「帰るぞ」 「あ?」 「もう十分飲んだだろう?」 「全然酔ってないのにか?」 煩いとばかりに、腕を掴んだバッシュの手を払う。 「仕方が無い……」 「ちょっ?!!」 バルフレアの前には、バッシュの背中。 「金は、そこに置いておく。足りるはずだ」 さっさとテーブルの上に札を置き、出口に向かって歩き出した。 バルフレアは、バッシュの肩の上。バッシュは彼が暴れてもいいように、腰と足を押さえてながら宿に向かっている。 バルフレアは、暴れる代わりに小さな舌打ちをしていた。 ウェイトがあまりにも違いすぎる。 銃を扱う自分とは違い、両手剣によって鍛えられた腕で抱えられていて逃げられるとは思えない。 無様な姿を晒すよりは、諦めた方が余分な力を使わずにすむとばかりに再び舌打ちをして力を抜いた。 ◆隠されたもの 無造作に括り付けの硬いベッドに放り投げられる。 「っつ………」 「もう寝るんだな」 片肩を押さえつけられたバルフレアは、青い瞳を睨み付ける。 「眠れないから飲んでたんだぜ」 「今の君の場合、いくら酒を飲んでも眠れぬだろ」 「そうだよな」 押えつけられているのは納得いかないと、体を揺すり戒めから抜ける。 上半身をあげ、まっすぐにバッシュを見た。口の端があがる。細くなった瞳がバッシュを値踏みする。 「それとも、あんたが俺を酔わせて寝かせてくれるとでも?」 バッシュの口元が笑う。 「君から言ってくれるとはありがたい。 どう切り出そうか、悩んでいた所だ」 「へぇ〜、将軍様は、随分と自信がおありで」 「君ほどではないがな」 頤に触れた指は、バルフレアの顔をあげる。 バルフレアは、挑戦的な笑みのまま。 その微笑んだ唇に、バッシュは啄ばむようなキスを落とした。 「へっ、俺は女じゃないんだぜ」 バルフレアは、歯を立てたまま文字通り噛み付くように唇を重ねる。 唇が切れ、舌が鉄の味を感じても動きは止めない。相手の欲情を引き出す為に巧みに舌を絡め、バッシュの口内を蹂躙していく。 それに応じるバッシュも、同じように乱暴に答えている。 見た目には濃厚な口付けに見える。だが、重なった唇の中では、まるで喧嘩のように舌が暴れていた。 ぷはっと大きな息を吐き、唇をぬぐう。 バルフレアは戦い前のように目をギラつかせて、バッシュを見上げた。 「へぇ〜堅物って訳でもないんだな」 「それは褒め言葉か?」 「あぁ、そうとってもいいぜ。んで、あんたは男を抱いた事はあんのかよ?」 「君を酔わせられる程度にはな」 バルフレアの挑戦的な笑みは消えない。 舌を出して唇を舐める。 「酔わせてみろよ」 「お望みのままに」 服に伸びてきた手を叩いて払う。 「俺は、男を脱がす趣味も男に脱がされる趣味もないんでね。さっさとあんたも裸になんな」 そう言ってバルフレアは、自分の服を脱ぎ始める。バッシュは、それを眺めながら自分の服を脱ぐ。さして手間のかかる服ではない。裸になってからは、のんびりとバルフレアの姿を堪能していた。 「あんた…どこのスケベ親父だ?」 「君は、ほとんど素肌を晒さないからな。堪能させてもらった」 そう言って笑う姿はあまりにも普段の彼と変わらなくて、バルフレアの片眉があがる。 「爽やかなエロ親父ねぇ……最悪だな」 「そう言うな。だいたい、折角いい体をしているのだから、隠すような服を着るのはもったいないとは思わないのか?」 「あんたみたいな、変態避けだ」 ベッドの端で片膝を立て、何一つ隠しもせず見せ付けるように座る姿が、バッシュを見上げている。 「その変態に抱かれても構わないのか?」 「酔わせてくれるんだろ?まさかドヘタじゃないよな?」 「大丈夫だと言いたい所だが、後で感想を聞かせてくれ。今まで聞いた事が無いから分からん」 バルフレアの口の端があがり、手招きをする。 「ヘタなら、俺は酒場に帰らせてもらう」 「大丈夫だ」 バッシュは、バルフレアに近づき顔を寄せる。そのまま小さく開いた口に舌をねじ込み、舌を口腔の奥に伸ばし、相手の官能を無理やり引きずり出すように舌を絡めた。 その表情は苦い。 今自分のやっている事が、相手の弱みに付け込んだ最低の事だと分かっている。 ドラクロア研究所。彼にとっての鬼門。そこで対峙した相手、彼の父親。 彼と彼の父親の間に何があったのかは知らないが、二人の会話は冷やかだったにも関わらず、酷く焦がれているように感じた。 そして、想像通り酒に逃げているバルフレアを見つけた。 その彼に対し、優しい言葉をかけるいい人になり切れなかった。 バルフレアが吐いた弱音を聞き流す事が出来なかった。 最初出会った時に、ヴァンから庇ってくれた背中が未だ目に焼きついている。 