第三回やさしい社会問題  7月6日(内容紹介) 

 「東北を旅して〜その魅力と守るべきもの」

今回の講座は、Sさんの東北への旅をもとに、「東北について考える」ことがテーマでした。Sさんは第一回目のこの講座でも東北の旅についての話をされましたが、その時は「東日本大震災の傷跡と復興の現状」がテーマでした。今回は、震災のことは少しにして、「東北の魅力」と「東北の守るべきもの」というのを一応のテーマとしました。

●それにしてもSさんの旅はとてもユニークです。まず旅のスタイルですが、軽トラの荷台に、御主人がベニヤ板で小さい小屋を作り、そこで寝泊まりします。写真を見ると、ちょっと「お〜っ」というようなユニークな車です。寝泊まりする場所は基本的に道の駅。道の駅はどこにでもあり、食料、トイレなど何でもあり、旅館と違って時間を気にしたり気を遣うこともなく、とても自由で便利とのこと。なにより無料!

そして、おおざっぱな目的地は決めるが、興味関心に応じて変更自在、けっこう行き当たりばったり的なことも多い。今回で5回目なので、観光地的なところは行きつくし、あまり知らないところへも足を運ぶ。さらにユニークなのが、その日の旅行日記をリアルタイムで、スマホで自宅のパソコンに送ること。家にいる子どもさんがそれを見て安否を知れるのと、あとで旅の整理をするのに便利だからとのこと。

Sさんの旅の魅力は、その自由さと尽きない興味関心、そして人との出会いを大切にしていることです。東北への熱い思いも感じます。

●今回の講座は、このSさんのスマホリアルタイム旅行記を皆で読みあわせ、Sさんの説明を聞き、感想や意見を言うという形で進めました。まず、Sさんのスマホリアルタイム旅行記の一部を紹介します。

●「今日は、朝からタケノコ狩りの集団がどこからかワサワサわいてきて、、、どうもこの辺りの春の行事みたいです。私達はそれを横目に見て太平洋側に出ました。スズ竹工房を見に行き、買い物かごを購入し、道の駅『おおの』でいつも通り蕎麦を食べ、久慈の琥珀博物館を見学、今は道の駅『のだ』です。この陸前野田は津波被害のひどい所でした。泊まった道の駅もまだ仮の建物でした。朝、海岸まで出てみたけど空き地も多く、新築らしい家ばかりでした。そこから北へ行き、小袖海岸へ。あまちゃんの舞台です。又北へ。久慈漁港で防潮堤を見ていると、漁協らしきおじさんが話しかけてきました。津波やらその後の生活のことを話してくださり、「自然にはかなわん。でも人間も強いよ〜」と。

今日は「三陸海岸道路」というアピールをしたダンプが大量に走ってたわ。種差海岸蕪島(ウミネコ生息地)と北へ。星野リゾートの温泉に入り、道の駅『おがわら湖』で泊です。若いお母さんから『青森のこぎんをやってるので』とこぎんのしおりを頂きました」

●旅行記を読んだあとのSさんの話

東北の人は、道を聞いたりしても、仕事をほったらかして、丁寧に説明してくれたりする人が多い。草むしりしているおばさんが、わざわざ、わかりやすい道まで車で先導してくれたのには恐縮した。東北の自然は豊かだが厳しい面もある。その中で生活してきた人たちは、自分だけではその厳しさに立ち向かえず、他の人と協力し集団で生きる習性を身につけてきたように思う。利己主義で自分だけよかったらいうふうにはならず、自分もそこそこ、他人もそこそこという考え。だから困っている人がほっとけない。皆で助け合うという精神が身に染みているというように思う。

●参加した人たちの感想など

・東北は、震災のあと訪ねたが、東北の人はつらいことも耐えて文句を言わない人が多いように思った。芯が強く粘り強い。素朴な人情もある。

・東北というと、やはり震災の話になってしまうが、復興しつつあると言ってもまだまだで、元の生活にはなかなか戻れない人が多い。若い人も元のようになりたいと思っている人もいるが、帰ってこない人も多い。

・陸前高田のことで何人かが感想を述べる。元の松原海岸に大きな防潮堤が作られ、松原の復元はもう無理と思う。以前よりはるかに高い防潮堤は景観より人の命が大切ということを象徴しているように思う。女川町に行ったが、女川では防潮堤は作らず、住民の防災意識を高めることで将来に備えるという方針だと聞いた。それぞれの町で防災の取り組みは異なるが、復興や防災への気持ちは同じではないかと思う。

・東北は遠くてなかなか行く機会がなく、震災のことで知るくらいだが、今日の話を聞いて関心が持てた。

・以前に東北に行ったが、電車に乗っていると話しかけてくる人がこちらより多いと思った。自然信仰なども残っていて、信仰心も厚く、人どうしの距離が近いと思う。

・東北には行ったことがないが、山陰出身なので、同じような田舎的な雰囲気なのかなと思って親近感がわく。

・私も山陰出身だが、東北とは(景観や風土が)違うように思う。東北は山が多く緑が濃いが、山陰は山と言っても大山くらいで、、、。

・自分は新潟出身だが、冬は雪が多く日が照らない。(雪の少ない他の地域で)冬に日向ぼっこをするというのが理解できなかったが、こちらに来てやっとわかった。天候の違いが考え方や風土に影響していると思う。あと、ニュースでやっていたことで、震災で一部損壊の人は援助金も少なく、震災後の生活で様々な困難を抱えている人が多いと聞いた。そうした人の生活の支援をもっとするべきだと思うが、、。復興はまだまだと思う。

・東北は学生時代に一度行ったが、友達が山岳信仰のことに興味を持っていた。苛酷な自然とのたたかいの中で、山岳信仰などもさかんになってきたのかなと思う。Sさんの旅は、東北のさまざまなことを知れて、すごいなと思う。

・宮沢賢治、太宰治、石川啄木など、東北出身の作家が好きで、東北にも何度かゆかりの地を訪ねて行ったが、寡黙・朴訥で粘り強いという性格は、東北の人に共通している面があると思う。半面、田舎的・封建的な面に反発して都会にあこがれるという側面もあると思う。

・現在の、都会での自分たちの生活と東北に残された田舎的な人情などについて、いろいろと話が出た。スマホづけや近所付き合いの希薄さなどで、人どうしの直接的な触れ合いが減っていること。近所どうしの挨拶は大切、まず地元の人を愛するようにならなければ、、。田舎的な生活へのあこがれや移住のことなど。

・旅行しなくても、人の話やテレビ、本などで東北のことを知る機会はあるので、これからも東北に関心をもっていきたい。

●まとめ(コーディネーターより)

今回、Sさんの旅行記と話をもとに、震災のことだけでない東北への関心や東北の魅力(自然、人情、信仰など)守っていきたいこと(人どうしのつながりを大切にするなど)について、参加者の自由な感想や意見が多く出されたことがとても良かったと思います。次回もこうした自由な意見交流を大切にしていきたいと思います。