KIREI番外・三人のあり方  

  「おっさん、元気か?」    そう言って入ってきた男を、チラリと見た男は、片眉を上げる。   「お前さん、まだ銃を持ってるのか?剣を使えと言ったはずだが」 「あのなぁ、俺は剣が苦手だと、あの時も言っただろ?だいたい、最初の質問がそれか?他に聞く事は、あるんじゃないのか?」    ここは、ロザリア帝国内にある、中規模な街。その片隅に、ランディスから流れてきた武器屋のヨーストが、店を構えていた。  双子が剣を手に入れてから二日後。三人は、朝早くにロザリアに来ていた。   「ここで、剣以外に何の話がある?」 「………おっさん……、俺が、バルフレアだって、分かって言ってるんだよな?」 「お前さんは、お前さんだろ?あの時より、筋肉が少々付いたようだが、まったく骨格も変わっとらん」    武器屋にとって、武器を作る者にとって、その武器を持つ手や体に視線が行くものであって、他はどうでもいいらしい。   「ほらよ」    ヨーストは、バルフレアに向かって無造作に物を投げた。   「ととっ……何だ?」    手にあったのは、細身の短剣よりも長い剣。かといって、片手剣というには、短い。   「お前さんの戦い方には、これが一番合うだろ」    バルフレアは、手の中にある剣をまじまじと見る。殺傷力は大剣に比べたら低そうだが、軽くて短い分、回数で補える。素早さを武器にしているバルフレアにとって、非常に適した武器だった。   「代金は?」    バルフレアは苦笑して尋ねる。今、両手で持っているだけなのに、しっくりと馴染んでいるのが、信じられない。会ったのは、あの時一回のみ。それで、ここまで仕上げてくるかと、感心してしまった。   「お前さんは、あの時、どれだけの代金を置いて行ったと思っている。剣三本と箱、数回の旅費代が出せたぞ。  それよりも、バッシュ、ノア、お前達は、上半身脱いで、そこに立て」    バルフレアはもう用無しとばかりに、背後の双子を見ている。  バッシュは、一瞬目を見開いたが、ニッコリ笑って、脱ぎながらヨートスの前に進み出る。ノアは、相変わらずだなと思いながら、店の隅へ行き、ゆっくりと胸当てとシャツを脱いだ。   「バッシュ……お前は変わらんな……掌を見せろ」    あまりの変わらない行動に、目を瞬きながらも、ヨーストは、バッシュの両手と両腕、そして、上半身を丹念に確認をする。  最後にバッシュの上腕二頭筋を叩き、「少し、偏りが出来ている…いい剣を使ってないな」と、ぶつぶつと呟きながら、ノアに視線を移した。   「ん?」    ヨートスが、不満げにノアの体を見つめる。   「ノア……お前は、今まで、どんな武器を持っていた?」 「両端に刃の付いた槍ですが、二つに分離出来、その時には、二刀で戦っていました」    深々と溜息が漏れた。   「お前の事だから、ずっと片手剣で戦うと思っていたのだが……その武器は、今持っているか?」 「この剣に変えたので、あれは、もう、使っていませんが…」 「もったいないな…」    再びじーーーーと、ノアの体を見た後、ノアの腰に下げていた剣をとりあげる。   「ヨ、ヨートスさんっ?!」 「どちらにせよ、修正が必要だからな。ほら、バッシュも、剣をよこせ」    バッシュは、笑って腰の剣をヨートスに渡す。   「お、俺は、これがいいんですがっ!」    「黙ってろ」と言いながら、ヨートスは視線をバルフレアに移す。「追加料金ぐらい持っているな?」。  バルフレアは、「あぁ、任せてくれ。あんたの好きなように。請求も存分にしてくれて構わないぜ」と笑いながら答える。   「これから、仕事に入る。三日後に来い」    そう言ったヨートスは、もう三人を見ていない。剣を二振り抱え、さっさと仕事場だと思う方へ姿を消してしまった。  バッシュは、相変わらずだなぁと思いながら、服を着て、ノアは、困ったように、バルフレアを見ていた。   「安心しろ。お前にとって一番の獲物が出てくる。あの人は、そういう人だっただろ?」 「だ、だが……」 「あの片手剣以上のものが出てくるはずだ。