ハンナ講座 やさしい社会問題
第49回講座(2024年7月20日)まとめ
「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」
参加メンバーが、ハンナまでの道のりを汗だくになってやって来る暑い夏になりました。ガザやウクライナでは、終わりなき悲惨な戦闘が続き、コロナも再び新たな変種の流行が懸念されています。アメリカではトランプ銃撃事件で更なる対立と分断が進んでいます。そういう中で、平和の祭典と称するパリオリンピックが開催されようとしています。いろいろと割り切れない複雑な思いを参加メンバー各自が抱えながら、講座を開催しました。
●Hさん
和歌山毒物カレー事件をテーマにした「Mommy(マミー)」というドキュメンタリー映画を紹介。二村真弘監督による本作は、「目撃証言」「科学鑑定」の反証を試み、「保険金詐欺事件との関係」を読み解く。最高裁による死刑判決が確定したあと、林被告は再審請求をし、その息子は母の無実を信じる。二村監督は、捜査や裁判、報道に関わった人たちへの取材を通して、えん罪の可能性がある本事件の真実を求めて本作を制作した。Hさんはえん罪について関心が高く、本作もぜひ多くの人に見てほしいと言う。
●SEさん
①池袋暴走事故の被害者の遺族が、「心情伝達制度」を利用して加害者(受刑者)に思いを伝え、加害者からの返信を受け取ったという記事を紹介。刑務官を通じてのやりとりだったが、妻と娘を亡くした遺族の松永拓也さんは、加害者の本心が伝わったと感じている。やりとりを通して、加害者は、直接の面会にも応じる意向を示している。心情伝達制度は、加害者が被害者側の悲しみや苦しみを受け止め、罪の重さに向き合うことが狙いだが、仲介する刑務官には専門的な技量や配慮が必要であり、その育成が課題となっている。
②みんぱく研究公演「アリラン峠の向こうには〜在日コリアン音楽のこれから」(8月25日、みんぱくインテリジェントホール)という催しを紹介。在日コリアンの苦難の象徴であるアリラン峠の先にはどんな希望が見えるのか?日本、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国のはざまで、3組の音楽家たちが紡ぎ出した音楽を通して、在日コリアン音楽のこれからをみつめる。
●Uさん
「ラファを去る。期待は捨てた」という新聞記事を紹介。
パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘で、イスラエル軍は最南部ラファでの攻撃を強めている。国際社会の懸念をよそに、攻撃はやむ気配がなく、80万人以上がガザ各地に避難した。ラファで取材をしてきたムハンマド・マンスール朝日新聞通信員(28)は、生まれ育ったラファを離れることは心のよりどころを失うことになるという思いと国際社会の支援とイスラエルへの圧力を期待して、攻撃が強まっても避難せず、半年以上、ラファにとどまってきた。しかし、国際社会の支援もなく、イスラエルによる激しい空爆は繰り返され、イスラエルは住民をすべて殺すつもりだと判断し、ラファを去る決意をした。
爆撃の合間をぬって走り回り、何とか家族を運んでくれる車をさがし、隣接する町に避難した。しかし、そこでの生活は食糧も水も乏しく人間らしい暮らしとは言えないひどいもので、マンスールさんは実情を知ってもらおうと家族の写真を撮って新聞に投稿しようとしたが家族はみずぼらしい姿をさらすのに反対した。マンスールさんは、この苦しみには出口がないと感じており、多くの人に自分たちの声を聞いてほしいと訴えている。
●Nさん
「報道機関を不当捜索〜パソコン・携帯電話も押収」という新聞記事を紹介。
不祥事隠しとメディアに公益通報をした幹部を逮捕するなど問題噴出の鹿児島県警。中でも、公益通報の内容を公表しようとしたウエッブメディアの代表者の自宅を情報漏洩だとして家宅捜索し、文書やパソコン、電話などを押収したことは不当捜索だと批判が高まっている。公益通報はメディアの命綱であり、それを警察などの権力が「これは公益通報ではない、漏洩だ」と勝手に解釈して家宅捜索などをしていいはずがない。今こそメディアがスクラムを組んで大問題にすべきだとウエッブメディアの代表の中願寺さんは語る。
●Mさん
3つの新聞記事を紹介。
① 「つらくてもあの子のために〜京都アニメーション放火殺人5年
京都アニメーション放火殺人事件で亡くなった女性の母と兄は、事件の精神的ダメージでカウンセリングを受けながら、自分たちの経験を講演で語っている。語ることで楽になるわけではなく、講演中に事件を思い出してつらくなることもあるが、「事件発生時、何もできなかった自分がいる。だから何かできることはないかと今も探している」といった思いから二人は講演を続けている。
② 性別変更「非婚」要件焦点に〜既婚トランス女性、家事審判申し立て」
出生時の性別は男性で、結婚後に女性として暮らすようになったトランスジェンダーが戸籍上の性別を女性に変更するよう家裁に家事審判を申し立てた。「性同一性障害特例法」の規定では、性別を変えるには離婚する必要があり、幸福追求権を定めた憲法13条や「婚姻の自由」を定めた憲法24条などに違反すると訴えている。「特例法が定める性別変更5要件は、相次ぐ司法判断などで根幹が揺らいでいる。国内の当事者の声に耳を傾け、再構築する必要に迫られている」とドイツヨハネス・グーテンベルク大学の石嶋舞客員研究員(家族法)は語る。
③ 「湖が語る暴れる気候〜堆積物の層「年縞」、大噴火や植生変化、地球7万年の記録」
十年に一度の猛暑。記録が残るなかで最大の降水量。そんな表現を、天気予報やニュースで聞くことが増えた。気候が不安定になっていることを私たちはすでに体で感じている。その秘密を解き明かすカギが福井県三方五湖の水月湖にある。古気候学者の中川毅さんは、水月湖の湖底に積もった「年縞」を調べるなかで、長い年月でみれば、地球の気候は不安定が当たり前だったことが分かり、現在の状態はまれにみる安定期だという。しかし、この安定期も終わりは必ず来るはずで、予測は不可能だが、気候変動に対応できる柔軟な知恵と多様で包容力のある社会を創っていく必要があると中川さんは言う。
|