ハンナ講座 やさしい社会問題 

第44回講座(2024年2月24日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

春一番は吹いたものの、まだまだ冬の寒さが続く中、今年2回目の講座を開催しました。

 

●Hさん

映画「アリランラプソディ」を紹介。「SAYAMA見えない手錠をはずすまで」や「俺の記念日」などのドキュメンタリー映画で知られる金聖雄監督が、川崎の在日一世のハルモニたちの日々の生活や想いを丁寧に取材して描いた作品。「日本に暮らす私たちは映画やドラマ、音楽や食など韓国文化に魅了され続けています。でも、在日朝鮮人の存在、歴史がすっぽり抜け落ちているような気がするんです」と金監督は語る。在日の人々の思いや歴史を深く知るために、多くの人に見てもらいたい映画である。

 

●SEさん

国立民族学博物館で3月30日に開催される、みんぱくワークショップ「水俣の海を感じる〜語り部講話とシーグラス体験」を紹介。みんぱくでは、3月〜6月にみんぱく創設50周年記念企画展「水俣病を伝える」を開催予定で、このワークショップはその一環として開催される。

関連して、SEさんは、水俣病との出会いの大きな契機となった「チッソは私であった〜水俣病の思想」という著書で知られる緒方正人さんを紹介。水俣病患者として、行政や加害企業(チッソ)との苛烈な闘いを経て、実はチッソを生み出した戦後の社会体制の中の一員であった自分を見つめた緒方さんは、水俣病が、ひたすら近代化を求め、個人の尊厳をなおざりにしてきた日本社会に生きる私たち一人ひとりの問題であり、一人ひとりの生き方の問題であるということを突き付けている。

 

●Uさん

「南海トラフ地震の真実」(小沢慧一著)という本を紹介。

大きな確率で来ると言われる南海トラフ地震だが、実はその根拠となる地震予知のデータは、行政によって改ざんされ、実際のデータとは異なっている。「全国地震予測地図」も、行政によって、企業誘致や防災予算の獲得などに有利なように改ざんされているという。地震予知に科学的根拠はなく、行政や学者による恣意的なものであり、実際に、地震確率の低いところで地震が発生している。九州や北海道、今回の能登も、地震は起きないと言われていた。能登では、地震発生確率が低かったために、防災意識や防災対策が弱かったのではないかという指摘もある。日本ではどこでも地震発生の可能性があるのに、恣意的な地震予知が、原発立地の根拠にも使われていたのではと疑念がわく。現在の地震学の実力では、将来の地震発生は見通せない。行政の言われるままにご都合主義的な地震予知をしてきた地震学の実態を知り、「地震が来るとは思わなかった」と後悔することのないよう、社会全体で地震防災に取り組んでいく必要がある。

 

●Mさん

三つの新聞記事を紹介。

 昨秋、岸田首相が女性閣僚起用に際して「女性ならではの感性を発揮していただく」と発言した言葉に批判が集まった。3人の識者がその発言について意見を述べている。岸田首領の発言には、性別に関係なく誰もが様々な感性を持っているという「個」の視点が抜けている。また、女性を男性社会の中で下位に位置づける家父長制的社会意識も濃厚に反映している。こうした前時代的意識を払拭し、すべての人が個人として尊重され、性別によって不利をこうむったり、人としての尊厳を冒されることのない社会にしていく必要がある。一方、性差を考慮して革新的な科学技術の発展を目指す「ジェンダーイノベーション(GI)」も注目されており、「性差医療」や交通面の安全性向上などにも生かされてきている。

GIは、性差だけでなく、性自任、障がい、年齢、人種などの違いにも生かされており、多様な人々の幸せの実現にもつながる。性別を意識すべきかすべきではないかは一人一人が知識と教養を高め正しく判断することが重要だ。

 「男性中心」変わる祭り〜条件つき女性参加広がる

愛知県の尾張大国霊神社のはだか祭りや宮崎県の尾八重神楽など、各地の祭りや神事などで、条件付きで限定的ではあるが女性参加が増えてきている。祭りや神事は、男性中心の考えや風習の歴史の中で、長らく女性が参加できていなかった。ジェンダー平等や多様性を尊重する考え方が広がる中で、伝統行事も見直しが迫られている。担い手の不足により、女性が加わることで解決の糸口を見いだそうとする地域もある。最も男性中心の慣例が残っている伝統行事が、男女平等の理念のもとで変わっていくことが期待される。

 「消滅可能性都市」10年 

2040年までに、市町村の半分が「消滅」の可能性に直面する。民間研究機関がそんな予測で少子化対策が急務と提言してから10年が経った。だが、人口減の勢いは止まらず、この国の未来像は今もかすんでいる。何に失敗したのか、今からできることは何か。提言を主導した人口戦略会議副議長の益田寛也さんへのインタビュー記事。

益田さんは、国の地方創生政策は、少子化対策を分離して行われたため、地方の移住者争奪戦になってしまった。日本の国内で人口移動したところで少子化と地方都市の消滅可能性はなくならない。東京一極集中の是正や若い女性の地方からの流出歯止めも地方の人口減対策の一つ。若い女性の声やニーズを拾って、子どもを持つリスクを全て除去する対策をおこなっていく必要がある。人口減社会への対応は、今後、少なくとも2100年ころまではやり続けないといけない。

 

 

岸田首相の発言や性差の問題、人口減社会への対応の問題などについては、いくつか感想や意見が出されました。特に、人口減社会の問題については、人口減を悪いと決めつけるのではなく、人口が減っても、個々の人々が幸せで自分らしい生活を送ることができる社会を目指すべきではないかという意見が多くだされました。北欧のような、人口が少なく、物質的にそれほど豊かでなくとも、ゆったりとこころ豊かに生きる社会を目指すべきだという意見もありました。この問題は、これからの日本の社会をどのような社会にするのかという、社会のあり方の根本にかかわる問題ですので、今後とも論議していければと思います。

 

次回の開催は、4月13日(土)の予定です。