彼の気まぐれだったのだろう。 あれから幾度となく、苛立たしげな言葉、腹立たしげな舌打ち、冷ややかな視線を受けている。 彼から好かれてない事など十分に承知している。 それでなくても、空賊と将軍という立場の違い。 手を取り合い、仲間だという事事態が異常だった。 だからこそ、今までその将軍という立場のままでいた。 敵対する事、口論する事さえも、バッシュにとっては喜びだった。 だが、心の中に生まれた塵は、どんどん降り積もって溢れかける。 手に入れたかった。 たとえ体だけでも腕の中に閉じ込めたかった。 バッシュは、バルフレアの体に触れながらキスを落としながら、彼から見えない顔は情けないぐらい歪んでいた。 「あ…んた……ねちっこい……」 「酔わせて欲しいのだろう?文句を言うな」 バルフレアの体が震えるたび、小さな声が漏れるたびに、執拗にそこを弄った。 今や体の中でバッシュが触れていない所は、立ち上がり涎を垂らしている熱だけ。 「っつ……」 バルフレアの眉根が寄る。 「用意が…いいな…」 「あぁ、これは傷薬だ。丁度いいだろう?」 バッシュは、まるで未経験のように硬く閉じた蕾に舌と唾液で解していた。 そこに薬をたっぷり纏った指が、つぷりと入っていく。 バルフレアの背中がビクリと揺れた。 「随分と久しぶりのようだが?」 「ここ…数ヶ月…そ、んな…余裕が………どこにあっ…た?」 「そうだな…」 だが、自分の指を拒む力は、数ヶ月というよりは、年単位のご無沙汰だと言っている。 傷つけないように、徐々に沈めていく指にあわせ、バルフレアの背中が揺れる。吐息を吐く音がする。 受け入れる事に慣れた体でさえも、解される行為と、入ってくる瞬間は、辛いと聞いた事がある。 酔わせると言った以上辛い思いをさせる訳にはいかず、雫を垂らしたままの口に指を這わせた。 「あ、………」 目の前で揺れている袋に舌を這わす。 「はぁっ…ぁっ…」 愛撫を受けるのに慣れている体。 裸体を恥じる事なく見せ付けてくる。 洩れる甘い声を抑えようともしない。 その様子に、バッシュの顔が一層苦くなる。 自分より先に触れた男達全てを殺したくなる。 「バッ…シュ…」 「何だ?」 「お、れを…酔わすんだ…ろ?」 聡い空賊は物騒な気配を感じて、自分を肩越しに見返していた。 「バル、フレア…」 途中から顔を見るのが怖くて、うつ伏せにした事を後悔した。 目元を赤く染め潤んだ瞳が、それでも勝気な光を湛えて自分を見ている。 少し開いた口元からチラリと覗く赤い舌が蠢いている。 背筋がぞくりと粟立った。 彼の背中に覆いかぶさり、その舌を吸った。 「がっつくな…よ…」 赤い舌が零れた唾液を舐める。 その淫蕩な表情が崩れる。 「ん………あ、あ、ああっ……!!」 「ここか…」 話している間中、ずっとバッシュの指はバルフレアの中で蠢いていた。 見つけた、彼の欲望の塊を執拗に撫で付ける。 バルフレアの顎があがり、背中が弓なりに反り返った。 その体に目を奪われる。 この部屋に入ってから、何度も普段とは違う彼を見ている。どれもが、自分の欲望を刺激する。 浮いた肩甲骨に歯を立てた。 「くうっ…っ…はぁっ…あ…あ…あ、あ……っ…」 バッシュは背中に舌を這わしながら、バルフレアの中を蹂躙していく。 酔わせると言った通り、久しぶりの痛みを感じさせないよう慎重に、それでも彼の欲望を最大限に引き出すように指を増やしていく。 だが、今すぐにでも、彼を犯したかった。 彼の過去全てを、自分の楔で塗り替えたかった。 それを、かろうじて残った理性で押しとどめ彼の中を探っていく。 「つ……あぁ……も、もう……あ、あ、あ、あぁっ…いやっ……だ…」 下で反り返った彼のモノは、ぼたぼたとだらしなく雫を零し続けている。 「一回、いっておくか?」 耳朶を齧りながら囁くと、懇願するように頭が振られる。 もう一本と指を増やしながら、どろどろに濡れたモノを握り締める。 「ひゃぁっ………」 何度か擦りあげた時、小さく彼の名を呼んだ。 「あ、あ、あ、あああああぁぁっ!!」 普段のバルフレアとは違う高い悲鳴のような声が部屋に響き、溢れ出た雫がシーツに散らばった。 「少しは、酔えたか?」 仰向けに転がったバルフレアは、荒い息のままニヤリと笑う。 「…足り…ないな」 その言葉に、バッシュは口の中で笑う。 こんな中途半端で、酔ったと言われても困る。 「あんた……手馴れてんだな」 「君ほどではないよ」 潤んだ瞳の中に不似合いな強い光。そして、勝気な言い様。 それに負けない様バッシュは、棘のある言葉を吐く。態々棘を含ませなくとも、軋む心が自然と言葉をきつくする。 