KIREI・一夜を過ごす為の長い道のり・バッシュ  

   バッシュは、頭に金髪と傷を隠す黒いバンダナを巻いた簡単な変装をし、ロザリアに居た。  バルフレアに教えてもらったクリスタルから数時間の村に一日滞在してから、そこより二日かけ、今は、かなり大きな街の酒場に居座っている。そこで数日の間、人々が語る多くの事に耳を傾けていた。たまには、仕官しようとしている傭兵のふりをし、ロザリア帝国や、その中枢を握っている家々の事について話を聞いたりもした。   (当然といえば当然だが、街での情報収集には限界があるな…)    バッシュは、グラスを傾け、残った酒を一気に煽る。ため息をそれで飲み込んだ。  一般的な話は、十分に手に入ったと思う。だが、肝心な事については、傭兵のふりをしている以上こちらから話を振る訳にもいかず、相手もしない。意図的にしないのではなく、話すネタがここまで降りてこないのだろう。  バッシュが、情報収集をするならば、それなりの家の用心棒や私設軍に入るのが近道なのだが、ある程度顔を知られているだろうバッシュにとって、非常にまずい。隠しようの無い剣の腕は、自分の素性を簡単に推測されてしまう。逃げ出せなくなる可能性が大きすぎた。   (剣以外の特技があれば、良かったのだが……)    料理は、野戦料理のみ。木々の剪定は、剣でなら出来るかもしれないという未経験者。執事なら、過去の記憶を穿り返せばなんとか5分ぐらいはもつかもしれないレベル。   (俺は……使えんな……)    情報の宝庫として、下働きの噂話が一番欲しいのだが、その下働きに入りたくとも、資質が無さすぎた。  だいたい、どう見ても剣士にしか見えない自分が、下働きを申し出る事事態、怪しすぎる。   (まいったな……)    空になったグラスを置き、テーブルの端に金を置く。   (別の方法を考えなくてはな…)    バッシュは、考え込みながら店を出た。そのせいで、ずっと自分を見ていた視線に、とうとう気づく事は無かった。     ◆KIREI・一夜を過ごす為の長い道のり・バッシュ     「なー、おっさん」    突然腕を掴まれたバッシュは、慌ててその声の主を見た。いや、見下ろした。そこには、ヴァンよりもずっと若いと分かる、あどけない顔があった。   「……迷子か?」 「違うって」    げらげら笑い出した子供に、バッシュは、訝しげにその笑い顔を見る。   「あ、悪い。俺、迷子に見える?」 「いや………」 「俺、こんな顔でも、16歳になってるんだけど?子供扱いすんなよなー」 「16歳っ?!」    バッシュは絶句した。どう見ても、目の前の子供は、10歳前後にしか見えなかった。自分の胸より低い身長、華奢な体、見上げてくる大きな緑の丸い瞳、どこをどう見て、16歳に見えるんだ?と、バッシュは、心の中で、ぼやいていた。   「ったく、この外見でどれだけ苦労してきたか。俺は、自分で食い扶持を稼いでる。だから、大人だ!」    バッシュの口元がほころぶ。自分にも、覚えのある感情。己の力で稼いでいる以上、見くびられるのは、腹立たしい。非常に分かりやすい言葉。だが、それは大人へ向かう途中にある子供の台詞。自分も、大人から、そういう目で見られていたのだろうと思うと、酷くくすぐったかった。   「分かった。それで、君は、俺に何の用だ?」 「おっさん、この国の事を知りたいんだろ?」    バッシュは、笑みを浮かべたまま、この後、何を言われても対応出来るよう心を平坦にする。それは、将軍時代、個人ではなく、軍を指揮する者として動く為の対処法だった。   「おっさん、どこの家の傭兵になるか、決めかねてるんだろ?」 「そうだ」 「だけど、こんなとこじゃ、たいした話が聞けない。だろう?」 「そうだな」 「だから、交換条件。