安心して預けておけ」    「追加料金は、俺が……」と言いかけたノアに、それも気にするなと、バルフレアは、服を渡す。   「ほら、行くぞ。ここで、うろうろしていたら、おっさんに殺されるぞ」    バルフレアは、そう笑いながら言って、店の外に出て、「準備中」の札を扉に下げた。                    ブリズは、いつものように、慣れた街を、のんびり歩いていた。だが、仕事はスリ。のんびり歩いているように見えても、実際は、周囲に気を配っている。その瞳が、巨大な団体を映した。  やけに洒落た若い男を中心に、同じ顔が二つ。その片割れは、見知った所ではないぐらい知っている顔。もう片方は、兄弟なのだろう。髪型は違うが、同じ顔をしている。  ブリズは、そこまで瞬時に判断し、不自然さの一切無い動作で、方向転換。今までと同じように、のんびり歩き出した。その巨大な三人が向かっていた方向とは、まったくの正反対の方向へ。  そして、5歩も歩かないうちに、首根っこを捕まえられた。   「……っ?!!」    捕まえた相手を振り返り見て、ブリズは、目を丸くする。自分へ向かってくる一切の気配を感じなかった。空気の乱れも気づかなかった。スリをする上で、相手に気づかれないよう、近づき、獲物を取り、その後周囲に紛れる為に、空気の流れを乱さない動きを習熟していた。そして、今まで、周囲の空気の乱れに関し、自分ほど鋭い者は、ほとんど居ないと言っていいぐらいの実績を築き上げていた。  それが、覆される。  今の状況が掴めない。   「お前、誰だ?」 「あんたこそ、誰だよ!ってか、離せよ!いきなり何しやがるんだっ!!」    相手の隙を伺って逃げ出そうにも、一向に隙が伺えない。   「お前、俺達を見て、方向転換したよな?これは、どういう意味だ?」 「あー?何言ってんだよ!ったく、訳分からねぇ事言ってんなよっ!」    バルフレアは、ダルマスカとアルケイディアが、自分を捕まえようと必死になっている事を知ってから、ロザリアに来る時でさえも、普段以上に周囲への気配りをするようになっていた。気配を読む事にブリズ以上に長けているバルフレアは、彼の不自然な動きを十分察知していた。  そのバルフレアの背中を、小さく叩く手が一つ。   「あー?」 「あのだな……俺の知り合いだ」 「これが、か?」    バッシュの声に諦めたように、ブリズが大人しくなる。   「ったく、知り合いと一緒に歩いているからって、折角遠慮したのによー、なんだよ、これ!」 「下ろしてやってくれないか?」    バルフレアは、バッシュの顔をまじまじと見る。そして、自分の腕が捕まえている子供を、値踏みするように見る。目が細まった。   「お前…もしかして、先輩か?」 「はぁ?何だそれ?」    ブリズの返答に答えず、バルフレアは、バッシュの方へ振り返る。  既に、バッシュとブリズは、事前打ち合わせをしている。何かあった時の為のブリズ保身用。まさか、出会う事は、無いと思うが、こういう事は、きっちりとスジを通しておいた方がいいというブリズの必死の主張が通った結果。  そのおかげで、バッシュは既に一回、命拾いをしている。ただし、バルフレアの勘は、普通じゃない事を知っているだけに、どこまで命拾いしたか不明だったが………バッシュの背中に汗が浮く。命拾いしていない事をはっきりと知る。とりあえず、9の真実1つの嘘というのが、一番だというブリズの言葉に習い、バルフレアの質問に、困ったように頷く。   「へぇ〜」    バルフレアの纏う空気が、静まりかえる。片眉をあげ、楽しそうに唇が笑っている。だが、それに騙されるような人間は、ここに居なかった。捕まえられたブリズを筆頭に、ノアもバッシュも固まった。   「んじゃ、お前が世話になった礼でもするか。  食事に行くぞ。美味しい店を紹介してやる」    口調、非常に楽しげ。だが、二人は、まるで牢獄へ行くかのように、足取り重くバルフレアについて行った。ブリズは、バルフレアの腕に抱えられたまま。上げた顔は、恨めしげにバッシュを見上げていた。                    そして、こじんまりとしたレストランの片隅に四人は座っていた。可愛らしい丸テーブルに四人。