交差する記憶 ]U  

    ◆交差する記憶 ]U   「新しく、ジャッジとして採用された者の資料です」   バッシュは、手渡された書類を見ている。季節外れの新参者。だが、身元保証をしているのは、ブナンザ家。そこに意味があるのだろうと、周りの者を下がらせ、新参者を部屋に入れた。   「……何をしている?」 「ジャッジ?」   目の前に現れたのは、ジャッジの鎧を纏ったバルフレア。だが、装飾品は一切無く、前髪を下ろし、眼鏡をかけていた。   「あんたが掴める情報を、俺が掴めない、なんて事思ってないよなぁ?」 「思っては、いないが…」 「どうせ、あんたの事だから、ダルマスカの為に、最前線で戦うんだろ?」 「当然だ」   その言葉を聞いて、バルフレアは楽しそうに笑う。   「俺は、あんたの背中で銃を振り回すだけさ。気にすんな」 「気にする……」 「だが、俺を断れないぜ。だろ?」   バッシュは、どんな事をしてでも、バルフレアを連れて行きたくは無かった。 だが、彼の力量は、間違い無いものだと知っている。 彼の意思は、自分の意思でさえも曲げられないという事も知っている。 そして、今、彼が目の前に居る事を喜んでいる自分が居る。 自然と、ため息が漏れた。   「分かったようだな」   見透かされている事が、腹立たしかったが、それより、彼と一緒にまた戦える事を喜んでいる自分が、もっと腹立たしかった。   「フランは?」 「あいつの希望で、別行動だ。  あれ以来、魔力だけをひたすら上げていたから、かなりの戦力だったんだが…ふられた」 「魔力をあげていた?」 「あぁ、シュトラールを取り戻してから、弓も、剣も持たずに、ありとあらゆる魔法に手をつけていた。ったく、何を考えてるんだか」   バルフレアの声音に、バッシュも頷く。フランは、考えも無しに行動は取らない。   「ま、戦場に立つ頃には、顔を出すだろ」 「そうだな」   二人共、それを当然の事実だと思っていた。 だが、戦いが始まっても、フランは顔を見せる事は無かった。    ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・   「あの時も思ったんだが、アルケイディアより、ロザリアの方が性質悪くないか?」 「そうだな」   バルフレアとバッシュの二人は、西ダルマスカ砂漠に立っていた。 周囲には、ダルマスカとアルケイディアの兵士達が陣取り、上空では、戦艦が控えている。   「ヴェインは、状況判断が的確だったな。逃げ道をちゃぁんと塞いでいた」 「確かに、未だダルマスカは復興途中だし、アルケイディアも戦後のごたごたが収まってはいなかったのだが…」   二人は、苦笑を浮かべている。 停戦の呼びかけは、ラーサーとアーシェで行なわれた。それを知らないロザリアでは、無い。両者が調印した以上、ダルマスカへ進軍したら、アルケイディアは、間違いなく出てくる。ある意味、アーシェ達がラーサーを担ぎ上げたと言っていい。だからこそ、出てこざるえない。 それを狙ったという事は、分かる。 だが、その結果の見通しが甘かったと言わざる得ない。 あの長い戦いの中で、ジャッジ・マスター数人を失い、若い国王により、国が乱れていたアルケイディアは、まとまってしまった。敵国という共通の相手が現れ、結束しない国は無い。特にロザリアは、長い事睨みあっていた相手。国は一丸となって、ロザリアに向かった。   「打ち所を間違えてるよなぁ」 「ヴェインを見習って欲しいものだな」 「あんたが、それを言うのかよ」 「実体験させてもらったからな。彼の手は、見事だった」 「確かに…な」   ロザリア内で、未だ暗躍しているだろうアルシドに対し、同情をしてしまいそうになる。もし、彼が先頭に立ったのであれば、また違う状況になっていただろう。   「さぁて、どうする?」   既に、何度も行われた小競り合いでは、アルケイディアが優勢だったと言っていい。だが、小競り合い程度で、敵が黙って帰るとも、思えない。   「これで、終わらせる」 「そうだな」   ダルマスカまで、ほんの少し。 容易に戦火が、飛び火する場所。 だが、二人は、ダルマスカを無傷のままで、戦争を終わらせるつもりだった。   