ハンナ講座 やさしい社会問題 

第41回講座(2023年11月11日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

今回は、島本町でお茶の販売などをしている岡村商店の岡村友章さんに、お茶や生産農家さんへの思いとお茶を通して見える現在の社会のあり方などについてお話をお聞きしました。

 

<お茶の仕事を始めるまでのこと>

国際日本文化研究センターなどで仕事をしている時に、祖父の田舎の徳島県のつるぎ町というところへ行き、祖父の知り合いの家でお茶をごちそうになった。それがとても美味しくてお茶への興味がわいた。そういえば、小さい頃、急須でお茶を飲んでいた記憶があり、お茶への関心はあったと思う。それから、仕事の合間に、小規模のお茶の生産農家さんのところを訪問してお茶の生産の話などを聞いたりした。そのころは自分の趣味で行っていただけだったが、だんだんと興味・関心がつのって、お茶を仕事にしようと思い始めた。そして、自分でほそぼそとお茶の販売を始め、今から6年前(2017年)に島本町水無瀬の喫茶店を譲り受けて、喫茶とお茶の販売を始めた。

 

<お茶の生産と流通などのこと>

自分は、問屋さんではなく、農家さんから直接お茶を買って販売している。それは、仕事を始めたのが農家さんとの出会いがきっかけだったことと、生産者の顔が見えることを大切にしているから。今、各地の多くの農家さんを訪問してお話を聴き、お茶を仕入れている。お茶を作るのは楽しそうだが大変な面も多くある。

お茶の生産は、まず、茶葉を摘み(ほとんど機械摘み、手摘みは少数)、それを処理工場に持ち込む。工場は自前の工場を持っている方もいるが、多くは共同の工場かJAなどの工場に持ち込む。そして各工場で「荒茶」が作られるが、それを問屋がいくつか入札して、自分のところで合わせて(ブレンドして)出荷する。今のお茶は、ほとんどが色々な産地で生産されたものをブレンドしたもので、どこで生産されたものかわからないし、生産した人の顔もわからない。それが、現在のお茶の生産と流通の主流だ。自分は、生産者の顔が分かるお茶をお客さんに提供したいので、農家から直接仕入れている。

 

<農家さんの紹介>

 滋賀県日野町の満田久樹さん

生産と販売もしている。農薬は以前は使っていたがやめた。化学肥料を使うと味の素のような味になる。化学肥料は吸収されやすく、葉が甘くなるので、虫が食べにくる。虫を除くために農薬を使う。しかし、農薬が良くないからと、いきなり農薬をやめると葉が弱って生産量が減る。化学肥料と農薬を使わない有機栽培のお茶は優しくておだやかな味だ。満田さんは自分が飲みたいお茶を作りたくて有機栽培を始めた。だが、必ずしも有機栽培のすべてがいいわけではない。大量生産できないから値段が高くなるという難点もある。化学肥料や農薬を使ったお茶は、大量生産できるから安く、普通に気軽に飲める。したがって、農薬を使っているかどうかで良しあしが決まるわけではなく、作る側の技術や意図と買う側のニーズが一致するかどうかだ。農薬栽培が悪く有機栽培が良いという2極対立や分断ではなく、生産者の技術や多種多様なニーズも視野に入れながら、互いに分かり合うことが大切だと思う。

満田さんのお茶はガサガサしてて見栄えが悪く、味もまあまあというところ。在来の荒茶だからだ。保管も冷蔵ではなく、風味が落ちない常温で保存する。荒茶は通常は店頭には並ばない。普通のお茶は加工・ブレンドしてから売る。在来種は、未生のお茶で種をまくと芽が出るもので、収穫量は少ない。一方、品種改良した「やぶきた」というお茶は挿し木で増やすもので、大量生産できる。大量生産するか少数だが安全や味覚重視か。市場価値かお茶そのものの価値か。現在、日本茶は輸出の花形で、改良種でないと供給が追いつかない。在来種はほんの数パーセントしかなく、市場には多く出回らない。満田さんは、市場価値とは違う、自分の作りたいものを作っている稀な農家さんだ。

 熊本県山都町菅尾地区小字「倉津和」の小ア孝一さん

小アさんは、倉津和銘の釜炒り茶を作っている。釜炒り茶は、中国から導入された炒って作るお茶で、流通しているお茶の数パーセントしかなく、主に九州で作られている。釜炒り茶は取引価格(流通価格)が安く、あまり商売にならない。大量に作って儲けることもできないので、やめるところが多いが小アさんは続けている。小アさんは煎茶も作っているが自分では飲まない。釜炒り茶にとことんこだわっている。高いお茶は美味しくないと思う。胸やけしたりする。高級茶は大人にはまずいのではと思う。

入札は、高級茶の原料となる一番茶が一番高い。お茶の生産量は、静岡、鹿児島、三重が多いが、在来種を作っているところは少ない。

 

 滋賀県東近江市奥永源寺の政所茶生産グループ「政所茶緑の会」

政所茶は「番茶」で、茶葉の下の方のガサガサしたところを3月頃に刈り取って、蒸して乾燥して作る。生産量は少ない。奥永源寺は過疎化が進んでいる地域だが、地形を活用したお茶づくりをしている。畑のほとんどが山の斜面にあるので、機械を使うことは無理で、「政所茶緑の会」の若い人たちが手摘みで収穫をし加工している。在来種で生産量は少ないが、希少価値を追求して必要以上には作っていない。

宇治茶は有名だが京都、滋賀、奈良、和歌山で作られたものをブレンドして京都の業者が売っている。

均質な宇治茶に仕上げる技術が必要だ。有名なブランド茶なので売れているが、産地のお茶の独自性が失われているようだ。お茶の生産は産地の気候や土地の風土なども影響するので、その土地独自の特徴あるお茶が少なくなっていくのは残念だと思う。

農家さんは、他にも紹介したい方がたくさんいるが、時間の関係で、残念だが、またの機会ということにしたい。

 

<お茶の販売で大切にしたいこと>

自分は、農家さんとの出会いを通じて、農家さんが何を考えて作っているかを知ることを大事にしている。大量消費される大量生産ではなく、いいもの・自分が作りたいものをを作りたいという農家さんの思いや心に触れることが大切だと思うからだ。社会の変化に伴って、そうした農家さんは減ってきているが、自分が出会った農家さんには、自分がこのお茶を自信を持って作っているという自負心・自尊心がある。そうした、作っている人の顔や思いや心がわかるお茶を販売し、そして、お客さんの声を、そうした農家さんに届けることが自分の役割だと思っている。

 

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岡村さんは、お話の途中で、急須で数種類のお茶を参加者全員に入れてくださり、参加者でお茶を味わいながらお話を聴きました。お茶の良い香りと風味を堪能しながら、お茶への思いのこもったお話を聞くことができて、とても充実した会でした。

お話のあと、参加者全員が感想を述べましたが、「お茶のことが良くわかり、岡村さんのお茶への思いを知ることができた」「お茶を通して今の社会のあり様みたいなことも考えることができた」などの感想が出され、お茶への興味関心が高まったように思いました。、

 

次回は12月9日(土)です。講座のあと、年忘れのプチ茶話会をします。