なー、おっさん、俺を買わない?」    相手が具体的に何を要求するかは、分からない。もしかしたら何かの罠にはまるのかもしれない。だが、バッシュは、この申し出に頷いた。   「俺、ブリズって言うんだ。行こう!」    満面の笑みを浮かべた子供は、バッシュの掌をしっかり握り締め、歩き出した。               「ここは…?」    ブリズに連れられて入った部屋には、大きなベッドだけ。とても話し合う場所には見えない。   「おっさん、俺の交換条件飲むんだろ?」 「あぁ」 「んじゃ、脱いで」    そう言いながらブリズは、脱ぎ始めている。  バッシュは、ここに来てようやく、交換条件が何なのか理解した。   「ちょ、ちょっと、待ってくれ」 「んだよ〜」 「君は、その……体を売っているのか?」 「ううん、売った事は無い。本業は、スリ…かなぁ?」 「じゃ、じゃぁ、なぜ?」 「おっさん、俺のすっげぇ好みなの。一目ぼれってやつー、信じる?  だから、おっさんが、何を欲しがっているのか必死になって観察してたんだ」 「観察されてたのか……」 「おう!だって、惚れた相手の事は、全部知りたいだろ?」    バッシュは、情けなくなってきた。いくら、人の話に意識を向けていたとしても、素人に見られて気づかなかったとは、鈍すぎる。   「あー、おっさんって強いだろ?だから、嫌われちゃ嫌だなぁって思って、俺、必死になって気配消していたからさー、気づかなくて当然!」 「君は……優秀なスリなのだな」 「へへっ、当然だろ」    嬉しそうに笑う姿は、本当にあどけなくて、あけすけなベッドと半裸の姿に似合わない。  バッシュは、ため息ついた顔を掌で覆った。   「すまない。残念だが、俺は、君の交換条件をのめない」 「え?おっさん、ものすっごいストレート?  おっさん、軍経験者だろ?そこで、男同士とか無かったのか?あそこ、もんのすげぇ風紀が乱れてるって聞いたんだけどなぁ」 「俺が居た所も、それなりに乱れてはいたが、どちらかと言うと、娼館に行く方に乱れていたな」 「まじかよー」 「あぁ。俺は、男の経験は一切無い。  それにな、ブリズ、俺は、抱かれるのが希望だぞ」    ブリズの目が、まん丸に見開かれた。   「本気で言ってんの?」 「あぁ。相手は、一人限定だがな」 「嘘だろ〜、俺の鑑定眼鈍りまくりだー。もんのすっげぇ好みすぎたせい?うっわぁ〜すげぇショック〜〜」    ブリズは、がっくりと肩を落とし、情け無い顔で独り言を続ける。少し涙目。「酒場で見ていた、渋い横顔は、どこいっちゃんだよぉ〜」とか、そんな言葉に困った柔らかい笑みを返すバッシュに、「その笑い方は、体にあってないーーー」と、止まらない。   「そうだな、君の交換条件を飲む訳にはいかんのだが、君に一つ頼みがある。それは、金で解決出来ないだろうか?」 「んだよー、言ってみろよー」    ブリズは、自棄になった風情で、ベッドにころんと横たわり、恨みがましげにバッシュを見上げた。   「今、経験が一切無いと言っただろう?受け入れ方を俺に教えてくれないだろうか?」    やけにほんわりとした笑みを浮かべているバッシュの顔に、訝しげな視線が突き刺さる。   「君は、俺の先輩だろう?後輩に教えてくれてもいいんじゃないか?」    その穏やかな口調で言われた言葉に、ブリズは、がっくりと布団にうつ伏した。   「俺、外見だけで、好みを判断するの、もう止める。おっさん、すげぇ反則。何だそれ?あんた、変だぞ!」 「そうか?」 「だって、普通、取引するなら、国の話だと思うじゃん。何だよそれー」 「あぁ、それよりも、切羽詰っている方が、こっちという訳だ。君が教えてくれると、ものすごい助かる。  国の方は、自分でなんとかするから安心してくれ」 「安心?何で俺が安心すんの?ってか、安心?