第8回やさしい社会問題(2020年2月29日) 

「福島の現在について考える」

今回の講座は、2011年に事故が起きてから9年が経つ東電福島第一原発とそれを取り巻く現状について考えようというものでした。今回は、まずFさんが新聞記事などをもとに詳しくレポートをしてくれました。そのあと、2年前に現地に行ってきたYさんの話を聞きました。

●Fさん

福島の現状については、福島県のホームページ「福島復興ステーション」に詳しく書かれている。現在、被災地域から他地域に避難している人は約4万9000人で、そのうち福島県の人は約3万人余り。当初の人数は約16万人で、この間に帰郷した人などもいるので、だいぶ減ってきてはいる。

現在の福島第一原発の問題はいくつかあるので、個別に少し詳しく見ていきたい。

まず、「がれきの処理」の問題。水素爆発に伴う、放射性物質で汚染されたがれきが敷地内に大量に残されており(東京ドームの容積の6割に相当)、処分方法はまだ決まっていない。

次に「汚染水の処理」の問題。原子炉建屋内に残る燃料デブリなどを冷やすためにかけている水と建屋内に入ってくる地下水が混じると放射性物質を含む汚染水となる。現在は1日あたり170トン発生しているという。

その汚染水を「多核種除去設備アルプス」などの放射性物質除去装置に通したあとに出る「汚染処理水」は今年1月時点で約118万トン。貯蔵タンクは約1000基に上る。地下水の敷地内への侵入を少なくするため東電は土を凍らせて防遮壁を作っているが、効果はわからず、汚染処理水はたまり続けて、2022年にはタンクは満杯になる。

そのため、政府の小委員会は汚染処理水の放射性物質の濃さを国の基準値以下にして、海洋放棄または水蒸気放出のどちらかを選択するよう提言をしている。海洋放棄のほうがコストは低く合理的だとする意見が多いようだ。

次に「多核種除去設備アルプス」など放射性物質除去装置に汚染水を通した際に発生する使用済みの「吸着材の処理」の問題。除去装置全体からでる吸着材は、4000本を超える保管容器に入れられている。容器は金属製で水分によって腐食したりカビが発生したりする。脱水装置で水分を除去する方法も考えられているが、その際にもまた汚染水が出る。

そのほかにも、「使用済み燃料の取り出し」や「燃料デブリの取り出し」「原子炉施設の解体」などはまだほとんどメドがたっておらず、何十年かかるかわからないという。特に原子炉格納容器内にたまった水の底にあるとされる燃料デブリはどこにあるかさえわかっておらず、潜水型ロボットで調査しようとしたが、格納容器内のちりの影響で先送りされている。

以上のような放射性物質の処理の問題に加えて、現地の住民の生活を難しくしているのが「風評被害」の問題で、現在も根強くある。

最後にFさんは、「社会の関心どう持続 石橋哲氏」という新聞記事を紹介された。以下、新聞記事を要約する。

「原発について人ごとのように自分で考えず安全神話を受け入れていた社会が、事故を機に変わるはずだったのに、現在、自分ごととして捉えず判断しない社会が目の前にある。関心を持つのは廃炉が生活に関わる地元住民だけ。一部の人間しか関心を持たなくなると、政治家が廃炉の問題に取り組んでも支持や票にはつながらず、議論も広がらない。しかし、福島の現場には、技術的だけでなく、科学的、社会的な知見を得ることができ、国内外で共有すべきことがたくさんある。福島には人類の未来に向けた貴重な学びの場の側面がある。この事故の教訓をどう未来に生かすのか、どんな社会を創っていくのかを一人ひとりが考え、それぞれの知見を組み合わせて、未来に生かしていく必要がある」石橋氏の考えには共感することが多いと参加者全員で確認をした。

次にYさんが、2年前、息子さんが仕事で南相馬に行っていて、その縁で、南相馬から福島第一の近くまで行った話をされた。

●Yさん
高速道路と一般道もほぼ通れる状態で、車で移動した。

帰還困難地域を車で走ってみて、誰も人がおらず、コンビニには雑誌などが当時のままの状態で残っていたりして、近未来の世界を見ているような感じがした。

息子が福島に行く事になり、福島への風評などは、そういう(悪意のある特定の)人がするものだと思っていたが、そうではないと思った。自分と同じ、中途半端な知識の善意の助言が風評を作っていると思った。

福島に行くことを聞いた知り合いが、「現地の野菜は食べないほうがいい」「福島の水は危険だから、水ぐらい持って送ってあげたら」「家に入る時はブラシで服をはらってから入るほうがいい」などの、善意の助言が、現地の現場とはかけ離れたものだった。

福島の土は粘土質で水は地下に浸み込まず、水は飲めるし(勿論何度も測定している)、野菜なども基準値以下のものしか売っておらず安全。情報が本当かウソか、また、その時点では正しくても変化していくので自分でしっかり確かめないといけないと思った。

立命館大学平和ミュージアム名誉館長で同大学名誉教授の放射線防護学が専門の安斎育郎先生の話を聞いたところ「現在、福島の除染された地域は大丈夫だが、(放射性物質のたまりやすい)ホットスポットには気を付けなければならない。除染された平地では生活に問題はないが、山は除染されてないので野草やジビエを食べる時は気をつける必要がある。飲料水、農作物、水産物は検査しているので安全。廃炉はなかなか難しいので、今後多様な方法を考える事も必要になるかもしれない。」

学者でも、国策(戦前のことを想起してしまう)の通り動いている人と安斎先生のように、科学的に冷静に原発を考え、原発の危険性を訴え続けてきた人もいる。現地の人は、ただ、もとのままのふるさとを返してほしいと思っていると思う。

●Sさん

福島の今については、いろいろ考えさせられることばかり。避難している人のことだが、除染して安全になったから帰れと言われても、数年、他の土地で暮らしていると、再度、元の地域に戻って生活をするということが、様々な事情で難しいということもあると思う。

●Yさん

先にも言ったが、福島の土地は粘土質で、放射性物質は地下に行かず表面の土に付着している。だから、除染する必要がある。広島は土地が砂地で、原爆被爆後の大雨で砂と共に放射性物質は流されたと考えられている。だから、除染の必要がなく復興に向かえた。

福島の場合は、除染でどれだけ放射性物質が取り除かれているかだが、何を基準に放射性物質の残存と安全性を判断するのか、よくわからない。国の調査と民間の調査の数字も違うし、判断基準もはっきりしない。よく考えていく必要がある。

●Fさん

知人で、日本はもうダメだから、子どもと一緒に日本から脱出して海外へ移住しようかという人がいる。自分だけ、自分の子どもだけが安全ならそれでいいのか?他の人はどうでも良くて自分だけ安全なところに行く。それで本当に幸せになれるのだろうか?他の人と共に今の問題を考えていくことが大事なのではと思う。

 

このあと、現在のコロナウイルスのことも含めて、今の日本の政府の姿勢や社会の状況、学者の姿勢など、雑談的にいろいろな話が出ましたが、今回のテーマと少し離れるので割愛します。

今回は、福島の現状について知り、知識を共有することが大きな目的だったので、その点では、参加者全員がFさんの丁寧なレポートとYさんの話で、現状を少しでも知ることができて良かったと思います。

最後にコーディネータのMさんから、大阪府T市での福島の子どもを招いての合宿の取り組み(福島の子どもたちに一定期間、離れた地域で心と体をリフッレシュしてもらい、大阪と福島の交流を深める目的)や福島スタディツアーの話などが紹介され、今回の学習も含め、今、自分たちにできることからやっていくことが大事だという話で閉会となりました。