バルフレアの正面にブリズ。両脇に双子。レストランの雰囲気は、気さくで、暖かい空気に包まれている。だが、四人の周囲には、微妙な緊張感が漂っていて、家庭的な雰囲気ぶち壊し。  既に注文は、終わっている。  目の前に食事が、いくつか並んでしまった。  だが、会話らしい会話は、一切無し。  ノアは、いやぁんな予感がしまくりなんで、とりあえず、余計な事を言わず、しらんぷりを決め込む。バッシュは、困ったなーと思っているけど、それこそノア以上に、余計な事を言いそうな気がして、ボロを出すまいと口を閉ざしている。  ブリズが、しみじみと溜息をついた。   「ん?」 「あんたさぁ、いい大人だろ?こんな空気作っといて、礼になると思ってんのかよ」    バルフレアは、面白そうに瞬きをして、ブリズを見返す。   「俺は、ファム。お前は?」    見知らぬ者に言う本名は無い。当然、偽名。三人共それが分かっているので、ここまで名前で呼びかけるようなミスは一切していない。   「ブリズ」 「歳は?」 「今度は、尋問かぁ?16」 「そんなに若いのか?」 「はぁ?」    初めてブリズは、目を見開き、バルフレアを見る。今まで、年齢未満に見られる事があっても、年齢をこえる方向に見られたのは、初めて。   「てっきり、18、9ぐらいだと思っていたぜ。なにせ、ほんの少し前まで一緒だったこそ泥は、落ち着きのない、考えなしの台詞を吐くやつで、それで17とか言ってたぜ。お前は、随分としっかりしてる」 「そんなの、誰かに甘やかされていたからに決まってるだろ。俺は、そんな余裕なんか無かったの」 「なるほど。それで、あの所作か」 「そうそう。だけど、あんたは、気づいただろ?………こんなとこで、食事してていいのかぁ?どっからか、逃げてんじゃねぇの?」    疑わしげなブリズの視線に、今までバルフレアが返していた無機質な視線が消え、興味深そうな視線が返ってきていた。   「心から、ヴァンをお前の弟子に押し付けたいぜ……」    しみじみと言うバルフレアの台詞に、バッシュが、小さく笑う。なるほどと、納得をする。   「確かに逃げているが、それこそ、お前の動きを気づく程度の気配りは出来てるだろ?安心しろ、先輩には、迷惑をかけないさ」 「その先輩っての、やめてくれないかなぁ?ってか、俺、あんたに先輩って言われる理由ないんだけど?」 「お前、男同士の恋愛は長いんだろ?俺も、今回が初めてだからな、先輩」    たちの悪い笑みが、バルフレアの顔に浮かんでいる。少し改善された空気が、徐々に元通り。   「ったく、空気悪くすんなって。だいたい、おっさんに対しても失礼だろ?」 「そうか?」    バルフレアの表情は、面白そうにブリズを見ている。   「あんたなぁ。そんな空気作るぐらいなら、おっさんを、ちゃんと躾とけよ」    意味が分からないと目を眇めたが、バルフレアは黙って話しを続きを待つ。   「おっさんが、ここで何をしてんのか知ってるよな?」 「いいや、知らないぜ」 「何でっ?!あんた…達だよなぁ?三人……恋人同士なんだろ?」 「凄いな。当たりだ」    バルフレアは、ブリズの洞察力に感心する。話せば話すほど、とても、16には見えない。   「雰囲気見てれば、誰でも分かるだろ」    そうなのかと、バッシュとノアは、どんな雰囲気だったんだと、首を傾げる。二人は、普通の友達同士か、仲間同士にしか見えないとばかり思っていた。   「おっさん達……えっと、そっちのおっさんは、ノアの兄弟なんだよな?」 「あぁ…弟のシドだ」    なるほど、ノアという名前を使っているのかと、バルフレアとノアは、表情に出さずに、記憶する。そして、バルフレアは、ノアの選んだ偽名に、心の中で苦笑した。   「あんた達三人が歩いている時に交わす視線が甘かったの。手を繋いでないのが、不思議なぐらいだったぞ」    ノアとバッシュは、目を瞬いてバルフレアを見る。そして、なるほどと、頷いた。バルフレアが傍に居ると、自然と見惚れている。それが、出ていたのだろう。  二人は同時に、気をつけようと、心する。   「そんな仲なのに、何で、おっさんのやってる事を知らないんだ?」 