ハンナ講座 やさしい社会問題 

第39回(2023年9月9日)まとめ

「格差の問題から今の社会や人間のあり方について考える」

今年の夏は厳しい暑さが続きました。9月に入って朝夕は少し涼しくなりましたが、日中はまだまだ残暑が厳しい中で、2か月ぶりに講座を開催しました。

 

HさんMさん、Fさん

最初に、Hさんが、現在上映されている映画「福田村事件(森達也監督)」のチラシをもとに映画の紹介をされました。そのあと、映画を見たMさんとFさんから感想が述べられました。関東大震災の混乱の中で、「朝鮮人が襲ってくる」などの流言飛語を信じた人々によって関東各地で多くの朝鮮人が虐殺されました。福田村事件は、そうした状況の中で、香川県の被差別部落出身の薬の行商隊の人々が虐殺された事件を描いたものです。流言飛語による集団的パニックの怖さとともに、朝鮮人への差別意識やそれをおかしいと感じる人の姿や部落差別のことなど、当時の人々の姿を多面的に描いています。FさんもMさんも「朝鮮人なら差別してもええんか」という行商隊の親方の言葉が印象に残っていること、そして、差別意識や流言飛語の怖さは現在にも通じるものがあると感想を述べました。

あと、Mさんから、補足として「朝日新聞天声人語」および「関東大震災と朝鮮人虐殺(今井清一他著・現代史出版会・1975年)」と「福田村事件(辻野弥生著・五月書房・2023年)の2冊の本の紹介がありました。

 

Nさん

「北陸新幹線延伸計画の環境問題を考える(福井の新幹線問題を考える有志の会)」という資料を紹介。

北陸新幹線の小浜京都ルート建設に伴う環境破壊・膨大な毒性のある残土の問題・費用の不合理性などについての講演資料を紹介。そのあとSIさんも小浜京都ルートの非利便性・非経済性・政治利権がらみの問題などについて意見を述べました。

 

Uさん

今、世間の耳目を集めているジャニーズ事務所の性的加害の問題についての新聞記事を3つ紹介。

 佐伯啓思さんは、少年少女を人気タレントにして商品価値を生み出す我が国のエンターテインメント文化がこの問題の背景にあると指摘する。そして、情報化社会の進展により、文化本来の豊かさが失われ、文化の幼児化が進んでいると警告する。

 鈴木弘貴さんは、日本の報道が芸能界での「性的加害」の問題としているのに対して、この問題を最初に報じたイギリスBBCなど欧米では、「児童虐待」「子どもの人権」の視点を重視している。日本のジャーナリズムには子どもの人権という視点が欠けており、人権に敏感な問題意識を持つ必要があるのではないかと指摘する。

 故ジャニー喜多川氏による性加害を最初に報じた英BBCのモビーン・アザ―記者は、ジャニーズ事務所による性加害の認定と謝罪は一歩前進だが、経営の姿勢に抜本的な変化は感じられず、問題はまだ初期段階で、イギリスでの過去の類似事件と照らしても、今後とも徹底した捜査と検証が大切だと言う。

 

Hさん

京都市に住む村上敏明さんの「友と紡いだちりぢりの記憶」という新聞記事を紹介。

1946年7月、11才の村上さんは、旧満州からの引き上げの際、母と妹に毒を飲ませたという記憶があったが、戦後長らくそのことを語ることができなかった。毒を飲ませた瞬間の記憶はあっても前後のことは覚えておらず、事情を詳しく語ることができなかったのだ。その村上さんの記憶を補ったのが同級生で親友の小林さんだった。村上さんはちりぢりの記憶を取り戻し、自分の知らない感情も語ることができるようになった。記憶になかった一番下の弟のことにも思いが及ぶ。戦後78年たった今、村上さんは戦争の語り部として自分の壮絶な体験を語り続けている。

 

SIさん

二つの新聞記事を紹介。

 子どもと戦禍「墨子を読んで」半藤さんの遺言(朝日新聞オピニオン編集部記者駒野剛さん)

戦時下のウクライナの子どものことや第二次大戦下での日本の子どものことがずっと気になっている。

歴史学者の半藤一利さんも、子どものころ東京大空襲を経験し戦争体験を書いてきたが、亡くなる前に妻に「墨子を読みなさい」と言い残した。墨子の平和の思想を日本人全体に伝えたかったのではないだろうか。日本が不戦の国から戦争の国へと変わるのではないかと危惧される今、半藤さんをはじめ、戦争を知った子どもたちが伝えた歴史を学ぶべきだと思う。

 7月に刊行された「検証・ナチスは良いこともしたのか」(岩波ブックレット)の紹介記事。

アウトバーン建設や失業対策などをチスのした「良いこと」だとする意見に史学者の立場から緻密に反論した内容で、排除と一体の政策を評価する恣意的な解釈に警鐘を鳴らす。断片的な史料をつまんで自分に都合のよい恣意的な意見を述べるのではなく、歴史学が積み重ねてきた歴史解釈の議論を踏まえ、歴史の真実について学び議論していくことが大切だと言う。

 

SEさん

「児童養護施設という私のおうち」(田中れいか著・旬報社・2021年)という本を紹介。

児童養護施設出身でモデルの田中れいかさんが、自分の生い立ちを通して、児童養護施設にいる子どもたちと「社会的養護」について知ってもらうことを目的として出版した。児童養護施設出身の著者が、施設での生活のこと、職員さんや仲間のこと、思春期の様々な思い、進路や将来のことなどを、自然体で忌憚なく語った内容は、これまでの固定観念にとらわれていた児童養護施設という存在をアップデートする「新しい社会的養護」入門の一冊となっている。

 

Mさん

二つの新聞記事を紹介。

 差別されない権利。部落問題で高裁判決。明確な禁止法課題。

全国部落調査などの復刻出版を企図し解放同盟員の名簿などを掲載した出版社を訴えた裁判で、東京高裁は「差別されない人格的利益」を初めて認めた。この高裁判決で救済対象は広がったが、部落の地名リスト全体の禁止にはならなかった。差別を明確に禁ずる法律がないことが救済への壁となっており、制定を検討すべきだ。これは、部落問題だけでなく、すべての差別問題に共通する課題。

 ハンセン病 差別への教訓。

未知の感染症から私たちは何を学んだのか。新型コロナウイルスが流行し始めた当初、日本では患者や地域などへの差別的な言動が相次いだ。過去、差別を受けたハンセン病と同じことが繰り返されている。

ハンセン病への差別の歴史を知り、感染症への差別をなくしていく姿勢と取り組みが大切だ。

 

 

 次回は10月14日(土)の予定です。