本当かぁ?ったくも〜、こんな立派な筋肉つけて、髭を生やしていて、どうして、あんた、そうなんだよー。  あーーーーーもーーーーーーー、分かった!別の交換条件出す!  おっさんの名前とキスを一つ。それから、俺を抱っこして今夜は寝る事。その時に、余計な事は一切言うなよ。黙って抱っこだ!  ったく、だーーーーーーっ、俺の夢を返せ〜!」    バッシュは外見とは違い、あさって方向の不可思議な思考回路を持っていると、短時間で無理やり理解させられたブリズは、じたばたとベッドの上であばれる。心の中では、俺のめくるめく一夜の夢を返せ〜と怒鳴っていた。   「分かった。それなら、君の条件をのめる。  それで、脱げばいいんだな?」    バッシュは、のほほんとした笑みをブリスに向ける。  ブリスは、脱げよとばかりに、手を振った。声を出す元気は、無かった。               「体の中が変な感じだな」    風呂場から出てきたバッシュの第一声。言葉さえ聞かなければ、普通の風呂上りにしか見えない。  その台詞を言ったバッシュは、柔らかい笑みを浮かべている。  バッシュは、ブリズに指示された通り、シャワーを利用し、体内を洗浄する術を事細かに教わった。ブリズは、「絶対無茶しちゃダメだからな」と言って、シャワー室を出て、ベッドの上でバッシュが出てくるのを待っていた。   「ちゃんと言った通りに、やったのかよ」 「あぁ。言われた通りに、やったぞ」    その声に顔をあげたブリスは、再び布団に顔をうずめる。   「おっ、さん…あんたには、羞恥心ってものが無いのかよ」 「ん?男同士で、何を恥じる事があるんだ?だいたい、さっきは、お前の方が先に脱いだだろう?」    バッシュは、少し濡れた体を拭きながらブリスの傍に座る。  ブリズは、その座った振動に対して、さっきと今じゃ状況が全然違うし、こんな色気皆無の雰囲気の中じゃ、気恥ずかしいだろ〜と、心の中で言葉をぐだぐだ並べる。   「普通、前ぐらいは、隠さない?」 「お前の今までの相手は、そうだったのか?お前の好みは良く分からんが、俺みたいな体を持っている者なら、そこそこ軍の経験者だろう?あそこは、羞恥心なんか持っていたら、勤まらんぞ」 「そうなのか?」 「あぁ、普段の宿舎は、下っ端だと4人部屋だ。一応部屋に風呂とトイレが付いてはいたが、仕切りなんぞ無いし、誰かがトイレに居ようと、風呂に入るのを止めたりなんかしないな」 「……でもさぁ……そこを出たら、普通の人間に戻れよなー。俺、確かに、おっさんみたいな、筋肉の付いた体が好きだけど、たぶん軍あがりのヤツも居たはずだけどさ……おっさんみたいなのなんか居なかったぞ。  だいたい、おっさんさー、好きな相手にも、そんななのか?そんな雰囲気で、どうやって、色っぽい雰囲気を作るんだよ」 「無理か?」    そこで、何で聞き返してくるんだーと、声にならない声で、ブリズは叫んだ。  無理に決まってるだろーーーとも、叫んだ。声になってなかったけど。   「おっ、さん…」 「何だ?」 「相手は、一人、限定、って、言ってた、けど」 「あぁ、俺が唯一抱かれてもいいと思った相手だ」 「………おっさん、それって、惚れてるんだよな?」 「そうだな」 「相手もそうなのか?」 「男でもいいから抱きたいと思ってくれているといいが…どうだろう。愛情があるのを疑った事は無いのだがな」    ブリスは、ダメだと、思った。こんな、おっさんが、惚れた相手と一夜を共にするなんて、カケラも思えない。  勢い良く起き上がって、バッシュを見つめる。   「どうした?」 「おっさん!」 「ん?」    のほほんとした笑みを向けられても、怯まない。   「俺の知ってる事、全部教える!おっさん、付いてこいよ!!」    握りこぶしを高々と掲げ、バッシュに向かって、物凄い勢いでまくし立てる。  