「バルフレア…」 「頑張って仕事してこいよ」 ノアは、生真面目に頷く。その背後に居る、シドとヴェインがニヤニヤ笑っているのには、当然気づかない。 バルフレアは、手を伸ばしノアを引き寄せた。ノアの背後で盛り上がった気配は、無視。 出かけのキスとは思えないほど、唇を深く重ね、舌を絡ませた。 「んんっ?!」 バルフレアは、ノアの柔らかな執務着の合わせ目に手を入れる。ノアの漏れた声に一層、背後が盛り上がっているが、その方が助かるので一切無視。 隠し持っていた手紙を、そっと服の内ポケットに入れてから、ゆっくりと離れた。 「今夜な」 ノアは、口付けの後には、似つかわしくない真剣な表情で頷いたが、背中を向けている二人には、それは見えなかった。 アルケディア出勤組が自分達に背を向け扉が閉まった瞬間、バルフレアは速攻踵を返し、自分の部屋へ歩き出す。 「逃げるぞ」 その言葉に、フランは笑って頷き、バッシュは、なるほどと苦笑を浮かべた。 「やはり、捕まえにくるか?」 「ヴェインの説明が終わった瞬間、ここは最高危険地帯だ」 部屋の扉を開けたバッシュに手を振った後、バルフレアも急ぎ自分にあてがわれた部屋に入った。 支度といっても、一番の荷物は、ヴァンに預けたシュトラール。自分の荷物は、全てその中にあり、今は最後の戦闘に準備した品と武器以外、何も持っていない。 他の二人も同じようなもので、ほぼ三人が同時に部屋から出てきた。 「今夜、子供達にお話をするのでしょう?」 「あぁ、そのつもりだ」 「なら、私は、別行動でいいかしら?」 「どこへ行くんだ?」 フランが浮かべたのは、困ったような苦笑。 「里…か?」 「えぇ。必要が無いかもしれないけど、事の顛末を伝えに行くべきだと思ったのよ」 「そうか。 まぁ、あそこなら、捕まる心配も無いな」 「そうね」 話しながら、話を聞きながらも三人は、屋敷を後にし、歩き続けている。 「俺は、二人を連れて、ノノの所へ行く。お前は、どうする?迎えに行くぜ」 「用事が済み次第、自分で行くわ」 「了解」 丁度話が一段落した時点で、目の前にクリスタルが現れた。 「じゃぁ、後でな」 バルフレアの言葉に、フランは落ち着いた笑みを見せ「頑張ってね」と言って消えた。 「俺が頑張るのか?」 「私にだろうか?」 バルフレアは、そんなバッシュを見て、小さく笑い。どっちもだろうなぁと、苦笑した。 「さて、俺達も行きますかね」 「どこに?」 「行っての、お楽しみだ」 バルフレアに続いて、バッシュはクリスタルに触る。二人は瞬時に違う場所に移動していた。 「ここは…?」 「お前が、行く予定の場所だ。 ここから半日歩けば、小さな町につく。そこから情報収集をするといい」 「ここは、ロザリアか?」 「あぁ、マラガラス家の領地だ。覚えておけよ」 バッシュは、バルフレアにマラガラス家について聞こうとして、口を噤む。それは、自分で見て聞いて判断する事であって、彼に頼る事ではない。既に、ここまで頼っている事自体、自分が貫こうとしている事から反している。未だ、自分は彼の庇護下から抜けられていない。己自身で立っていないと思い知らされる。 「ったく……、ほら行くぞ」 バッシュは、自分の表情を動かしたつもりは無い。だが、間違いなく、バルフレアに気づかれている。 バッシュは一つ大きく息を吸い、一層の精進を心の中で誓った。 「次は?」 「食事だ。お前も俺も、食べてないだろう?」 「あぁ…そうだった」 再び二人はクリスタルに手を当て、移動した。 ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・ 既に暗くなったバーフォンハイムのクリスタル付近。傍にあるチョコボ屋も、ひっそりとしていて、寝ているチョコボ以外、生き物の気配は一切無い。 だが、クリスタルの背後にある木々に二つの人影。その影は、気配を一切消しクリスタルを見つめていた。 突然、クリスタルが輝く。 誰かが移転してくる印。 二つの影は、息を一層潜めた。 そこに現れたのは、月明かりでも十分に分かる金髪の背の高い体格の良い男。 