことなくあがる。   「バルっ!!」 「んだよ」 「い、達きたい、じゃ、………無いっ!」   あまりに必死な声音に、バルフレアは口に含んだ熱を離した。   「お前が、欲しいんだっ!」   バルフレアの瞳が一瞬見開かれた後、嬉しそうにゆっくりと口の端があがる。 のそりと動いた体が、バッシュに圧し掛かり、手のひらは彼の頬をゆっくりと撫でた。 二人の視線が絡む。   「バッシュ」   ベッドの上でしか見れない。 いつもの皮肉げな笑みではなく、酷く優しい甘い笑み。それがバッシュの目の前にある。   「いい台詞だな。それだけで達きそうになったぜ」   今までの濃厚な行為が嘘かのように、啄ばむだけの口付けがバッシュに落ちる。   「だが、あんたの要求は聞き入れられないな」 「っ?!」 「俺は、あんたと気持ちよくなりたいんでね。どっちか一方じゃダメなんだよ」   バッシュの見開いた目は、そのまま細まり、暖かい笑みに変わる。   「なら、舌を寄越せ」 「仰せのとおりに」   その言葉を紡いだ口から、赤い舌が現れる。力の入らない腕を必死に伸ばし、バッシュはそれを口に含んだ。 逸る気持ちをバルフレアの言葉が抑え込んでしまった。酷く甘い言葉で抑えられた気持ちは、唯一与えられた彼の体の一部を貪ろうとする。力無い腕は、彼の頭を必死になって引き寄せる。舌は、もっと彼の中へと伸びようとする。彼の呼吸さえも欲しくて、唇を必死になって押し付けていた。   「ふっ………っぁ……」   それが、同じ意思を持っていたはずの自分の体によって、外された。   「はっ……ぁ……」   下半身に集まった熱から、溢れた蜜が自分の体にぼたぼたと落ちてくるのを感じる。   「はっ………はっ、く−−−ぅ−−−−−−あぁっ!」   自分の中で暴れているバルフレアの指に、翻弄される。   「あ、は………く、ううぅっ………っっ」 「あんたが、強請ったんだろ」   耳朶を舐められて、体が一層粟立つ。   「ほら、俺の舌はここだぜ」   誘われるように声の方に顔を向け、舌を伸ばした。   「んんっ…ぐっ……っ…」   それが、バルフレアの口腔に含まれる。ねっとりと舌が絡まる度に背中に痺れが走る。ゴボリと音がしそうなほど、バッシュの熱から大量の蜜が溢れた。 だが、それでも、バルフレアの指は止まらない。 バッシュの望む通り、強い刺激を与えずに、徐々に指を増やし広げていく。 だが、ここまで高められた熱は、弱い刺激さえも強いものに変えていく。バッシュは、最後の刺激が得られないもどかしさに、このままで達きたくないという感情を無視して腰を揺らし、足を淫らに広げていた。   「ん、ふあぁっ」   殊更ゆっくりと、バルフレアの指がバッシュの中から出て行き、バルフレアの体がほんの少しバッシュから離れた。 既に透明じゃなくなった蜜が、バッシュの熱からゴポリと溢れる。 そして、突然開放された口が、酸素を求めて開き、口の端から溜まった涎を零した。   「バッシュ」   潤んだ瞳が声に視線を合わせ、荒い呼吸の中、口の動きだけで「バルフレア」と紡ぐ。   「いい子で待っていたな」   まるで子供にするかのように、バルフレアの唇がバッシュの額に落ちる。   「そのまま、力、抜いておけよ」   返事の代わりにバッシュは、両手を伸ばしバルフレアを引き寄せ、同じように額に唇を落とし、そのまま彼の首筋に顔を埋めた。 それと同時に、指とは比較にならない質量のものがバッシュの中に入ってきた。   「はっ、あ、あっ、あっ、あ…っ!!」   目を閉じているのにも関わらず、バッシュの目の前が真っ白になる。バッシュの内腿に力が入り、足の指が畳まれる。 ずっと高められ続けた体にとって、その刺激は堪えようが無かった。   