バッシュは、その勢いなんか気づいた様子も無く「よろしくたのむ」と頭を下げた。                ブリスは、本日二度目の同じ感想を頭に浮かべていた。見た目で判断してはいけません。そんな言葉が、頭の中で点灯中。   「……っ………くぅ………は、……」    目の前に横たわっているのは、さっきナンパしたおっさん。  筋肉もりもりな体に立派な髭が付いたおっさん。  それが受け入れる側だと聞いた時には、頭の中で「嘘だろーーー」という言葉が舞っていたが、今、目の前で、四つん這いになり、受け入れる場所を自分の指で広げ、快楽に喘ぎ、目を潤ませている姿は、「この目の前の、ものすげぇ色っぽいおっさん……誰?」としか形容出来ないもので、それこそ、さっき以上のフォントサイズで、ブリズの頭の中に、「嘘だろーーー!!」という言葉が乱舞していた。   「もう一本増やして」    ジェルで濡れそぼった指が一本増えても、問題無いかのように、スルリと入っていく。   「きつい?」 「ん…んん………っ、あ、あああああぁっ?!」    ブリズの問いに首を振る事で答えようとしていたバッシュの口から、あからさまな嬌声が漏れ、上半身から力が抜け体が崩れる。湿った音をたて、指が抜ける。   「横向いて。その体勢じゃ、何も出来ないよ」    バッシュは、のろのろと、体の向きを変える。今の衝撃に近い快楽が、散らせない。自分の体の中に、こんな場所があるとも思いもよらなかった。   「いい所が、あったんだろ?」    あられない声が出そうで、バッシュは、頷く事だけで返答する。   「おっさん、やり辛いからって、前から指をつっこむのは、止めといた方がいいよ。さっきのいい所に指が届きすぎる。  一人で、抜くだけならいいけど、今は違うだろ」 「わ、かった……」    前に動かしかけた腕を再び後ろへ回す。何の抵抗も無く二本の指が入っていく。   「このジェルさ、こんな宿に大抵常備してあるヤツなんだけど、少量の媚薬が入ってるから、痛みは少ないはずなんだけど、大丈夫?」 「媚、薬…?」 「そうそう、楽しもうって奴らが来る宿だからな。そーゆーのが、あるのが普通。  んで、痛い?」 「い、や………だ、い丈夫…だ……」 「おっさん、そーゆの嫌いそうだったけど、まさか、俺が手伝う訳にいかないだろ?だから、ごめん」 「……どう、いう……意味?」 「おっさんの惚れた相手に恨まれたくないからー。普通、惚れた相手に、自分以外のヤツを触らせないもんだろ?それとも、おっさんの惚れた相手って、あまり嫉妬しない?」    惚れた相手が居る以上、ブリズは、バッシュに手を出すのは憚られた。先ほどからずっと触れているのは、熱を集め、蜜を零す器官だけ。べっとりとジェルを塗りつけられた熱は、早く媚薬を吸収させ、背後の違和感より、快楽を拾えるようにした。心の中では、「こんなおっさんが惚れている相手なんだったら、少しは、俺の苦労を汲んでくれーー」と、会った事も無い相手に向かって叫んでいたりもする。   「どう、……だろう、な……分か、らん……」 「一応、今回の事は、黙ってた方がいいと思うぞ。誰だって、惚れた相手の初めてを見たいって」 「そう……か…?」    バッシュは、媚薬で酷く敏感になった体に引きずられそうになる心を必死になって抑え、指を動かす事だけに意識を向けていた。  だが、その行為自体が、快楽を呼び起こし、指の動きが鈍くなる。その度に、「もっと広げて」とブリズに注意されていた。   「本当だったら、道具を使えば、もっと楽かもしれないけどなー、それを嫌がるヤツも居るからさ、頑張れ、おっさん」 「……俺は……別、に……」 「おっさんじゃないって、あんたの惚れた相手が嫌がるかもって言ってんの。  