「綺麗」 酷く静かな囁き声。 だが、木陰に居た二人には十分聞こえた。そして二つの影は、その人に走りより、クリスタルに手を置いた。 「移動するぞ」 「急いだ方がいい」 「遅かったな」 「撒くのに手間取った」 三人の口元に不敵な笑みが浮かぶ。 「行くぞ」 そうして、三人はバーフォンハイムから消えた。 「ここは?」 「お前は、あの時外側から進入したんだな」 「リドルアナ大灯台の一階だ」 バッシュが言ったように、彼らの周りは暗かったが、水の音が響いていた。 「ここを知ってるのは、一応俺達だけだが、問題は他の連中も外からなから来れるって点だな」 「シド殿が、ここをゆっくり研究したいと言ってましたから…」 「ここも無事じゃないって事だな」 「さぁ、次へ行くぞ」 三人がクリスタルに手を置く。そして、月明かりに浮かび上がったのは、古い遺跡。 「ギルヴェガンだ」 「ここが……」 初めて見た古代都市の姿に、ノアは一瞬見蕩れる。 「ここなら、安全だろうと思いたいんだがな」 バルフレアが苦笑を浮かべている。 「殿下達が、来るだろう…」 バッシュが困ったように、バルフレアを見ていた。あの旅の仲間なら、全員ここを知っている。そして、自分達を探し出そうとしているのは、アルケイディアだけではなく、ダルマスカも入っているだろう。 何も言わず姿を消した二人。 心配しているだろう。 だが、現在のダルマスカは、未だ一人で立っていない。 アルケディアからの打診に断れるとは思えない。 そして、女王となるであろうアーシェは、仲間としてでなく、政治的に動く事を要求される。その時に、旅の全てを知っているバッシュの存在、アルケイディアと繋がりのあるバルフレアの存在は、利用価値がありすぎる。 「だから、もう一回移動だ。ここまでは、敵を撒く時にでも、使ってくれ」 そう言ってバルフレアは、クリスタルに手を置く。 「ほら、行くぞ」 バッシュとノアは、慌ててクリスタルに手を置く。これから行く場所の検討がつかない。 そして、一瞬のうちに変わる景色。 バッシュの、ノアの、表情が、酷く歪んだ。 「綺麗……」 掠れた、呻く様な声を出したのは、バッシュ。ノアは、口を結んでしまった。 目の前に現れたのは、廃墟。 先ほどまで居たのが廃墟とは思えないほどの綺麗さと豪華さを持ち合わせていたのに比べ、目の前にあるのは間違いなく廃墟だった。 崩壊した多くの建物。 熱で曲がってしまった金属。 そして、それを全てを多い尽くそうとする雑草と木々。 月明かりに浮かんだそれは、一層寒々しさを感じさせた。 「ラン……ティス……」 逃げ出してから、一回も訪れなかった。 仕官してから、一回も訪れなかった。 最後に見た時と、なんら変わらない風景。 一面の炎の代わりに、雑草が広がっていた。 バッシュの手がきつく握り締められる。 ノアの右手が顔を覆う。 「ほら、行くぞ」 そんな二人の感情を見てみないふりをして、バルフレアは歩き出した。 帰ってきてから一度、昼の明かりの中、この景色を見ていた。 その時の感情が、まざまざと蘇る。 バルフレアにとっては、たった数ヶ月前暮らしていた場所。だが、沢山の思い出を残した場所。そのあまりの変化に、無残な姿に、唇をかみ締めた。 それが戦争だと、一言で言い表しは出来る。 だが、それは、被害を受けず暖かな家の中に居るだけの人間だからこそ言える傲慢。 既に新しい街に生まれ変わっていると思っていた。それを望んでいた。だが、目の前の街だった場所は、打ち捨てられていた。 「綺麗、どこへ?」 「ほんの十数分歩いた先だ」 バッシュの声音が、酷くかすれている。バルフレアは、心の中で舌打ちをした。 あの時は、再び出会うと思っていなかったから、自分の思い出として、この場所を選んでしまった。 そして、この場所は、廃墟だからこそ、誰にも詮索されないだろうと判断した自分が甘かったと、もう一度心の中で舌打ちをする。 癒す為の時間は、十数年では、まだ足りなかった。そして、当然数ヶ月の自分にとっても。 バルフレアは、前だけを見つめて歩いている。 バッシュとノアは、その背中だけを見つめて、歩き続けた。 ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・ 当時から森だった場所は、人が入らなくなってから、一層鬱蒼と枝を伸ばし、平地を侵食していた。 その中の一角。巧みに木々によって隠された、決して小さくない家が現れた。 「っ……」 「くっ……」 二人が息を吸い、酷く動揺しているのを無視して、バルフレアはそのまま玄関に向かい扉を開けた。 「バルフレアクポー!」 「悪い、遅くなった」 「シュトラールは?」 「あれは、ヴァンに預けてある。悪いが、ヴァンの手助けをしてくれないか?」 「ダルマスカクポ?」 「あぁ。俺の消息は一切不明で、よろしくな」 「分かったクポ」 にっこり笑ったノノは、バルフレアの手に封筒を渡す。バルフレアは、それをポーチに入れながら、ノノに向かい「ありがとうな」と笑いながら言った。 「これで、この家は、バルフレアのだクポ」 ノノのボンボンが、どういたしましてというよりに、楽しげに揺れる。 「バルフレア」 「ん?」 「あの改造は、どうなったクポ?」 「あーーー、しまった。結果を聞きにいけない」 「クポ?」 「あぁ、ドラクロア研究所所長に、解析を頼んだんだが…」 「シド?ドクターシドクポ?!」 ノノのボンボンの揺れ増大。 「あの、ダルマスカに落ちたおっきいやつを設計した人クポォ〜〜?」 ノノが、超うっとりと、夢見るように言う。 「あぁ」 「行く!行くクポっ!!」 小さい体がピョンピョンと跳ねる。嬉しそうにボンボンも跳ねる。 「行くって…ドラクロア研究所にか?」 ノノは、ブンブン音が出そうな勢いで頷いた。 「……ヴェインに捕まって、俺の居場所を探られるか、シドに捕まって、研究所にどっぷり浸かるかのどちらかしか、想像出来ないぞ。 やめとけノノ」 寂しげにボンボンが、へにょろぉ〜と下がる。 「バルフレア…」 「ん?」 「私が、責任もって、彼を連れて行こう」 「誰クポ?」 「私は、ジャッジマスターのガブラスという。明日、君と一緒にドラクロア研究所へ行って、夜には、ここへ戻ってこよう。 問題ないと思うが…バルフレア、どうだろうか?」 「確かに、解析結果は、早く聞きたいところなんだが……。 ノノ」 「クポ!」 ボンボンが、ピンと立つ。 「絶対、捕まるなよ。この場所を漏らすのもダメだ。それに、シドに弟子入りするのも無しだぞ。ちゃんと帰ってこれるか?」 再び、ブンブン音が出そうな勢いで、ノノが頷く。 「分かった。お前に頼むよ。 但し、これを持って行け」 バルフレアは、ポーチを探り、いくつかの破片をノノに渡す。 「バニシガの破片クポ?」 「そうだ。お前が、あの研究所に居るのは、目立ちすぎだ。行き帰りは、これで姿を隠しておけ」 「分かったクポ! んじゃ、ノノは、地下に居るクポ。朝出かける時に、呼んで欲しいクポ」 そう言ってノノは、楽しそうに家の中に入っていった。 「バルフレア…地下というのは?」 「あぁ、この家には、無かったな。 だが、俺が住むには、シュトラールのベッドも必要だろ?だから、庭の地下に格納庫を用意してもらったのさ」 この家、そうこの彼らの前にある家は、双子にとっては数十年前、バルフレアにとっては数ヶ月前に住んでいた家に凄く似ていた。開け放たれた扉の中を見ても、心が締め付けられる程、酷く似通っていた。 「設計は俺だ。 お前達の時間から帰って直ぐに、ノノ経由で、口の堅いモーグリ族に発注したんだよ。まさか、お前達に会えると思ってなかったからな、あの家を模倣させてもらった」 会う事が分かっていたら、今まで通り自分達の隠れ家を使うか、新たに、ここではない場所で、まったく違う家を作っていただろう。 「入ろう。お前達に話したい事と、渡したいものがある」 浮かべたバルフレアの笑みの綺麗さに、バッシュとノアは、一瞬見惚れる。 「ほら、さっさと行くぞ」 笑みを含んだバルフレアの声に誘われるように、二人は、ふらふらとバルフレアの後に続いた。 ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・ 最初に会った時、二人の母親と共に食事をしながら、会話した場所。 そこには、同じようなテーブルと、椅子が用意されていた。 「バッシュ、ノア、手を出せ」 バルフレアの言葉を聞いて即座に二人共手を出す。 バルフレアは、ポーチから取り出した封筒を開き、中から取り出したカード状のモノを、一つづつ、彼らの手のひらに乗せた。 「これは?」 「この家の鍵だ」 自分用のもあると、バルフレアは、もう一つ取り出す。 「鍵を持っているのは、バッシュとノア、俺、そしてフランの四人だけだ。 今日から、空賊バルフレアの拠点は、ここになる。お宝を探しに出かけていない限り、俺はここに居る」 バルフレアは、持っていたカードキーを指で弾き、小さな音をたてた。 「お前達の部屋は、昔のままの位置にある。 だから、いつでも、好きに使えばいい」 「ここを…家にしても…?」 珍しく、兄に頼らずノアが、震える声で言う。 「毎日帰ってきてもいいのか?」 バッシュが、困ったようにバルフレアに言う。 その声に、「お前達に鍵を渡しただろ?」と笑いながら、バルフレアが答えた。 「好きに使っていいと言ったぞ。 但し、お前達だけだ。それ以外のヤツを決して、ここへ連れて来るな。ここは、空賊のアジトだからな」 「ならば、あそこのクリスタルより、森の奥にある洞窟のクリスタルの方が、目立たないな」 「そうだな。あそこは、人目に付きすぎる」 「へぇ〜、奥に洞窟なんかがあるのか?」 「あぁ」 バッシュが照れたような表情で。 「子供にとっては、結構大きな洞窟だった」 ノアが懐かしげな表情で。 「その洞窟に、モンスターは?」 「普通に居た」 「最低限、剣が使えるようになってから、行ったんだろうな?」 「軍に入ってからだ。良い訓練場所だったよな?」 バッシュの言葉に、ノアが黙って頷く。 実は、帰ってから母親にバレて、かなりの長い時間、お小言をくらったのは内緒だ。特に、「入るのなら、もう少し強くなって、怪我をしなくなってからにしなさい」と言われた事は、絶対に言えない。同じ内容で今から叱られはしないだろうが、それでも叱られる事は間違い無い。 自分の力量を理解し、敵の力量を瞬時に把握し、必要であるなら逃げろと教えたバルフレアだから。 「なるほどな」 そのバルフレアの口調で、だいたい察せられたのに気づいたが、それ以上の追求は無いようなので、二人はとりあえず、余計な事を言うのを防止する為に口を閉じた。 たとえ、二十年以上経っていようと、バルフレアとの思い出は、薄れる事もなく残っている。当然、叱られた記憶も。真剣に保護者という役職をこなしていたバルフレアは、叱る時も非常に真剣で、怖かったのだ。 「さて、と、お前達は、明日早いんだろ?もう、ベッドに入りな」 唐突にかけられた言葉は、細かい点で違ってはいたが、二人が子供だった時と同じ声音で語られた。 それに、ノアは目を伏せ、バッシュは拳を握る。 二人は、これがバルフレアからの答えだと、必死になって、それを受け止めようとしていた。 その時、クスリと笑う声。二人は驚いて、その声の主の顔を見る。 「バァッシュ。ノォア」 甘い声音と共に、二人を魅了して止まない、決して子供に向けるものではない甘い笑みが浮かんでいた。 「二人して、なんて顔をしてる?一人寝が嫌なのか?添い寝しようか?」 その言葉に、バッシュはにっこり笑って、ノアはおずおずと頷いた。 「俺も朝が早いからな、寝るだけだぜ」 「そうなのか?」 残念そうに言うのは、バッシュ。 その展開についていけなくて、混乱中のノア。 「明日、どこかに行くのか?」 「あぁ。奥の洞窟とやらに行こうと思っているな」 今までふわふわしていた二人が、一瞬で地に足が付いた。 バルフレアが、最初子供に対する声音を選んだのは、わざとに違い無いと二人は確信する。これは、一種のお仕置き。恨めしいという感情が一瞬沸くが、「やばい」という思いの方が現在圧倒的。 バルフレアは、モンスターを見るだけで、敵がどれぐらいの力量か分かってしまう。決して弱くなかった洞窟のモンスター。