「くっ、ぅ……」 「っ………くっ」   バッシュは、熱を自分の腹とバルフレアの体に撒き散らしながら、バルフレアにしがみ付いていた。   「バ、ル……」 「ん、だよ、これ以上締め付けんな」   バルフレアは、初めて受け入れる体と、達く事による締め付けから受ける痛みと戦っていた。   「力、抜けよ」 「あ、あぁ」   バッシュの手がバルフレアの頬に重なる。   「バルフレア、だ」 「ん?」 「お前だな」   蕩ける様な笑みが、バルフレアの前にある。   「俺以外の誰が、あんたを抱くんだよ」   バッシュはクスリと笑い、「そうだな」と呟く。   「笑うな。絞まる」 「やっとお前と一緒になれらたんだぞ。無理だ」 「煩い。こちとら必死なんだよ」 「出せば楽になるぞ」 「そうしたくても、動けないんだが?」 「うまく、絞めてやろうか?」   手馴れた熟女に色っぽく言われたのなら、それもいいなと少しは思ったかもしれない。だが、目元が濡れていても、頬が上気していても、口元がいつもより赤く腫れ、濡れ染まっていても、100円のジュースを奢ろうか?と同じレベルの口調で、ぽやぽやぁ〜とした爽やかな笑みが付いている相手では、出るものも出ない。いや、無理。ついでに、締める前に緩めろと、心の中で罵倒。 再び訪れた雰囲気崩壊の危機に、バルフレアは「もういい」と重低音で呟き、自分の痛みを一切無視して強引に腰を動かし始めた。   「っ…ちょ、あ、バッぁ、ぁぁっ」 「あんたは、いい声を聞かせてくれればいいんだよ」   未だきつく狭い場所。だがそこはバルフレアの熱に慣れ、からみつくように奥へと誘いはじめている。 部屋の中は、抑えもしないバッシュの甘い声と、淫らな湿った音でいっぱいになった。               「大丈夫か?」   ぼんやりとバッシュの瞳が開く。 数度の交わりの後、バッシュは意識を飛ばしていた。   「ん?……あ、俺はどれぐらい?」 「ほんの数分だ」   バルフレアの言葉に、安堵の息が漏れる。 そして、腕がゆっくりとバルフレアの首筋に回った。   「ん?」 「もっと」 「はぁ?」 「もっと、だ」   すっかり外は白んでいる。一晩中という要望は、しっかりとクリア済み。バルフレアの片眉があがる。   「あんた、自分がついさっきまでバージンだったって分かってるのか?無茶だ」 「いいや、大丈夫だ。それとも、30を過ぎたお前には、もう無理か?」 「あ"ぁ〜?んな訳ないだろっ!」 「だったら、もっと、だ!」   バルフレアの口元から盛大なため息が漏れる。   「………ったく、磨り減っても知らないぞ」 「安心しろ。俺は丈夫に出来ている。  早くしろ、バルフレア」   眼下には、自分が愛した穏やかな笑み。   「バッシュ」   一晩中淫らな行為をした後とは思えないほど、可愛い口付け。   「さ〜て、頑張りますかね」 「おう、頑張れ」   これから、甘い時間の延長をするはずの掛け声がこれ。 バルフレアは苦笑しながら。 バッシュは嬉しそうに笑いながら。 そして、二人の体が、再び重なった。     -いい加減に終われや-       08.08.17 砂海
くそっ、ついつい気力を奪う言葉に、力が入……ダメじゃん、それじゃぁ艶っぽくならないじゃん! とりあえず、日付計算から(;^-^)/時差はー8時間。 夕方日本から発って、もう一度同じ日の夜9時頃にイギリスに到着しています。 バルフレアとバッシュは、飛行機の中でも熟睡しちゃった上に、一晩中えっちで、時差ぼけに悩まされる、えっち後でございました……orz 今回、頑張って、途中挫折はしないようとにしたはずなんですが………ごめん………また、修行してきます(T^T)