「もう、アルシドを待つ段階じゃない…」 「あぁ、ここまで、来てしまった以上はな」 「徹底的に叩くしかないのだな…」 「馬鹿には、ちゃんと分からせとけよ。一々相手をするのも疲れるだろ?」 「そうだ…な」   バッシュは、小競り合いの中で、相手が引くのを待っていた。そうすれば、流れる血は少ない。それは、敵の血では無く、味方の血。これ以上、ダルマスカの血を流したくなかった。 だが、敵は、引く様子を一切見せない。 こちらが手を抜いているのを、いいことに、優勢だと信じている。 バッシュは、前線に立たない、頭だけで戦争を行っている能無しに、腹を立てていた。 出来る事なら、単身乗り込み、馬鹿どもを叩き切りたいとさえ思っている。だが、今、この場を離れる訳には、いかない。自然、バッシュの口から歯軋りが漏れていた。   「仕方が無いだろ」 「だが…」 「もっと、早く分かっていれば、俺が暗殺でもしてきたんだがな」 「バルフレア!」 「俺は、ダルマスカも、アルケイディアも、どうなろうと構わないんだよ。  ただ、俺の手の中に居るヤツらだけは、残ってもらわないと、困る。特に、あんたに、だ。ったく、勝手に最前線に行って、勝手に死んでそうで…たまらないぜ。  だから、そんな気持ちを味わう前に、俺が動く方が、数億倍マシなんだよ」 「それで、お前が捕まったら、俺はどうしたらいいっ!」   声は怒鳴っているが、バッシュの顔は、うっすら赤くなっていた。今まで、体の交わりは幾度もあった。欲しいという言葉も、何度も聞いている。だが、こうまで直接的に、率直に、言葉にされたのは、初めてだった。 こんな時なのに、不謹慎な事に、嬉しいとまで、思ってしまっている。 だからと言って、彼の行動力を十分に理解している自分は、それを肯定する訳にはいかない。   「あんたなぁ…」 「何だっ!」 「この場で、そんな顔をするのは、反則だろ」 「は?」 「嫌がらせか?ちっ…いつものやつかよ…ったく、こんな人目がある場所じゃぁ、キスどころか、押し倒す事も出来ないだろ?」 「バッ……」   今度こそ、バッシュは真っ赤になって絶句した。   「さぁて、来たようだぜ」   自分達の背後から、砂塵を巻き上げ纏う、巨大な金属の塊が、近づいてきていた。   「間に合わぬかと思ったが」 「ブナンザ家を見くびんなよ」   ラーサーの為に、一切動かなかったブナンザ家が、唯一自主的に動いたのが、壊れたバハムートの修理だった。あのまま、ダルマスカ王宮の傍に、朽ちたままにしておくのは迷惑だろうと、当初アルケイディアに自力で帰ってもらう為の修理を行っていた。 ブナンザ家の二人の兄にとっては、父親の作品。どんな工夫がされているか、存分に解体しつつ、修理を行っていた。 それが、突然、今日の為に改造が加わった。 可愛い可愛い弟のお願いは、至上命令。 はりぼてレベルの威嚇用として、今、空中要塞バハムートは、ロザリア軍に向かっていた。   「どの程度復活させた?」 「まぁ、見てのお楽しみだろ」   その言葉が終わらないうちに、バハムートの砲台に光が集まり始める。   「あれをっ?!!」 「一発が限度だろ」   まだ、敵側に動きは無い。 当然、味方の戦艦が、光を隠している。   「被害が大きいな…」 「あの時だって、大勢が死んだぜ」 「あぁ…」   戦いの無い、手を取り合う世界を望んだ。それにも関わらず、それを得る為に、多くの戦いがあり、そして今も戦っている。今の主が求む世界は困難が多いなと、バッシュはため息をついた。   「ま、これを最後にすればいいだろ?」 「そうだな」   バッシュは、一息吐いて気持ちを切り替え、通信機にスイッチを入れる。   「戦艦全てを叩いてくれ。地上は私が全て抑える」 『殲滅後は、どうする?』 「撤退してくれて構わない」 『了解した』   今、敵陣に居る艦隊の中の者を全て叩けば、ロザリアは敵じゃなくなると、アルシドからの最後の連絡。 その時点で、アルシドとラーサーの声明が発表されるのだろう。 バルフレアも、通信機のスイッチを入れた。   「落とすんだろ?」 『勿体無い。解析出来ないぐらい、木っ端微塵さ』   ドラクロア研究所最高峰の頭脳が作った要塞。その小さな部品でさえも、最高機密品だった。   