ハンナ講座 第9〜12回やさしい社会問題(2020年6月〜9月)

3月に、ムーレックのNさんから「タイ山岳民カレン族の暮らしや生き方」についてのお話を聞いたあと、新型コロナウイルスの感染拡大によって4月・5月は休講をやむなくされましたが、6月から3回にわたって、「格差について考える」をテーマに3回の講座を開催しました。以下、各講座の内容を簡単に紹介します。

第10回(6月27日) 「格差の種類と現状について」

コーディネーターのMさんから、以下のような内容で、資料をもとに説明があり、内容についての質疑応答を行いました。

(1)所得格差と貧困について

  ①世界と日本の所得格差の現状(ジニ係数)(富の所有割合) ②絶対的貧困について 

③相対的貧困について・・・相対的貧困率 ・ひとり親世帯の貧困 ・子どもの貧困 ・高齢者の貧困

(2)雇用・労働における格差について

  ①正規雇用と非正規雇用(パート、契約、派遣、アルバイトなど)の賃金格差

  ②正規雇用と非正規雇用の身分や社会保障・福利厚生における格差

  ③同一労働同一賃金ガイドライン(パートタイム・有期雇用労働法)

  ④外国人労働者(技能実習生・研修生などを含む)、障がい者の雇用格差

(3)男女格差(ジェンダーギャップ)について

  ①ジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)について ②男女の雇用形態の格差

  ③男女の賃金格差  ④女性の社会的地位(役職など)について

(4)相対的貧困と教育格差について

①ひとり親世帯における子どもの貧困 ②親の収入と教育格差

(5)その他のさまざまな格差について・

①地域格差と人口格差 ②医療格差と健康格差 ③情報格差 ④世代間格差 ⑤国家間格差

 

■第11回(7月11日)「格差はなぜ生まれるのか?格差をなくしたり減らしたりすることはできるのか?

 前回の「格差の種類と現状について」の説明をもとに、上のテーマで感想や意見を出し合いました

●Sさん

非正規雇用や賃金格差など労働面での男女格差は厳しいと感じる。男女格差は政治的・社会的につくられているように思う。朝日新聞の記事で、10才の女子へのアンケートで「女性は男性より多く料理をするほうがよい」が85%だった。家庭では父親より母親が料理をする姿が多いという現実を反映していると思う。家庭が男女格差に与える影響は大きいと思う。色のきめつけなども子育ての中で行われていると思うし、家庭での意識変革が大事だと思う。母子世帯で、母親が就業していても非正規雇用などで収入が少なく、生活が苦しい中で生活保護を受けたほうがいいと思っても、世間体やバッシングがあったりしてできない。そういうこともあって日本は就業世帯の貧困率が高いと思う。資料をみて、フィリピンでは女性の管理職が多い。アキノ大統領など女性の大統領も出ているが、女性政治家は身内に地位を引き継ぐことが多いと聞いた。フィリピンでは女性の大学進学率も高く、そういうことも影響しているのか?コロナで失業する人がいる一方、株は下がっておらず、一部の高所得者・資産家はもうけている。ここにも格差がある。会社の重役などと一般労働者との賃金格差は大きく 富が一部の人にかたよりすぎていると思う。

●Nさん

コロナの影響で、非正規労働の人の生活はますます厳しくなっていると思う。失業して、住んでいる寮などを追い出されたり、困窮者支援で支給された弁当を何回かに分けて食べている人がいるという話も聞いた。このような厳しい現状があるのに、政治家は何もしてなくて腹がたつ。

資本主義は、昔は生産活動が中心だったが、今はマネーゲームが中心になってしまって、架空のお金をやりとりしてもうけたりする人が増えている。生産の現場でがんばっている人の収入が減って、格差が拡大している。京大の大学院がコロナのワクチンをつくるのにクラウドファンディングで資金を募っていると聞いたが、一般の人の資金でなく、こういう緊急のときに国の財源を使うべきではないか?コロナ治療にあたっている熊取の地域医療センターでもクラウドファンディングで経営資金を募っていると聞いた。ちょっとおかしい。