うん、もう一本増やして」    うまく動かない指を必死になって動かし、バッシュは、自分の中に指を沈める。   「く…………つぅ……」    バッシュは、ずっと己の体に冷静な視線を感じていた。その視線の持ち主は、子供。それが、媚薬で敏感になった体を煽っていく。開いているはずの目が捕らえているものを、霞ませていく。だが、その視線の持ち主が子供だからこそ、必死になってバッシュは、自分の理性を留めようとしていた。唇をかみ締める。乱暴に指を動かす。だが、口から絶え間なく零れているのは、呼吸では無く、甘い吐息。下半身から訴えてくるものは、甘い痺れ。   「おっさん、一回、達った方がいいか?」    バッシュは、唇を噛み締めたまま、首を横に振った。   「もう少しだからな。頑張れおっさん!」    バッシュは、噛み締めていた口元から力を抜き、その声に向かって淡く微笑んだ。  それを見たブリスは、『あー、きっとこの顔にやられたんだ……』と、ポツリと思う。こんな笑みを見せられたら、誰だって惚れてしまうと、ブリズは確信する。それは、今行っている行為とはあまりにもかけ離れた、温かい笑み。『何で、抱く方じゃないのかなー』と、ブリズは不満げに心の中で呟いた。              ほんの少し前まで部屋に充満していた、淫らな空気は消えている。  二人は、シャワーを交代で浴び、ブリズは、最初の時のようにベッドに転がって、バッシュは、ベッドの淵に座り、のんびりと髪を拭いていた。   「なるべく、毎日やった方がいいぞ」 「なぜだ?」 「そりゃぁ、折角広げたもんが、元に戻っちゃうからだよ。毎日やっていれば、もっと楽になるんだから、頑張るんだ、おっさん!」 「ノアだ」    バッシュは、弟の名前を借りる。ここまで世話になった相手に、偽名を使いたくは無かったが、立場上本名を言う訳にもいかず、一部の人間しか知らない名前を使った。その名前なら、慣れ親しんだ分、自分は直ぐに反応が出来る。   「ノア?おっさんの名前?」 「あぁ」 「へぇ〜、なんかおっさんらしくないな。なんての?う〜ん…もっと、ゴツイ名前かと思ってた。あ、ん、でも、それって、最初の印象だけどな」    今の印象なら、それもアリかもと、ブリズは、思いなおす。   「さて、もう遅い。子供は、寝る時間だ」 「だぁかぁら、俺は、もう子供じゃ…っ?!」    額に随分と可愛らしいキス。そして、頭をがしがし撫でられた。   「うわっ…」    そして、ブリズは、バッシュの腕の中に抱き込まれ、そのままベッドに横になる。   「な、な………」 「どうした?交換条件だろう?」    そう言いながらも、バッシュは、ブリズの頭を撫で続けている。  寝る時の習慣。バルフレアは、双子に、寝る前のキスの後、頭をいっぱい撫でた。そして双子は、バルフレアの片側にそれぞれ収まり、寝ていた事が多かった。  今、バッシュは、その通りにしている。   「だ、だ、だけど……」    言葉が続かない。条件との意味合いからかなり外れている行為と雰囲気。だけど、ブリズは嬉しかった。「しょうがないなぁ」と、一生懸命不服そうな声を出したが、それが叶ったか分からない。  自分には、もう両親というものがない。特に、父親は、自分が赤ん坊の頃に戦場で無くなったと聞いているだけ。自分が、相手に要求する事は、きっとファザコンの一種なんだろうと、自分でも分かっているし、回りからもそう言われてきた。  だが、今日知り合ったおっさんが、それを知っている訳が無い。純粋に、自分を子供扱いして、自分を抱きしめている。なんか、それが、酷く嬉しかった。今まで自分の希望通り抱いてくれた人達より、ずっとずっと嬉しかった。   「なぁ、おっさん。国の話しなくていいのかよ?」    だから、こんな事を言ってみる。   「それは、なんとかなると言っただろう?」 