非常にやばい。今の自分達なら分かる。剣を少々かじった程度の子供が行っていい場所では無かった。やはり、叱られるのかと、少々背中に冷たい汗。 「あ、あそこに、宝物は無かったが……」 言っても無駄だとは分かっていたが、ついつい足掻いてしまうバッシュ。 「いや、宝物なら、極上品が手に入ったからな。いらない」 「宝?」 不思議そうにノアが尋ねる。 「俺の目の前にあるだろ?」 バッシュとノアの視線が部屋を一周する。 「バァッシュ、ノォア」 「綺麗?」 バルフレアは楽しげに笑いながら立って、彼らに近づく。 「宝物その1だ」 バッシュに軽く口付ける。 「宝物その2だな」 ノアに軽く口付ける。 「風呂に入ったら、俺の部屋に来な。お母様が言ってただろ?汚いうちは、ベッドに入っちゃダメだってな」 笑いを含んだ声に、人形のように頷いた二人。そのまま、少しの間、バルフレアの背中を見るしか出来なかった。 「ノア」 満面の笑みを浮かべているバッシュ。 「あ、あぁ」 かみ締めていたものを、少しも漏らさないよう静かな声で答えるノア。 「俺達の方が、極上の綺麗な宝物を手に入れたよな」 「そうだな。どう考えても、俺達の方が得だと思う…」 二人は、バルフレアが消えた方へ向かい歩き出す。 バッシュの部屋は、二階の真ん中。 ノアの部屋は、その右隣。 そして、バルフレアの部屋は、右端。 「綺麗は、どうするのかな?」 「何が?」 「キスはした。その先だ」 あまりにあからさまな台詞に、ノアは言葉が返せない。だいたい、その点に関して、今まで何一つ考えていなかった。 「母さんは、怒るかな?」 「………、笑って眺めていると思う」 ノアの言葉通り、豪胆な母親だった。 その思い出は、この似た家には無いが、二人にとっては、やけに思い出させた。 「なら、俺達は、幸せだって、ちゃんと見せてやらんとな」 「……兄さん」 「まずは、風呂に入って、添い寝だ」 それに返事する言葉を持たないノアを放置したまま、バッシュは自分の部屋に入っていった。 「そ、添い寝……」 その先を思いつかされた今、添い寝なんかしたら、到底寝れそうに無いと、ノアはため息をつきながら、自分の部屋に入った。 少しの違いによる違和感。 けれど、懐かしさを感じさせる部屋。 二人は、別々の部屋で、同じ事を思う。 綺麗な人を拾った。 その時に、物語が始まった。 その人が時を遡って、自分達に出会ったのが、一つの奇跡。 だが、その人が消えた時、物語は停滞する。 そして、もう一度奇跡が起こった。 ナルビナ城砦地下雑居坊で再び出会ったのが、もう一つの奇跡。 停滞していた物語が、二十数年の時を経て、ようやく動き出した。 奇跡を望んでも、もう無理だという事を知っていた。 そんなものに頼るつもりも無かった。 一つの約束。 しがみ付いて二度と離れない それを叶える為に、必死になって動く。 そして、手に入れた宝。 自分達にとって、世界で一番綺麗な宝物。 違和感は、新しい物語が始まる印。 バッシュは、あの頃とは違い、大きくなった木のベッドを触って ノアは、あの頃とは違う何も置かれていない本棚を触って 幸せな笑みを浮かべていた。 −End−
09.06.19 砂海
なんか〜終わっちゃいましたー(^-^;)えっと……すんません、こんな終わりで。 まぁ、ダラダラしてもしょうがないだろ?という事で、本編完結しましたー!ヘ(゚∇。ヘ)ヘ(゚∇。ヘ) (この話って主人公が、双子だったんだなぁ…とか今更思っているのは、内緒だ) 最初、三人のイチャコラが書きたくて始めた話。 はっきりいって、馴れ初めなんて、どうでもいいから、イチャコラだけを書きたかったんだけど、それじゃぁ、来られた方に不親切だろう(ってか、私が読み手だったら、絶対最初から書けとディスプレイに怒鳴っているはず。なにせ、異色の面子だから…)と、馴れ初めを始めました。そして、ようやっと終わりましたー! これからが、本筋(私的に)です。 頑張ります! えぇ、受け子二人という、えっちに非常に不都合な組み合わせですが、頑張ります頑張ります! さぁ!いちゃこらするぞ〜!