Fさん

Sさんの言っていた「女性が料理するのが当たり前」という意識が10才の女の子で85%というのはびっくりする。共稼ぎしていても家事は女性という現状がある。色のきめつけだが、(お店でも)女の子だからピンクがいいよねとお客さんが言うと合わせてしまっている。自己責任という言葉が横行しているが、(家庭環境や経済的状況など)スタートラインが違うのに、すべておなじように責任と言うのはおかしい。(いろいろな事情で)就職困難な人とか母子家庭の人とか厳しい状況の人にまで自己責任という形で個人に責任を押し付けてしまっている。「資本主義に民主主義を」という主張があるが、資本主義から民主主義が奪われていると思う。新自由主義のもとで、すべてが競争原理によって動いていて、弱者が切り捨てられている。社会保障的な施策をもっとしていく必要があると思う。

Eさん
病院も競争原理のもとで、つぶれるところも出ている。病院など健康や福祉に関わるところは公立にしたらと思う。美容整形とか消費者ニーズがあるところは増えているが、他の病院は減っている。税金も大企業・資産家に有利な税体系になっていて、相対的に一般労働者は税負担の面でも厳しい。収入も相対的に減っていて、夫婦2人共稼ぎでないとやっていけない状況がある。

このあと、「コロナ禍での仕事の問題」「外国人労働者の問題」「金融バブルと国の借金の問題」など、格差の問題を越えて、いろいろと幅広く意見や感想が出されました。


第12回(9月12日)「格差はなぜ生まれるのか?格差をなくしたり減らしたりすることはできるのか?」

今回は、前回、前々回の講座の内容を引き継ぎながら、FさんとSさんが資料をもとに話をされて、そのあと、感想や意見を出し合いました。

●Fさん

「ベーシックインカム」についての藤原辰史さんの新聞記事を読んで、話をされました。ベーシックインカム(BI)は200年ほど前にイギリスの労働者の取り組みから始まったこと、BIの制度や歴史は山森亮さんの著作などを参考にしてほしい旨を話され、新聞記事を読みました。以下、新聞記事のポイントの箇所の抜粋。

「この世に生まれ落ちたこをと唯一の条件として平等に同額の所得を定期的に得る。このベーシックインカム(BI)制度の導入の議論が世界中で加速している」「一連のBIの議論から考えたのは、どんな理想社会を目指す中でBIが位置づけられるのかという構想がなければ意味がないということだ。BIの影響は、財政、福祉、医療、介護、教育など広範員にわたる制度を一挙に変える。BI導入で、インフレや財政破綻、相互扶助の崩壊や自己責任社会の強化など、取り返しのつかない混乱も誘引する」「BIの導入は社会保障給付の切り下げという考えにつながりやすい」「BIの議論の背景には、土地や水のように誰もが利用できるはずのコモンズを独占する権力者への抵抗、煙突掃除人やゴミ運搬人など厳しい環境で働く人びとへの尊敬、女性の家庭労働の評価を求めてきた歴史が含まれる」「労働運動が脆弱な日本でBIを導入したとき、経営側の人件費削減に利用される可能性が高い」「公共の現物サービスが未発達なままでBIを導入しても、非正規雇用労働者は毎月のBIをすぐに生活維持のために消尽せざるをえない」「食や医療や介護を市場から切り離して住民に提供することをBIの前提とすれば、BIはより効果的となるだろう」


Sさん


BIはどれぐらい社会に浸透しているのか、理解されているのか、よくわからない。新自由主義の権化の竹中平蔵氏が賛同しているというのも疑問。最低限の保障をしてあとは自己責任というのでは・・。もう少しいろいろと考えないといけないと思う。