「ダメだよ。おっさん、なんか、もう、全然ダメそうだもん」 「………そうか?」 「うん。だから、俺が、紹介してやる」 「紹介?」 「あのなー、俺は、スリだって言っただろ?この国では、そういう人間はみんな、組織に入ってるんだよ」 「泥棒組織か?」 「そうそう、そんなもん。んでな、そういう職業って、国の事には、すっげぇ詳しいんだよ。だって、国が安定してねぇと、儲からないどころか、兵役が来ちゃうだろ?だから、さ」    バッシュは、目を瞬いて、片腕で抱きしめている子供の頭を見る。   「俺を紹介していいのか?」 「だから、紹介するだけだって。おっさんが、組織の人間に気に入られれば、融通してくれるし、ダメだったら、殺されるだけ。んでも、おっさん強いんだろ?」 「強いつもりだが……それで、お前に迷惑をかける事にはならんか?お前は、大丈夫なのか?」 「大丈夫さ。そーゆ事は、結構あるんだ。なにせ、惚れっぽいのは、お国柄だから。色々とね」    惚れっぽいお国柄という言葉に、バッシュは、アルシドを思い出す。なるほどと思った。こういうお国柄なんだなと、口元に笑みが浮かぶ。   「お前に迷惑がかからないのなら、紹介してもらえると助かる。よろしく頼むな」 「おう、任せとっ?!!」    ブリズの体は、バッシュの腕に持ち上げられ、回転して、バッシュの体の上にうつ伏せに乗っかっていた。   「な、何?」 「こうやって寝る事がたまにあってな。それが結構嬉しかったんだが、どうだ?」    ブリズの顔が真っ赤になる。   「な、な、あ、あ、あ、あ、う、うん」    バッシュにとって、小柄なブリズ程度の体重、布団を一枚増やしたに過ぎない。   「お前は、子供みたいに体温が高いのだな」 「う、煩いっ!だ、黙ってろって言っただろ」 「そうだな」    バッシュは、笑わないよう口の中で抑えたつもりだったが、体を合わせている為、細かい振動がブリズに伝わっている。だけど、ブリズは、それに文句を言わない。   「明日になったら、連れて行ってやるから」 「よろしく頼む」 「おう」 「おやすみ」 「お、おやすみ」    バッシュは、ブリズの頭を撫でながら、今度も不思議な縁を持ったと、しみじみ思っていた。これは、切欠。後は、己の全てを使って切り開く。   (あぁ、これが一段落したら、今日覚えた事をノアに知らせないとな)    バッシュは口元だけで笑う。   (ノアは、真面目だから、既に勉強しているか?だとしたら、情報交換もいいかもしれんな)    掌をブリズの頭の上に置いたまま、目を閉じる。   (綺麗を手に入れる事に比べたら、泥棒組織など、初心者向けのダンジョンみたいなものだ)    不敵な笑みを浮かべたまま、バッシュは眠りに落ちて行った。     to be continued…  

 

09.08.10 砂海
あっはっは、オリキャラ出てきてすんません。 なにせ、ロザリア側って、アルシドしか出てきませんからー。あいつに、相手させちゃったら、こんな可愛い話では絶対すみませんからねー。無理(・o・)b   んで……相変わらず、当サイトに生息するバッシュが居ます。激しく、アル意味突っ走っています。これでも、色々考えていたりするんですが、他人からは、まったくそこら辺が見えません。 ノアが、守ってあげたいのVvに近い、いや、あの、そっち方面かなぁ?レベルの受け子だとすると、バッシュは、おいおいおいしょうがねぇなぁ。待ちやがれ、おい、ちょっと、手ぇ貸すから、ちょっと振り返りやがれ、この馬鹿って感じの受け子でしょうか? そんな受け子が生息するサイトって……他のまっとうなサイト様に比べると……あぁっ、書き手があたしってのが、まずいんだろうなぁ……orz 純粋に可愛い受け子が書けない自分が、かなしゅうなる今回でした…orz