「そうか。なら、自爆のタイミングは、任せる。くれぐれも、俺達の上に落とすなよ」 『任しとけ』   今、バハムートは、リモートで動いている。操作している主は、バハムートの背後に居る、シヴァの中。ブナンザ兄弟は、とことんバハムートを改造していた。   「それじゃぁ、行くとしますかね」 「あぁ」 「発射だ」 『おう!』   バハムートの前に居た戦艦が、離れる。 その瞬間に激しい光が空を流れ、一瞬にして、ロザリア陣営の数艦を消し去った。 残骸が、落ちていく。 あからさまに、敵陣の混乱が見えた。   「行くぞ!」   バッシュの掛け声の後、ダルマスカとアルケイディア軍が一斉に動いた。   普段は静かな砂漠、モンスターだけが徘徊している地。 その光景が激変していた。 戦艦の機械音。 砂塵を巻き上げ走るチョコボとそれに騎乗する者。 武器を構え走る徒歩の者。 怒号と金属音が響き渡る。 地上では、既に敵味方が入り乱れ、戦闘に入っていた。 空中では、地上とは違い、大型火気が放つ火花が咲いていた。 戦艦は、入り乱れる戦場に火を放つ事は出来ない。ただ、敵の戦艦だけを照準に合わせ、火を吐く。 それを避けれなかった機体が、地上に破片を落とす。 その破片を避けつつ、地上の戦いも激しさを増して行く。 突き進む者。 倒れていく者。 音は止まない。 地上で戦っていた者にとって、決して短いとは言えない時間が流れていく。   「くそっ…まだかよ」   チョコボに騎乗しているバルフレアには、上空の様子を見る余裕は無い。 矢継ぎ早に銃を構え、敵を打ち抜く。   「守りきれっ!時間が味方するっ!」   同じくチョコボに騎乗しているバッシュは、味方に向かい激を飛ばし、文字通り自ずから道を切り開く。 戦艦を纏めているのは、第10局のザルガバース。反乱を起しそうな貴族達への牽制を見ていたバッシュは、揺ぎ無い信頼を置いていた。頭上は一切見ない。 そこに、朗々とした声が裁く一面に響いた。   「ロザリア評議会は、停戦を決定しました。戦争は終わりましたよ」   ロザリア陣営の奥に居た戦艦から声が響いていた。   「戦争は終わりました。どうか、武器を下げてください!」   アーシェの声が戦場に響く。 砲火が止んでいく。   「もう戦う必要は無いのです。どうか、手を取り合う未来を信じて下さい」   ラーサーの声は、悲鳴のようだった。 空中は静かになったが、地上の動きは止まっていない。 アルケイディアとダルマスカ軍は止まりたいのだが、敵が武器を掲げている以上止まれない。 そう、地上に居るロザリアの者は、納得していなかった。声明をあげたのは、マルガラス家の者。平和を唱え、己が主と敵対していた者の一人。その者に仕える必要は無いと、未だ武器を握り締めている。たとえ、己の主を乗せた戦艦は、消えてしまったとしても、忠誠は変らない。   「バッシュ!全員下がらせろ!大至急、撤退だ!!」   バルフレアは、真正面を睨みながら怒鳴る。 ヒュムのバルフレアにでさえ分かる、ミストの乱流。 召還獣が現れる現象。   「もたせてくれっ!」   バッシュの言葉に、バルフレアの返答は無い。バルフレアは、敵陣の中央に居る者と同じように、己の召還獣に対し、呼びかけていた。   (ちっ、切り札を持ってたか……)   アーシェとの旅では、バルフレアとバッシュは、前衛で戦っていた。その為、召還獣は、背後でサポートをする者に持たせ、二人はライセンスを受け取らなかった。 そのバルフレアが、唯一受け取ったライセンスがあった。ファムフリート。バルフレアは、それに呼びかけながら、敵陣を見据えていた。 そこには、砂塵によってミストの乱れが、はっきり見えていた。その巨大な砂塵は、召還獣の強靭さを感じさせる。   (まずいな……)   決して、ファムフリートは弱くない。だが、この巨大な砂塵に耐えうるレベルかは、分からない。 バルフレアは、ひたすら召還の為の魔法を身のうちから練り上げ続ける。   「竜王バハムート」   固唾を呑んだ両陣営の中、静かに言葉が響く。 ロザリア陣営の真ん中で、竜王と呼ばれるに相応しい、巨大な黒い竜が地響きと共に現れた。   「暗闇の雲ファムフリート」   そして、それに対峙するのは、巨大な壺を抱えた魔人。 