「俺達は、それぞれ立場が違う。それに、知る必要も無いだろ?」 「何で?何かあったら助けられないじゃん」 「助けが必要なら、言ってくるだろう?……が、助けたくても、そんな事は言ってくれないしな」    「なぁ」と言いながら、バルフレアは、バッシュとノアをゆっくりと見る。   「何で?普通恋人同士なら、お互いの事知りたいもんじゃないの?」 「それは、男女の恋人同士だろ?」    ブリズが、目をぱちくりと大きくする。   「俺達は、男同士だからな。一緒の仕事をやってるなら、手を貸すだろうが、まったく違う仕事をしている以上邪魔をするもんじゃない。だろ?それに、仕事は、自力でするもんだ」    もう一つ目を瞬いて、「そういうもん?」とブリズは独り言のような声を出す。   「俺も、兄さんが何をやっているのか知らない。助けたいと思う事はあるが、兄さんは絶対言わないのを知っているし、俺も、兄さんや、ファムに言うつもりは無い。  君だって、自分の仕事は、自分でやるだろう?それに、プライドを持っているはずだ。一人で立つ事が出来るからこそ、男であって、大人だと思うが、君は違うのか?」    ノアの淡々とした言葉に、それだからこそ、ブリズは納得した。   「そうか……うん!」    ブリズは、自分が随分と女々しい事を考えていたという事が、自分の仕事に例えてくれたおかげで、すんなりと納得が出来た。自分の仕事を好きな相手に手伝ってもらおうなんて、一回も考えた事は無い。あれは、自分の仕事だ。自分だけの仕事だ。そして、自分の腕は、誰にも負けないと自負さえしている。差し伸べて欲しい手は、仕事をしていない時。そういう事だ。   「うん。分かった。んじゃ、まぁ、かいつまんで話すからな。  おっさんが、ここに居る時は、俺達の仲間が居る所に宿泊してんだよ。んで、まぁ、シャワーを浴びるだろ?」    そうブリズが言った瞬間、バルフレアとノアの表情が、「あー」という感じに理解と、呆れをのせる。   「…分かってんだな?」 「……何度言っても聞きやしなかったな」 「兄さん……どこへ行っても兄さんのままか……」    バルフレアは手を伸ばし、ブリズの肩を叩いた。   「頼んだ」 「ちょ、ちょっと待てーーっ!!そんなの、恋人だとか、兄弟がやればいいだろっ!何で俺なんだよっ!」 「家で、裸で歩かれても、別に構わないから、言い様が無い。  お前、かなりの世話焼きだろ?安心して、こいつを預けてやる」 「こんなおっきいおっさん、預けられても困るんだって!ってか、おっさん、何とか言えや!仮にも恋人にこんな事言われて笑ってるなーー!!」    ブリズとバルフレアの会話が、険悪な方向へ行かなくて良かったという思いが一番にあるバッシュは、とりあえず、安心感から、ほのぼの?とした光景を堪能する方向へ行ってしまっていた。当然笑み付き。   「二人が仲良くしてくれて良かった」    何も考えずに浮かんだ言葉が口から出る。それが、二人には分かったから、お互い心の中で頭を抱えた。そういう台詞が出る場面じゃないだろう!と心の中で叫んだのは、ブリズ。相変わらず、仕事以外は、天然街道ましっぐらだと、溜息交じりの言葉を心の中で呟いたのはバルフレア。   「ったく……おっさん、おっさんの事だぞ。分かってる?ってか、あんた最低だぞ」 「俺は、最低なのか?女性が居る時には、ちゃんと服を着て……」    ブリズの掌が横に振られて、バッシュの言葉を遮る。   「女の人が居る時に服を着るのは、もう常識以前の話だっ!ったく、おっさんってば、自分のイメージを知らなさすぎだって!」 「俺のイメージか?」 「そう!仕事している時は、ものすっごく頭は回るし、腕は立つし、カッコイイんだよ」 「だから、女性の前では……」 「ちがぁぁう!!俺って例が居るのに、何で男を除外するかなー!確かに女好きの方が多いけどさ、俺みたいな嗜好のやつも居ないって訳じゃないどころか、結構いるんだからな!そいつらにとって目の毒なんだよ!!」    バッシュは、目を数回瞬いた後、「…俺を抱きたいのか?」とポツリと呟く。   