勝手に妄想 preエルナサーガ その2

旧人類の青年と新人類(魔法人)の青年は親友だった。
種族は違えど幼い頃からの仲だった。

旧人類の青年は好奇心旺盛で新し物好き。魔法化技術(ナノマシンネットワークへの人格コピーによる不死化)が開発された時も、いの一番で志願して意思エネルギー体第一号となった。
魔法人の青年は対照的におとなしい、穏やかな性格だった。

種族も性格も違ったが、二人は不思議と馬が合った。


「いいぜ〜魔法化。なんてったって不死だよ不死! 魔法だって使い放題だしさ〜。お前も受けろよ魔法化」
「いいよ僕は」

魔法人も法律上人権を認められていたので希望すれば魔法化を受けることが出来た。
だが魔法人の青年は受けようとしなかった。
「人は普通に生きて死ぬのが幸せだよ」と。

そんな言葉が交わされる穏やかな日常。普段通りのはずだった。
だがそれは突如起きた。

魔力炉の暴走

計画中の魔力炉が突如暴走し、制御不能に陥ったのだ。
魔力炉は無制御の魔法を吐き出し、辺りは瞬く間に汚染された。
制御を離れた強力な魔法には最早魔法人といえども無事では済まなかった。
寧ろ皮肉な事に、魔法が存在する中では生活困難な為に大部分が魔法化していた旧人類の方が
被害が少なかったのである。
とはいえいくら不死といえど、何もかも吹き飛ばしてしまう魔風の中では最早成す術がなかった。
星外へと脱出する船もあるにはあったが、絶対数が足りなかった。
魔法化した旧人類は脱出艇に乗り込めた分の新人類と星外へと脱出する。
乗り遅れ、シェルターへと逃げ込むしかなかった人々を置き去りに


「何やってんだ! 早く逃げねーと!」
魔法化した旧人類の青年が避難を促すが、
「駄目だ! ここの人達を置いていけない!」
魔法人の親友は頑として逃げようとしなかった。

「何か方法はないのか? 魔力炉を止める方法が。君なら外で動けるだろう?」
「無理だ。いくら不死でも魔法は無限じゃないしそもそも魔力炉は魔法の制御を受け付けない」
「破壊することが出来れば…」
「無限魔力炉だぞ? 再生力だって無限だ」
「魔力… 魔法… 反魔法なら?」
「あの試作品か?」
「あれなら魔力炉の魔法を打ち消せるだろう?」
「だが誰が使う? 俺は全身魔法化しちまってる。封魔剣には触れることすらできない」
「…僕がやる」
「お前だって体内に魔法があるだろ!?」
「魔法を純エネルギーに変換する技術があったはずだ。あれで体内の魔法を変換して外部から遮断出来れば…」

魔法人の青年は魔法変換技術を魔法封鎖術へと応用し、封魔剣を振るう為の鎧を作り出す。

シェルターの人々の希望を背に、魔法人の青年は魔力炉へと向かった。



「…結局、近付く事すらままならないか」
「そんな急拵えの鎧じゃ無理だったんだよ」
「素人仕事だしね」
魔法人と不死の青年は魔力炉の防衛網の前に心臓部に近付くどころか内部へ入ることすら出来ないでいた。

「どうする? ここまで来て」
「防衛システムの突破は二人じゃきついか」
「でも新しい鎧を作る余裕はないだろう? 第一剣はその一本きりだ」
「この剣に世界が掛かっているのか…」

「! 僕を山頂へ運べるかい?」
「? 封魔剣があるから転移は無理だな。負ぶって飛ぶ事になるけど」
「構わない」

二人は山の頂に向かい、そして… 剣を突き立てた。
風は剣を避け、風下に護られた空間が生まれる。

「どうするんだ? これだけじゃ時間稼ぎにしかならんぞ?」
「鎧を完全にする。封魔剣の力を完全に使えれば勝機はあるはずだ」

だが、彼の生きている内に完全な封魔鎧が完成する事はなかった。



「君に後世を託さなくてはならないようだ… あの形に」
「? 剣か? ほい」
カチン
「おい これ…」
「封魔の鞘だ。外側にも呪を施してある。魔法に反応して抜けなくなる」
「てめー なんのつもりだ!?」
「…すまない」
「…魔法に反応… つまり、魔法を帯びた手では抜けないってことか?」
「そうだ」
「鎧を完成させる者を待て、と?」
「…すまない」
「…はいはい、わ〜ったよ。新たな"勇者"様の登場を待つ事にするよ」



勇者とソーロッド、二人の悲願はエルナへと受け継がれることとなる…

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