「…入れなくても…いいのかよ?」 「直ぐに入れて、君の体がもつのか?」 「さっさと入れろよ。あんた、インポじゃないんだろ?」 息を未だに荒くしながら、冷やかに言い捨てる。 それにバッシュは、煽られる。 「あとで君が泣き言を言っても、聞いてやれんからな」 「上等だ」 バルフレアの腕が、バッシュに伸びる。 「早くこいよ」 まるで、場末の娼婦のように、あからさまな媚と痴態を見せ付ける。 だが、瞳の奥には剣呑な光。 そのギャップにバッシュの喉が鳴る。 穏やかな平素のバッシュは消え、乱暴な動作でバルフレアの膝を抱え、そのまま赤くなった蕾に猛った自身を押し込んだ。 「ふ、……ぐっああああああぁっ!」 今までの指とは違う圧倒的な質量の違いに、バルフレアの眉間に皺が深く刻まれ、悲鳴のような声があがる。 だが、バッシュはそれを無視した。 そんな姿すら欲を煽り、彼の中で自身が馴染むのを待たずに、もっと鳴かせようと腰を振る。 薬に助けられ、挿入したと同時に流れた血に助けられ、きつい締め付けの中蹂躙していく。 角度を変え突き入れる度にはねる体を押さえつけ、何度も打ち付ける。 部屋の中にバルフレアの声と、楔を打ちつける音だけが響いていた。 その中で、バルフレアの腕がのろのろとあがる。 バッシュの首に伸びて彼を引き寄せた。 「くっ………」 バッシュが見下ろした先には、意図的にキツク締め付けてきた相手。不敵に笑っているその顔。その笑みが背筋を震わせる。 バッシュの瞳がギラつく。無理やり奥まで押し込んだ。 「なっ…あ、あ、あああぁっ……」 お互いの体が触れるぐらいに近づいた事で角度が変わった楔は、バルフレアの中で一番快楽を生む場所を擦り付けていた。 「君の声は凄くそそるな」 「…変…態……おや…じ…」 「あぁ、だから堪能させてもらうぞ」 言葉どおり、暫し止まった動きを再開する。 バッシュは、バルフレアの声を聞いてようやく冷静に戻っていた。 燻る嫉妬の感情を抑え、言葉通り酔わせる事に徹する。 今までの彼の記憶を塗り替える為に何度も甘い声を上げさせ、しがみ付き腰を揺らしてくる体に望むものを与え続けた。 ◇◆◇ 「あ…?」 「気づいたか?まだ、寝ていてもいい時間だが?」 半分以上寝惚けた顔のままのバルフレアは、現状を把握しようと視線をうろつかせる。 目の前にバッシュの顔、下を見ると裸の体、首の下にはバッシュの腕の感触。 「酔っていて、昨日の事を覚えてないとは言わんだろう?」 「あぁ、覚えているぜ」 ようやく起きたと思われるきつい視線が、バッシュに向けられる。 「重い」 のろのろと腕を動かし体の上にあるバッシュの腕を払う。 「どこへ?」 「シャワー」 あまりにも変わらない態度に、バッシュは自嘲の笑みを浮かべる。 彼にとって今の態度は、一晩の相手に対する態度と変わらないのだろう。そう思うと昨日の夜の事さえも空しい。一回だけでも腕の中に収めたかったあの飢えが、再び首をもたげてくる。 バッシュは、生気の無い瞳で閉じられたバスの扉を見つめていた。 「あんたも入るのか?」 いつの間にか経っている時間。バッシュは、頭を拭きながらいつもと変わらない態度で出てきたバルフレアをぼんやりと眺めている。 「あぁ、そうだな」 バッシュは苦笑を浮かべながら、昨日無理を強いられたバルフレアよりものろのろと立ち上がり扉に向かった。 「あ、良かったぜ」 訝しげな顔が、振り向く。 「感想を言えって、あんたが言ったんだろ?」 「良かったのか?」 「そう言った」 そう言いながらバルフレアは、てきぱきと服を身に着ける。 「さっさと入ってきな。そんな匂いさせてたら、アーシェに睨まれるぜ」 「あ…あぁ」 バルフレアは、指輪をつけながらバッシュの傍に近寄る。 「なぁ、初もんは旨かったか?」 そう言ってバッシュの背中を叩き、そのまま扉の方へ歩き出したバルフレアを、バッシュは慌てて腕をつかみ引き止めた。 「初もん?」 目の前には、口の端をあげ笑っている顔。 「本当か?」 「さあな」 そう言って笑った唇が、バッシュの唇を掠める。 「入ってこいよ」 裸のまま呆然と立ったままのバッシュを残し、バルフレアの楽しそうな笑い声が扉の外に消えた。 -End-
07.12.01 砂海 バシュバルでしたm(__;)m^^^ 降ってきたネタは、結構自分的にうけたので、文章にしてみました('';) 書きかけのバシュバシュを放って…何書いているんだ?と問わないでやって下さい。 貧乏性なんですよ((((((^-^;)あはは… お願い・最後までエロを書いてない事をお許し下さいm(__)m<あれが限界だったらしいです。