「………おっさん」    ブリズは、頭を抱え、状況が思い浮かべられたバルフレアとノアは、溜息をついた。   「俺は、カッコイイって言ったよな?」 「あ、あぁ…」 「カッコイイやつを押し倒してどうするんだよ!俺やあんたと同じ方!」 「俺に……抱かれたいのか?」    バッシュにとって、男を押し倒す方向の考えは、カケラも無い。押し倒されるのでさえ、バルフレア以外除外である。彼にとって性交とは、基本男女という固定観念がしっかり根付いていた。   「それなのに、背中にデカデカとキスマーク付けてるしー。みんなガックリきててる上に止め刺してるんだぞ。  どうせ、付けたのあんただろ?あれだけでも止めてくれねぇ?非常に目の毒な上に、士気が下がるんだよ」    バッシュは、背中のキスマークに一切気づいていませんでしたという様子で、そうなのか?とノアに聞く始末。実は、ノアの背中を見ても、蚊に刺されたのか?という判断をしていたという、体たらく。  気づいていたノアは、兄さん…と言ったまま言葉続かず。小さく頷いて意思表示をした。  その様子を見ていたブリズは、再び溜息。   「どうした?」    止める気はさらさら無いバルフレアは、楽しそうにブリズを眺めている。   「止める気は無いってか…」 「あれは、おまじないだからな」 「おまじない?」 「あぁ、丁度心臓の裏側だっただろ?俺は、こいつ等の傍に付いてやれないからな。まぁ、弾除けの呪いだ」    ブリズは、鮮やかな笑みを浮かべている男をまじまじと見る。二人の恋人へ向ける視線は、甘く優しい。  綺麗な男だが、何でおっさんが抱かれているか分からなかったが、その表情を見て、今まで話していた会話を聞いて、なんとなく分かる。この二人限定で、巨大な包容力があるらしい。そんな雰囲気を感じた。  まぁ、それはいいと、ブリズは、バルフレアから視線を外して、ノアを見る。大量の溜息が漏れた。   「どうした?」 「いや…、おっさんに会った時に、俺は、誓ったんだけど……外見で人を判断はしないって………」    そう言って、もう一度溜息をつく。   「もしかして、シドの事か?」    勘のいいバルフレアは、笑いながらブリズを見ている。   「可愛いだろ?」 「……うん」    バルフレアのキスマークの理由を聞いてから、ノアの顔は、真っ赤に染まり、下を向いてしまっている。   「さっきまでの、淡々と話して、常識がありそうな落ち着いたおっさんは、どこへ行ったんだ?」 「それは、お前の好みか?」 「まぁ、そんなとこ」 「このシドの方が可愛くて、楽しいんだがな」    バルフレアの艶やかな視線がノアを、楽しそうに見ている。それを知っているから、ノアは、顔を上げられない。   「確かに可愛く見えるってのが、すっげぇ不思議なんだけど……でも、俺の好みは、さっきまでの人なんだけどー」    バルフレアは、肘をついてのんびりとブリズを眺め続ける。   「なぁ、お前、父親の職業は?」 「騎士だったみたい。俺のかーちゃんは、娼婦やっててさ。んで、どんなとーちゃんだったか、嫌ってほど聞かされたんだ。まぁ、本当に、それが本当どうか分からないけどさ、うん、それがとうちゃんって事になってる」    過去系で話すその内容に、ノアは、僅かに眉間に皺がよる。だが、バルフレアは変わらない。   「んで、そいつは、金色の短髪で、がたいのいい騎士だったと」 「当たりー」 「お前は、何で騎士にならないんだ?」 「へ?」    ブリズの目が、まん丸になる。   「こいつらの父親は、騎士だったそうだ。母親から聞かされた父親を尊敬していたから、騎士になったらしいぜ。  俺の父親は機工士で、まぁ、俺も父親を見習って一応は機工士になったな」    お前は、それを望まないのか?と、視線だけでバルフレアは問う。ヴァンになら、もっとちゃんと話さないと伝わらないが、目の前の子供とも思えない子供なら、十分に伝わるだろうと判断した。  その判断通り、ブリズは理解の色を目に宿している。だが、最初騎士になるという事に、子供らしく頬を上気させていたのに、今は、困ったような笑みを浮かべていた。   「腕を心配する必要はないはずだよな?