陽炎の立ち昇る空中で、金色にきらめいていた。 誰も動く者は居ない。あまりに巨大な召還獣に、全ての者が目を奪われていた。いや、召還した者二人は、お互いの獣を冷静に値踏みしていた。 先に動いたのは、ロザリアの者。   「フレア!」   バハムートの口に集まった炎を見て、「蒼の砲撃だ」と、バルフレアは瞬時に命令を下す。 バルフレアの額に汗が浮いていた。黒魔法フレア、無属性の攻撃。ファムフリートの弱点炎では無いが、無傷ではいられないだろう。 そう考えた瞬間、ファムフリートの口から、攻撃を受けた為の咆哮があがる。 自然、バルフレアの口から舌打ちが漏れた。 フレア自体は、黒魔法を覚えれば威力は劣るものの召還獣でなくても、唱えられる魔法。だとすれば、召還獣特有の術があるはず。それに、ファムフリートが耐えられるかどうかが分からない。 さっさと大海嘯を指示するかと思った瞬間、バルフレアの視界の隅に黒いものが横切った。それが何か分かった時、バルフレアはようやく口元を上げた。 ザルガバースの腕は確かだったようで、出番の無かった最新鋭の廃棄一歩手前の要塞は未だ空に浮かんでいた。 バルフレアは、敵に気取られないよう、通信機のスイッチを入れる。   「召還者の真上で落としてくれ」   口を動かさずに、小さな声で告げる。   『ファムっ!この近さでは、お前まで巻き込まれる!』 「俺を誰だと思ってるんだ?兄貴、俺は、この物語の主人公なんだぜ。絶対生きて帰ってくるさ」 『絶対だな』 「任せとけ」 『分かった。絶対だぞっ!』 「あぁ」   目標地点まで、あと少し。 それまでバレずに持たせればいいと、バルフレアは、召還獣に蒼の砲撃を連打させる。   「バルフレア!」   バッシュが、荒い息のまま走りこんできた。   「ちっ…なんで戻ってくんだよ」 「お前は、また、あの時と同じ事を繰り返すのかっ!」   召還獣の咆哮よりも、バッシュの悲痛な声が、バルフレアの耳朶を叩く。   「置いていくなっ!」 「バッシュ………悪かった」   戦場である事をバルフレアは、一瞬忘れる。あの時、自分は家族に囲まれて、次の行動に出るのに忙しかった。だが、彼は、たった一人、弟として、自由に動けない立場で、居続けなければならなかった。それに、ようやく気がついた。   「俺がファムフリートに最後の命令を下したら、出来るだけここから離れて体を守れよ」 「あぁ!」   ほんの少しの間、バルフレアとバッシュの視線が絡む。だが、それは直ぐに離れた。 バルフレアは、敵の召還士を見ながら、視界の端で要塞バハムートを見続ける。ファムフリートに指示を出しながら、タイミングを見定める。 要塞バハムートが、敵の召還士と重なった。   「落とせっ!!!!」 「メガフレア!!」   召還士の声と、バルフレアの声が重なる。敵の攻撃が一瞬遅れた事に、バルフレアは笑みを浮かべながら、「ファムフリート、大海嘯!」と続けて叫ぶ。そして、そのままバッシュを従え、ファムフリートの背後に向かって、走った。 一瞬の出来事。 まるで、綱が切れた操り人形のように、巨大艇が落ちる。そして、轟音と共に、爆発する音、召還獣バハムートが発したメガフレア、召還獣ファムフリートがもたらした巨大な水の咆哮が重なる。 バルフレアとバッシュの体は、重なるように地面に叩きつけられた。 戦艦バハムートがあげる炎は、メガフレアの炎と交わり、戦艦を中心として、その炎の半径を広げていく。 だが、ファムフリートが生み出す巨大な水流は、ダルマスカとアルケイディアの陣形を守った。   「くっそ……バッ…シュ」 「バル……フレア」   確かにファムフリートの水流は、尋常ではない炎からは、二人も守った。だが、メガフレアと戦艦の上げる爆発の強さは、近くに居る者ほど衝撃を与えていた。   「アスラっ!」   バルフレアが馴染みの声に顔をあげた時、二人の体は白銀の光に包まれていた。     to be continued…     08.07.28 砂海
しまった……今回一切召還獣を使ってないから、どんな戦いをするのかが、分からないf(^-^;) やってみたら、余計分からないf(^-^;)ヤズマット戦を選んだのが悪かったか?これ、操作できひんの??