●Nさん

私もそう思う。基本給付をもらって、あとは自分ですべてしなさいという、自助がすべてになる可能性はある。

●Fさん

イギリスなどでは社会保障などの権利を労働者が勝ち取ってきた歴史がある。社会保障制度の歴史や現状は国によって違いがあるのでそこを考えないといけない。

●Eさん

BIというのはあまり理解できてなかったが、この制度を食い物にする人が出てきて、騙される人もでてくるような感じがする。

●Uさん

BIは、基本的にはいいことだとは思うが、具体化のイメージはわかない。(みなさん言っているように)自己責任論が強くなって弱者切り捨てにならないかという懸念がある。

●Sさん

最年少女性市長である徳島市の内藤佐和子さんの新聞記事を紹介。以下抜粋。
「男女共同参画社会を目指すなら、(女性の働く環境などについて)知ろうとする努力も歩み寄りもあってほしい。その先にダイバーシティ(多様性)が実現するんじゃないかと思っています」「(徳島市役所の)幹部は50代男性が中心。幹部世代にはいまだに、家庭や子どもは妻任せという人が多いようです」全国1741地区町村の中で女性市長は2%。なぜこんなにも女性の管理職は少ないのか?今の自民党の総裁選挙でも女性は出ていない。いろいろな要因はると思うが、日本は諸外国に比べて本当に少ない。次に、コロナ禍の中でも、女性に大きな負担と影響が出ているということで、「女性就労に陰り」という新聞記事を紹介。その記事によると、コロナ禍の中での世界の失業者の7割は女性であること、特に若い女性の失業率が高いこと、家事や育児も女性に偏り、負担が大きくなっていることなどがある。お茶の水女子大の永瀬伸子教授は、「家庭内の家事や育児、介護の分担を協議し、見える化することが重要だが、国民がどこまでそのことを受け止めているのかは疑問が残る」と指摘する。

 
次に、Sさんは、成長第一主義の現在の経済社会のあり方と地球と人間の限界を考える必要があるとする、佐伯啓思さんと山折哲雄さんの対談記事を紹介した。今後、格差と社会のあり方を考える上で、重要な契機となる記事であった。

●Uさん

今度の総裁選に立候補している3人の候補者が女性の問題について言及していたが、菅さんと岸田さんが不妊治療の推進だけを言ってる中で、石破さんは「女性が生きやすい社会にしたい」と言っていて、一番適切な感じだと思った。自分の職場でも、家事を含めいろんな面で女性の方が負担が大きいと感じる。今の若い人は、前の世代に比べて家事分担をしている人も多くなっているとは思うが、、、。

 

●Eさん

女性の管理職のことで、知り合いの女性で職場で管理職にならないかと言われてなった人もいるが、女性の主体性ではなく、どれだけ女性管理職を増やしたかという、職場のアピールに使われている感じがする。実質が伴わず形だけ整えるという日本の職場のあり方はあちこちでみられる。息子も、上司から何でもいいから有給とってくれと言われたりして、適切な労働環境にしているという体面だけが大事なのだと思う。女性の管理職が少ないのは、家事負担の問題もあるが、(本音では女性管理職の増加を望まない)男性の意識が問題だと思う。

●Nさん

コロナ禍の中で、女性をはじめ、弱い立場の人にしわ寄せがいっている感じがする。女性管理職の問題だが、無理やりでも育てていくことで少しでも増えていくのかな?成長に限界があるというのはその通りで、地球と人間に限りがあるのだから、今のやり方を変えていく必要があると思う。

●Fさん

家事のことなど、今の若い人は少し変わってきてるかなとは思う。でも、根本的なところが変わらないといけないと思う。様々な格差が拡大している背景を考えないといけないと思う。人間だけでなく、他の動物や自然と共存していくことを考えていく必要がある。

●コーディネーターMさん

格差の問題をいろいろ考えてきたが、つきつめると、今の労働のあり方、社会のあり方、人間のあり方などにいきつくと思う。そして、それは、具体的には、今の資本主義、民主主義、宗教・慣習などのあり方にいきつく。なので、次回は、これからの資本主義や民主主義のあり方、人間のあり方など、大きなテーマですが、それらについて議論していければと思います。