……だとしたら、足抜けが大変なのか?それとも、惚れた相手が、仲間にいるとかか?」    どっちだとばかりに、バルフレアはブリズを眺めている。  あまりの聡い質問に、ブリズは、頭を抱える。何で、知っていると問いたい。出合って、こんな短時間で、どうして、その二択を選ぶんだと問いたい。答える人は、当然居ない。   「抜ける理由が、恋を探す為なら、誰も何も言わないよ」    そんなお国柄。仕事よりも愛が大切。  その為に、転職をするなら、全員が背中を押してくれる、そんな泥棒組合。だが、当然その存在をバラせば、制裁が待っている。最終ラインの線引きはしっかりとある。   「なら、惚れた相手がいると。何で、伝えない?そういうお国柄だろう?」    ブリズは、恨めしそうにバルフレアを上目で睨みつける。   「ん〜?言ってみろよ」 「相手は、めちゃめちゃ、女好きなんだよ」 「俺もそうだったぜ。ついでに、こいつらも、ストレートだったはずだがな」    双子は、揃って頷く。   「う”〜〜〜」    ブリズは、唸りながら三人をじぃぃぃっと見つめる。  双子は、騎士あがりだろう。目の前の男は、間違いなく、自分に近い職業。だが、出自は悪い所か、かなりいい家柄の出だろう。所作が綺麗すぎる。そんな三人。まるで接点は、無さそうに見える。だが、三人がかもし出す雰囲気は、長い付き合いに感じられた。そんなストレートな三人が、どうやってくっついたと問い詰めたい。出来ないけど。   「そいつは、お前の真剣な言葉を、茶化すようなヤツなのか?」 「う”〜〜〜〜」    ブリズは、首を横に振りながら唸り続ける。  きっと真剣な言葉を返してくれるだろう。そんな事は、知っている。   「お前が居づらくなるような態度を取るようなヤツでもないんだろ?」 「う”〜〜〜しないっ!けどっ!!」    俺が居づらい…と、ぼそぼそとブリズは、言葉を続ける。   「その時こそ、新しい恋に進めばいいだろ?そんな歳から、中途半端な事をしてると、時間がもったいないぜ」    ブリズは、驚いたように目を瞬く。   「それにな、時間がたてば変わるものなんて、いくらでもあるだろ」 「気持ちも…か?」 「それもだな」    バルフレアは、心の中でだけ、気持ちが消える事もあれば、増す事もあるよなぁ…と、付け加える。流石に声には出さない。  ブリズは、暫し考えるような表情を浮かべた後、困ったように頷く。「そうだよな…」と、自分に納得させるように呟いた。   「まぁ、頑張って乗っかってみな、先輩」    そこに、突然、三度空気が激変。三人は、慌ててバルフレアを見た。   「まぁ、だいたいの真相は、分かっているつもりだが、それを許せるほど、俺は大人じゃないんでね。  少しは、お前も荒波ってやつにもまれてきな」    まったくもって、最初の状況が変わって無い事を三人はようやく知る。ノアは、必死になって俯き、食べかけの付け合せをつつきだす。バッシュは、今口を開いたらブリズに怒られるとばかりに、慌てて飲み物に口をつける。そして、ブリズは、この納得のいかない状況にぶちきれた。   「俺は、十分知ってるっ!」 「そうかぁ?」 「だいたい、どんな真相を想像したんだか知らないけどなぁ、まずやる事は、おっさんを裸で歩かせない事だろっ!」    年長者に向かって、非常に失礼なものいい。だが、ブリズにとって、そんな事は、構っていられない。   「とりあえず、部屋着を買おうなノォア」    ノアは、心の中で、何で兄さんは、俺の名前を使ったんだーと叫び中。非常に心臓に悪い呼び声。バッシュは自分の方にバルフレアの視線が向いていたおかげで、自分の名前だとなんとか理解し「あ、あぁ」と情け無い返事をする。一応、心の中で真剣に、部屋着を着る癖をつけなければと、決意する。   「買っただけじゃだめだろっ!着るように、躾ろって」 「それは、お前の役目だ。俺はお前と同じような職業だぜ?無料働きはしないぜ。  今の助言で、それぐらいは、してもらいたいもんだな。なぁ、先輩」 「助言って……う”〜〜分かったよ。やってやりゃぁいいんだろっ!でも、俺が抜けた後はしらねぇからなっ!」    バルフレアはニヤニヤ笑いながら、「んだよ、今から振られる予定か?こいつらみたいに、頭を使ってそいつの目に留まるぐらいの事をしてみろよ」と楽しげに言う。  ブリズは、そんなバルフレアを睨みつけるが、睨んだ所で、どこ吹く風程度にしか思ってない相手に、一切効果無し。そして、腹は立つが、目の前の男の言う事に一理はあると、仕方が無いとばかりに溜息をついた。   「おっさん、この後、どうすんの?」 「あ?俺か?」 「そうそう、来るの?」 「あぁ、そのつもりだ」 「だったら、食べた後は、寝巻き買いに行くからなっ!部屋着なんか買ったら、それで絶対外へ行くっ!」    その通りとばかりに、ノアが頷く。   「じゃぁ、俺達は、適当に買出しして帰るか」    ノアは、バルフレアの言葉に笑みを浮かべた。   「さてと、さっさと、食べるとしますかね」    会話重視で、あまり進んでいなかった食事を、四人は一斉に食べ始めた。                   「なんだ?この不細工な武器は?」 「俺が支給したんじゃないぜ」    あれから、三日後。仕事をしているノアの代わりに、バルフレアは、ノアが今まで使っていた武器を背負ってロザリアへ来ていた。   「こんな武器を使うから、体が歪むんだ」 「そうなのか?」 「お前さんは、あんな派手な印を付けていて、どうして気づかないんだ?」    バルフレアは、絶句する。先日来た時、服を脱ぐとは思わなかったので、しっかり付けてしまったキスマーク。だが、自分の署名をしている訳でもないので、しらんぷりをしていた。   「やってる最中に、しっかり確認もしやがれ」    そう言って、呆然としているバルフレアにノアの新しい武器をつきつける。   「二刀流か?」    ヨーストのあからさまに仄めかしている事は、一切スルーして、渡された二本の剣を眺める。   「その方が、ノアには、扱いやすいだろう」    そう言ったヨーストは、不細工な武器をしげしげ眺めた後、後ろに放り投げた。   「ちょ、それ、持って帰るつもりなんだが」 「持って帰ったら、使いたくなるだろう。俺が新しい武器に作り変える。こいつにとっても、それが一番だ」 「あんたなぁ、あんたが作った武器を一回でも持ってしまったやつが、他の武器を使いたくなる訳ないだろうが」    ヨーストは、面白そうに片眉をあげる。   「まさか、この俺が、剣を持つとは思わなかったぜ」 「ほぉ。そりゃぁ、作ったかいがあるってもんだな。バッシュのは、持って帰らないのか?」 「あぁ、それは、本人が取りにくるだろう。あいつは、最近、こっちに居るからな」    バルフレアは、ヨーストの前に代金を置く。   「これで、足りるか?」    ヨーストはチラリと並べられた品々を見て、「また、多い」と一言。   「あんたの、腕に対する報酬としちゃぁ、少ない方だろ?」 「若造が偉そうな口を叩くじゃないわ。ほら帰れ」    ヨーストが、しっしとばかりに手を振る。バルフレアは笑いながら、店の外に出た。   「ん?」    視線の先には、がたいの良い黒髪短髪の40近い感じの男とブリズ。ブリズは、その男にぺったりくっついていた。  バルフレアの口元が、楽しそうにあがる。   「これで、お邪魔虫の排除と、躾係を確保したな」    バルフレアは、一切空気を動かさずに、向きを変え、楽しそうに歩き出した。    

 

10.08.30 砂海
山皆無。オチも皆無。エロもナッシング。 ただただ、日常。 まぁ、そんなんが、結構好きだったりするんで、すんませんですm(__)m   んで、ブリズのお相手ですが、ブリズが住んでいる地域の泥棒組合の親分。 親分がブリズを拾って、スリの手ほどきをしています。 実は親分、ブリズが、そういう恋愛をし始めてから、女癖が悪くなります。 もう、対抗しちゃってるんですねwwwww んで、ブリズの好みを知ってるから、自分金髪じゃないしー、剣士でもないしーと、諦めてたりしたんですねぇ。 あっはっは…のっかられて、ラッキー<をいをい   そんな話があるんですが…まぁ、オリキャラの話を詳しくやるのはどうだろ?って事で、割愛しましたm(__)m